試乗インプレッション

トヨタ新型「ヤリス」のベストバイグレードを考察

ガソリンのCVT&6速MT、ハイブリッドに乗って導き出された答えは?

ヤリス ハイブリッドに試乗

 1997年秋、翌年の長野オリンピックを控えた長野県北安曇郡白馬村で開催された初代「プリウス」のメディア試乗会。筆者はここで初めて量産型の乗用ハイブリッドカーのステアリングを握った。あれから四半世紀を待たずして実測値44.0km/Lを難なく達成するクルマが誕生するとはさすがに想像していなかった……。

 すでに各所で伝えられているように、「ヤリス」の実用燃費数値は抜群によい。特別な運転操作をせずとも、単にスムーズなアクセル&ブレーキ操作を心がけていれば誰もが驚くべき値を達成できる。Car Watchのヤリス1.5リッター(CVTモデル)の試乗レポートでも、その報告を行なったばかりだ。

 今回はヤリスのハイブリッドモデル「HYBRID G」(FFモデル)に試乗。冒頭の44.0km/Lは3月のとある日、都内で試乗車を受け取ってから3kmほど一般道路を走行し、その後、首都高速を経由して東京湾アクアライン経由で千葉県に入り、そこからまた一般道路で20kmほど走行した際に記録したもの。その際、トリップメーターには約70.4kmと表示されていた。

都内から千葉県まで70.4kmを走行した結果、平均燃費44.0km/Lをマークした

 渋滞はなく、終始スムーズな運転ができたからこそもたらされた結果だが、なにも特別な運転操作はしていない。出力特性を任意で変更できる「ドライブモードスイッチ」は、エンジン始動時に自動選択されるノーマルモードのままでエコモードは一度も使わず。エアコンは外気導入21℃設定でAUTOモード(外気温は15~18℃)に固定したまま。ともあれ、すごい燃費数値だ。

新型ヤリス 1.5リッターガソリンのCVTモデル、6速MTモデルに続き、ハイブリッドにも試乗。本稿ではヤリスのベストバイグレードを考察した
ヤリス HYBRID Gのボディサイズは3940×1695×1500mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2550mm
ハイブリッドモデルは最高出力67kW(91PS)/5500rpm、最大トルク120Nm(12.2kgfm)/3800-4800rpmを発生する直列3気筒1.5リッター「M15A-FXE」型エンジンにモーターを組み合わせる。使用燃料は全グレードとも無鉛レギュラー仕様で、燃料タンク容量は36L。HYBRID G(2WD)のWLTCモード燃費は35.8km/L
インテリアは「スポルテック・コクーン」をキーワードに掲げ、「楽しく操る機能部品」と「心地よい素材感に包まれた空間」を対比させるデザインを採用。メーターは2眼式メーターをデジタル化した「フードレス双眼TFTメーター」を初採用している
スマートフォンとの連携が可能な「ディスプレイオーディオ」を全車標準装備。BluetoothとUSBケーブルを使ってスマホと接続することにより、トヨタの「TCスマホナビ」やLINEの「LINE カーナビ」といった「SDL(スマートデバイスリンク)」に準拠する各種アプリをディスプレイオーディオで扱うことができる

 撮影終了後、同じルートで都内へ戻る。往路と同じく首都高速ではACC(アダプティブクルーズコントロール)を規制速度にセットしてLTA(レーントレーシングアシスト)はセンタートレース制御を使い、都内では先のドライブモードスイッチを「パワーモード」に設定しつつ、時折、その道路で許される最高速度(規制速度)の上限までグッとアクセルを踏み込んでみたりしながら日常的な加速性能も確認。結果、145.4km走行してレギュラーガソリンを4.4L給油したので33.0km/L。画像で確認できるとおり、車載の燃費計では32.8km/Lを表示していた。

145.4km走行しての平均燃費は32.8km/Lを表示

 長々と燃費数値に触れた。こうなると手放しで「すごいな!」と思う一方で、気になったのはガソリンモデルとの価格と燃費性能の差だ。ハイブリッドモデルとガソリンモデル、ともに量販グレードの「G」を選択した場合、価格は213万円と175万6000円でハイブリッドモデルが37万4000円高い。バッテリーにモーター、インバーターとハイブリッドモデルが高価になるのは当たり前として、次に燃費数値に注目した。

 以前の試乗レポートでは、23.5km/Lを記録したガソリンモデル「G」(FF/CVT)。前回は今回と違って試乗コースに起伏が多く、さらに走行距離も37kmと短く60%が一般道路と分がわるかった。しかし、それでも今回ハイブリッドが記録した総合燃費32.8km/L(給油量からの計算では33.0km/L)の約72%を記録。諸々の走りっぷりから条件を整えれば75~80%(24.6~26.2km/L)程度までガソリンモデルの燃費数値は伸びると推察できる。

 ここまできて筆者のいち押しグレードを述べるとすれば、それは1.5リッターガソリンモデル(FF/CVT)。これはCar Watchに寄稿した1.5リッター&6速MTモデルにも試乗した上での結論だ。ヤリスのハイブリッドシステムには、プリウスなどが採用するTHS IIをベースに小型化したヤリス専用のエンジン軸とモーター軸による複軸式トランスアクスルモーターが用いられた。開発された技術者には最大限の敬意を表するも、その価格と燃費数値の差をもってすれば、より一層、ヤリスとのカーライフをさらに充実させたいな、と感じたからでもある。

