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最高出力272PS、新型車「GRヤリス」に搭載された直列3気筒 1.6リッター直噴ターボ G16E-GTS型エンジンについて聞く
「3気筒は排気干渉がなく、ものすごくターボの効率がいい」
2020年6月30日 09:10
9月ごろ発売予定の新型車「GRヤリス」。CVT採用の「RS」など全ラインアップが発表されたが、大きな注目を集めているのが6月末までWebで予約を行なっている限定モデルの特別仕様車 RZ“High-performance・First Edition”と特別仕様車 RZ“First Edition”、そして通常ラインアップの「RZ」に搭載されている直列3気筒 1.6リッター DOHC 直噴ターボエンジン G16E-GTS型エンジンにあるだろう。
日本仕様で1618ccの排気量から、最高出力200kW(272PS)、最大トルク370Nm(37.7kgfm)を発生。WRC(世界ラリー選手権)ホモロゲーション獲得モデルでもあるため、通常のヤリスに採用されている(GRヤリスではRSに採用)1.5リッターのM15A型エンジンとは、同じ3気筒エンジンではあるもののまったく別物として作られている。
エンジンの基本的な仕様としてボア×ストロークの数値があるが、M15A型は80.5×97.6mmのボア×ストローク。これは、トヨタの「もっといいクルマづくり」であるTNGA、その中心技術である高効率なダイナミックフォースエンジンコンセプトで作られている。新型カローラなどに搭載されている「M20A」型 直列4気筒 2.0 ダイナミックフォースエンジンと同スペックのボア×ストロークであり、その3気筒版になっている。
新型「直列4気筒2.0L直噴エンジン」 -Dynamic Force Engine(2.0L)
https://global.toyota/jp/mobility/tnga/powertrain2018/engine/
ダイナミックフォースエンジンの技術的な特徴は、熱効率がよく、高レスポンス、さらに環境性能に優れている。そのために、レーザークラッドバルブシートなどを使った高効率吸気ポートよって高タンブル(縦の渦)流を燃焼室内に発生させるなど、さまざまな工夫を行なっている。
一方、1.6リッターながら272PSの出力を発生するG16E-GTS型エンジンのボア×ストロークは87.5×89.7mm。ダイナミックフォースエンジンよりも明らかなショートストロークとなっているが、高効率、優れた環境性能を狙うのはダイナミックフォースエンジン同様だが、ハイパフォーマンスを重視したことから、このようなボア×ストロークになっているという。
その開発の出発点は、現在トヨタ自動車が先代ヤリスをベースにしたクルマで参戦しているWRC(世界ラリー選手権)にある。GRヤリスは将来的にWRC参戦車のベースモデルとなることが決まっており、GRヤリスのエンジン開発スタッフはWRCのニーズを重視した設計になっているという。
「今回の3気筒エンジンは、GRヤリス向けに新規でエンジンを起こしています。クルマのコンセプトは、WRCから生まれたクルマなのでWRCとのリンクを強く意識しました。1600という排気量もホモロゲーションに合わせてあります」「エンジンの開発の初期にラリー車のエンジンを作っているTMGと相談して、ラリーではエンジンがどうやって使われるのか、ラリードライバーはエンジンをどのようにしてほしいのかということを一杯調査し、それに最適なボアとストロークはいくつかというところから設定しました」。
このボア×ストロークは、ボアから決めたわけではなく、ストロークから決めたわけでもないという。
「ボアとストロークは片方から決まるものではありません。両方セットです。結果的に作りたいなというボアストがこのボアストだったということです」。
ダイナミックフォースエンジンとの関係
このG16E-GTS型エンジンと、トヨタの最新エンジンであるダイナミックフォースエンジンとのエンジンの関係性はどのようなものだろうか? それについて、GRヤリスのエンジン開発スタッフは、ダイナミックフォースエンジンのDNAを受け継ぐものだと語る。
「このエンジンはダイナミックフォースエンジンの遺伝子を受け継いでいます。基本的な燃焼のコンセプトは、ダイナミックフォースエンジンと一緒です。高速燃焼。高速燃焼でタンブルを回す。高タンブルで高速燃焼をするというのは同じです」。
高タンブルはダイナミックフォースエンジンの特徴となっており、高効率吸気ポートから一気に吸気することで縦の渦を作り出し、高速な燃焼を作り出すもの。燃焼室の横の壁を沿うようなスワールではなく、ハイパフォーマンスエンジンであっても高タンブル流の方がよいとのことだ。
ただ、このG16E-GTS型エンジンでは、ダイナミックフォースエンジンの特徴ともなっているレーザークラッドバルブシートが使われていない。ダイナミックフォースエンジンでは、レーザークラッドバルブシートを使うことで高効率吸気ポートを形作っているが、このG16E-GTS型エンジンはバルブシートを工夫して打ち込んでいるという。
