試乗記
ブリヂストンの2輪用新タイヤ「バトラックス ハイパースポーツ S23」をサーキットで試乗してみた
2023年11月10日 07:07
- 2024年2月1日 国内発売
絶大な信頼感とともに、レーシングパフォーマンスの一端を味わえる贅沢さをサーキットで体験
2024年2月1日に発売が予定されているブリヂストンのスポーツラジアル「BATTLAX HYPERSPORT(バトラックス ハイパースポーツ)S23」(以降、S23)。現行S22の後継として、新開発コンパウンドを採用するとともにトレッドのパターンデザインを見直し、エッジグリップや耐摩耗性をはじめ全域で性能向上したとアピールする同社主力製品だ。今回、筑波サーキットでの試乗会に参加する機会が得られたので、S23のポテンシャルをレビューしていきたい。
サーキットに用意された現行S22と新型S23装着車両で比較試乗
S23は、ツーリング向けの「BATTLAX SPORT TOURING T32」と、スポーツ走行がメインの「BATTLAX RACING STREET RS11」との間に位置付けられるスポーツタイヤだ。試乗会の舞台は筑波サーキットではあったが、サーキットでの高速走行はあくまでもS23がカバーするシーンの一部。製品ターゲットとしては街乗りのほか、高速道路やワインディングにおけるツーリングも含む、幅広いユースケースを想定したものとなっている。
したがって、サーキットの走りだけでS23の全体的な性能を判断することはできない。公道と比べてサーキット路面は圧倒的に平滑で状態が良く、タイヤのグリップ力を発揮しやすい舗装が施されているからだ。ただ、S22とS23をそれぞれ装着した同一車種の試乗車両が用意され、違いを比較できるようにもなっていた。S23で盛り込まれた新しいコンパウンドやトレッドパターンによって、走りの質にどのような進化があるのかを感じ取ることはできるだろう。
試乗会当日は10月末、季節は秋ではあるものの例年にない温暖な日が続いており、試乗開始時の路面温度は24℃、終了間際の正午には30℃程度まで上がっていた。S23にとってはほぼベストなコンディションと思われる。完全なドライ路面で、濡れた路面や冷え切った路面における安心感がどれほどのものか、という点は残念ながら確認できなかった。
寝かし込みで感じられる「真円度」の高さ
S22とS23を装着した車両で、さっそく比較しながら走行してみた。が、ピットロードからスタートし、直進している段階で違いを見つけるのは困難だ。比較的軽量なホンダの「CBR1000RR-R」だと低速で蛇行してみてもほとんど差はなく、S22のしなやかで軽やかなハンドリングはそのまま受け継いでいる雰囲気ではある。
とはいえ、試乗車両のなかでは最重量級だったスズキの「ハヤブサ」だと低速の蛇行でも違いが分かる。S22では車体を軽く左右に振ったときに「柔らかさ」があり、少し頼りない感じ。ハンドリングの妙な心地わるさみたいなものがわずかに目立つ。コーナーではしっかりグリップしてくれるので不安はないが、なんとなく車重にタイヤが負けているかな、と思ってしまう。
対してS23は、そうした柔らかさ、頼りなさが抑えられている。プロファイル(断面形状)やケース剛性が変わったわけではないので、ここは純粋にトレッドパターンの見直しによるものだろう。S23ではパターンデザインの見直しでトレッド剛性をセンター部で抑え、ショルダー部で高くしていることから、それが影響していることは間違いなさそうだ。
少しずつスピードレンジを上げていくにしたがって、S23の高剛性なショルダー部のメリットがはっきりしてくる。コーナーの進入でブレーキングしながら車体を徐々にバンクさせていくとき、フロントが踏ん張って支えてくれている感覚が得られ、それと同時に自然かつスムーズに寝かせられることにも気付く。
いきなり切れ込むこともなければ、なかなか寝てくれない、みたいなこともない。S22もニュートラルなハンドリングではあったが、S23ではプロファイルの真円度が一段と高まったようなフィーリングだ。その感触に従ってライディングしている限り、グリップを失ってバランスを崩したり、転倒してしまったりすることはないだろう、という安心感、盤石さみたいなものがある。
