試乗レポート

キャデラック、新型コンパクトSUV「XT4」の乗り味とは?

クラフトマンシップと高い利便性

 往年のイメージが強すぎるせいで、キャデラックと聞くと今でも「大きい」と思う人が多いそうだが、それはもう遠い過去の話。今やこうしてコンパクトSUVまでラインアップするようになり、「XT4」が出たことで「エスカレード」「XT6」「XT5」とともに、キャデラックのSUVラインアップが完成した。

 左ハンドルのみというのは、日本市場ではハンデではあるが、全長4605mm、全幅1875mmというサイズは、狭い日本で使うのにも向いている。それでいて周囲を見渡しても、このサイズでこれほど見栄えするSUVというのは、なかなかないように思う。

ボディサイズは4605×1875×1625mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2775mm、車重1760kg(プラチナムは1780kg)、乗車定員は5名

 若手デザインチームが主導したという、近年のキャデラックを象徴するアイコンである縦長のヘッドライトや前後の中央を尖らせたシャープなラインが特徴的なスタイリングは、コンパクトな中もいろいろな要素が凝縮されている。最新版は鋭い中にもどことなくやわらかさを感じさせる面を織り交ぜていることも見て取れる。写真の「オータムメタリック」のように印象的なボディカラーも選べる。

特徴的な縦長のヘッドライト
装着タイヤはグレードで異なり「プレミアム」は18インチ、「プラチナム」と「スポーツ」は20インチを履く。写真はプレミアムの18インチ

 外見のスタイルに通じるイメージでまとめられたインテリアの雰囲気も上々だ。コンパクトになっても上級機種と同じく、キャデラックらしいクラフトマンシップを感じさせる。パノラマルーフの開口が前方まで拡げられているおかげで、前席を含めどの座席に座っていても大きな開放感を味わうことができるのも嬉しい。

 最新型の「キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス」は、タッチスクリーンやロータリーコントローラー、スクロールに加えて、適宜ハードボタンが組み合わされていることで、より直感的に操作できるところも好印象だ。

プレミアムの内装色はジェットブラックのみ。トリム部分はダイヤモンドカットアルミニウムとなる
ステアリングの左右にはロータリーコントローラーが配備されている
シフトノブの手前にはジョグダイヤル式ロータリーコントローラーが配置される
シートはすべて本革。運転席は8ウェイ調整パワーシートを採用、助手席は6ウェイ調整パワーシートとなる。また前後ともシートヒーターを標準装備
ラゲッジスペースは通常時637Lで、リアシートバックレストを倒せば最大1385Lまで拡大可能。また、全グレードにハンズフリーテールゲートが標準装備されている

 ユーティリティについても、ややアップライトな着座姿勢の後席は、レッグルームの広さでクラストップレベルを誇るというふれこみのとおり、フロアが掘り下げたような体裁になっていて、たしかに足のまわりが広々としていて、ヒール段差も十分に確保されている。ラゲッジスペースも637~1385Lの容量というだけあって、かなり広々としている。

見どころ満載のパワートレイン

搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力169kW(230PS)/5000rpm、最大トルク350Nm/1500-4000rpmを発生。トランスミッションは電子制御式エレクトロニック・プレシジョン・シフトを備えた9速ATを組み合わせ、駆動方式は4WDとなる

 新設計の直列4気筒 2.0リッターの直噴ターボエンジンは、なんとツインスクロールターボ仕様だというから驚いた。リアゲートに貼られた「350T」のエンブレムのとおり350Nmの最大トルクと、230PSというリッターあたり100PSを超える高性能ぶり。いくら名門の末弟とはいえ、この類いの量販車にツインスクロールのように凝った機構を与えるとは意外だった。これに9速という多段ATを組み合わせるのも特徴だ。

 実際にドライブしても速さを直感する。ツインスクロールを採用した甲斐もあってスロットルレスポンスは俊敏そのもので、低回転時のターボラグが極めて小さく、強大なトルクが瞬時に立ち上がり、6000rpmまで力強く吹け上がる。一方で、低負荷時には2気筒を休止する機構も搭載するほか、ツインクラッチAWDシステムにより俊敏な旋回性能とともに、状況に応じて後輪への駆動力の伝達を完全に遮断してフリクションの低減を図るなど、いろいろな要素を盛り込んだパワートレインである。

 しかも静粛性もかなりのものだ。音源の制御とアクティブノイズキャンセレーション技術により、車内が静かで快適に保たれていることも印象的だった。

欧州勢よりもスポーティな走り

 足まわりはほどよく引き締まっていて、走りはいたって軽やかで現代的な仕上がりだ。大柄なイメージに加えて、キャデラック、ひいては「アメ車」と言うと“ふわふわ”とか“ユルい”というイメージも根強いが、今やぜんぜんそんなことはなく、むしろ欧州勢よりもスポーティに感じられる面もあるほどハンドリングは俊敏で、走りの一体感も高い。

 また、装着タイヤはグレードで異なり、18インチ仕様(プレミアム)と20インチ仕様(プラチナムとスポーツ)があり、見た目だけでなく乗り味も違って、やはりセオリーどおり20インチのほうが走りがシャープで一体感がある半面、乗り心地にコツコツを感じ、特に後席でそれを感じるのに対し、18インチは路面に対するあたりの硬さがない。普通に乗るには18インチのほうが無難だろうが、ルックスと運動性能は20インチのほうがよい。とはいえXT4の場合、18インチ仕様でもあまり見た目に物足りなさを覚えないところもポイントが高い。

欧州車にも引けを取らないスポーティさがあった

 インテリジェントAWDを含め、シーンに合わせて「ツーリング」「AWD」「スポーツ」に加えて「オフロードモード」の4つのドライブモードが選択可能となっている。スポーツモードを選ぶとメーターの表示もスポーティなムードになり、加速フィールやサウンドも変わって、ステアリングの手応えも増す。今回はオフロードモードの真価を確認できていないが、このオシャレなルックスのSUVがオフロードでどのような走りを見せるのか、機会があればぜひ試してみたいところだ。

 安全装備も、もともとキャデラックはかなりハイレベルな内容を装備していたが、それはエントリーモデルのXT4になっても変わることはない。「セグメントでもっとも充実している」とうたっているとおり、センサーも機能も非常に充実している。シートの振動で危険が迫っていることをドライバーに知らせる独自の機能も、より的確になったように感じた。

 ご参考までにXTシリーズのアメリカでの販売状況は、もっとも売れているXT5は子離れ層が多いのに対し、XT6はヤングファミリーが多く、XT4は2極化していて、20代後半~30代前半にかけての若年層と高齢層という2つの山があるという。日本でも意外と若い層に受け入れられそうな気もする。570万円(プレミアム)、640万円(スポーツ)、670万円(プラチナム)という価格は決して安くはないが、内容を知れば知るほどむしろリーズナブルに思えてくる。人気の高いコンパクトSUV界に現れた、要注目のニューモデルだ。

XT4のボディサイズは4605×1875×1625mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2775mm、車重1760kg(プラチナムは1780kg)
XT5のボディサイズは4825×1915×1700mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm、車重1990kg
XT6のボディサイズは5060×1960×1775mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2860mm、車重2110kg
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一