試乗記
ホンダ新型「WR-V」公道初試乗 250万円以下で買えるコンパクトSUVの実力はいかに!?
2024年4月30日 08:15
- 2024年3月22日 発売
- 209万8800円~248万9300円
タイで開発し、インドで生産されるコンパクトSUVモデル
ここ最近のホンダのラインアップで最もコンパクトなSUVといえば、3ナンバーの登録車である「ヴェゼル」が存在していたが、その車両価格はベーシックなガソリン車で239万円~、ハイブリッドのe:HEVとなれば270万円以上とコンパクトSUVにしては高めの設定。
その点、同じクラスの日本車を見渡すと、3ナンバー車の「ヤリスクロス」が190万円台~、5ナンバー車であれば「ライズ」で171万円~というお手ごろ感のある価格帯。ホンダとしては250万円以下で勝負できるSUVがなかったとして、2024年春に日本へ導入したモデルが今回紹介する「WR-V」だ。
全3グレードがあり、価格はエントリーグレードの「X」が209万8800円、スタンダードグレードの「Z」が234万9600円、最上級グレードの「Z+」が248万9300円となる。
「日本へ導入」という枕詞をつけた理由は、このモデルはタイで企画開発が行なわれ、インドで生産された車両を日本へ輸入しているから。ただし、新興国向けのモデルと侮るなかれ。世界的に重要視されているインド市場において、ホンダは優れた自動車ブランドとして認識されており、インドにおけるホンダのラインアップでハイエンドなモデルとして設定されているのが「エレベイト」=日本名「WR-V」。そのモデルが日本に導入されることになる。競合多きカテゴリーにおいて、ホンダとしてのコダワリをどう提供してみせるかが問われる1台となる。
私自身がWR-Vに初対面した時の第一印象は、車格や価格帯のわりに立派なクルマに仕上がっているなと思ったこと。ボディサイズは4325×1790×1650mm(全長×全幅×全高)。最低地上高はアクティブな移動をかなえてくれそうな195mmを確保している。都会的でクーペライクなルーフを持つ同じ3ナンバーのヴェゼルと比べると、WR-Vの全長は5mm短く、全幅は同じで、全高は70mm高い。外観は同じクラスのSUVといえどもキャラクターは大きく違っている。WR-Vは堂々とした風格と頼もしさが備わったかたまり感のあるスタイリングが特徴で、アウトドアシーンにも映えそうだ。
と、ここまでサイズ的に近しいヴェゼルと比較してみたが、実は両者の中身はだいぶ違っている。1つめはプラットフォーム。WR-Vが採用しているのは先代のフィットやグレースなどに使われたフロントまわりとインドネシアの「BR-V」のリアまわりを組み合わせたもので、ガソリンタンクの配置はヴェゼルなどに採用されている前席床下のセンタータンクレイアウトではなく、後席下に配置するものだという。
2つめはパワーユニットの違いで、WR-Vはガソリン車のみ、FFのみの設定で欲張らない仕様として販売される。ハイブリッド仕様が設定されていない理由としては、インドのユーザーは複雑な機構のクルマは「壊れるのではないか?」「修理費用が高くつくのではないか?」といった印象を持つ人が多く、シンプルな機構でしっかり走るモデルが好まれるというのが大きな理由。
アウトドアシーンで活躍してくれそうなWR-V。インドの道路環境を想像するに、「4WD仕様が必要とされないのですか」と開発者の平村氏に伺ってみたところ、ラフロードを走る場合はピックアップトラックを購入する人が多いということで、WR-VはFFのみを設定しているという。
ちなみに、最低地上高が高い理由の1つは、インドの路面に設置されたスピードブレーカー(速度を制限するための凹凸)を無理なく乗り越えられるクリアランスを確保していること。また、農道の畦道などがスコールで冠水してしまうケースなども踏まえ、最低地上高を195mmという高めの設定にしているそうだ。
インテリアはシンプルに。先進安全装置は全グレードにしっかり搭載
運転席に座ってインパネまわりを見渡すと、全体的な設計は今ドキのクルマと比べるとシンプルに割り切っている部分と、想定以上に嬉しい装備が盛り込まれている要素が混在している。例えば、ベースモデルのXと上位グレードのZやZ+と共通性を持たせているのがインパネまわり。どのグレードも車両情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイを含めた7インチのデジタルメーターは共通しているもので、Honda CONNECT for Gathers+ナビ装着用スペシャルパッケージ、フルオートエアコン、パドルシフトが標準装備。
インパネには樹脂製の硬質なパネルが使われているが、助手席の正面とシフトゲート周り、エアコンの操作パネルには艶やかで上質に見せるピアノブラックパネルがあしらわれている。Xの場合、シート全面がファブリック素材、ステアリングがウレタン素材になり、ラゲッジに荷物を隠すトノボードがついていなかったりするものの、ベーシックな仕様だと考えれば、これで十分だと思えるレベルだ。
