試乗インプレッション

ハイブリッドとガソリン、どちらがおすすめ? 新型「フィット」試乗

CROSSTARこそe:HEVを最大限活かせる

 好調な受注が続く4代目「フィット」に公道で試乗した。2019年9月にプロトタイプに試乗してから待ち望んでいた取材チャンスだ。一連のコロナ自粛直前に開催された試乗会では、いわゆる標準ボディのハイブリッドモデルとガソリンエンジンモデルのほか、最低地上高を25mmアップさせ樹脂製アーチモールを前後フェンダーに備えた「CROSSTAR(クロスター)」のハイブリッドモデルにも短時間ながら試乗することができた。この先は便宜上、CROSSTARをSUVボディとして紹介したい。

 筆者はこの4代目(標準ボディ)と、2001年に登場した初代フィットのイメージが随所で重なる。隣に並べてみれば違いは歴然なのだが、4代目の特徴であるLEDヘッドライトの造形は初代(ハロゲン式)を彷彿させるし、全体のシルエットにしても各部の曲線をうまくつなげた表現方法には共通項がある。こうした眼力とボディデザインが高い次元でバランスする様に、初代の再来かと思わせる雰囲気を感じたのだ。そしてCROSSTAR。こちらはフィットではなく、かつての「シビック シャトル」にラインアップしていたRVグレード「ビーグル」を思わせる。いずれも愛らしさがキーワードか。

新型フィットではライフスタイルに合わせて選べるよう、内外装などを変化させた5種類のタイプを設定。写真はガソリンモデルの「NESS」(2WD。187万7700円)で、毎日をアクティブに過ごしたい人のためのタイプ。ボディサイズは3995×1695×1540mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2530mm

「人がほんわかするようなデザインには黄金比がある」と、業界問わずデザイナーの方々はおっしゃるが、まさしくフィットでいえばそれが“心地よさ”につながっていくのだろう。

実用十分なガソリンがおすすめ?

 最初に試乗したのはガソリンモデルの「NESS」。トランスミッションはCVTだ。「アクセント2トーン」と名付けられたボディカラーは画像の上ではポップ過ぎると感じたが、実車はずっと上質で好印象。ちなみに新型フィットはどのグレードでもFF/4WDが選択できるが、今回は試乗したのは全車FFモデルだ。

 シルバーボディを基調に、Aピラーから後端までルーフに沿ってライムグリーンの帯が延び、同時にドアミラーカバーとボディ下ステップ部分もこのライムグリーンでまとめられる。この加飾はインテリアにまで及び、前後シートやインパネ上部左右の小物入れ部分も同色化されている。

NESSのインテリア。内装色はブラック×グレーが基本となり、シート表皮にはっ水ファブリックを採用。ボディカラーがアクセント2トーンカラーの車両では内装もブラック×ライムグリーンでコーディネートする

 ガソリンモデルの走りはどうか? 直列4気筒1.3リッターは98PS/118Nmと数値の上ではクラスの平均的ながら、改良が加えられたCVTとの組み合わせが効いていて、市街地から高速道路まで1人ないし2人で移動するには実用十分な動力性能。

 資料によれば、各部の摺動抵抗を下げつつ、電動サーボ式油圧システムをアイドリングストップ時だけでなく走行時にも使用することで、機械式油圧システムの負荷を減らすなど燃費数値の向上が図られた、とある。

 確かに燃費性能がよくなったことは数値にも表れている。今回の試乗ステージは郊外路(60%)と高速道路(40%)の組み合わせで、走行距離は37kmほど。ここを平均車速40km/h程度で走行し、燃費数値はちょうど20.0km/Lだった。カタログのWLTP総合が19.6km/L(WLTP郊外が20.5km/L)だから、ごくフツーに運転すれば誰でもこの程度の結果は残せそうだ。

