イベントレポート 東京オートサロン 2020

トヨタ新型車「GRヤリス」。スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”のカットモデル世界初公開

2020年1月10日~12日 開催

入場料:特別入場券3500円、大人一般入場券2500円、中・高校生一般入場券1800円(全日とも保護者同伴に限り小学生以下無料)

世界初公開された「GRヤリス」の駆動系、スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”のカットモデル。「電子制御多板クラッチセンターデファレンシャル」の構造を見ることができる。左が前輪側、右が後輪側

「東京オートサロン 2020」で世界初公開され、大きな話題となっているのがトヨタ自動車の新型車「GRヤリス」。このGRヤリスのために作られた専用ボディを持ち、直列3気筒 1.6リッター直噴ターボエンジン「G16E-GTS」+スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”という新開発のパワートレーンを持ち、GAZOO Racing Company Presidentの友山茂樹氏は、「多くのお客さまにクルマを操る楽しさを教えてくれる」「お客さまの心に『FUN TO DRIVE AGAIN』の想いを呼び覚ましてくれるクルマ」だという。

 ベースとなる新型車「ヤリス」は、トヨタが高効率を目指して作り上げた「M15A-FKS」型 1.5リッター直列3気筒 ダイナミックフォースエンジンを搭載。GRヤリスは、WRC(世界ラリー選手権)ホモロゲーション獲得モデルでもあるため、規定に合わす形で排気量を1.6リッタークラスに拡大。1618ccの排気量から、最高出力200kW(272PS)、最大トルク370Nm(37.7kgfm)を発生する。

272PSの直列3気筒 1.6リッター直噴ターボエンジン「G16E-GTS」

直列3気筒 1.6リッター直噴ターボエンジン「G16E-GTS」の燃焼室まわり。果たしてM15A型からどのようにして排気量を増やしたのだろうか?

 ちなみに記者はGRヤリス試乗時に、開発主査であるGAZOO Racing Company GRプロジェクト推進室 齋藤尚彦氏のふんわかとしたプレゼン資料から「車重は1200kg~1300kgの範囲にあり、パワーウェイトレシオは4.5~5.0kg/PSの範囲にあった。トヨタは愚直な企業でもあるので、車重の中間値を1250kg、パワーウェイトレシオの中間値を4.75kg/PSとすると、単純計算で約263PSになる」と予測したが、それをしっかり上まわる272PSとなっているのはさすが。トルクも370Nmとなっていることから、3.7リッター自然吸気エンジンレベルのトルクをターボ過給によって叩き出している。1.6リッターで3.7リッターレベルのトルクを出すには、相当高い過給圧を実現しているとみるのが妥当だろう。

 ただ、出力や排気量の発表はあったものの、G16E-GTS型エンジンのボア×ストローク発表はなかった。M15A型は80.5×97.6mmのボア×ストロークを持ち、1気筒あたりの排気量は約496.7ccになる。一般的に考えてボアだけを拡大したのがG16型エンジンとした場合、1気筒あたりは1618cc÷3で約539.3cc。V=π×r×r×hから約83.9mmとなる。燃焼室の拡大、過給による圧縮比の低下などで完全新設計となることから、G型エンジンとなっているのかもしれない。価格は発表となったものの、まだまだ謎の多いGRヤリスだ。

※欧州トヨタのリリースより追記

 なお、記事初出時点ではボア×ストロークは不明(会場でスタッフに聞いても、答えは不明)と書いたが、欧州トヨタのほうで発表が行なわれていた。それによるとボア×ストロークは87.5×89.7mm。1気筒あたりの排気量は計算上約539.384cc、これが3気筒で1618.1815ccということになる。87.5×89.7の数字丸めがどのようなものなのか不明だが1618ccという発表の数値内に収まるボア×ストロークだ。

 このボア×ストロークから分かることは、これまでの1気筒500cc系や650cc系のダイナミックフォースエンジンとはまったく別物のエンジンであるということ。ダイナミックフォースエンジンは、ボアストローク比が1.2のロングストロークを特徴としているが、このG16型は1.025となり、ほとんどスクエア。ストロークを短くすることで回転数限界も上がっていると思われ、ハイパフォーマンス系のデザインになっている。トヨタのスポーツエンジンとして有名なのは3S-G型となるが、ボア×ストロークは86×86mmのスクエア。89.7mmというストロークは、3S-Gよりも回転限界は上げにくいが現代の技術を考えると同程度の回転限界パフォーマンスはあるかもしれない。

 圧縮比も10.5と発表されており、これは500cc系ダイナミックフォースエンジンのガソリンモデルの13という数字と比べて低くなっているが、トルクも370Nmとなっていることから強大な過給を行なっていることは想像でき、10を超えているのは微少過給域でのドライバビリティを考えるとうれしいところだ。

G16E-GTS型 欧州仕様

排気量:1618cm3
ボア×ストローク:87.5×89.7mm
圧縮比:10.5対1
最高出力:261 DIN HP/192kw
最大トルク:360Nm
エミッションレベル:Euro 6d Temp

 欧州仕様のGRヤリスのエンジン仕様で気がつくのは、最高出力、最大トルクとも日本仕様より抑えられている点。これは排ガス規制の違いなどから来るものかもしれないが、いずれにしろ最高のパフォーマンスを持つGRヤリスは日本仕様になるわけだ。