突っ込み気味の走りも許容する高いハンドリング性能
トレッドの剛性最適化には、パターンにRS11の意匠を採用したことも関係している。バンクしていく過程で荷重のかかる領域が変わっていくとき、剛性の弱い部分があるとタイヤの変形が大きくなり違和感として伝わってくるもの。サーキットがメインステージでもあるRS11は、そうした点にも配慮したパターンデザインを採用しているわけだが、そのレーシングなパフォーマンスをいわば下位グレードのS23でも味わえるというのは、ちょっと贅沢なことでは、なんて思う。
このような自然なバンクにつなげられるタイヤの性格は、オーバースピードでコーナーに差し掛かってしまったとしても安全にリカバリーを図れる、といった効能もある。実際、試乗中にあえてレイトブレーキングでコーナーに進入してみたところ、「ちょっとやり過ぎたかも」と思えるくらいのタイミングになってしまったにも関わらず、思っていた以上に素早く倒し込むことができ、危なげなく切り抜けてしまった。
2世代前のS21も海外サーキットで試乗し、うっかりコースアウトしそうになったことがあったが、そのときは減速しきるまで全くハンドルを操作できなかった。車両も違えば路面コンディションも異なるので一概に比較はできないが、そこから考えるとS23では突っ込み気味の走りでも許容されそうで、ハンドリング、リカバリー力は確実に向上しているとみていいだろう。
サーキット攻略を手探りしていける楽しさ
エッジグリップについては、S22の時点ですでに十分高い性能をもっていたこともあり、今回の試乗の範囲内だと「S23で大幅に進化した」ことを確認するのはかなり難しかった。
しかしながら、バイクを倒し込み、その後一定のバンク角をキープして、コーナー出口に向かって徐々にアクセルを開けて加速していく、という一連の流れにおいて、エッジグリップの向上は実感できなくても何らかの影響があることは間違いないとも思えた。というのも、やはりS22とS23とを乗り比べると、明らかにS23の方が躊躇なくコーナーに飛び込むことができ、コーナリングの速度も上げることができたからだ。
S23は決してサーキットでタイムを削るためのタイヤではないが、もう少しブレーキを遅らせてもいいかな、もう少しアクセルを早く開けてもいいかな、というようにサーキット攻略を手探りしていけるくらいの余裕が感じられる。グリップに余裕が感じられると気持ちにも余裕ができ、サーキット走行がますます楽しくなっていく。この余裕はトレッド剛性だけでなく、エッジグリップの高さも少なからず関係しているのではないだろうか。
筆者はサーキットがメインのライダーではなく、ブリヂストンがS23のターゲットとしている、街乗りやツーリングをメインに、時にはサーキットでスポーツ走行もしたい、というユーザーにおそらく近い。同じようにサーキット経験がそれほど多くない人にとっては、そうした攻略を手探りしていくところの楽しみをより実感しやすいのではないだろうか。
絶大なグリップと安心感をクォータースポーツにも欲しい
今回は路面に凹凸の少ないサーキットでの試乗だったため感じ取ることはできなかったが、先述の通りS23ではトレッド剛性をセンター部で抑えることにより、凹凸の多い一般道では衝撃吸収性や操縦安定性の向上が図られている。そのうえで素直なハンドリングと余裕のあるエッジグリップも併せ持っているため、ワインディングでの安全性と安心感も底上げしてくれるだろう。
今のところ発表されているS23のサイズラインアップはフロント120、リア160~200であることから、ターゲットはミドルクラス以上のスポーツ車両に絞り込まれている。ただ、今回試乗してそのポテンシャルの高さ、絶大な信頼感を味わうことができた感覚からすれば、近年人気が高まっているクォーター(250cc)スポーツ車向けのラインアップ(フロント110、リア150サイズなど)があってもいいのでは、とも思えた。
小排気量車は日常の足として利用している人も多いだろうし、そういった用途ではグリップ力の高さがライダーの助けになるシーンが少なくない。S23ではウェット路面でのグリップやブレーキング、ハンドリングなどの性能も向上しているとされ、その意味でもメリットは計り知れない。将来的なラインアップ拡大をぜひとも期待したいところだ。