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トヨタ、3気筒になった新型「ヤリス」の新開発エンジンやCVTを担当者が解説

新型ヤリス ワークショップレポート(パワートレーン編)

新開発の「M15A」型エンジン

 トヨタ自動車は10月16日、新しいコンパクトカー「ヤリス」を公開した。ヤリスは長年トヨタのコンパクトカーの中心的地位にあった「ヴィッツ」の4代目にあたるモデルで、新型モデルから世界統一名称として車名をヤリスに変更。トヨタが考える新世代のコンパクトカーを具体化したものになっている。

 東京 お台場で開催された発表会では、ヤリスの特徴を解説するために「デザイン」「パワートレーン」「プラットフォーム」「安全装備」「駐車支援」「外部給電システム」6項目でワークショップに開催したので、その内容を1つずつ紹介していく。

 本稿では「パワートレーン」のワークショップの模様をお伝えするが、リダクション機構付きのTHS IIについては先行して記事化(トヨタ、新型車「ヤリス」に小型・軽量・高効率の新型ハイブリッドシステム搭載。モーター、リチウムイオンセルなど新開発)しているので、ここでの詳細説明は省略する。

 ヤリスでは直列3気筒1.0リッターガソリンエンジン(1KR)、直列3気筒1.5リッターガソリンエンジン(M15A)、そしてリダクション機構付きのTHS II(M15A)の3つのパワートレーンを採用しているが、このうち1.0リッターエンジンとCVTは従来型を改良したものとなっている。

1.0リッターの「1KR」型エンジン

 この1.0リッターエンジンの主な変更点は、エアクリーナー位置の最適化を行って圧力損失と吸気温度の低減を実現させた。排気側ではエバポレーターを新規制に対応させている。そしてエンジンから出るノイズについても、チェーンケースとオイルパンにリブを追加して鳴りを抑え、さらにエンジンマウントの最適化も行なうことで低減。駆動系ではワイドレンジ小容量CVTの採用により、動力性能、軽量化、燃費向上を推し進めている。

 こうした改良によって1.0リッターエンジンながら「よく走る」と感じられる特性になり、燃費も向上させている。1.0リッターのヤリスは競争が激しいレンタカーなどの法人利用も想定しているので、エントリーグレードといっても高いレベルの作り込みが行なわれているのだ。

ガソリン車用1.5リッターのM15A型エンジン。ハイブリッド用エンジンもM15Aで基本的な部分は同じだが、それぞれに必要とされる機構が異なるのでそこは作り分けしている。ただ、作りが凝っているのはガソリン車専用のM15Aの方だ

 次に1.5リッターのM15A型エンジンだが、こちらは新しく開発されたもので、ガソリンモデルとハイブリッドモデルの両方にM15Aという型式が使用されている。ただ、仕様はそれぞれの用途に合わせた作り分けが実施されているという。

 その内容だが、ガソリン車用は環境に配慮したクリーンな排気と燃費のよさを求めたもの。燃料噴射は直噴で、ポート形状もタンブル流を発生しやすい形状として混合気の燃焼効率を高め、さらに混合気の燃え広がりが速い「高速燃焼システム」という燃焼室構造を採用している。この燃焼スピードは量産エンジンの中で最速だという。

ガソリン車用のM15AはD-4(直噴)インジェクター仕様となる

 さて、そもそもの話として、1.5リッターという排気量のエンジンで3気筒を選んだ理由についても聞いてみた。

 まず、今回のエンジン開発はTNGA(Toyota New Global Architecture)の共通したコンセプトで作るというテーマがあったので、サイズの面で軽量・コンパクト化ができることから3気筒が選ばれた。この点については別記事の「プラットフォーム編」でも触れていく。

 また、3気筒だと4気筒より1気筒少ない分、フリクションを低減できることも理由の1つ。ちなみにMA15Aはボア(内径)がφ80.5mmだが、これを4気筒にするとφ70mm台のサイズとなり、このサイズで1.5リッターエンジンを作ると全高が伸びてしまうので小型化も難しくなる。