 欧州トヨタの発表では面白い数値もでており、パワーウェイトレシオは4.9kg/HP。HPのままでkg、つまり車重を求めると4.9×261=1278.9kg。これも仕向地で異なってくる数字なのでなんとも言えないが、この車重を日本仕様のPS馬力で計算すると4.70kg/PSというパワーウェイトレシオになる。

 開発主査の齋藤氏はプロトタイプ試乗会のときに、パワーウェイトレシオは4.5~5.0kg/PSの範囲に入るようなもやもやとしたグラフを出しており、4.75kg/PSと推定したのだが、さらに小さい数字になるかもしれない。

 この欧州トヨタのリリースには、ボディ構造は新型ヤリスのTNGA GA-Bプラットフォームをフロントまわりに、プリウスなどのGA-Cプラットフォームをリアまわりに採用とも記されており本当に興味深い。

 GRヤリスが量産車という概念を超えた、化け物的なクルマであるのは間違いないだろう。

スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”のカットモデルを世界初公開

センターデフ「電子制御多板クラッチセンターデファレンシャル」。左が前輪側で、右が後輪側。多板クラッチの構造、クラッチプレートのパターンから、ジェイテクト製に見える

 このGRヤリスとともに展示してあるのが、GRヤリスの駆動系となるスポーツ4WDシステム“GR-FOUR”。このGR-FOURシステムでは、前後のトルク配分を100:0~0:100まで可変できるポテンシャルを持ち、GRヤリスではノーマル(60:40)、トラック(50:50)、スポーツ(30:70)の3つのトルク配分を用意。センターコンソールのボタンによって自由に切り替えることができる。

 このシステムのキモとなっているのが、前後のトルク配分を行なう新開発の電子制御クラッチを用いたセンターデフ「電子制御多板クラッチセンターデファレンシャル」(以下、電制センターデフ)になる。そしてこの新開発の電制クラッチのカットモデルが展示されているのだ。

 新開発の電制センターデフは、リアデフの直前に配置。フロントエンジンというヤリスの前後重量配分の改善に貢献しているように見えるとともに、フルタイム4WDを基本とするシステムのため、より積極的に後輪(後軸)にトルクを持っていこうとの意思を感じる。

 電制センターデフは、370Nmという強大なトルクに対応するためか、トルク配分を行なう湿式多版のクラッチプレートを12組+3組(に見える)という形で装備。写真に写った3組のプレートのインナプレートの溝がそれほど鋭角ではないように見える。このGRヤリス特別仕様車 RZ“High-performance・First Edition”には、ジェイテクトのトルセンLSDを前後に装着するモデルが用意されており、電制センターデフもジェイテクト製となるのが、開発のスムーズさを考えると自然だろう。ここまで書いて外れたら恥ずかしいが、そういった見方を楽しめるのもカットモデルのよいところだろう。

 現場で齋藤主査にあれこれ聞いたものの、現状発表されている以上の情報はさすがに語っていただけなかった。ただ、この新開発の電制センターデフのカットモデルは世界初公開とのこと。現地に行ける方は、GRヤリスの各部とともに、この電制センターデフのカットモデルを確認するのがお勧めだ。

※欧州トヨタのリリースより追記

 欧州トヨタのリリースによれば4WDシステムは、フロントデフとリアデフのギヤ比を変えることで100:0(完全な前輪駆動)から0:100(完全な後輪駆動)した、ツインカップリングシステムまたはセンターディファレンシャルを備えた永続的なAWDシステムよりもパフォーマンスが向上し、軽くなるとしている。

 確かにGRヤリスの駆動系となるスポーツ4WDシステム“GR-FOUR”は、その配置を見ると、フロントエンジン、フロントデフ、フロント出力軸という経路のパワー配置を持っていて、スバルなどのセンターデフを持つシステムよりは、マツダなどの電子制御カップリングを使うオンデマンド4WDに近い、というよりそのものの配置だ。

 日本のトヨタのリリースでは、この電子制御カップリングを「電子制御多板クラッチセンターデファレンシャル」と記しており、記事初出の部分ではセンターデフであるとした。ところが欧州トヨタのリリースでは、センターデフ形式より軽くなると記してある。いろいろ謎が深まった部分だ。

 フロントにPTO(Power Take Off)を設けて電子制御カップリングを使う4WDシステムは、その構造上一般的に100:0から50:50(ここで直結ですね)までのトルク配分を行なう。ところがGRヤリスでは、日本も欧州も「100:0から0:100が可能」としている。まず、ここがこのシステムの疑問点になる。

 おそらくその秘密は欧州トヨタのリリースにある、「フロントデフとリアデフのギヤ比を変える」という部分にあるのかもしれず、これにより30:70をベースとしながら、フロントへの駆動を「電子制御多板クラッチセンターデファレンシャル」という装置で増やしていっているのかもしれない。

 では、どうしたら0:100が実現するのかというと、これは機械的にフロントデフ、リアデフを取り替えることで可能になるのだろうか?

 いろいろ謎の多いスポーツ4WDシステム“GR-FOUR”。現時点で分かっていることをお届けしてみた。日本のトヨタのリリース、そして欧州トヨタのリリースをプリントアウトして、東京オートサロンでスタッフに確認してみてほしい。記者よりも詳しい話が聞けるかもしれない。

リアデフはカットモデル
フロントはデフハウジングを見ることができる

編集部:谷川 潔

Photo:岩田和馬