「今回のクルマは世界中で競技に使っていただいたり、レースに使っていただいたり、多分カスタマイズされるニーズがあるのだろうなと思っています。そこがレーザークラッドだとやりにくいです。例えばシートを打ち替えるであるとか、そういった保守、メンテ、チューニングを含めてのものになります。そのような余地を今回は、残したということです。そのために“少しの工夫”で乗り越えています。詳細は量産まで待ってください」。
燃料噴射は、ポート噴射と直接シリンダー内に噴射する筒内噴射を併用するD-4Sのターボ版であるD-4ST。可変バルブ機構であるVVT(Variable Valve Timing)も、吸気側、排気側双方に装着されており、現代のエンジンらしい仕上がりをしめす。ただ、これはパフォーマンスのためでもあるが、燃費性能も環境性能も満たすためとのこと。現在の市販車で環境性能を満たすためには、このような可変機構が必須になる。
また、3気筒のG16E-GTS型エンジンでは機械式のバランスシャフトも採用。通常版の新型車「ヤリス」に採用されているM15系のエンジンでは、ガソリンモデルがバランスシャフト装備、ハイブリッドモデルがバランスシャフト非装備となっている。「同じ3気筒なのですが、ハイブリッドとハイブリッドでないものはエンジンの使われ方がまったく異なります」(エンジン開発者)といい、上から下まですべての回転域を使うガソリンモデルでは偶力による振動キャンセルのためにバランスシャフトを使い、ある特定の回転域だけを使えばよいハイブリッドモデルではバランスシャフトを使用していない。G16E-GTS型は、もちろん上から下まですべての回転域が要求されるエンジンなので、偶力キャンセルのためにバランスシャフトを装備している。
ウォーターポンプも電動ポンプではなくベルト駆動の機械式。M15A型エンジンでは電動式を採用していたが、「エンジンの高出力化に伴って電動ではまかないきれなくなりました。普通のベルト式の機械式のものになります」と、とにかく出力優先の思想が貫かれている。
これは、インタークーラーなどの吸気系や、マフラーなどの排気系も同様だ。「インタークーラーのサイズは達成したい出力があって、そこに必要な空気の量を加味したらこのくらいのサイズになりました。排気管を見ていただけると分かるのですが、排気管とサイレンサーの容量はものすごく大きくなっています。これはすべて性能を出すためです。1.6リッターで270馬力以上を出すためには、流さなければならない量というのがあります。太ければ太いほど性能がよくなりますので」と、徹頭徹尾出力にこだわって設計されている。
スポーツエンジンのため、最近のエンジンには搭載されていることの多いEGR機構もない。EGRは一度燃やしたガスを再び吸気側に導くことで燃焼温度を下げたり、吸入空気量を増やすことでポンプロスを減らすことなどに利用されている。このEGRについては、世界のレーシングエンジン同様不装備としており、その代わり必要になる高熱のコントロールは、「発生する熱量を前提とした冷却機構と、ターボの大きさとなっています」とのことだ。
このG16E-GTS型エンジンは、どれほどの出力を出し切ることを前提に設計されているのだろうか? それについては「将来は考えているのですが、お楽しみに」とのことだった。
3気筒エンジンは排気干渉がなく、ものすごくターボの効率がいい
このG16E-GTS型エンジンは3気筒エンジンだが、3気筒エンジンはスポーツエンジンとしてメリットがあるという。
「このエンジンはスポーツカーに載せたいということで、ものすごく小さく、ものすごく軽く作っています。随所に軽量化の努力をしています」「よく聞かれるのはなぜ3気筒というのがあるのですが、4気筒にないよさというのが一杯あります。4気筒あるとクランクシャフトが2回転する間に4回爆発します。3気筒だと3回ですみます。そして、隣の気筒の排気や吸気の干渉がない。完全に隣の気筒のバルブが閉じたあとに排気をするということで、排気干渉がなくてものすごくターボの効率がいいんです」「中低速のトルクが、通常の4気筒に比べていいのです」。
もちろん直列4気筒には4気筒のよさがあり、6気筒には6気筒のよさがある。しかしながらこのG16E-GTS型エンジンは、WRCでの勝利をつかみ取ることを狙ったエンジンであり、ラリーで戦うことを考えるとコンパクトで高出力なほうがよいに決まっている。大前提として出力があり、コンパクトさやターボの効率を重視した結果が3気筒のG16E-GTS型エンジンになるのだろう。
なお、ターボ車というと圧縮比が気になるところだが、G16E-GTS型エンジンの圧縮比は10.5とのこと。「この出力で、ターボで10.5というのはなかなかないと思います。圧縮比を上げると性能も出ますし燃費も出ますので、環境にもいいです。ノッキングの問題も発生しますが、そこは冷却とか太い排気管だとかで解決しています」といい、太い排気管による低い圧力損失、3気筒の排気干渉のないよさが、ターボ車でありながら10を超える圧縮比の実現に貢献しているとのことだった。