ニュース
ホンダ、4代目となる新型「フィット」発表会。新価値「心地よさ」を開発責任者が解説
潜在ニーズの調査で明らかになった、“コンパクトカーだから”と諦めていたものとは?
2020年2月13日 00:30
- 2020年2月12日 開催
本田技研工業は2月12日、2月14日に発売する新型コンパクトカー「フィット」の発表会を東京 青山の本社で開催した。発表会には新型フィットの開発責任者 田中健樹氏、日本本部長 寺谷公良氏が登壇して開発経緯や技術説明を行なった。
4代目となる新型フィットは、コンパクトカーとして圧倒的な室内空間・ユーティリティの高さなどを継承しつつ、「よりお客さまに満足していただけるクルマへと生まれ変わる」ことを目指して開発。その開発過程において、クルマでの移動においてもリラックスや癒しを求めているという潜在的なニーズにたどり着いたとし、そのニーズに応える「心地よさ」を新型フィットの新たな提供価値として掲げた。
また、新型フィットの特徴として、従来のように装備などの違いでタイプを設定するのではなく、ユーザーのライフスタイルやライフステージに合わせて選択できる5つのタイプを用意したことが挙げられる。具体的には、シンプルでありながら質感を感じる内外装が特徴となる標準タイプの「BASIC(ベーシック)」、自宅にいるかのような心地よさが感じられる内装の質感が特徴の「HOME(ホーム)」、フィットネススポーツを想起させる、フィットネスファッションを普段着として着こなすような新たなスポーツグレードとしての提案であり、元気が出るようなアクセントカラーを用いるのが特徴となる「NESS(ネス)」、週末に出かけたくなるエンジョイライフに応えるクロスオーバースタイルの「CROSSTAR(クロスター)」、フィットとして初めてレザーシートを採用するなど、洗練と上質を兼ね備えたスタイリッシュな「LUXE(リュクス)」の5タイプになる。
全タイプとも、直列4気筒DOHC 1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンに2モーター内蔵の電気式CVTを組み合わせたハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」仕様、直列4気筒DOHC 1.3リッターアトキンソンサイクルのガソリンエンジン+CVT仕様を設定するとともに、2WD(FF)と4WDをラインアップする。e:HEVはモーター駆動を主体にしたシステムで、エンジンは主に発電用という考え。同社の「インサイト」でも用いられるが、2モーターハイブリッドシステムを大幅に小型化した苦心の作と言える。モーターは自社製とし、グローバルでの展開も予定するため最高速性能にもこだわって開発したという。
一方、先進安全装備も充実しており、先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」を全タイプに標準装備した。従来モデルのHonda SENSINGはミリ波レーダーとカメラを用いていたが、新型フィットのHonda SENSINGには車両前後に装着された計8つのソナーセンサーと前方を広角に検知するフロントワイドビューカメラの組み合わせにスイッチ。「衝突軽減ブレーキ<CMBS>」「誤発進抑制機能」「歩行者事故低減ステアリング」「路外逸脱抑制機能」「渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール<ACC>」「車線維持支援システム<LKAS>」「先行車発進お知らせ機能」「標識認識機能」という8つの機能に加えて、「後方誤発進抑制機能」「オートハイビーム」、ホンダ初となる「近距離衝突軽減ブレーキ」を装備しているのもポイントになっている。
ホンダでは、新型フィットでの「心地よさ」として以下の4点を挙げている。
①断面構造を変えることで、フロントピラーは従来の半分以下の厚さにするとともに、十分な衝突安全性能も確保。水平・直線基調のインストルメントパネルやシンプルで見やすいバイザーレスメーターの採用などと合わせて、安心感のある“心地よい視界”を実現。
②座った瞬間に心地よさが感じられるシートを目指し、フロントシートには骨盤から腰椎までを樹脂製マットで支える「ボディースタビライジングシート」をホンダとして初採用。コンパクトカーでありながら、大人がゆったりと座れる厚みのあるやわらかなパッドをリアシートに採用。前後席ともに長距離ドライブでも疲れにくい快適な“座り心地”を実現した。
③パワートレーンには、2モーターならではの力強い加速と滑らかな走りを実現するハイブリッドシステム「e:HEV」をコンパクトカーとして初搭載。優れた燃費性能だけでなく、走る楽しさを両立した。また、軽量化・高剛性化・高強度化を徹底したボディや、衝撃を素早く吸収して路面をしっかりととらえるサスペンションなどと合わせて、快適な“乗り心地”を提供。
④歴代フィット同様の広い室内空間や多彩なシートアレンジを継承しつつ、気軽にかばんなどを置ける「テーブルコンソール」をフロントシートの間に設置するとともに、収納レイアウトについても視線・動線を考え抜いた配置とした。荷室はハイブリッド車においても十分な容量を確保し、快適な移動をサポートする“使い心地”を提供する。
多くのユーザーが潜在的に思っていることとは?
