試乗インプレッション

トヨタの新型「ヤリス」試乗。1.5リッターガソリンの力強さの秘密はどこにあるか

ポイントは新開発エンジン、トランスミッション、車両重量

 2020年は注目のコンパクトカーが続々登場する。本田技研工業「フィット」に続く、クラス2台目の試乗レポートはトヨタ自動車「ヤリス」の1.5リッターガソリンエンジンを搭載した「G」グレード(FF)だ。

 新開発の直列3気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリン「M15A-FKS」型エンジンは、120PS/145Nmを発生。これにCVTと6速MTを組み合わせる。アイドリングストップ機構は1.0リッターとともに設定はない。今回公道で試乗したのはCVTだが、以前テストコースで6速MTモデルにも試乗しているので、違いを織り交ぜながら報告したい。

今回試乗したのは、新開発の直列3気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリン「M15A-FKS」型エンジンにDirect Shift-CVTを組み合わせる2WD(FF)の「ヤリス G」(175万6000円)。2WD車のボディサイズは3940×1695×1500mm(全長×全幅×全高。4WD車の全高は1515mm)で、ホイールベースは2550mm
ヤリスのフロントまわり。ヘッドライトはGグレードではオプションとなる3灯式フルLEDヘッドライト+LEDターンランプ+LEDクリアランスランプを装着
撮影車の足下はオプションの15インチアルミホイールにダンロップ「エナセーブ EC300+」(185/60R15)の組み合わせ。ヤリスではガソリン、ハイブリッド含め全モデルでレギュラーガソリン仕様になる
ボディカラーはオプション設定の2トーンボディカラー「ブラック×コーラルクリスタルシャイン」

発進時から力強い、その秘密

 1.5リッターガソリンモデルは発進時から力強い。これには3つ理由がある。まずエンジン。直列3気筒は同排気量の4気筒エンジンと比較して低速域でのトルクが豊かであること、さらにロングストローク型(ボア×ストローク比率は約1.21)であるため粘るトルク特性が得られることが挙げられる。

 2点目が組み合わせるトランスミッション。レクサス「UX」や「RAV4」に続き、ヤリスにもギヤ機構付自動無段変速機である「Direct Shift-CVT」を採用した。発進用にギヤを内蔵したDirect Shift-CVT最大のメリットは、タイヤひと転がり目の力強さを決める駆動力の伝達効率が大きく向上し、出足がスッと伸びるようになったことだ。

 発進用ギヤで速度を乗せた後は、従来通りベルト駆動に切り換わるわけだが、Direct Shift-CVTでは一般的なCVTよりもベルトの変速域を高速側へと全体を移行させている。CVTは構造上、走行性能と燃費性能をそれぞれ向上させることを目的に変速幅を広く(ワイド化)していくと、低速側と高速側にそれぞれ伝達効率のわるいところが発生する。それを避けるため、Direct Shift-CVTの場合は低速側を発進用ギヤが担当し、高速側ではベルト駆動の高効率領域を高速化(上位移行)させることでカバーした。ちなみにレシオカバレッジは7.5。この値はDirect Shift-CVTを2.0リッターガソリンエンジンと組み合わせたUXと同じだ。

 ヤリス 1.5リッターの場合、アクセルペダルの踏み加減や車両負荷、後述するドライブモードの設定にもよるが、エンジンの燃焼効率がよく熱効率の高い(≒燃費数値の高くなる)約1600rpmを保ったままの変速が続く。速度にすると約40~80km/hだ。このように、Direct Shift-CVTは有段ギヤでキビキビとした発進を実現しながら、ベルト変速の高効率領域を逃がすことなくエンジン性能を最大限引き出すトランスミッションであることが分かる。

 3点目が車両重量。試乗したGグレード(FF)は1000kgちょうど。軽さは加速、減速、カーブでの走行にいたるまで効果的であることは想像できると思う。

直列3気筒DOHC 1.5リッター直噴ガソリン「M15A-FKS」型エンジンは最高出力88kW(120PS)/6600rpm、最大トルク145Nm(14.8kgfm)/4800-5200rpmを発生。Gグレード 2WD車のWLTCモード燃費は21.4km/L

 こうした3点を軸足にしたヤリスとの一体感は心地いい。ちょっとしたダイエットに成功し、身軽になった後のジョギングを楽しんでいるみたいだ。さらに、その美点を助長するのが身体にスッとなじむ運転姿勢。ステアリングはチルト(上下方向)とテレスコピック(前後方向)の調整ができ、さらにシートリフターも備え万全の構え。また、その調整幅も広めだから体躯を問わない。