 出力特性と燃費数値に優れる実用性の高いエンジンだが、グッとアクセルペダルを踏み込んだ際の演出も忘れていない。踏み込み量に応じてエンジン回転数が段階的に向上する「ステップアップシフト制御」によって、たとえば高速道路の本線合流時などで大きく踏み込むと、イッキに回転数を上げながら速度上昇とともに多段ATが変速したかのように回転を落とし、そして再び回転を上げていく。

ガソリンモデルは直列4気筒DOHC 1.3リッター「L13B」型エンジンを搭載し、最高出力は72kW(98PS)/6000rpm、最大トルクは118Nm(12.0kgm)/5000rpmを発生。WLTCモード燃費は19.4km/L~20.4km/L(2WD車)

 もっとも、こうした制御は昨今のCVTでは一般的だし、98PSなのでアクセル操作に対する躍度にしても伸び代は極わずか。でも、フィットの場合はエンジンルームからの透過音が元気よく入りこんでくるため、それだけで気分はちょっとだけ上がる。もともと静粛性に優れるキャビンながら、ドライバーの要求するシーンでは意図的に高揚する音を耳に届けるのだ。聞けば、ここも“心地よさ”の追求なのだという。

 フロントウィンドウの視界を従来の69度から90度へと拡大した「パノラマフロントウインド」は新型フィットのセールスポイントだが、同時にガラスエリアの拡大はさまざまな音の侵入を許すことになる。「フロントコーナーガラスを3.5mmから4mmへと肉厚化するなど遮音性を高めて不快なノイズを遮断するとともに、心地よい音を選んで聞かせることで二律背反を克服しました」とは本田技術研究所オートモービルセンター 横尾健太郎氏の談。なるほど、4000rpmを過ぎたあたりから往年のホンダらしい少し太めのエンジン音と排気音が混ざり合った音色が耳に届くから、実際にはそれほど速度が上がっていないのに、ドライバーとしては満足できる加速が得られたと実感できる。だから実用十分。

 一方のハイブリッドモデルはどうか? ホンダでは新型フィットから2モーター方式のシリーズハイブリッドの名称を「i-MMD」改め、「e:HEV」(イーエイチイーブイ)と呼ぶ。「eによる電動化を強調したい、そんな思いから新たに命名しました。今回はHEV(ハイブリッド)ですが、この先にはBEV(バッテリー式電気自動車)も控えています」(横尾氏)。日本でも発売が予定されているBEV「Honda e」のネーミングや、そのBEV向けのエネルギーマネージメントサービス「e:PROGRESS」にしても“e”がキーワードだ。

 ハイブリッドモデルの試乗グレードは標準ボディの「HOME」と、SUVボディのCROSSTAR。直列4気筒1.5リッターエンジン(98PS/127Nm)を主に発電に使い、電動モーター(109PS/253Nm)によって駆動力を得る。そうした一連の機構からシリーズハイブリッドと呼ばれているのはご存知のとおりだが、e:HEVならではの特徴は、速度域に応じてエンジン直結モードがあることだ。

 i-MMD時代から継承されたエンジン直結モードは、エンジンで発電して電動モーターを回すよりも、エンジンの駆動力を直接タイヤに伝達するほうが高効率である走行条件時に使われるモードで、主に高速走行時に用いられる。車両負荷など諸条件にもよるものの、今回の試乗コースでは75km/hあたりから直結モードに入りやすく、そのまま速度を落としていくと65km/hを下まわったあたりで解除されていた。ちなみに、ガソリンモデルとほぼ同条件で試乗した際の燃費数値は26.2km/Lを記録。

 主力グレードである「HOME」同士で比較した場合、ハイブリッドはガソリンよりも34万9000円高くなるものの、容量の小さな二次電池と補機類でハイブリッド化できるため車両重量の増加は90kgに抑えられ、さらに40%以上に及ぶカタログ燃費数値の向上が得られる。パワーとトルクに勝るから、動力性能におけるガソリンエンジンとの差も大きい。半面、小容量バッテリーであることから発電のため頻繁にエンジンが始動する。

 e:HEVには電動駆動による滑らかで力強い走りと、エンジン直結モードによる優れた高速巡航燃費がある。ここは大きなメリットだ。しかしながら筆者は、原点回帰の意味を込めてあえてガソリンモデルをおすすめしたい。

