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【インタビュー】新型「フィット」が目指す走りの心地よさとは。開発担当者の奥山貴也氏に聞いた

「非常にスタビリティの高い、タイヤをうまく使うクルマができ上がった」

新型「フィット」の走行性能について聞いた

 フルモデルチェンジした本田技研工業「フィット」(4代目)は、“心地よさ”をキーワードに開発され、それは走りの面に関しても同様だ。そこで、フィットが目指す走りの心地よさとはどういうものなのか。前回に続き、本田技術研究所 オートモービルセンター 第11技術開発室開発戦略ブロック 主任研究員の奥山貴也氏に話を聞いた。

余裕をもって運転できる、それが楽しさにつながる

――新型フィットは機能性価値から感性価値へシフトし、心地よさをキーワードに開発されました。まず初めに、今回フィットを開発するにあたって一番重視したことから教えてください。

奥山氏:われわれは当然クルマが非常に好きで、運転するのも大好きですから、やはり乗っていて楽しいと思うクルマでないと駄目だと思っています。当然、私もスポーツカーが好きですし、速いクルマが好きです。しかしどのクルマに乗ったとしても、本質的なものは、乗っていて楽しいと感じる時は(運転に)余裕がないと駄目なのです。

 例えば、クルマをうまく走らせようとすると、まず4輪がどのように接地しているかを感じながら運転しないと駄目ですし、ひと昔前ではフロントにしっかりと荷重をかけて、ゆっくり丁寧にステアリングを切らないとコーナーをスムーズに曲がれない。新型フィットでは、免許取り立ての方でもそういった自然にステアリングを切ったら曲がっていける、ノーズがコーナーに入っていくと自然にアクセルやブレーキを踏めるという一連の操作が自然にできるクルマを目指しました。その結果、非常にスタビリティの高い、タイヤをうまく使うクルマができ上がり、運転が苦手な方でも上手な方でも運転して気持ちいいクルマに仕上がりました。

 今回のフィットの足まわりは、“心地よい乗り心地”といっています。実際に乗ると、ひと昔前のようなただ柔らかいだけの足に最初は感じるかもしれません。しかし、ボディをしっかりと作り込み、非常にコシのある乗り心地に仕上がっています。そうするためにドイツや南欧の山々をはじめ、道なき道を走り込みしっかりと作り上げました。

飛ばすと楽しいが、乗り心地は……を改善しよう

――乗り心地や走りの面においては、先代フィットのお客さまの声も反映されていると思います。そこで、先代からのここは直さなければいけないというところや、ここはそのまま継続して伸ばしていこうという、改善点や美点について教えてください。

奥山氏:フィットに限らず、ホンダ車は飛ばすと楽しいと思います。われわれも企画当初、チームメンバーとワイガヤや山篭もりで、茂木や横浜、箱根などでカテゴリーを問わずいいクルマを持って行って走らせました。その時に改めて感じたのは、先代のフィットは楽しいということだったのです。ワインディングロードなどで飛ばすと本当に気持ちよく走れるクルマでしたので、そういったところは残したいと思いました。

 一方で、一般的にホンダ車でイメージされているものとして、乗り心地がわるかったり、ゴツゴツしたり、ロードノイズが大きかったりといった快適性の部分があります。そこを無視しているわけではないのですが、どうしても両立できていなかったという反省もありました。可変ダンパーを使うなどの色々なアイテムを使えば両立できるかもしれませんが、そうはせずになんとかこのフィットで両立できるように目指しました。

心地よさを表現するには

――クルマとして気持ちよさを表現するというのは感性であり、デジタルでは分からない領域です。そういったところを奥山さんとしてはどのように作り上げていったのでしょうか。

奥山氏:例えば、ハイブリッドの走りのイメージを作り上げるため、ヨーロッパなどで比較試乗をした時に、EV(電気自動車)のワンペダルの走りを実現しようかどうしようかを悩んでいました。そこで色々乗ったのですが、全く心地よくなかったのです。確かに最初はとてもいいと感じるのですが、後が続かない。例えばワンペダルも雪上などでは使いやすいシーンもあるのですが、普段の街中では戻すコントロールが辛くて足首が疲れてしまうことが分かりました。そうするとこれは全然心地よくないのです。そういったことを踏まえながら走り方のイメージを作り上げていきました。しっとりとなめらかで、スムーズでリニアという走りを足まわりをはじめ、クルマそのものでも表現しました。

 今回のフィットをどのようなイメージで作るのかということは意外と悩みませんでした。ただ、それを表現、伝えるのがすごく難しかったですね。開発において、役員に対してある段階で評価を受けて次のステップに進むのですが、特にクルマがないときはとても大変でした。

 そこで開発陣の1人ひとりの想いを共有するために1つのムービーを作りました。役員への報告の時にもそのムービーを使ったのですが、そうすることで役員にも「こういうクルマを作りたいんだな」ということが分かってもらえたのです。これでいいとなれば基本はOKとなり、後はプレゼン資料などを仕立てたとしても、なるほどねとしっくり来ていました。その映像は人が出てきたり、ものが出てきたり、行動や景色などでイメージを作り上げており、どういうクルマを作りたいかというその世界観を表現したものだったのです。

――映像でイメージを共有するのはいいアイデアですね。そのほか、今回のフィットで語っておきたいことはありますか。

奥山氏:動的部分でいうと、「Honda SENSING(ホンダセンシング)」のセットアップには自信があります。これまで特にBカテゴリーのモデルに、ACCの完全停止機能付きブレーキなどが搭載されていたとして、それを実際に自分で操作せずにクルマ任せにするのは、特に運転に不慣れな人ですと相当クルマとの信頼関係がないと難しいでしょう。しかし、このフィットでは運転が苦手な方でも使ってもらえるように、すごくシビアにセットアップしています。かなり上のクラスのクルマと比較しながらADASの商品性を仕上げたのです。

 運転がうまい人のブレーキングは、早めにブレーキをかけ始めてゆるい減速度で、最後はブレーキペダルの踏力を抜きながらすっと止まりますよね。このフィットでもそのようにセットアップしています。よくカツンとブレーキングして最後にちょんちょんと速度調整しながら止まることがこういったシステムでは多く見られますが、今回のフィットは一発でスッと止まります。

あのグレードは?

――ちなみにこれまでラインアップにあったRSは出ないのでしょうか。

奥山氏:ホンダのクルマは乗っていて楽しい、飛ばすと楽しいですよね。なので先代でいうとRSとか、シビックにもTYPE Rなど色々あります。しかし今回はフルモデルチェンジですから全て何でもかんでもはできませんでした。

 まずは新型フィットでは、ホンダらしさ、MM(マンマキシム・メカミニマム)思想など本田宗一郎が考えていることをもう少し明確化して訴求したいという気持ちが強かったのです。ということで5バリエーションでスタートとなりました。ただ、個人的にはぜひやりたいですね(笑)。