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トヨタコンパクト初を多数盛り込んだ、新型車「ヤリス」の環状構造ボディ。1180MPaのハイテンなどで、ねじり剛性30%アップ

TNGA GA-Bプラットフォーム第1弾

新型車「ヤリス」の説明会に展示されたホワイトボディ。環状構造を採用し、ねじり剛性30%アップ

 トヨタ自動車は10月16日、新型コンパクトカー「ヤリス」を発表した。このヤリスは国内車名「ヴィッツ」の後継車となり、世界展開のグローバルカーとして販売されていくクルマになる。

 トヨタは、WRC(世界ラリー選手権)に海外のヤリスをベースに参戦。WRCの日本ラウンドが2020年から始まるが、その2020年に向けグローバルに展開するコンパクトカーのブランドが統一されたことになる。

 この新型ヤリスは、トヨタが進める「もっといいクルマづくり」であるTNGA(Toyota New Global Architecture)のBセグメント向けプラットフォームであるGA-Bプラットフォームの第1弾。これまでTNGA思想のクルマは、プリウスなどのGA-C、カムリなどのGA-K、レクサス LCなどのGA-L(クラウンは、GA-Lのナロー)と続々投入されてきたが、新開発のGA-BはGA-Cと並び生産台数の多いプラットフォームになるのは間違いない。

 プラットフォームにはいろいろな考え方があるが、ボディ構造はその大きな要素となっている。基本的な骨格があり、そこに搭載するハイブリッドシステムや内燃機関、サスペンションなどのコンポーネントがあり、といった要素で構成されている。

 新型車「ヤリス」の説明会において、GA-Bプラットフォームの重要部品であるホワイトボディが展示されていたので、本記事ではそのホワイトボディを紹介していく。

ボディ構造の説明パネル

環状構造ボディで、ねじり剛性30%アップ

フロントまわり。青色の鋼板がハイテン材。1180MPaや980Paが使われている

 この新型車ヤリスのボディにおいて、従来のヤリス&ヴィッツと大きく異なっているのは、トヨタコンパクトとして初めて環状構造ボディを採用したことにある。環状構造とは、環のような形で力を受け止めるとことで剛性を高める、もしくはコントロールするもので、ここに1180MPaハイテン(高張力鋼板)を積極的に使用。例えば、インストルメントパネル裏の「カウル日の字環状構造」、ドアまわりの「ロの字環状構造」、リアゲートの「リヤ環状構造」など、複数の輪を組み合わせるような形でボディが設計されている。

 とくにドアまわりのロの字環状構造では、下部のロッカアウタに1180MPaハイテン(t1.4)、Bピラーアウタ(t2.0)とAピラーアウタアッパー(t1.2)にホットスタンプ材を使用。ホットスタンプ材は熱間プレスとも呼ばれ、プレス時に熱をかけて、鋼板に焼き入れを行なうもの。これにより、深めの絞りと、ハイテンを超える高強度を実現している。近年は、一部に焼きなましを入れることで、強度をあえて部分的に低下。衝突時に壊れていく場所を特定することで安全性を向上するなどのことも行なわれている。新型ヤリスにおいては、一部焼きなましなどは行なわれておらず、素直に高強度の材料としてホットスタンプ材が使用されているとのことだ。

 このホットスタンプ材は、プレス時に加熱や急速冷却を伴うため、一般的には冷間プレスのハイテンより生産性が悪化する高価な材料。Bピラーへの採用が増えているが、ヤリスではAピラー部もホットプレス材を使用していることになる。

 前面方向からの衝突に関してもトヨタコンパクト初の「フロントサイドメンバ×メンバリヤ結合」採用で対応。衝突の荷重を分散して受け取るため、下部に配置された「クワガタサスメン」とマルチロードパス構造を採る。2つの太いメンバではなく、2つの負荷計算されたメンバで受け止めようという構成だ。もちろん、1つのメンバよりも、生産や材料、工数も上昇するためコストを追求しなければならないコンパクトカーでの採用は難しい構造だが、TNGAによるモジュール設計などの恩恵が如実に現われている部分かもしれない。

フロントまわりのマルチロードパス構造。矢印が衝突時の力の流れ
マルチロードパスを下から。この下のメンバがクワガタ状になっているので、「クワガタサスメン」と呼ばれている
ちょっと上から。クワガタの角に見えるかな?
フロントサス取付部。インストルメントパネル裏とともに「カウル日の字環状構造」を構成
Aピラー部
Bピラー部。このBピラーのアウタはホットプレス材
コクピット部。主要なところにハイテンが使われている
リアシート下部まわりから、ラゲッジへかけて

フリクションロス低減や、乗り心地改善などを図ったサスペンション

フロントサスペンションの軸を最適化して、アブソーバの摺動抵抗を低減

 この高剛性ボディに組み合わされるサスペンションは、地道な改良が加えられている。マクファーソンストラットのフロントまわりでは、アブソーバ軸を外側に向けるとともに、スプリングの反力線を車両外側にもっていくことで、アブソーバの摺動摩擦を低減。とくに動き出しの微少な領域での乗り心地改善に効いているという。

 リアも従来と同様のトーションビームだが、ビームアクスルの角度を最適化。ビームアクスルの軌跡を後傾化することで、突起乗り越え時のショックを低減。このショックの低減には配慮されており、トーションビームを高剛性にするとともに、スプリングは低バネ化。微少ストローク時の乗り心地がよくなる方向に設計されている。走りに関してはリアサスペンションの逆走回転軸(仮想セミトレ軸)を最適化。旋回時はロールが発生するが、そのロール時にリアタイヤがトーイン方向(安定方向)に動くように設計されている。これにより、コーナリング時にリアからブレークすることを抑えることができ、高いスタビリティを発揮するという。

 このリアサスの取り付け部も、リアホイールハウスストレーナやリアブレースで強化。強化すると同時にリアブレース変更によって剛性調整がしやすい構造になっているようにも見える。この新型ヤリスは、トヨタの次期WRCマシンのベースになっていくと見られるが、その点について聞いたところ、WRCマシンのベースになる要素を盛り込んだというよりも、「WRCマシンのベースにもなる、いいクルマづくり」をしているとのこと。トヨタコンパクト初となる要素を多数盛り込み、TNGA GA-Bプラットフォーム第1弾としてデビューする新型ヤリスの走りや乗り心地に期待したい。

リアのトーションビーム式サスペンション