試乗インプレッション

ドイツ勢が強い高級SUV市場でどう戦う? “アメリカンラグジュアリー”を体現したキャデラック「XT5」試乗

従来から価格を引き下げ

 高級車市場の中でもメインストリームのカテゴリーといえるこのクラスのSUVに、前身の「SRXクロスオーバー」のあとを受けて、「XT」を名乗る最初の1台としてキャデラックが2017年に投入したのが「XT5」だ。

 これまで頂点の「エスカレード」と中堅のXT5という2本柱だったところ、2019年には「XT6」を加え、さらに近いうちに「XT4」の追加も予定するなど、キャデラックのSUV戦略はいきなり加速度的に勢いを増している。既存の主力モデルであるXT5もデビューから2年あまり。マイナーチェンジを機にデザインの小変更および仕様向上を図るとともに、少しでも多くの人に乗ってほしいとの思いから、今回持ち込んだ「プレミアム」で価格が650万円と、従来の「ラグジュアリー」から約20万円あまり引き下げられたことにも注目だ。

キャデラック「XT5」(650万円)。ボディサイズは4825×1915×1700mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm

 エクステリアではフロントグリルが横桟タイプからメッシュタイプとなり、サイドモールディングやホイールのデザインが変更された。SRXクロスオーバーは全体がシャープなラインで構成されていたのに対し、XT5はキャデラック独自のエッジを効かせたラインとともに流線型のデザインを織り交ぜて調和させた、滑らかな曲線を描く洗練されたフォルムをまとう。個人的にはSRXクロスオーバーのあの感じが大のお気に入りだったもので、XT5ももう少し尖がっていてもよかった気もしている。

マイナーモデルチェンジでフロントグリルがこれまでの横桟タイプから変更された。装着するタイヤはミシュラン製「PREMIER LTX」(235/65R18)

 モダンなデザインと熟練のクラフトマンシップを融合し、カット&ソー製法で丹念に仕立てられたインテリアの雰囲気も独特だ。これぞまさしく“アメリカンラグジュアリー”。自然な風合いの木目を見せるウッドなど上質な存在をふんだんに用いたインパネや、肉厚なレザーシートは欧州勢にはない温かみを感じさせる。左ハンドルしか設定がないのは日本市場では不利となるのは仕方がないが、左ハンドルだからこそ欲しいという人も少なくないだろう。

 全座席の頭上に広がる「ウルトラビューパノラミック電動サンルーフ」が提供する開放感も絶大だ。リアシートには調整幅の広いリクライニング機構が付くほか、14cmの前後スライドにより最大で1mに迫るレッグルームを確保できる。通常で約850L、最大で約1784Lまで拡大可能なクラス最大級の容量を誇るラゲッジスペースの両サイドにレールを配した独自の「カーゴマネジメントシステム」もキャデラックならでは。ただし今回、せっかく40:20:40分割だったリアシートの背もたれが、なぜかトレンドに反して60:40分割に変更されたのがちょっと気になる。

XT5のインテリア。明るいブラウンのレザーシートと各所に用いられたウッド調のパネルが上質感を演出する。ステアリングヒーターやフロントシートヒーターといった快適装備も標準装備されている
標準で約850L、シートをすべて倒すと約1784Lもの容量を誇る広々としたラゲッジルーム

自然吸気V6エンジンのよさ

 テールゲートに配された「400」のバッジは、エンジンスペックが400Nmクラス(350Nm~450Nm)であることを意味する。最高出力314PS/6700rpm、最大トルク368Nm/5000rpmを発生する自然吸気の3.6リッターV6エンジンをそのまま踏襲しつつも、組み合わされるのが8速ATから9速ATになったのも今回の大きな進化点の1つ。実際にドライブしても、これまでもとくに不満はなかったが、心なしかレスポンスが向上するとともに加速フィールが滑らかになったように感じられた。欧州勢に多いターボ付きのような低中速トルクこそないものの、自然吸気らしく素直な特性で乗りやすく、性能的にも不満はない。

 燃費にも配慮していて、エンジンパワーをあまり必要としない状況では、6気筒のうち2気筒を休止させ、4気筒で稼働するアクティブフューエルマネージメントを採用するほか、ツーリングモード選択時にはリアドライブユニットとの接続を解除する機能もある。

最高出力231kW(314PS)/6700rpm、最大トルク368Nm(37.5kgfm)/5000rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.6リッター直噴エンジンを搭載。トランスミッションはこれまでの8速ATから9速ATに変更された。駆動方式は4WD

 XT5のために開発されたBose製のスタジオサラウンドサウンド14スピーカーシステムの臨場感あるサウンドも心地よい。さらには、Boseアクティブノイズキャンセレーションが静粛性を高めて疲労を軽減してくれることも、長くドライブするほど実感できるはずだ。

 モードセレクト機能付ツインクラッチ機構を備えたインテリジェントAWDは、エンジントルクの最大100%をフロントアクスルまたはリアアクスルに伝達することが可能。加えて、片側の車輪がスリップしてしまういわゆるスプリットミュー路に備えて、電子制御リアデファレンシャルにより、リアに伝達されたトルクを後輪の左右いずれかに100%までを配分できるようになっている。

先進運転支援システムも充実

 快適な乗り心地や操縦性も申し分ない。XT5にも2種類あって、今回の「プレミアム」はいたってコンベンショナルな足まわりとなるが、よく動いて路面からの入力をうまくいなしている。ハンドリングも十分に俊敏でありながら過敏なところもなく、動きが素直かつ穏やかで乗りやすい。

 先進運転支援システムもかなり充実していて、ひととおりのものは用意されている。中でも危険の迫る方向のシートの座面を振動させてドライバーに知らせるという、キャデラックが特許を持つ「セーフティアラートドライバーシート」には、乗るたびに本当にナイスアイデアだと感心させられる。

 日本でこのクラスの高級SUV市場というのはやはりドイツ勢が強く、ボルボ「XC60」やレクサス「RX」なども人気を博している激戦区だが、“アメリカンラグジュアリー”を全身で体現したXT5もまた、大いに目を向ける価値のある1台に違いない。高いブランド力と充実した内容のわりに価格が控えめであることも念を押しておきたい。

 なお、さらなる刺激を求めるユーザーには、内外装をスポーティな仕様とし、スポーツチューンドAWDやアクティブダンピングサスなどを搭載した新グレード「プラチナム スポーツ」が135万円高でラインアップされていることもお伝えしておこう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