試乗インプレッション
トヨタの新型「ヤリス」、ハイブリッド&ガソリン試乗。「軽さは全てに対して正義」
ドッシリとしたGT的な感覚があるハイブリッド、ワインディングを気持ちよく走れる1.5リッターガソリン
2020年4月2日 07:00
ハイブリッドとガソリンエンジンの違い
プロトタイプを袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗してからおよそ4か月。いよいよ「ヤリス」で公道試乗する日がやってきた。サーキットではこれまでの「ヴィッツ」とはひと味もふた味も違う走りのレベルの高さを見せつけられたが、リアルな環境でそれがどう活きてくるのかが楽しみだ。
今回はHYBRID ZとガソリンモデルのGグレードの2台を借り出した。ハイブリッドもガソリンも共に1.5リッターの3気筒エンジンを搭載するが、実はその内容が多少異なる。非ハイブリッドのエンジンはバランサーシャフトを備え、少しでも滑らかなエンジンフィールを生み出そうとしている。燃料消費を抑えるためにアイドリング回転を落とす必要があり、そこで発生しやすい振動対策をする必要があったらしい。今の時代にしては珍しく、アイドリングストップ機構を持たないという割り切りを乗り越えるにも、そんな対策が必要だったのかもしれない。
ハイブリッドモデルはアイドリングストップ機構を持ち、停止時の振動に対しての対策を取る必要がないということもあるのだろう。一方で、走り始めれば燃焼効率のよい1000rpm以上を常に回すことも可能。だからこそ低回転における振動対策を必要とせず、バランサーシャフトを持たなくてもOKという判断のようだ。
軽さは全てに対して正義
まずはGグレードで走れば、たしかに滑らかさが感じられる。3気筒エンジンならではのギュイーンとしたフィーリングはあるが、そこに嫌な音や振動は感じない。エンジン回転を上げ気味で走る状況であればネガはさほどない。一方のHYBRYD Zは、主にモーターで発進をさせ、その後トルクが必要となれば即座にエンジンが始動して速度を重ねる。トヨタのハイブリッドらしい加速感だ。その切り替わりに段付きはなく、滑らかにすべてが行なわれるところが好感触だ。
ただし、共に言えることは60~70km/h前後で走る高速巡行時に、エンジン回転をとにかく低く保とうとするあまり、微振動がフロアに感じられてしまうところが惜しいと思えた。好燃費を叩き出したいという思惑が見えてくる。基本的にエコモードで走行していたからこんなフィーリングなのだが、もちろんノーマルやパワーモードを選択してエンジン回転を上げてやればそれは消える。ただ、いくらエコモードとはいえ、もう少しエンジン回転を上げて振動を消す方向にできないものなのか? そこがこの3気筒ユニットの課題のように感じた。
だが、3気筒はネガばかりじゃない。ワインディングロードを走って感じたことは、圧倒的に軽く仕上げられたフロントまわりが、とにかく爽快に旋回することに繋がると感じられたのだ。もちろん、新プラットフォームが生み出す高剛性のシャシーやボディがいい仕事をしているということもあるのだろうが、一体感溢れるこの走りは「これってスポーツモデルだったっけ?」なんて首を傾げたくなるほどの仕上がり。狙ったラインを見事にトレース。荒れた路面でもノーズがバウンスを続けることなく、ピタッと路面に吸い付くようにコーナーを駆け抜けていくのだ。
特にガソリンモデルのGグレードは車両重量1000kg。フロント軸重はハイブリッドに対して40kgも軽いという仕上がりのため、そんな感覚が際立っている。今回は持ち込むことができなかったが、MTモデルではさらに10kgほど軽くなるから、スポーツや走りといったことを気にする人であれば、ガソリンモデルはかなりオススメだ。1.5リッターエンジンが生み出すパンチのある走りは、決して速いというタイプではないが、ワインディングを気持ちよく走るには十分なポテンシャルだと思える。やはり、軽さは全てに対して正義だ。
対するHYBRYD Zはスタートダッシュが見どころで、59kW(80PS)/141Nmを生み出すモーター出力が重ねられるところは魅力の1つ。エンジン出力はガソリンモデルの88kW(120PS)に対して67kW(91PS)と見劣りするが、それが一切気にならないというか、むしろ速い! 車重は1100kgに到達することで、ガソリンモデルに比べれば前後共にドッシリとしたGT的な感覚があるが、それもまたコンパクトカーとは思えない重厚感と思えば好感触だ。
また、Bセグメントとして初のリチウムイオンバッテリーを採用したことで、充電能力を2倍としたこと、さらに従来型に対して30%の出力アップを果たしたことで、常にモーターの恩恵を受けられるようになったことは嬉しい。電欠に陥りヤキモキするようなことは一切なかった。強烈な加速を楽しんだ後に、素早く回生できている感覚がある。
燃費や走り、そしてコンパクトな取りまわしを手にしたことで、ややタイトなコクピットだったり、リアシートでは閉塞感を従う部分もなくはない。しかしながら、ここまで一体感に溢れ、キビキビとした身のこなしを体感した後では、そんなことはどうでもいいと考える自分がいる。それほどに走りが際立つ、それが新型ヤリスの真相だろう。