試乗記
テインのフルスペック車高調「RX1」と減衰力コントローラ「EDFC5」で、新型「アルファード」の走りはどう変わるか?
2024年1月26日 08:05
- RX1(新型アルファード用):23万9800円
- EDFC5(コントローラキット+モーターキット):10万7250円
- GPSキット(オプション):9900円
2160kg超えの新型「アルファード」をテインはいかに仕上げたのか
アフターパーツ市場で国内トップシェアを誇るサスペンションメーカー「テイン」が、新型アルファード(40系)用サスペンションキットを早くも開発。ミニバン専用のフルスペック車高調「RX1」を装着したデモカーを、テストドライブさせてくれた。
試乗車は、ガソリン仕様のベーシックグレード「Z」の2WD(FF)。そのコンセプトは市場の絶対的なニーズである「ローダウンスタイリングの実現」と「快適性の両立」だ。ちなみにそのローダウン幅は、純正に対してフロントで35mm、リアで30mmというほどよい下がり具合だった。
そして足下には20×8.5J(インセット35)のエンケイ製ホイール「Racing Revolution RS05RR」と、245/45R20サイズのブリヂストン「アレンザ LX100」を装着。純正ホイールは18×7J(インセット40)、純正タイヤは225/60R18サイズだから、その見た目はなかなかの迫力だ。
走り始めてまず感じたのは、アルファードの車格にふさわしい、剛性感の高い乗り味だ。ショートストロークサスに大径タイヤの組み合わせでもバネ下の収まりはよく、荒れた路面や道路のつなぎ目では、ダンパーがハーシュネスを一発で収めてくれる。
そんなRX1のスプリングは、フロントが6.0Kgf/mmでリアは9.0Kgf/mm。剛性で比べるとフロントが純正比210%、リアは142%高められている。
RX1のフロントスプリング剛性が2倍以上高くなっているのは、特別スポーティな仕様にしたからではない。現行アルファードはそもそもフロントのバネレートが2.8Kgf/mmと、リアの6.3Kgf/mmに対して低いのだ。対してテインは同じようにフロントの剛性を低く抑えながらも、その下げ幅を少なくした。だから割合的にはバネレートが高くなっているが、セッティング的にはオーソドックスな手法を選んだといえる。
こうしたトヨタのセッティングに対して、テイン開発部の渡邊宏尚エンジニアは、「スプリングは極端に言えば車体を支えることに徹していて、姿勢制御はダンパーで積極的に行なおうとしているのだと思います」と分析している。
テインが純正のレートバランスよりも若干フロント側を高めたのは、ショートストローク化された足周りと大径タイヤがもたらす、底突きを可能な限り抑えるためだ。そしてこのセットが純正アルファードのしなやかさと比較すれば、どっしりとした欧州車的な乗り味となっている。
とはいえ従来なら、その乗り心地はもっと犠牲になっていただろう。路面のうねりに対する細かな横揺れや、低級振動が伝わってきたはずだが、それがいたってまともな領域に収められている理由の1つは、現行アルファードのボディ剛性が上がったからだと思う。
そしてもう1つの側面としては、このRX1が持つ機能が大きく貢献している。
まずテインはフロントサスのアッパーマウントにピロボールではなく、強化ゴムを用意した。なおかつリアダンパーの取り付けブッシュは上側を専用設計、下側を強化ゴムとすることで、操縦安定性と乗り心地を両立させようとしている。
またダンパー底部には、第2のバンプラバーと言われる「ハイドロ・バンプ・ストッパー」(以下H.B.S.)が採用されている。H.B.S.は急激な入力に対してオイルの流路を狭め、減衰力を高める機構。悪路を走破するラリーの現場で鍛え上げられたシステムだ。
室内から自在に減衰力を調整できるEDFC5がサスペンションの可能性を広げる
さらにテインはここに、電動減衰力コントローラ「EDFC5」を組み合わせて、乗り心地と走りをコントロールしている。
RX1の減衰力調整機能は、全16段。試乗はその真ん中である8段からスタートしたが、その減衰力は車内から、簡単に変更できるのだ。
というわけで1度目の試乗を終えたあと、その減衰力をさまざまな組み合わせで試してみた。感心したのは、1番ソフトな16段戻しと、1番ハードに締め込んだ状態、そのどちらにおいても破綻が見られなかったことだ。確かに最弱だと操舵レスポンスは鈍るものの、垂直方向の入力はゆったりと減衰されるようになった。H.B.S.効果も高く、段差や不整地で底突きすることもなかった。
そしてフルハードでは、路面からの入力を素早く減衰させて、ハンドリングレスポンスが上がった。このくらいダイレクトな乗り味の方が、好みだと感じるユーザーもいるだろう。
ちなみに、よりスポーティなハンドリングのヴェルファイアには、この領域の減衰力を積極的に使おうと考えているとのことだった。
通常アフターマーケットの可変ダンパーは、段数こそあれそれをフルに使えることはまれだ。ざっくり言って真ん中から上下数段がスイートスポットになっているパターンがほとんどだが、このRX1は全域で破綻がない。だからこそオーナーは減衰力をより細かく調整して、好みの仕様を作り出せる。そしてプリセットを使えば、これを10パターン(ちょっと多過ぎだと思うが)、記憶させておくことが可能だ。
さらには「ジャーク」モードや「G」モードを選ぶと、EDFC5が走行中の減衰力を自動で調整してくれるからありがたい。
「ジャーク(躍度)」は、加加速度(加速度の時間に対する変化の割合)に呼応して減衰力を可変させるモードだ。さらに対角線制御がプログラミングされているおかげで、カーブで4輪が別々に減衰力を調整してコーナリング姿勢を安定させてくれる。
なおかつここに「G」モードを加えると、コーナリング中に躍度が変化しない状況でも、Gの増加で減衰力を高めてくれるから安心感がさらに高まる。ミニバンらしからぬターンインのしやすさと、コーナーでの安定感の両立はちょっと感動的だ。
そして個人的には、これだけダンパーが素直に動くのであれば、もう少しフロントのスプリングレートを下げても大丈夫ではないか? と感じた。
現状は底突き対策に重点を置いているが、路面のうねりに対してもう少しだけフロントが追従すれば、よりフラット感が増す気がする。そしてこうしたマニアックな要求に対しても、スプリングを自社開発するテインなら応えられる懐の深さがあると思う。
総じてアルファード用RX1は、見た目のよさと操縦安定性、そして乗り心地を巧みにバランスさせていた。走り込むほどに、自分の好みを追求して行ける楽しさがあるサスキットだと言えるだろう。