 コンパクトカーはその利便性から、毎日の移動を支える実用車としての立ち位置も確立すべき重要な要素であろう。よって、37万4000円の差額を使ってガソリン代はもとよりメンテナンス費用にはじまり、冬季のスタッドレスタイヤ購入費用や任意保険の補償内容を手厚くしたり、ドライブレコーダーを前後カメラタイプへグレードアップしたりするのも手だ。

 筆者なら先進安全技術を充実させる。真っ先にメーカーオプションとして装備したいのは、被視認性を向上させるLEDリアコンビネーションランプとセット装備の「3灯式フルLEDヘッドランプ」(8万2500円)。続いて、自車斜め後方の車両などを検知する「ブラインドスポットモニター」(10万100円)、そして俯瞰/真正面位置からの自車入り疑似映像で周囲の安全確認が行なえる「パノラミックビューモニター」(4万9500円)で、しめて23万2100円。これにディスプレイオーディオの「TV+Apple CarPlay+Android Auto」(3万3000円)を追加した残り10万8900円で、スタッドレスタイヤと最新型ドライブレコーダーを仕入れるか……。

 ところでヤリスには、市場導入の順番から現行トヨタのラインアップで最先端かつ最高峰の電子プラットフォームが搭載されている。その恩恵は、1.0リッターモデルを除く全グレードに標準装備となる「Toyota Safety Sense」に追加された交差点右折時の対向直進車対応機能と、右左折時の対向方向からくる横断歩行者検知機能に見て取れる。

 さらに、この新しい電子プラットフォームはトヨタが進める自動運転技術の開発哲学である「Mobility Teammate Concept」を具現化した運転支援技術「アドバンスト パーク」(7万7000円~のメーカーオプション)を可能にした。試乗したヤリスが装備していたので何度も試してみたのだが、これがすこぶる使いやすい! そして操作も簡単確実。駐車したい真横あたりに停車して、シフト操作部右側にあるスイッチを操作すると、駐車可能なスペースを自動認識してくれる。駐車枠のある/なしに関わらず並列駐車が可能で、縦列駐車の場合は出庫までサポートする。

 具体的にはステアリング/アクセル/ブレーキ操作を一定の環境下で自動制御する運転支援技術で、R(後退)やD(前進)へのシフト操作はドライバーが行なう。センサーにはボディ四隅に配置した計12個の超音波ソナーと、ボディ前後と左右ドアミラーに設けられた計4個の光学式カメラを使用。

 そのステアリングさばきはかなり信頼性が高く、狭い場所でもきれいな弧を描きながら入庫する。二種免許の駐車テスト程度なら一発でクリアするはずだ! センターディスプレイには4個の光学式カメラからの映像を加工した俯瞰と真正面から自車を見た疑似映像が映し出され、作動時に障害物を発見すると警報ブザーとともにブレーキ制御も介入する。過信は禁物ながら運転操作のサポートが受けられる分、ドライバーは周囲の安全に気を配ることができるので実用度は高い。

運転支援技術「アドバンスト パーク」も体験。高い実用性を体感できた
運転支援技術「アドバンスト パーク」体験動画(1分1秒)

 なお、作動時の自車速度は作動開始前であればセンターディスプレイのタッチ操作で選択可能で、状況により変化する中間位置の速度を基準に低速側/高速側ではともに1km/hごと上下する。おすすめは高速側。周囲のクルマに気を遣うことなく、ベテランドライバーのごとくスマートな駐車が実現する。

 残念ながら、現時点で装備できるのはハイブリッドモデルのみだが、筆者の取材に応じてくれた技術者曰く、「“まずはハイブリッドモデルから市場導入した”、とご理解ください」と、将来的にガソリンモデルへの展開も示唆している。

派生車種にも期待

 最後にCVT、6速MT、そしてハイブリッドとヤリス各モデルの試乗を通じて感じたことは、従来型以上に幅広いユーザーから支持を受けやすくなったかな、ということ。その意味で、ハイブリッドモデルは力強い走りと数々の先進装備から、より上級志向のユーザーに向けた新しいシリーズ展開として期待したい。

「従来型ヤリスはセカンドカーとしても数多くご愛顧いただいていましたが、新型ではファーストカーとしても十分に胸を張っておすすめできます!」とはヤリスの開発主要メンバーの声だが、“このヤリスがほしい”と思わせる魅力がたくさん詰まっていることが確認できた。

 また、別の開発メンバーからは、「初代ヴィッツの時代には派生車種としてファンカーゴやプラッツが誕生しましたが、ヤリスでもそうしたシリーズ展開ができたらいいなと考えています」とのうれしい声も聞かれた。

 筆者は初代ヴィッツの派生車種であるファンカーゴを愛車としていた時期がある。当時、ミニバイクレースに参戦していたため、後席を前席真下に「床下ガッチャン」させて誕生する広大なスペースに惹かれ購入したのだ。このファンカーゴを担当していた技術者の1人が、「86」と現行「スープラ」の開発責任者である多田哲哉氏。ヴィッツ同様に、ニュルブルクリンク北コースを走らせながらファンカーゴも開発にあたったというが、その走りは1680mmの背高のっぽボディにかかわらず刺激的だった。派生車種が実現するならば、ぜひとも今回のヤリスが魅せてくれた確かな走りをそのまま受け継いでいただきたいと思う。

4月23日に世界初公開された、ヤリスベースの新型コンパクトSUV「ヤリス クロス(YARIS CROSS)」。派生車種でも魅力的な走りを受け継いでほしい

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一