試乗インプレッション
新型「フィット」(4代目)は質感の高いキャビン、快適な乗り心地など「すべてが使う人の心地よさに収束」(日下部保雄)
ガソリンとハイブリッドの違いは?
2019年12月14日 09:00
フィットの美点
コンパクトカーにイノベーションを起こした初代「フィット」がデビューしたのは2001年6月だった。センタータンクレイアウトとチップアップ&ダイブダウンのリアシートなどで、コンパクトカーでありながら望外のキャビンの広さを実現したフィットは瞬く間にベストセラーとなった。その後、初代を含めて3代にわたってフィットは成長し続けて、累計268万台もの台数を販売している。180万台を超える保有台数を持つホンダの財産でもある。
そのフィットがフルモデルチェンジをして4代目となってデビューする。掲げたキーワードは「心地良さと美しさ」。その原点にあったのは初代フィットが成し遂げたユーザーが知らずに諦めていた点を技術で解決する精神だ。初代の場合は広い室内だろう。その伝統は2代目、3代目でも引き継がれ、機能的価値の追求に邁進していたが、4代目フィットではコンパクトカーならではの使いやすさとコンパクトカー以上の快適さを目指した。
デザインでいえばクルマは工業製品である以上、機能が密接に関連する。ホンダでいえば2輪車のカブなどは何十年も基本スタイルは変わらない。機能がデザインを決める代表的な製品だ。
フィットの場合は前から後ろまでワンモーションで構成されるデザインに引き継がれており、すべての体格のドライバーがベストのポジションを取れるようにパッケージングされている。新型ではエクステリアもインテリアもシンプルで心地よさを連想できるデザインにされたが、車両サイズは先代とほとんど変わっていない。
新型車に乗る時はいつもワクワクするが、フィットの穏やかなエクステリアデザインは柔らかい心持ちになる。サーキットよりも日ごろの相棒として似合うだろう。キャビンもシンプルにデザインされ目に優しく、視界も開けている。新型フィットの特徴であるAピラーを後方に置いたレイアウトのため斜め前方の死角が少なくなった。フロントウィンドウはその前に位置する細いA’ピラーで支えられることになる。メーターも必要なものだけを液晶モニターに映し出すので、スッキリしており格段に見やすくなっている。
思い出すのは、2代目フィットでフォルムが洗練されたのと引き換えに太いAピラーで若干の閉塞感を感じたことだった。機能はデザインに表れる。衝突要件が厳しくなって強固なボディを作る必要から、Aピラーは太く、そして燃費の改善から寝かせられたからだと思う。
デザイン的には初代~3代目のフィットの中では最も好きだったモデルで、今見てもワンモーションデザインの完成形を見る思いだ。ラウンドしたリアのデザインとの一体感も好ましかった。歴代では最もスポーティで、コクピットも太いステアリングスポークや深いホールに埋め込まれたような3つのアナログメーターなどが印象的だった。走りもよりパワフルになって、パワーホンダの一端を彷彿させた。穏やかなデザインの新型フィットとは正反対だが、時代を反映していたと思う。
乗り心地が劇的に改善
さて、フィットの原点に戻ると、初代はホンダのマン・マキシマム/メカ・ミニマムがデザインに表れていたよい例だ。キャビンが望外に広くコンパクトカーの常識を覆したと言ってよい。その初代フィットの試乗は北海道で行なわれた。丘に広がるワインディングロードをキビキビと巡り、コンパクトカーに期待される通りの走りが新鮮だった。
新しい1.3リッターエンジンも元気よく、4人乗車でも北海道の大地では必要十分。CVTが滑らかさを欠くこともあったが、それ以上に前後席の広さは感動ものだった。その代わり、後席はクッションストロークが少なく、リアサスも突き上げ感が強かったので、冬の間に荒れた北海道の路面ではしょっちゅう上下に揺さぶられた。後席の乗り心地はコンパクトカーと割り引いてもあまり褒められたものではなかった。それでもワイワイと楽しかったなぁ。