 ヤリスではさらに身体とシートの密着率を高めた。例えば、右左折時に大きくステアリングを大きくまわした時でも肩はシートの背もたれ部分から離れない。当たり前のことのように思えるが、ご自身のクルマでちょっとこのシーンを思い起こしていただきたい。時に肩との密着が薄らぐことも多いのではないだろうか。

「新規開発を行なったGA-Bプラットフォームを採用したヤリスでは、従来型ヴィッツとの比較でドライビングポジションを20mm低く設定しつつ、座る位置を外側へ10mm移動。こうした着座位置の最適化で快適性が向上し、運転操作の自由度が上がったことからステアリングの操作性もよくなりました」とは開発者の談だ。

 足下スペースも広くなり、ペダル配置も改善された。さらに6速MTモデルではクラッチペダルの操作性も高かった。

「直列3気筒化により(横置きに搭載していることから)エンジン搭載幅が小さくなり、それに合わせてフロントメンバーを狭小化、結果的にタイヤの切れ角が増えました。同時に、サスペンションタワーも内側に11度傾けてジオメトリーの最適化も図っています。また、これにより足下スペースが広くなり、アクセル/ブレーキの両ペダルはともに外側へ10mm以上オフセットさせることができ、これまで以上に正しいペダル操作ができるようになりました」(同)と語る。

インテリアは「スポルテック・コクーン」をキーワードとし、「楽しく操る機能部品」と「心地よい素材感に包まれた空間」を対比させたデザインを採用。インパネの高さを抑えて横長にしたことで、上級クラスの車内のようにワイドな空間を表現したという。X系グレード以外はデジタルメーターを採用
ステアリング径はφ365mmと小径。スポーク部左側にオーディオ関係などの操作スイッチ、右側にACC関係の操作スイッチが備わる
SDL(スマートデバイスリンク)対応のスマホアプリを利用できる8インチディスプレイを備えた「ディスプレイオーディオ」
オートエアコン&ダイヤル式ヒーターコントロールパネル
ラゲッジスペースの荷室長は630mm(5名乗車時)、荷室幅は1000mm
Gグレードのファブリックシート。助手席下には小物類を収納できるアンダートレイが用意される
チルト&テレスコピックステアリングは全グレードで標準装備
ヤリスで採用する「イージーリターンシート」は、シート右側面の専用レバーでロック解除を行なうことで、ドライビングポジションのシート前後位置を保持しつつ、降車時にシートを後端までスライドさせて乗降性を高めることができる
身長170cmの筆者が後席に座ったところ
リアシートは全車6:4分割可倒式を採用

近所の買い物からロングドライブでも疲労が少ない

 発進時で体感した軽さと力強さはその後も続く。それこそ渋滞路から、交通の流れが速くなる郊外路でも変わらず頼もしい。さらに、前述した発進用ギヤからベルトへのバトンタッチもスムーズで駆動力の抜けはなく、変速フィールに息継ぎがない点もよかった。

 技術者によれば、2.0リッターエンジンとの組み合わせとなるUXやRAV4のDirect Shift-CVTでは、物理的に高いエンジントルク値が発生しているときにギヤからベルトへ切り替えることになるため、切り替え時にスムーズさを保つことが難しかったという。その点、1.5リッターエンジンであるヤリスの場合、2.0リッターと比較すれば絶対的なトルク値が低く、さらに今回、ギヤからベルトへの切り替え制御精度を高めたこともあり、一般道路で多用するアクセルペダルの低い開度(約30%以下)では極めてシームレスな加速が続く。

 新開発の1.5リッターはパワーも十分。120PSというスペックは今でこそ平凡ながら、エンジン性能を引き出すDirect Shift-CVTの制御が優秀で、数値以上の走りをみせる。シフトレバー右側にはドライブモードが設けられていて、エコドライブ/ノーマル/パワーの3段階から任意で選択することで、スロットル特性の変更による出力カーブの演出とCVTのベルト変速タイミングなどが変更できる。

 どのモードを選んでいてもエンジン始動時はノーマルモードになるのだが、これが日本の道路環境にぴったりで、20km/hでも60km/hあたりであっても速度を一定に保ちやすいから運転がとっても楽。実用領域のトルクが豊かでCVTも優秀、さらに軽いことから登坂路でもちょっと右足に力をこめるだけで車速は落ちない。さらに、こうした一体感の高い走りは高速道路でも味わえる。本線合流時などで大きくアクセルを踏み込んだ際にはステップ制御が入り、有段ATのように増速にあわせてエンジン回転数を上下させるので、合流のリズムが作りやすい。

 心のゆとりは2.0リッターエンジン搭載車を運転しているレベルで、これだけでもヤリス(1.5リッターガソリン)に乗る甲斐がある。また、アクセル操作を過度に意識させることがないので、近所の買い物からロングドライブでも疲労が少ないはずだ。