 なお、4気筒より3気筒の方がピストンの直径が大きくなるので、前出の燃焼速度の面で不利になるようにも感じるところだが、この高速燃焼システムは4気筒2.0リッターエンジンで採用している技術なので、1.5リッター3気筒のボアでも問題ないとのことだ。

4気筒の2.0リッターエンジンで開発した高速燃焼システムをガソリン車用、ハイブリッド用の各3気筒エンジンにも採用
ハイブリッド用ではトルクの谷をモーターアシストで補えるので、直噴は不要という考えからポート噴射となった。なお、M15Aではヘッドのバルブシートにレーザークラッドバルブシートを採用。バルブ径を拡大しつつ吸気効率を高めている

 M15Aエンジンは低回転域のトルクが太いのも特徴だが、実はこれも3気筒の特性が関わっているという。どういうことかといえば、3気筒ではそれぞれの爆発の間隔が240度くらいとなるので、排気ポートやエキゾーストマニホールドでの排気干渉が起こらないという特徴がある。このことはエンジンの特性を作る上で低速トルクを稼ぎやすいことにつながるので、3気筒は4気筒より低速トルクを持ち上げることに優れているとのことだ。

 一方で高回転側はどうなのかだが、エンジンを高回転までまわすと吸入空気に慣性が効いてくるので、ここは3気筒も4気筒も大きな差はないという。ただ、前記したように3気筒は排気干渉がないので、燃焼後の排気がスムーズに燃焼室から出ていってくれる。すると燃焼室内の圧力が余計に高まることがないので、次に入ってくる吸気の効率を妨げないという利点はある。

3気筒エンジンは1-2-3番で240度ごとの爆発になり、これで排気の干渉が起きないというメリットがある。エンジンの特性を作るうえで低速トルクを稼ぎやすいとのこと
M15Aは電動ウォーターポンプを採用。1KRは従来型のベルト駆動ポンプだ

 このように効率面で大きな利点がある3気筒だが、3気筒ゆえに「振動」を気にする人もいるだろう。この点についてはバランスシャフトの採用により、フロアやステアリングに伝わる振動を打ち消しているとのこと。なお、ハイブリッド用のM15Aだが、こちらは3気筒の振動が出やすいアイドリング付近はモーターが動くことがメインで、エンジンが始動しても保持する回転は1000rpm以上になるので、この領域だと振動面で4気筒との差は出にくい。そんなことから、ハイブリッド用のM15Aにはバランスシャフトは付いていないとのことだ。

3気筒エンジンは1000rpm以下での振動が出やすいので、ガソリン車用のM15Aではギヤ駆動式のバランスシャフトを採用。不要な回転域では抵抗になるバランスシャフトを切り離せる構造になっている。ハイブリッド用のM15Aでは振動が出やすい領域をモーターが受け持つので、バランスシャフトは外されている

 パワートレーンの最後はトランスミッションについて。M15Aガソリンエンジンにはレクサス「UX」にも採用された発進ギヤ付きの「Direct Shift-CVT」が採用されている。CVTに発進用ギヤを設けることで、エンジン回転が先行して上がり、加速が後から付いてくるCVT独得の「ラバーバンドフィール」がなくなり、ダイレクト感が得られるというメリットがある。さらに発進ギヤがあるのでCVT機構のギヤ比を高速側に寄せることが可能になるため、一般的なトルコンATに置き換えると8速AT並みのワイドレンジ化を実現。エンジン回転数を抑えることで低燃費や静粛性に貢献している。

M15Aのエンジン車用ではレクサス「UX」にも採用された発進ギヤ付きの「Direct Shift-CVT」を組み合わせる。ワイドレンジ化され、ATに置き換えると8速AT並みとのこと