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トヨタ、新型「ヤリス」は走行性能向上を目指して左右の重量バランスを均等化
新型ヤリス ワークショップレポート(プラットフォーム編)
2019年10月21日 18:58
トヨタ自動車は10月16日、新しいコンパクトカー「ヤリス」を公開した。ヤリスは長年トヨタのコンパクトカーの中心的地位にあった「ヴィッツ」の4代目にあたるモデルで、新型モデルから世界統一名称として車名をヤリスに変更。トヨタが考える新世代のコンパクトカーを具体化したものになっている。
東京 お台場で開催された発表会では、ヤリスの特徴を解説するために「デザイン」「パワートレーン」「プラットフォーム」「安全装備」「駐車支援」「外部給電システム」6項目でワークショップに開催したので、その内容を1つずつ紹介していく。
本稿では「プラットフォーム」について取り上げるが、TNGA(Toyota New Global Architecture)の「GA-Bプラットフォーム」に関してはすでに関連記事の「トヨタコンパクト初を多数盛り込んだ、新型車『ヤリス』の環状構造ボディ。1180MPaのハイテンなどで、ねじり剛性30%アップ」でも紹介しているので、今回はそのほかの部分について紹介する。
最初に説明されたのはトヨタの走りに対する考え方について。それは「安定していて安心」「意図どおりで自然」というもので、クルマに乗り込んだときにシートが体になじむこと、自然なドライビングポジションが取れること、視界がいいことからはじまり、走り出しではスーッとした出足が得られること、市街地やワインディングでキビキビと軽快に走ること、高速道路ではゆったりとして安心ということをユーザーに感じてほしいという内容だった。
こうした項目を達成するためにさまざまな工夫を行なっているが、その1つにアクセルフィーリングの改良がある。
これはわずかなペダルの踏み込みにも反応することを重視し、ペダルを踏む力とユニットのバランスを取り直すことでクルマが正しく反応することを目指したもので、中でもアクセルOFF時の特性に大きな違いがある。
従来のトヨタのハイブリッドカーでは、アクセルペダルを戻すと燃費を稼ぐために「空走させる」制御を行なっていた。これはユーザーのニーズを考慮したものだが、新型ヤリスでは燃費がトップレベルであることや使い勝手がいいことだけでなく、走りが楽しいことも開発の狙いに入っていたので、ワインディングなどのドライブ時にはステアリング操作に集中したい(アクセルとブレーキのペダル踏み替えはできるだけ避けたい)というニーズにも応えられるようにしている。その結果、アクセルペダルから足を離せば減速し、フロントタイヤに荷重がかかるよう制御を変更している。つまり、アクセルOFF時の挙動を、ハイブリッドカーながらエンジンブレーキが効くガソリンエンジンのようなフィーリングにしているのだ。
続いては「ひとつ上のクラスの走りへ」という目標に関する説明。ヤリスはコンパクトで軽く、そして廉価だという強みを持っているが、新型ではそれに加え、セグメントを越えた走りを実現することが求められていた。そのために開発されたのがGA-Bプラットフォームとなり、この項目については前出の別記事に詳細が出ているのでここでの解説は省略するが、ヤリスではGA-Bプラットフォームでのボディ剛性向上に加えて、ボディの重量配分にもかなり気を使っている。
プラットフォームに関しては個別に話を聞くことができたので少し補足しておこう。フロントのショックアブソーバーは取り付け方を改善することで、サスペンションがストロークする際の抵抗を減らしていることは別記事でも触れているが、さらにもう1つポイントがある。それは9月に発売された新型「カローラ」と同じ理論を採用するショックアブソーバーを使っていることだ。
基本的な考え方としては、サスペンションの動きはよりフリクションが少ない状態にしておく方がいいとされているのだが、一方で摩擦を下げすぎてしまうと動きがスカスカになってしまう。そこでヤリス(カローラも)では、ショックアブソーバーによって摺動摩擦をコントロールしているのだ。
ショックアブソーバーではダンパー内部に入っているオイルが、サスペンションのストロークによってバルブを通過するときに減衰力を発生させる仕組みだが、微少なストロークや動き始めの一瞬では、軸力の立ち上がりがクルマの動きに対して少し遅れてしまうため、その時に乗り心地がわるいと感じさせてしまうこともある。そこでこの遅れをカバーするため、ショックアブソーバー内にあえて摺動摩擦を設けておき、軸力が立ち上がるまでのわずかな時間にしっかりとした手応えを作っている。この効果を言葉にすると「ステアリングの切り始めなどでヒョコヒョコせずにスッと動く」という感じだ。
さて、ヤリスはコンパクトカーながら走りと乗り心地も両立させることを目標にしているとのことだが、この2つは相反する部分なので、この点にどのような工夫があるのかを聞いてみた。
すると「キャパを大きくした」という答えが返ってきた。これはつまり、プラットフォームの性能に余裕を作るという意味で、乗り心地をよくするために摩擦を減らし、ホイールベースの短かさから起きやすいピッチング(車体の前後動)にはサスペンションジオメトリーの見直しで対策していることが当てはまる。
そしてクルマの水平方向の動きに関しては「左右の重量バランスの差を極限まで小さくしている」とのことだった。これを求めるため、本来は大きなユニットになっているハイブリッドシステムから、サイズが大きい「パワーサプライユニット」を切り離して本体と反対側に配置しているという。また、ABSユニットも本来はマスターバック側に付けることで配管を短くしているが、重量バランスを優先してマスターバックとは逆側に取り付けているなど、左右の重量バランスを均等化するため、あちらこちらで地道な作り込みを重ねているのだ。
こうした積み重ねで左右の重量バランスを合わせ、さらに低重心化も施したヤリスは慣性モーメントが均等になり、それがハンドリングのよさとして感じ取れるようになっているという。余談だが、テストコースである程度まで車速を上げた状態で「ステアリングから手を離して」ブレーキングすると、他のクルマは重量バランスの違いから左右どちらかに車体が寄ってしまうが、ヤリスは直進を保ったまま止まるという。
最後は4WDについて。ヤリスではトヨタのコンパクトカーとして初めてハイブリッドカーに4WD(E-Four)をラインアップ。このモデルを作るため、コンパクトな4WD専用リアサスペンションも新開発されている。
構造は2リンクのダブルウィッシュボーン式で、ポイントはリアのドライブシャフトを避けつつ、サスペンションアームとスプリングの位置を適正化していることと、4WD化しながらも2WD車と同じスペースにサスペンションメンバーとスタビライザーを配置していること。さらにハイブリッドシステムの駆動用バッテリーや燃料タンクといった大型部品を、2WD車と同じものを4WD車でも使えるよう共通化したことだ。