試乗記
ホンダの新型「N-BOX」「N-BOXカスタム」(3代目)に初試乗 NAとターボの乗り味の違いとは?
2023年11月2日 13:26
3代目になりさらに熟成した新型「N-BOX」
2023年上半期において、軽四輪車順位でも四輪総合順位でも販売台数第1位を記録していた「N-BOX」。ならば安泰でモデルチェンジの必要性がないようにも感じてしまうが、他社の追従を許さんとばかりに新型が登場した。今回はそんな新型N-BOXのベースグレードとカスタムの両車を試乗する。プラットフォームもパワーユニットも先代からの流用となるが、そのぶん徹底的に煮詰めることができたのか?
まずはシンプルなエクステリアとさり気ないオシャレさが漂うベースグレードから。いきなり残念なお知らせだが、このクルマに搭載されるエンジンはNA(自然吸気)のみ。旧型ではターボもあったが、あまり売れないということで廃止となったらしい。今度のベースグレードは個性が光っていると思えたけれど、それで上質なものが得られないというのは残念なところ。後述するが、ターボモデルには“速さ”だけではないよさが満載だったからだ。
ベースグレードに乗ればフィットから始まった水平基調のインパネが開けた視界を提供してくれる。ナビ画面はドライバーから見るとダッシュボードの高さよりも下になるようにセットされており、かなりスッキリとした印象が得られる。カメラばかりに頼ることなく、目視できちんと全然が確認できる開放感はうれしいところ。さらに、サイドアンダーミラーにも改善が行なわれ、前方下を見るものはAピラーに、後方下を見るのはドアミラー内側移設されたことで、左側のタイヤの位置がさらに把握しやすくなった。これなら路地裏だってスイスイ通り抜けることが可能だろう。
NAとターボの違い
走ってみるとタウンスピードから高速道路まで必要十分の動力性能を与えてくれる。勾配があるところや、追い越し加速を行なう時などはややエンジンがうなり気味だが、そこさえ目をつむれば十分だろう。乗り味はしなやかさがありつつフラット感があり、揺らぎすぎないところが好感触。まるでこだわるレースカーのように、1G状態で足まわりを締め直すなどの対策を行なったことが効いていそうだ。横風が強い状況であってもフラつくことなくしっかりと走ってくれる。
ACCについても試してみたが、割り込みがあった際にも急減速することなく、ジワリと速度コントロールしてくれるから安心。LKASも保舵していればレーンをきちんと導いてくれる感覚があった。これならロングドライブでも疲れないだろう。
これは後席に移動しても同様な感覚がある。乗り心地はフラットで心地よく、前席ショルダー部が削られていることもあって、視界が広がっているから酔いにくく仕上がっている。これにより空調もリアに届きやすくなったのだとか。
一方で空間も広がった。ワイヤーハーネスの取りまわしを変更し、ショルダー部の空間を広げることで、旧型に対して片側55mmも広げることができた。センターにはアームレストもつくし、足下は相変わらずの広大な空間が広がる。足を組んで腕をアームレストに置き、かなりくつろげてしまう。
気になったのはロードノイズがやや大きめなところだ。先代と同様にベースモデルに対してはドアの遮音材が与えられていない。フロアには遮音層フィルムを追加し、ルーフライニング基材構成変更を行なったというが、他が静かになれば目立つ部分が出てくるようだ。開発陣によると、音対策はモグラたたきのようなもので、静かな領域もあれば、目立つシーンもあるとのこと。
もう1点は街中でのブレーキングで若干引き込まれ感があり、思った以上に止まってしまうシーンがあったことだ。NAの場合は広く回転域を使う必要があり、それに合わせてCVTが変速を続けている。ある程度車速が乗ってハイギヤードになったところから、強めの減速をすると再加速に備えて急激にローギヤード側にCVTが変速する。そこでエンジンブレーキが強めに効く状況になり、思った以上に止まってしまうということのようだ。これを出さないためにはエコモードであるECONをオンにした状態で、走行中にアイドリングストップを入れるように走るとよい。そうなれば最後は空走状態になり、ブレーキの踏力だけで減速をコントロールできるからだ。
旧型では60km/h以下ではロックアップクラッチを離し、エアコンのオンオフでギクシャクしないようにしていたが、新型では下り坂の空走感を嫌いロックアップをかなり低車速側まで入れているという。たしかに下り坂でアクセルオフをしてみても、コースティングしすぎない安心感はあった。今回気になったのは、そことの兼ね合いなのか否かはさだかではないが、もう少しリニアに止まれるようになるとなおうれしい。
ただ、実はターボモデルではそのネガティブを感じることはない。それは使用する回転域が狭いから。低速トルクが十分にあり、回転を上げずしてあらゆる状況をこなせてしまうことは上質さに確実につながっている。
おかげで街中でも高速でも静粛性は段違いに向上する。タイヤ銘柄もあるのかもしれないが、先ほどベースモデルで感じたものはしっかりと押さえ込まれた印象がある。ドアまわりの遮音材に加え、ルーフライニングにはさらなる遮音対策が行なわれているというから、それも当然といえば当然なのかもしれない。
乗り味はやや硬質になるが、しっかり感はさらに高まっている。ステアリングの手応えはかなりしっかり。人によっては重いというかもしれない。だが、走りはベースグレードよりも安定性が高まり、無駄な揺らぎも少なくさらに真っ直ぐも走りやすい。そして余裕の動力性能が追い越し加速も登坂路も軽快にこなしてくれるから満足度は高い。
このように速さだけでなく質感も段違いによかったカスタムは、やはり魅力的に映る。よって、街中しか使わないからNAという選び方はやめたほうがよい。けれども、個人的にはエクステリアやインテリアの好みはベーシックグレードだった。こんな思いをどこかでしたと思い返してみると、やはりホンダのステップワゴンAIR。AIRに電動テールゲートさえ付いていれば満足なのに、と考えていたが、AIRがベーシックグレード扱いだからそこは与えずという状況だったのだ。デザイン的にはAIR推しだったため、それがちょっと残念に見えたのだ。
こんなもどかしい思いをしている方々は多いと聞く。次なるマイナーチェンジで是非ともその辺りのラインアップを見直してほしいと思わずにはいられない。道具はすべてそろっているのだから。希望するのはベーシックグレードのエクステリアで、静粛性も走りも満足なプレミアムか? 未来永劫ナンバーワンの販売台数を維持するためにも、死角ナシの対策を期待する。