試乗記

メルセデス・ベンツ「EQS SUV」、メルセデス最大級のSUVはユーテリティ性でも最高

7人乗りSUVの新型バッテリEV(電気自動車)「EQS SUV」

これ以上静粛性に優れるモデルはある?

 メルセデス・ベンツのフラグシップはSクラス。そのBEV版は「EQS」、つまり電気自動車を指すEQシリーズのSクラスになる。今回紹介するのは2023年に発表されたそのSUVモデル「EQS SUV」だ。

 最初に受けたセダンバージョンの「EQS」への感動は、パワートレーンが内燃機関だろうとBEV(バッテリ電気自動車)であろうともメルセデスらしさをしっかり受け継いでいることだった。メルセデスAMGはキャラクターが異なるが、標準のEQSで感じられたメルセデスらしいべったりとした乗り心地にホッとさせられた。

 EQS SUVもBEV専用プラットフォームの第3弾にあたる。前後に2つのモーターを持つ4WDだ。サイズは5130×2035×1725mm(全長×全幅×全高)という堂々たる大きさで、さらにホイールべースは3210mmという超ロングホイールベース。市街地では使いにくそうに見えるが、実際は最大で逆相に10度切れる後輪ステアを標準装備し、最小回転半径はわずか5.1mと小型車並み。デメリットをしっかり補っている。

 パワートレーンでは107.8kWhの大きなリチウムイオンバッテリを搭載。ACモーターのローターに永久磁石を取り付けて、三相の巻き線を2つ備えた六相式を備えた強力な前後モーターでシステム出力は265kW(360PS)/800Nmになる。大きなトルクで重量2900kgのボディを引っ張る。WLTCによる航続距離は593km。充電システムは6kWまでの普通充電とCHAdeMO(150kW)により急速充電が可能。150kWでの充電時間は約49分で58%の充電が可能というデータがある。

 エクステリアは長いルーフと3つのサイドウィンドウによりSUVらしいデザインを形成し、滑らかな面でも分かるようにCd値は0.26と小さい。細部を見ると角はすべて取られており、下面もEQSとは異なるアクスルレイアウトとなっているために前面にタービュレーターを備えたアンダーカバーを持っている。またリアディフューザーの効果もあり空気抵抗は小さい。

今回試乗したのは2023年5月に発売された7人乗りSUVの新型BEV「EQS SUV」。「EQS 450 4MATIC SUV」(1542万円)、「EQS 580 4MATIC SUV Sports」(1999万円)の2種類があり、試乗車は前者
ボディサイズは5130×2035×1725mm(全長×全幅×全高)、ホイールべースは3210mm
エクステリアデザインでは、SUVでありながらCd値0.26という空力における機能性も兼ね備えた美しさを表現。NVH対策も徹底的に行ない、高い静粛性を実現した。EQSのサスペンションはフロントに4リンク式、リアにマルチリンク式を採用し、連続可変ダンピングシステムADS+とエアサスペンションを組み合わせたAIRMATICを標準装備する

 インテリアではEQSと同様のダッシュボード一面に広がるMBUXハイパースクリーンがパッセンジャーの心を寛がせる。これはスタンダードタイプの「EQS 450 4MATIC SUV」ではオプションになるが、クラシックエレガントのウッドトリムを持つダッシュボードを採用する。セダンのEQSとは違って上下高がある分、センターコンソールの収納量が増えている点もSUVのメリットだ。

 大きくゆったりとしたフロントシートと同じく、セカンドシートも130mmの電動スライドが可能でゆったりとしたレッグスペースを持つ。3列目シートを使わない場合は4つのゴルフバッグが積み込むことができる。

 さらに3列目も並みのシート以上の快適さを備え、レッグルームも余裕があってリラックスできるとともに、どのシートもシートヒーターを備えて快適性を高めている。ロングホイールベースとBEV専用のプラットフォームのなせる技だ。

インテリアでは一貫したデジタル化が施され、MBUXハイパースクリーンはこれを実現したもの。コクピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、有機ELフロントディスプレイ(助手席)の3枚の高精細パネルとダッシュボード全体を1枚のガラスで覆うワイドスクリーンで構成される

 ドライブモードはComfort、Sports、ECO、Individual、OFFROADから選択でき、ナビゲーションのMBUX ARナビゲーションは実際に見ている景色と融合した表示となっており、視線移動が少ないのも他のメルセデスで経験ずみ。初めて出かけるところでも迷わないですむ。

ドライブモードはComfort、Sports、ECO、Individual、OFFROADを用意
MBUX ARナビゲーションは実際に見ている景色と融合した表示が可能

 そしてノイズ。電気自動車はロードノイズや風切り音を排除することが静粛性に直結する。たとえばモーター自体が音を出さない構造になっており、ボディシェルの多くに発泡材が入れられ、吸音している。さらにリアゲートにも大きな吸音材を備えることで共鳴音を低減する。その効果は驚くほどで静謐な室内を堪能することができる。クルマの静粛性にこれ以上のものが求められるだろうか。

ドライブモードの違い

 動力性能は800Nmのトルクから想像されるように、瞬発力のある加速性能を発揮するが、圧倒的な発進加速よりも大型SUVらしい余裕を感じさせる加速が持ち味だ。どんな場面でも思いどおりに加速する力はメルセデスの大型SUVへの期待を裏切らない。

 試乗は首都高速と市街地を中心としたもので、EQS SUVの実力のほんの一部しか味わえないが、ロングホイールベースとエアサスの絶妙なコンビネーションは抜群の乗り心地だ。アクセルのON/OFFによるピッチングは穏やかで、ゆったりした動きでバネ上の動きを制御する。

 少しシャキとしたい時はドライブモードをSportsにするとバネ上のフラット感は変わらず、ステアリングの応答性がシャープになる。セミアクティブ的な動きをするのがハイエンドのSUVらしい。

 今回は試せなかったが、オフロードモードではアクセル開度に応じた出力カーブが穏やかになり、過度な動きを抑制することでドライビングの幅を広げる。60km/hまでは車高をスイッチ1つで25mm上昇させることができる。

 ComfortとSportsでは110km/h以上で自動的に車高が15mm低くなり、80km/h以下で元の車高に戻る。この一連の動きは自然で乗員にはほぼ感知することはできない。BEVの電子制御4輪駆動は各輪の駆動力をわずかな動きから瞬時に反応して駆動力を配分できる抜群のコントロール性を発揮するのが常で、EQS SUVでも低μ路で圧倒的なポテンシャルを発揮しそうだ。

 またメルセデスのADAS系は、できの良い全車速追従システムはもちろん、緩いカーブなら追従できるレーンキープ能力の正確性、飛び出し時の緊急ブレーキなど、およそ現在考えられるものはフル装備している。メルセデス最大級のSUVはユーテリティの高さでも最高のSUVだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