試乗記

STIが提唱する「意のままに扱えるクルマ」とは? 微少操舵の領域をサーキットで味わってみた

ワークスチューニンググループ合同試乗会2023(STI編)

STIのパフォーマンスパーツを装着したデモカーを試乗する機会を得た

 自動車メーカーのカスタイマイズ部門4社が集まり、純正チューニング仕様を体感する試乗会がツインリンクもてぎで開催された。今回もSTI、NISMO、TRD、無限の4社が提供するモデルは、さすがに粒ぞろいで特色あるものばかりだった。

フレキシブルパーツとエアロパーツで乗り味の感覚を向上

 STI(スバル・テクニカ・インターナショナル)が用意したのは、おなじみの“フレキシブル”と名の付くタワーバーやドロースティフナーなどのパフォーマンスパーツを装着した「クロストレック」と「インプレッサ」だ。アルミホイールはSTI製に交換しているが、スプリングやダンパー、スタビライザーなどのサスペンション自体は標準のままであることは先にお伝えしておく。

 両車共通の開発の狙いは、「意のままに扱えるクルマ」という。標準車のどこかを上げるのではなく全体のバランスを重視し、操舵感を極め、ドライバーとクルマ一体感を高めることで、運転が上手くなったかのような、ドライバーの意思が的確に伝わるクルマを追求している。

クロストレック STIパーツ装着車。ベース車両となる「Limited」のボディサイズは4480×1800×1575mm、ホイールベースは2670mm
リアバンパーの内側には、必要な部位に引っ張りのプリロードをかけることで、ステアリングを切った瞬間から応答が始まるようになり、曲がりやすく安定性にも優れる「フレキシブルドロースティフナー リヤ(3万5200円)」を装着している

 そのためにこだわったのが、角度が1度に満たない微少操舵の領域だ。上手く内輪のグリップを使って回頭性を高め、スムーズに後輪に伝えることで、少し切っただけでもスッと素直にクルマが方向を変えていくハンドリングを追求。これにより無駄なステアリング操作をする必要がなく、ギクシャク感のない走りを実現していた。

ブラックの18インチ(7J)ホイールは4万6200円/本
フレキシブルタワーバー(e-BOXER用)は3万3000円
パフォーマンスマフラー&ガーニッシュキットは14万8500円
ルーフスポイラーは4万9500円
ドアハンドルプロテクターは6600円(1台分)

 もう1つがエアロパーツだ。控えめな形状ながら、たしかな効果が得られるものが車体の前後左右にひととおり装着されている。この両車についてはすでに公道でドライブした印象をレポートしているが、今回はサーキットでアクセル全開で走らせてみると、どうなのかをお伝えしたい。

意のままの走りと操る楽しさをもたらす乗り味

 クロストレックとインプレッサでは、走りについては主に重心高とタイヤに違いがある。2台とも内容的には同じように手が加えられていても、ベースが異なるので乗り味もそれなりに違う。今回の試乗ではコースにシケインが設けられていたおかげで、より効果の違いがよく分かった。

 乗り比べてどうこういうというよりも、それぞれどうなのかが大事だと思うが、より分かりやすいよう、あえて比べてみると、1度未満の微少操舵からよりきれいに応答するのはインプレッサだ。もともと完成度は高い上に、さらに意のままに素直に動く感覚が増している。

インプレッサ STIパーツ装着車。ベース車両となる「ST-H」のボディサイズは4475×1780×1515mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm
チェリーレッドの「フロントアンダースポイラー」「サイドアンダースポイラー」「リアサイドアンダースポイラー」をセットにしたSTIエアロパッケージは15万7410円。カラーはブラックも選択可能
ルーフスポイラーは4万9500円

 一方の大径タイヤを履くクロストレックは、サイドウォールのたわみで若干の応答遅れがあり、重心が高めなので荷重移動により挙動が大きく出るのだが、それがむしろ幸いして、より自らの手で操っている感覚を味わえる。

 アクセルオフでリアがほどよく巻いて、小さな舵角でターンインできて、アクセルオンでリアが踏んばって前へ前へと進もうとする感覚が伝わってくるのだ。とくにコースのS 字コーナーあたりで、それが顕著に感じられる。タイヤがしなやかに路面に追従して、動きにピーキーなところがないので、不安なく攻めていける。

ブラックの17インチ(7J)ホイールは4万2900円/本
最高出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジンを搭載し、最高出力10kW(13.6kgfm)、最大トルク65Nm(6.6kgfm)を発生するモーターを組み合わせる。トランスミッションはCVT。装着しているフレキシブルタワーバー(e-BOXER用)は3万3000円
パフォーマンスマフラー&ガーニッシュキットは14万8500円

 舵の利きがよく、リアにも駆動力をしっかり伝えることができているおかげで、クルマがどういう状態にあるかを把握しやすく、より自ら操っている感覚が高まる。

 これにはエアロパーツも効いているに違いない。ステアリング操作に対して応答遅れがなく、手応えがあり、ロールがいくぶん小さくなり、全体的に操縦安定性が高まったように感じられた。

 リニアトロニックも、もともと変速レスポンスがよく、ダイレクト感があることで、アクセルのオンオフで挙動を積極的にコントロールすることができる。また、両車ともパフォーマンスマフラーが装着されている。クロストレックもインプレッサも、エンジンフィールが控えめで、もう少しエンジンを味わえる何かプラスアルファが欲しいと感じる人も少なくないと思うが、交換することで小気味のよいサウンドを楽しめるようになる。とくに速くなるわけではないとはいえ、ドライブする楽しさを高めてくれることには違いない。

乗り心地が悪化しないSTIのパフォーマンスパーツ

 ざっくり、完成度が高いのはインプレッサ、楽しいのはクロストレックという印象だった。ドライビング操作がそのまま反映されるところに楽しさのあるクロストレックに対して、インプレッサは、操作したとおりに動く点は同じでも、ニュアンスが少し違って、まさしく意のままに走れる。その走りはクラスを超えた上質な味わいがある。これで舵をもどす側がもう少しリニアになれば文句なしだ。街中を走っても、その効果を誰しも体感できるに違いない。

 コースを出て、一般道のような構内路を走ると、インプレッサのよい印象は変わらず。クロストレックもタイヤのタワミがほとんど気にならなくなる。乗り心地がまったく悪化しないのも、一方向への入力に対して効き、ボディへの力の伝達するヒステリシスを排除することを念頭に開発されたSTIのパフォーマンスパーツなればこそだ。

 足まわりがノーマルのままでは、サーキットだと物足りないのではないかと思っていたが、ぜんぜんそんなことはなかった。ベースの完成度が高いことも承知していたが、これだけでさらにこれほどよくなるとは感心せずにいられない。たしかに運転が上手くなったように感じられて、意のままの走りを楽しむことができた。さらには、微少操舵ステアリングフィールにも車両の挙動にも、ボディへの力の伝達かが密接に関係していることを、あらためて実感した次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸
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