ハイブリッドモデルは発電用と駆動用の2つのモーターを組み合わせるハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」を搭載。直列4気筒DOHC 1.5リッター「LEB」型エンジンは最高出力72kW(98PS)/5600-6400rpm、最大トルク127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpmを発生。新開発モーターの「H5」型は最高出力80kW(109PS)/3500-8000rpm、最大トルク253Nm(25.8kgm)/0-3000rpm

 ハイブリッドとガソリン、どちらも新型フィットを代表するパワートレーンで甲乙つけがたい。しかし、コンパクトクラスにおける35万円近い価格差は小さくないし、そもそも新型フィットはパワートレーンによらずクルマそのものの素性がとてもよい。運転席の視界が広いだけでなく、継承したセンタータンクレイアウトがもたらす豊富なシートアレンジ、そして光学式カメラと超音波ソナーの組み合わせとなった新しい先進安全技術群「Honda SENSING」、優れた実用燃費数値と必要十分な動力性能など。これらがワンパックになっていて、しかも安価で手に入ることがフィットの命題であると考えている。

 ではe:HEVの光るシーンはどこか? 筆者にはSUVボディのCROSSTARこそe:HEVを最大限活かせると感じられた。CROSSTARのタイヤ直径は25mmほど大きく、専用の足まわりは12mm程度ストロークを伸ばした。つまり25mm高い最低地上高はタイヤ半径分の12.5mmと、延長されたホイールストローク分で稼いだものだ。

 CROSSTARの走りは、重くなったバネ下重量とそれに見合う減衰特性をもったサスペンションによって、ゆったりとした動きが特徴だ。よって、標準ボディのHOMEと比べて市街地、高速道路ともにe:HEVの滑らかで力強い走行フィールにマッチする。

こちらは「週末に出かけたくなるエンジョイライフに応えるタイプ」との位置付けのCROSSTAR。前後バンパーやフェンダー、ドアパネルなどのボディ下側に樹脂製の専用加飾が与えられ、フィンを備える専用フロントグリルを設定。大径タイヤを装着して他グレードより最低地上高を5mm~25mmアップしたクロスオーバースタイルの外観が特徴

 また未試乗ながら、この動力性能のゆとりは4WD化によって80kg増える車両重量にも難なく対応できるはずだ。新型フィットの購入を検討されるのであれば、ハイブリッドとガソリンを同じ条件で乗り比べていただきたい。

専用品の運転補助装置「Honda・テックマチックシステム」

運転補助装置「Honda・テックマチックシステム」装着車のインテリア

 最後に新型フィットでひときわ感心した点を取り上げたい。ホンダには手足の不自由な方のために開発された運転補助装置「Honda・テックマチックシステム」があるが、新型フィットの発売に合わせてホンダアクセスから専用品が発表された(発売は4月16日~)。こうした運転補助装置は開発に時間と労力を要するものだが、今回は車両と同時期に開発が行なわれたため、車両発表日である2月13日に発表されたのだ。

 今回、新型では試乗することができなかったが、以前試乗した3代目フィット・ハイブリッドに装着されたHonda・テックマチックシステムでは、電動駆動が可能な車両特有の課題として、電動駆動時のアクセルワークが難しいという点が見られた。左手のコントロールグリップに対する微量なアクセル操作に対し、駆動力が勝る場面があるためだ。Honda・テックマチックシステムのコントロールグリップは物理的にアクセルペダルとつながっているため、e:HEVの場合は手による操作に適したモードを追加いただけるとさらに心地よくなるのではないかと思う。

 たとえば横滑りを抑制する車両挙動安定装置(ホンダではVSA)の中には、スイッチの短押しと長押しで制御内容を変えるものがあるが、それと同じ考え方で、ECONスイッチの長押しで手操作に適したスロットル特性になる、というアイデアはいかがだろうか……。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学