試乗した新型フィットでは乗り心地が劇的に改善されていた。最初の印象は大きなシートに座ったような感覚だ。エンジニアに聞くとシートの構造を変えて、より大きな面で支えて、骨盤をホールドするような形状になっているという。クッションストロークも大きくなり、特に後席のクッションストロークは30mmも大きくなって、ホンダではアコードクラスの乗り心地と言っている。シートが厚みを増しても、フィットの特徴であるリアシートのチップアップ&ダイブダウンを変わらず使えるのは嬉しい。
シートだけでなくサスペンションも大幅に手が入っている。特にフロントの操舵性などに引きずられて硬くなっていたリアサスによる乗り心地を改善するため、フロントサスの低フリクション化を図って全体の乗り心地を適正化したことでしっかりした乗り心地になっている。
具体的には、路面から入る衝撃をボディのサスペンション付け根の剛性を上げて大きな入力はバネで支え、細かい収束は低フリクション化されたショックアブソーバーで受け持つことでこの味を出している。スタビライザーの取り付け部についても滑らかに動くようにカラーが工夫されており、徹底した摺動抵抗の低減が図られている。
ウネリ路などではバネ上の動きが少なくなって、上下収束もスムーズ。サスペンションは硬めでも揺さぶられない味付けになっており、しなやかに動くサスペンションとショックアブソーバーの減衰力のバランスがよい。現行型フィットではやや尖っていた突き上げ感もマイルドになっているので、クラスが上がった感触だ。
ハンドリングは、現行型との比較では速い転舵速度で行なう場合は大きな違いを感じにくいが、日常的な速度でのレーンチェンジではシットリ感のある滑らかさが特徴だった。操舵力も現行型では重めだったが適当なレベルまで軽くなり、しなやかで安心感がある。
新型ではハンドルの追従性も優れており、ライントレース性もよい。ただ、ガソリンモデルとハイブリッドでは少しニュアンスが異なる。ガソリンモデルでは軽快に、ハイブリッドではどっしりとした動きで、わずかに操舵量が多くなる。と言っても、これはちょっと速度を上げた場面での話であり、日常的にはそれほど大きな違いはない。先代フィットではややアンダーステア気味だったハンドリングが、より素直に曲がっていくのが好ましい。乗り心地ではハイブリッドのドッシリ感が、ハンドリングではガソリンモデルの軽快感が特徴だ。
すべてが使う人の心地よさに収束
さて、ハイブリッドのパワートレーンでは、フィットはこれまで1モーターにDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせていたが、新型ではアコードと同じ2モーターハイブリッドになり、ネーミングも覚えやすい「e:HEV(イーエイチイーブイ)」に統一された。通常はバッテリーが許す限りEV走行を行ない、バッテリー容量が不足するとエンジンで充電しながら走るシリーズハイブリットに変わる。そして、エンジン効率のよい高速巡航などではエンジン直結モードになる巧妙なシステムだ。
モニターを見ているときめ細かく回生しているのが分かる。高速巡航ではエンジン直結で走るが、ここでも必要ならチャージを続ける。燃費は現行型を上まわりクラストップレベルと言われているが、実燃費もさらに期待が持てそうだ。
現行型のハイブリッドは加速時の音が大きかったが、新型では大幅に抑えられている。また、DCTを使用していた現行型ではシフトする感触が明確で節度感があったが、新型では機構上シームレスな加速で優しい。緩加速やクルージングでの室内音が静かで、新型フィットの大きなアドバンテージだ。
1.3リッターガソリンエンジンはCVTとの組み合わせになるが、緩い加速ではステップシフトをするので、いわゆるラバーバンドフィールは抑えられており、エンジン音で煩わされることは少ない。パワフルではないが実用上は十分だろう。
新型フィットは時代に合わせるようにまさに「心地よい」クルマになっていた。グレードはヒエラルキーから解放され、自身のライフスタイルからチョイスするようになった。シンプルで質感の高いキャビン、快適な乗り心地、安定感の高いハンドリング、ハイブリッドの滑らかさと燃費、使い勝手など、すべてが使う人の心地よさに収束していた。