一方で、ZとZ+はステッチ入りの本革巻のステアリングホイールとセレクトレバー、ドアの内張りにはソフトパッドがあしらわれている。シート表皮はファブリックとスムースな感触の合成皮革とのコンビネーションとなり、後席の背もたれには引き出し式のアームレスト(ドリンクホルダー付き)がついてくる。
ちなみに、後席のアレンジはどのグレードも60:40の分割可倒式で、後席座面の下に燃料タンクが配置されているため、後席の背もたれを倒しても、座面ごと床に沈み込むヴェゼルのようにフラットにはならない。ただし、WR-Vは専用スペースを要する4WDやハイブリッド車のメカニズムを必要としないシンプルな構造のため、荷室の床は低く、容積も広い。ヴェゼルと比較すると、ホイールハウスの後ろ側のスペースが横方向に広くとれるため、後席に乗員が座った状態で長い荷物を載せられそうだし、荷室フロアから天井までの高さが確保されている点で余裕を感じさせる。
一方で、全グレードに共通して欲ばりすぎていないと感じる点は、パーキングブレーキが手動式のレバーであること。さらに、前走車との車間を維持しながら追従走行を行なうアダプティブクルーズコントロール(ACC)は約30km/h以上で作動するため、低速走行や渋滞には対応していない。停車中にエンジンを止めるアイドリングストップもついていなかった。ともあれ、Honda SENSINGやACCなどが標準装備されているのはありがたいことであるし、価格以上に充実したコスパの高い内容だと思えてくる。
1.5リッター自然吸気エンジン&前輪駆動の走りはどうだ?
冒頭でお伝えしたように、WR-VはFF専用モデル。パワーユニットは1.5リッターの自然吸気エンジン×CVTのみの設定。通常は上位グレードに設定されがちなパドルシフトが標準装備されていることは嬉しい驚きだが、その理由として、タイの開発拠点は500人規模で運営されていることもあり、異なる仕様を作ると時間と工数がかかってしまうため、共通性をもたせることで開発・生産期間の短縮に結びつけているということだ。
まずはベースモデルのXのハンドルを握って走り出してみる。足下には215/60R16サイズのタイヤを装着していて、段差の乗り越えなどは比較的ソフトな感触。発進時に緩やかにアクセルペダルを踏み出していくとスムーズに車速を高めていってくれる。一方で、追い越し加速で踏み込み、CVTが高めのエンジン回転域を維持し続けるような場面になると、車内に響いてくる音色に少々雑味を感じる。
一方で、ホンダらしさを感じさせてくれたのは、ハンドル操作に対する身のこなしのよさ。16インチ仕様はしなやかな足取りとともに、目標とした走行ラインを意のままに辿って走れる気持ちよさを与えてくれた。
運転席は背もたれのクッションにしっかりめの反力を覚えたが、背もたれのリクライニングやステアリングのチルト&テレスコピック(上下前後)の調整機構を活用したら、最適な運転姿勢を取りやすかった。着座位置が高めのSUVらしく、ドライブ中の見晴らしもいい。前方視界は角張ったフロントフードが視界に入るので狭い場所での車幅感覚は捉えやすい。ただ、鼻先が少し長いので、タイトな場所を曲がるときは、少し注意したほうがよさそうだと思った。
続いてZ+に乗り換えて試乗を開始。基本的にZとZ+は215/55R17サイズのタイヤを装着している。どのグレードもサスペンションのバネレートは共通とされているが、16インチでも、17インチでも、同じ方向性の走りを目指す形で電動パワステのセッティングを最適化しているという。
Z以上のグレードは本革巻ステアリングになり、Xの硬質なウレタンと比較すると手に馴染む感触。走り始めでわずかにアクセルを踏み出すところからトラクションを得やすく、繊細な踏み増しに反応してくれる印象だ。舗装が綺麗な道路を走るとき、17インチでも乗り心地は優しく、タイヤのたわみが少ないこと手伝って無駄なブレが少ない。どちらかというと、こちらの方が洗練された走りを与えてくれている印象だ。
ただ、路面の凹凸がある箇所を通過する時は、16インチと比較して、上下に揺すられやすい傾向にある。また、走行時のロードノイズについては、Z以上のモデルの方が静かで、リアのインナーフェンダーに追加されている遮音材が静粛性を高めているようだ。車両価格はXとZ以上のモデルの間に25~40万円程度の差があるので、そのぶん快適性が高められているように感じた。
全体の印象としては、コンパクトSUVに期待する気さくさ、そこに持て余さないパワーフィールと意のままに走れる安心感と気持ちよさを与えてくれるモデルだと感じた。コンパクトSUVといえども、実際には3ナンバー車なので、5ナンバー車ほど小さいワケではないが、そのぶん大人が快適に移動できるだけの後席空間と実用的な荷室をバランスさせている。家族や友達と趣味に遊びに繰り出す相棒として、アクティブに使いこなせる1台になりそうだ。