試乗インプレッション

日産の新型スーパーハイトワゴン「ルークス」、軽自動車であることを忘れる快適さ

自然吸気とターボに乗ってきた

自然吸気とターボに試乗

 いまや至れり尽くせりの軽自動車が多くなったが、そんな中でも日産自動車「ルークス」は最上級をいくと予測していた。2019年に登場したハイトワゴン「デイズ」の仕上がりを見た時、それをベースにスライドドアを加えてスーパーハイトワゴンが登場すれば、きっとそれが最強の仕様となると睨んでいたからだ。いよいよその現車を目の当たりにする。

 今回の撮影に連れ出したのは、「ハイウェイスターX プロパイロットエディション」の2WD(スパークリングレッド/ブラック)と、「ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション」の2WD(アメジストパープル/フローズンバニラパール)の2台。つまりは自然吸気とターボの両方を乗ってみようというわけだ。

 価格は184万3600円の自然吸気に対して、ターボは193万2700円。両者共に特別外装色、プレミアムグラデーションインテリア&快適パック、さらにナビレコパックや撥水ウィンドウ、カーペットといったものが45万円ほど上乗せされている。乗り出し価格にすれば250万円に迫る勢いだ。アレもコレも付けて安全快適・見栄えよしにすれば、当然といえば当然の結果だろう。

新型ルークスの自然吸気とターボに試乗
スパークリングレッド/ブラックの2トーン仕様が「ハイウェイスターX プロパイロットエディション」、アメジストパープル/フローズンバニラパールの2トーン仕様が「ハイウェイスターG ターボ プロパイロットエディション」。ルークス(2WD)のボディサイズは3395×1475×1780mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2495mm
ターボモデルは15インチアルミホイールにブリヂストン「エコピア EP150」(165/55R15)の組み合わせ
自然吸気モデルは14インチアルミホイールに横浜ゴム「ブルーアース AE30」(155/65R14)の組み合わせ
ターボと自然吸気での外観上の違いは、ホイール以外ではフロントバンパー下部の空力パーツの有無程度
インテリアではクラストップレベルの広い室内を実現し、後席ニールームは795mmを確保するなど、大人もゆったりと座ることが可能。後席の室内高は1400mmと、小さな子供なら立ったまま着替えることもできる空間を備えた。また、片足を車体の下にかざすだけで自動で開閉する「ハンズフリーオートスライドドア」を両側に採用
ラゲッジスペースの床面の長さは675mmと広いスペースを確保したことで、48Lのスーツケースを同時に4個積載できる能力を持つ

 その甲斐あって、ルークスはどこを見ても抜かりナシに感じる。両手が塞がっていても片足をかざすだけで開閉可能なハンズフリースライドドアは、Bピラーを前よりにすることで650mmの大開口を実現。室内高はオプション装着の試乗車でも1390mmと高く、ゆったりとした世界を実現しているところは、さすがはスーパーハイト系といった感覚だ。

 その余裕を活かして前席と後席の間には、天井にシャープのプラズマクラスターをセット。花粉のシーズンにはありがたい。また、デイズではなかった左右独立して前後スライド可能なシートを奢ったことで、子供を乗せる時には少し前気味にして会話をしやすくしたり、荷室を片側だけ大きくしたりすることが可能となったことも嬉しい。これならベビーカーの積み込むにも重宝しそうだ。

後席の快適性を高める「プラズマクラスター搭載リヤシーリングファン」はオプション設定

 対する前席もこれまた充実。プレミアムグラデーションインテリアは軽自動車とは思えない上質さを生み出しており、さらに収納スペースに関しても豊か。軽自動車だからもちろん横幅などは狭いわけだが、整理整頓できれば問題ナシと言わんばかりの造り込みはなかなか。ドア側のアームレストも外側にえぐられており、窮屈さを感じない仕上がりとなっているところも好感触だ。また、事故や急病時に専門のオペレーターにつながるSOSコールボタンを天井に備えていることも素晴らしい。これは自車位置や所有者情報が自動的に連絡されるほか、エアバックの展開に連動して自動的に通報する機能も備わる。

グローブボックスや助手席前のティッシュボックスを収納できるボックスをはじめ、インパネ中央の引き出し式のトレー、助手席下の引き出せるアンダーボックスなど多数の収納スペースが用意される
パワートレーンは直列3気筒DOHC 0.66リッター「BR06」型エンジンとCVTの組み合わせ。自然吸気とターボのいずれも「SM21」モーターと組み合わせたスマートシンプルハイブリッド仕様。ターボ(写真)は最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400-4000rpm。自然吸気は最高出力38kW(52PS)/6400rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/3600rpm

スーパーハイト系ならではの見晴らしのよさ

 そんなルークスの自然吸気モデルをまずは走らせる。電動パーキングブレーキのスイッチを弾き走り始めれば、自然吸気ながらもなかなか鋭く発進するから感心する。アクセルを踏み込んだ瞬間から回転を跳ね上げ、自然吸気だからと鈍い感覚は少ない。街中の信号で停止したときに電動パーキングブレーキのホールドボタンを1回押せば、その後は何回止まってもブレーキを踏み続けなくてもすむからかなり便利だ。

 ただ、その分エンジンが唸っている感覚があることは否めない。デイズに比べれば100kg以上重い車体になったことで、その唸っている時間は長いように感じられるから、少し物足りないと感じる人もいるかもしれない。これは高速道路においても同様で、追い越し加速などをすれば5000rpm以上を多用する感覚がある。

 対するターボモデルはその辺りの不満が解消されている感覚で、中間トルクも豊かなために、高回転を使う時間が少なくて済むイメージがある。ただ、CVTの変速設定は自然吸気もターボも変わらず、ちょっとアクセルを踏み込んだだけで回転が跳ね上がってしまうところが惜しいと感じた。その分、俊敏さは増して加速時間は短くなりうるささも減る。けれども、ターボはもう少し回転を跳ね上げず、低回転をキープしてグッと走らせるCVTの制御とした方が上質に感じるのではないかとも思えてくる。

 また、スーパーハイト系のルークスならではの視界の広がり、見晴らしのよさは、高速道路などを走るとなかなか爽快。プロパイロットを使い巡行していれば、優雅な時間が味わえる。背が高くなったことで横風の影響を受けやすいところがあるが、車体はシッカリと踏ん張ってくれるところも好感触。やや引き締められたシャシーだが、入力をシッカリと納めるところもマルだ。

 ただ、そもそも低重心で軽く造られたデイズに比べれば、直進安定性やコーナリングの余裕はスポイルされているところがあり、プロパイロットを使用中も、ドライバーがきちんとハンドルを握る度合は増えてしまったところもあるように感じた。スーパーハイト系になり快適性が増えた分、そことトレードオフとなったということだろう。だが、日常からすべてを満たしてくれることを考えると、やはりスーパーハイト系のルークスの充実ぶりはクセになりそうだ。圧迫感のない室内と視界の広がりは、軽自動車であることを忘れるくらいに快適なのだから。

 このような至れり尽くせりの世界観を壊さず、すべてをストレスフリーで乗りたいなら、断然ターボをオススメしたい。何といってもその差はわずか10万円足らず。そして燃費はWLTCモードで2km/Lしか劣らないのだから。自然吸気モデルは遠出をしない街乗り重視のユーザーにマッチしているのではないだろうか? デイズでは自然吸気でも十分だと感じた記憶があるが、ルークスほどの重量になってくると、やはりターボが欲しくなるのが本音だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