発表会でははじめに田中氏が登壇して新型フィットの概要について紹介を行なった。
田中氏は新型フィットの最大の価値は「心地よいこと」であり、その心地よさを追求していった理由について説明。4代目となる新型フィットでは、初代モデルにまでさかのぼってその価値を改めて振り返ったといい、「初代フィットは非常に多くのお客さまに受け入れられた商品です。その受け入れられた理由は何だったのかというと、初代フィットが登場するまでのコンパクトカーと言えば弊社ではロゴがありましたが、これらを選んでいただいていたお客さまが『コンパクトカーだからしょうがない』と知らず知らずのうちに諦めていたことがありました。そうした潜在的なニーズに初代フィットではしっかりと応え、それが付加価値として認められたからだと思います」とコメント。
その付加価値が示すものは「小さいけれど、とても広い驚きの室内空間」「若々しくて主張のあるデザイン」などであり、一方でコンパクトカーとしての機能的価値である「燃費がいいこと」「お買い求めやすい価格」といったものも兼ね備えていたからだと振り返る。
その後、フィットは2代目、3代目へと進化していったが、その際に開発陣が注力したことは「室内空間をさらに広げる」「燃費を少しでもよくする」という機能的価値を高めていくという改良だったが、これらは業界水準が上がってくると競合から追いつかれたときに“当たり前の価値”となってしまい、ユーザーから付加価値として認められなくなってしまう。田中氏は「振り返ると2代目、3代目の付加価値は、実はそれほど大きく成長できていなかったのではないかと考えています。そこで4代目を開発するにあたり、われわれは現在コンパクトカーにお乗りのお客さまが知らず知らずのうちに諦めていたこと、つまり潜在的なニーズに再び新たな価値で応えることができれば、もう一度初代フィットのように広いお客さまに受け入れられるのではないかと考えました」。
「ただし、この潜在的なニーズというのはその名のとおり“潜在”なので、お客さまに聞いても答えが返ってきませんでした。そこで活用したのがホンダが昔から取り組んでいる人研究です」と説明する。ホンダでは以前から何が人に求められているかの研究、すなわち人研究を行なってきたとのことで、新型フィットではこの人研究で開発した独自調査手法を用いて潜在ニーズの調査を実施。
この調査は多数の画像を用いて行なわれるもので、なぜ画像かと言えばグローバルで調査・分析を実施するにあたり、さまざまな言語を変換する際に誤差を発生させないため。無数の画像をユーザーに見せ、設問に応じて該当する画像を選択してもらう。その後、なぜその画像を選んだのかヒアリングをすることで、ユーザー自身も気付いていなかった潜在的なニーズを探るというもの。
その調査の結果、多くのユーザーが潜在的に「ストレス(不快・不安)を回避したい」「快適性・リラックス・癒しを求めている」ことが分かり、同時に「こうした潜在的なコンプレイン(不満)は現在のコンパクトカーでは今持ってかなえられていないニーズであり、お客さまが知らず知らずのうちに“コンパクトカーだからしょうがない”と諦めていることに気付きました」(田中氏)。
そこで新型フィットでは、そうした潜在ニーズを満たすために「心地よさ」を追求することを決定したとのことで、田中氏は「もちろん従来のフィットから受け継ぐ、人の日常生活を支える機能性を持ったコンパクトなモデルであることを兼ね備えることにしました。そういうコンパクトカーがあれば必ずや人の日常生活を豊かにすることができると考えました。そしてこれらを兼ね備えていることを最も的確に表す言葉として、私たちは“用の美”を選びました。用の美、つまり人の役に立つ機能性や心地よさを徹底することで美しさも宿す。そういう言葉ですが、われわれはそういうクルマにしたいという願いを込めてこのコンセプトワードを掲げました」と、コンセプトについて解説を行なった。
一方、新型フィットの特徴についてだが、まずフォルムでは初代フィットからのアイコニックなワンモーションフォルムを受け継ぎ、同社のオートバイ「カブ」と同じく機能から来る意味のある形として踏襲したという。また、4m以下の全長、5ナンバーサイズの全幅、ほぼすべての立体駐車場に対応する全高といったコンパクトサイズに仕上げ、その一方で広い室内空間や便利なシートアレンジといった価値を盛り込みつつ、「ただ広いだけでなく、乗員すべての人が心地よく過ごせる空間づくりをしました。そのために乗員の着座姿勢の改善や、ペダル、ハンドルなどの操作系部品の見直しなどを行ないました」とアピール。