シフトノブの下側にドライブモードを切り替えるスイッチを設定

 ドライブモードをパワーモードに変更すると、そのステップ制御がさらに高回転側へとシフトする。最高出力の発生回転数は6600rpmと高めだが、それを過ぎて7000rpmあたりまで息の長い加速が楽しめる。しかも、単に高回転域までまわっているのではなく、パワーの落ち込みも少ないから意味がある。ボア・ストローク比1.2を超えるロングストローク型でありながら、高回転まできっちり使えるエンジン特性はトヨタのダイナミックフォースエンジンに共通する特性で、末っ子となる1.5リッターにもそれがしっかりと継承されている。こうなると、「GRヤリス」の弟分的な存在として東京オートサロンで発表された1.5リッターのCVT版「GRヤリス CVTコンセプト」の市販化にも期待したくなる。

 高回転域も得意だから6速MTとの組み合わせも良好だ。詳細は次回のロードインプレッションに譲るが、各ギヤ比も離れ過ぎずスポーツ走行にも向いている。高圧縮比エンジン(数値は未公表、13.0程度?)ながら、変速時のエンジン回転落ちは筆者の愛車であるND型ロードスターほどではないにせよ、ほぼ望み通りにスッと落ちてくれる。

課題は?

 すばらしい走行性能をみせるヤリス 1.5リッターガソリンモデル。しかし、筆者には気になる点もあった。それはよくもわるくも“割り切り”のひと言で表現できる。試乗車はオプション装備の2トーンボディカラー「ブラック×コーラルクリスタルシャイン」(7万7000円)をまとっていたが、リアホイールハウス内側からのぞくプラットフォーム部分は美しい赤い塗色がうっすらとピンク色に……。せっかく選んだオプションカラーだ。せめて黒色に簡易塗装するなど、外から目立たないところでも多少の心配りはほしい。

 こうした割り切りは車内騒音にも感じられた。3気筒化のメリットは走り、運転姿勢に対し劇的な効果をみせるが、前述したエンジン常用領域である1600rpmで走行する車内は前席に座っていてもやや騒がしい。音はそれほど大きくないのだが、3気筒化による鼓動感のある音色が終始耳に届き、巡航時はそれがじんわり効いてくる。

「A、B、Cの各ピラーには発泡ウレタンを充填して小さな穴も塞いで音の侵入を防ぎつつ、リアのクォーターベントのダクトからのみ逃すような設計をとった」との説明は受けたものの、今回の試乗シーンでふと気がつけば、その1600rpmで走っていることが多く、それだけに後席中央から車体右後ろ方面、つまり排気系が伸びるあたりからの音が終始、気になった。

 ただ、3気筒化で懸念されていた振動は非常によく抑えられていた。エンジンマウントの位置を変更し、エンジンからの振動をキャビンに伝えないよう工夫を凝らしたり、振動の共振点をずらすことで体感値を下げたりしたことが効果的に働いているようで、ステアリングへの振動含めてとても少ない。

 気になる点は先進安全技術である「LTA」(レーントレーシングアシスト/車線維持支援機能)にも……。LTAは車線中央を維持するためのサポート技術で、ヤリスの場合はACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)作動中にステアリングの右側上に設けられたスイッチ操作で機能のON/OFFができる。問題は、この機能ONの2段階目で作動する「センタートレース」制御にある。

 簡単に説明すると、センタートレース制御をONにしていると、先行車追従表示(ディスプレイ上に前走車と自車をつなぐ破線が出現)がない場合であってもLTAの制御精度が向上し、車線の中央をより正確にトレース(なのでセンタートレース)するのだが、直進していて頻繁にステアリングに制御が入る。その量は極わずかだが、常にステアリングがミリ単位で動いているので落ち着かない。試しにセンタートレース制御をOFFにすると、ヤリスは自ら矢のようにまっすぐ走る。

 もっとも、試乗時は横風が強く高速道路の吹き流しが真横(≒風速10m/秒以上)になっていたことから、車載のヨーレートセンサーとのバランスでそうしたビジーな制御になっていたのではないかと推察した。

 最後に燃費数値。燃費計測は、先だってフィットのガソリンモデル(直列4気筒1.3リッターの「NESS」)で走行した測定コースとまったく同一。郊外路(60%)と高速道路(40%)の組み合わせで、走行距離は37kmほど。ここをフィットと同じ平均車速40km/h程度で走行した。外気温やエアコン設定などの条件もほぼ同じだ。

 結果、ヤリスの燃費数値は23.5km/L(フィットは20.0km/L)。カタログのWLTPモード燃費の総合が21.4km/L、WLTP高速道路が24.1km/L(同19.6km/Lと22.2km/L)なので、今回の計測ではヤリスがフィットと比べて18%程度いい結果になった。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