試乗記

ホンダの新型「N-BOX」「N-BOXカスタム」(3代目)に初試乗 NAとターボの乗り味の違いとは?

3代目となったホンダの新型「N-BOX(左)」と「N-BOXカスタム(右)」に試乗

3代目になりさらに熟成した新型「N-BOX」

 2023年上半期において、軽四輪車順位でも四輪総合順位でも販売台数第1位を記録していた「N-BOX」。ならば安泰でモデルチェンジの必要性がないようにも感じてしまうが、他社の追従を許さんとばかりに新型が登場した。今回はそんな新型N-BOXのベースグレードとカスタムの両車を試乗する。プラットフォームもパワーユニットも先代からの流用となるが、そのぶん徹底的に煮詰めることができたのか?

 まずはシンプルなエクステリアとさり気ないオシャレさが漂うベースグレードから。いきなり残念なお知らせだが、このクルマに搭載されるエンジンはNA(自然吸気)のみ。旧型ではターボもあったが、あまり売れないということで廃止となったらしい。今度のベースグレードは個性が光っていると思えたけれど、それで上質なものが得られないというのは残念なところ。後述するが、ターボモデルには“速さ”だけではないよさが満載だったからだ。

試乗車はオフホワイトのドアミラーカバーとアウターハンドル、ボディ同色のホイールカバーを採用し、さり気なくおしゃれなパッケージの「ファッションスタイル」
ボディカラーはオータムイエロー・パール。ボディサイズは3395×1475×1790mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mm
ファッションスタイル専用のスチールホイールは、センター部をボディ同色、外周部をホワイトにペイント。装着タイヤはダンロップの「エナセーブ EC300」で、サイズは155/65R14
搭載される直列3気筒0.66リッターの「i-VTECエンジン」は、最高出力43kW(58PS)/7300rpm、最大トルク65Nm/4800rpmを発生。燃焼効率を向上させるロングストローク化とVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)+VTC(連続可変バルブタイミング・コントロール機構)の採用により、低燃費ながら高出力化を実現。出足や加速・坂道などで力強い走りを実現しながらも、毎日乗るクルマとして大事な燃費性能も両立している

 ベースグレードに乗ればフィットから始まった水平基調のインパネが開けた視界を提供してくれる。ナビ画面はドライバーから見るとダッシュボードの高さよりも下になるようにセットされており、かなりスッキリとした印象が得られる。カメラばかりに頼ることなく、目視できちんと全然が確認できる開放感はうれしいところ。さらに、サイドアンダーミラーにも改善が行なわれ、前方下を見るものはAピラーに、後方下を見るのはドアミラー内側移設されたことで、左側のタイヤの位置がさらに把握しやすくなった。これなら路地裏だってスイスイ通り抜けることが可能だろう。

運転席からの視界は水平基調でとても開けている
ステアリングのボタン類は整理され、使い勝手も向上した
メーターは7インチの液晶ディスプレイとなり見やすくステアリング内に収めている

NAとターボの違い

 走ってみるとタウンスピードから高速道路まで必要十分の動力性能を与えてくれる。勾配があるところや、追い越し加速を行なう時などはややエンジンがうなり気味だが、そこさえ目をつむれば十分だろう。乗り味はしなやかさがありつつフラット感があり、揺らぎすぎないところが好感触。まるでこだわるレースカーのように、1G状態で足まわりを締め直すなどの対策を行なったことが効いていそうだ。横風が強い状況であってもフラつくことなくしっかりと走ってくれる。

 ACCについても試してみたが、割り込みがあった際にも急減速することなく、ジワリと速度コントロールしてくれるから安心。LKASも保舵していればレーンをきちんと導いてくれる感覚があった。これならロングドライブでも疲れないだろう。

ひじ置きもあり快適な運転席
後席もアームレストが装備されているのがありがたい
後席は倒すとフラットになり利便性がいい
シートを一番後ろにした状態で乗ってみたけれど、大人2人でもしっかりとくつろげるスペースを確保している

 これは後席に移動しても同様な感覚がある。乗り心地はフラットで心地よく、前席ショルダー部が削られていることもあって、視界が広がっているから酔いにくく仕上がっている。これにより空調もリアに届きやすくなったのだとか。

 一方で空間も広がった。ワイヤーハーネスの取りまわしを変更し、ショルダー部の空間を広げることで、旧型に対して片側55mmも広げることができた。センターにはアームレストもつくし、足下は相変わらずの広大な空間が広がる。足を組んで腕をアームレストに置き、かなりくつろげてしまう。

前席の肩口に設けられている絶妙な段差は、エアコンの空気を後席へ通しやすくする工夫だそう
後席右側の収納は箱ティッシュが入るように配慮されている
後席のサイドは乗降する際に手をかけやすいよう凹凸を設けてあり、特に下の方は子供がしっかりと手をかけられるように段差を大きくしているという