心地よさを実現したデザインと技術については、上記で述べた4つの特徴点が挙げられているが、その中でインテリアではインパネ造形を薄く水平基調としつつ、上面にノイズとなるような形状を排除するとともに、メーターバイザーもなくすことで広い視界を実現。無駄を省いたシンプルな造形ながら質感を高め、スイッチ類のフィーリングにまでこだわったという。また、広々とした視界を実現したパノラマフロントウィンドウについては、「従来では対向車がフロントピラーに隠れてしまうようなシーンでもしっかりと対向車を見ることができ、運転に不安のあるような方でも安心して運転していただけます。この視界のよさを実現しているのがフロントピラーの極細化技術で、従来モデルのフロントピラーに比べて半分以下の細さにすることでそれが死角とならないような設計とし、万が一、クルマが衝突した際には2番目のピラーでしっかりと守る新しい構造を採用しています」と説明を行なった。
さらにシート形状にもこだわり、新型フィットでは「ボディースタビライジングシート」を新採用。これは、従来のシートでは線で支えるSバネ構造としていたものを面で支えるMAT構造としたもので、この構造によりクッションをより柔らかく肉厚にすることができ、面構造にしたことで体幹を安定して支えることで長時間ドライブでも疲れることなく心地よい座り心地を長時間維持できるようにしたという。また、後席も新設計のものを採用し、クッション厚をアップして座面や背もたれの角度を最適にすることで自宅のソファのような快適な座り心地を実現したとのこと。
そのほか、電動パーキングブレーキの標準装備化によって左右フロントシートの間に自由スペースを創出し、そこに新発想の「フレキシブルテーブルコンソール」を用いたこと、専用車載通信モジュール「Honda CONNECT」を日本国内で初搭載したことなどを紹介するとともに、「新型フィットは心地よさを新たな価値として、日常生活を豊かにすることを目指して開発したモデルです。1人でも多くの方にパートナーとして寄り添えることを願っています」としてプレゼンテーションを締めくくった。
国内登録乗用車の絶対エースとして育てていきたい
一方、日本市場のフィットについては日本本部長の寺谷氏が解説。
寺谷氏は「2001年に登場した初代フィットはコンパクトカーの在り方を根底から覆し、これ1台ですべてのニーズに応えるエポックメイキングなモデルでした。燃費のよさに加え、センタータンクレイアウトによるそれまでのコンパクトカーのイメージを覆す室内の広さ、そしてシートアレンジの多彩さが多くのお客さまに受け入れられ、2代目、3代目においてもこれが継承されてきました。フィットは常にお客さまのニーズに応えていくコンパクトカーの基準になるモデルとして歴史を重ねてまいりました。結果、これまでの累計販売台数が269万台となり、ホンダ車の中でも最も多い保有台数(183万台)となりました。これは国内のホンダ総保有台数の全体の17%を占める台数で、大変重要なモデルとなっています」と述べるとともに、重点領域である「SUV」としてはヴェゼルを、「ミニバン」としてはフリード、ステップワゴンを、「軽自動車」としてはNシリーズを、「コンパクト」としてはフィットを配置し、この4本柱で国内における70万台の安定販売を目指していることを紹介。
このうち、フィットが属するコンパクト/ハッチバック市場は安定して全体市場の40%を占める最大セグメントであり、この重要セグメントに属する新型フィットを投入することでシェア拡大を図るとともに、「国内の全体販売のけん引役、もっと言えば国内の登録乗用車の絶対エースとして育ててまいりたいと考えています。新型フィットは日本をリードカントリーとして開発しました。これはコンパクトカーユーザーが大変多く、また要求水準が高い目の肥えたお客さまをターゲットとすることで、結果、これが世界にも通用する魅力あるクルマに仕上げることができたと自負しています」。
「近年、人々の価値観が所有から体験にシフトしていると言われますが、この新型フィットにおいては“心地よさ”というものに重点を置いたクルマ作りを行なってまいりました。前席のみならず後席においても大変余裕を持ってお乗りいただけるのも新型フィットの強みです。お1人で運転するケースからファミリーユースまで、これ1台ですべてをこなすことができる幅の広いお客さまのニーズに応えられるクルマに仕上がっています」とアピールした。