試乗インプレッション
新型「フィット(4代目)」、軽快さ&骨太な走りで“第一印象は上々”(岡本幸一郎)
EU路で痛感した現行型と新型の差
2019年12月15日 09:00
コンパクトカーらしからぬ感覚
事情により発売が2020年2月になったのだが、東京モーターショー 2019に出展されたため、その姿をすでに目にした人も大勢いるはずで、来場者の反応からも関心の高さがうかがえた。そんな次期「フィット」のプロトタイプにひと足早く北海道・鷹栖のテストコースで試乗したので、まずはそのファーストインプレッションをお届けしたい。
これまでの3世代とは見た目の雰囲気がガラリと変わっているが、プラットフォームは3代目をキャリーオーバーしつつ大幅な改良を施したものを用いており、パワートレーンはハイブリッドが全面刷新で、ガソリンは踏襲となる。
グレード体系も一新され、基準の「BASIC(ベーシック)」、ファミリー向けの「HOME(ホーム)」、ダウンサイザー向けの上級モデル「LUXE(リュクス)」、従来の「RS」の後継に近い位置付けの「NESS(ネス)」、SUVテイストを与えた「CROSSTAR(クロスター)」という5種類となり、今回はクロスター以外をドライブすることができた。さらに、試乗会場には比較試乗用に現行型のハイブリッドも用意されていた。
ドアを開けてシートに収まり、軽く走ってみると、まずドライビングポジションがこれまでよりもしっくりくることを感じる。あまりコンパクトなクルマに乗っているような気がしないのは、ワイド感のあるインパネや開けた視界といった視覚的な面も多分にあれば、件のポジションの最適化や、クルマの動きもコンパクトカーらしからぬ感覚があるからだろう。さらには、現行型の線で支えるS字バネ構造から面で支えるMAT構造に変更された「ボディスタビライジングシート」も、コンパクトカーらしからぬ座り心地に寄与しているに違いない。
視界のよさにも感心した。このフォルムであれば太いピラーがちょうど目障りな位置に来るはずのところ、新型は極細Aピラー構造を採用し、“A'ピラー”で剛性を確保することで、視野角を拡大することに成功している。さらに、ワイパーを見えなくしたり、メーターフードを廃してインパネ上面の圧迫感も抑えたことも効いている。
液晶パネルを用いたメーターは、運転に必要な情報を分かりやすく表示し、画面をステアリングスイッチでいろいろ選べるようになっている。ただし、せっかくデジタル化したので、もう少し多くの要素を表示できるとなおよいかなと感じた。
期待どおりの「e:HEV」の走り
モデルチェンジの大きなポイントの1つが、小型化した2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」の搭載だ。i-MMDはもっと車格の高いクルマに向けたもので、フィットクラスで採用するのは難しいのではと思っていたのだが、こうして実現したことを喜ばしく思う。当たり前のことながら、i-DCDとはドライブフィールも別物だ。
現行型のハイブリッドシステム「i-DCD」もよい面がなかったわけではないのだが、いかんせんデメリットの方が目につきすぎるようにかねがね感じていた。時間の経過とともに改良されたとはいえ、どうしても払拭できない気になる部分があることを、今回も現行型をドライブしてあらためて感じた。
対する新型は、これまで既出のi-MMD搭載車で感じたのと同じように、リニアなアクセルレスポンスと力強い加速になめらかな走り味を提供してくれる。ブレーキフィールも新型の方が自然なフィーリングに仕上がっている。高速走行時には直結となり、延々とモータードライブできることも確認した。燃費もいかにもよさそうだ。やはり期待どおりの走りである。テストコースよりも現実的な状況のほうが、よりありがたみが感じられることと思う。
一方の1.3リッターガソリンモデルは、これまでどおり軽やかな吹け上がりが心地よく、小気味よく走れる。心なしかこれまでにも増してよく回るようになったように感じられた。身軽なフットワークと併せて、かつてフィットが高く評価された本来の走り味を思い出す、軽さの際立つ走りである。
EU路で痛感した差
フットワークもずいぶん変わって、キビキビとした軽快さに加えて、骨太な印象になっていた。車体の剛性感が高まり、操舵に対する一体感が増して、タイヤが路面をしっかり掴む感触もある。
VGSを装備するLUXEは直進安定性に優れ、大舵角では気持ちよくノーズが入っていく。静粛性についても手厚く対処されているようで、全体として他グレードよりもワンランク上質な乗り味に仕上がっていた。
初代からずっと乗り心地の硬さがたびたび指摘されていたフィットだが、新型ではフロントサスペンションの徹底的な低フリクション化を図ったことで、突き上げ感が大幅に低減している。この効果は小さくない。
周回路では現行型は微振動が生じがちで、レーンチェンジでの挙動や揺り返しの収束の仕方などももう少し落ち着いていたほうがよい気もしたものの、全体としてはまずまずだと思ったのだが、欧州の郊外を模したEU路で乗り比べると、次期型とは予想外に印象が違った。
あえて荒れた路面とされたコースを攻めて走ると、4輪の接地感には小さくない違いを感じる。現行型は操舵に対して反応に乏しい領域があり、ターンインで確実に曲がってくれるかどうかが分からず不安を覚えるのに対し、次期型は正確に応答してくれるので、安心してコーナーに飛び込んでいける。また、アンジュレーションを通過しても次期型はできるだけフラットな姿勢を保とうとするのに対し、現行型は挙動が乱れやすく、路面からの入力によってドラミングのような症状も出ている。
とはいえ次期型も、まだ硬さを感じる乗り心地や操縦安定性に関する微妙なところなど改善の余地もなくはないのだが、そのあたりはおいおいよくなっていくことと思う。いろいろ気になる点のあった従来のプラットフォームをベースに、よくぞここまで仕上げたものだと思わずにいられない。全体としては開発陣が「自信作」と胸を張るとおり、第一印象は上々であった。