 気になったのはロードノイズがやや大きめなところだ。先代と同様にベースモデルに対してはドアの遮音材が与えられていない。フロアには遮音層フィルムを追加し、ルーフライニング基材構成変更を行なったというが、他が静かになれば目立つ部分が出てくるようだ。開発陣によると、音対策はモグラたたきのようなもので、静かな領域もあれば、目立つシーンもあるとのこと。

ベースグレードはNAのみの設定となったが、できればターボの設定もほしいところ
ロードノイズが少し気になったが、走りそのものは快適

 もう1点は街中でのブレーキングで若干引き込まれ感があり、思った以上に止まってしまうシーンがあったことだ。NAの場合は広く回転域を使う必要があり、それに合わせてCVTが変速を続けている。ある程度車速が乗ってハイギヤードになったところから、強めの減速をすると再加速に備えて急激にローギヤード側にCVTが変速する。そこでエンジンブレーキが強めに効く状況になり、思った以上に止まってしまうということのようだ。これを出さないためにはエコモードであるECONをオンにした状態で、走行中にアイドリングストップを入れるように走るとよい。そうなれば最後は空走状態になり、ブレーキの踏力だけで減速をコントロールできるからだ。

N-BOXカスタム(ターボ)。試乗車のボディカラーは心地よい日の光のように美しく輝く「プレミアムサンライトホワイト・パール」
写真は標準のカスタムだが、圧倒的な余裕と存在感を表現したパッケージ「コーディネートスタイル」も設定されている
N-BOXカスタムのターボモデルの装着タイヤは、ブリヂストンの「エコピアEP150」で、サイズは165/65R15
ターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク104Nm/2600rpmを発生。電動ウェイストゲートが必要に応じて過給圧をコントロールして、ターボならではのパワフルな走りに加え、レスポンス向上と低燃費を実現した

 旧型では60km/h以下ではロックアップクラッチを離し、エアコンのオンオフでギクシャクしないようにしていたが、新型では下り坂の空走感を嫌いロックアップをかなり低車速側まで入れているという。たしかに下り坂でアクセルオフをしてみても、コースティングしすぎない安心感はあった。今回気になったのは、そことの兼ね合いなのか否かはさだかではないが、もう少しリニアに止まれるようになるとなおうれしい。

N-BOXカスタムの内装はブラック基調で大人な雰囲気を醸し出している
シート素材はプライムスムース×トリコット〈スエード調〉を採用
後席も同じくブラック基調のインテリアとなる
スエード調の素材トリコットが高級感を演出してくれる

 ただ、実はターボモデルではそのネガティブを感じることはない。それは使用する回転域が狭いから。低速トルクが十分にあり、回転を上げずしてあらゆる状況をこなせてしまうことは上質さに確実につながっている。

 おかげで街中でも高速でも静粛性は段違いに向上する。タイヤ銘柄もあるのかもしれないが、先ほどベースモデルで感じたものはしっかりと押さえ込まれた印象がある。ドアまわりの遮音材に加え、ルーフライニングにはさらなる遮音対策が行なわれているというから、それも当然といえば当然なのかもしれない。

フロントカメラはより広角になり認識範囲を拡大させている
フロント、リア、左右ドアミラー下のカメラから得た情報をコンピューターが解析し、クルマを上空から見下ろしたような「グラウンドビュー」表示が可能
見えにくい左右前方も画面で確認できるので駐車時も助かる
「Honda CONNECT」がNシリーズに初搭載された。スマホでエアコン操作やドア開閉、位置確認などができるほか、車内Wi-Fiにスマホやゲーム機などを接続して楽しめるようになった

 乗り味はやや硬質になるが、しっかり感はさらに高まっている。ステアリングの手応えはかなりしっかり。人によっては重いというかもしれない。だが、走りはベースグレードよりも安定性が高まり、無駄な揺らぎも少なくさらに真っ直ぐも走りやすい。そして余裕の動力性能が追い越し加速も登坂路も軽快にこなしてくれるから満足度は高い。

パワフルで静粛性の高いターボモデルはN-BOXカスタムのみの設定
高速道路の追い越しや登り坂でも安定した走りは魅力

 このように速さだけでなく質感も段違いによかったカスタムは、やはり魅力的に映る。よって、街中しか使わないからNAという選び方はやめたほうがよい。けれども、個人的にはエクステリアやインテリアの好みはベーシックグレードだった。こんな思いをどこかでしたと思い返してみると、やはりホンダのステップワゴンAIR。AIRに電動テールゲートさえ付いていれば満足なのに、と考えていたが、AIRがベーシックグレード扱いだからそこは与えずという状況だったのだ。デザイン的にはAIR推しだったため、それがちょっと残念に見えたのだ。

デザイン的にはベースグレード推しだが、走りを考えるとおススメはターボモデル

 こんなもどかしい思いをしている方々は多いと聞く。次なるマイナーチェンジで是非ともその辺りのラインアップを見直してほしいと思わずにはいられない。道具はすべてそろっているのだから。希望するのはベーシックグレードのエクステリアで、静粛性も走りも満足なプレミアムか? 未来永劫ナンバーワンの販売台数を維持するためにも、死角ナシの対策を期待する。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一