試乗記
ポルシェ「911ダカール」、遊び心満載の本気のオフロード仕様だった
2024年4月29日 09:15
世界2500台限定のオフロード仕様「911ダカール」
ポルシェが戦うフィールドはサーキットだけではない。ラリーが4WD化する前はリアエンジンの強力なトラクションを生かしてターマックやスノーラリーも大活躍した時代もあった。そしてさらに守備範囲は広がる。過酷な砂漠のコンペティション「パリ-ダカールラリー」に参加し、大かたの予測を超えてジャッキー・イクス選手の手で1984年のダカールを制した。サーキットの王者は砂漠でも王者だった。そのポルシェ953ダカールを現代によみがえらせたのが、世界2500台限定のオフロード仕様となる「911ダカール」である。
911カレラ4Sをベースにした911ダカールは、車高を50mm上げたスポーツサスペンションで、さらにエクストラで30mm車高を上げることができる。驚くべきはこの車高でも150km/hまで出せること。砂漠を高速で駆け抜けるダカール仕様らしいスペックだ。サスペンションももちろんダカールスペックで強化されているが、今時の砂漠のスポーツカーは都市でも他のカレラ同様に快適に走れる。
スポーツクロノパッケージとしてはグラベル、マッド、ウェットに対応するラリーモードと砂漠や岩に対応するオフロードモードを選択でき、どんな路面でも確実に最高のスタートができるローンチコントロールが備わる。異なる路面でシステムが4輪をコントロールして最適のスタートができるのは、未知の路面に遭遇するドライバーには心強い味方だ。
装着タイヤはピレリ「Scorpion All Terrain plus」で、サイズはフロント245/45ZR19、リア295/40ZR20。ポルシェの承認タイヤだ。オフロードを高速で走れるスペシャルタイヤで、サイドウォールの補強とトレッド面の強化で岩場でも走れる耐久性を備えているだけでなく、オンロードでもポルシェの厳しい要求性能に合致している。
パワートレーンは水平対向6気筒 3.0リッターツインターボエンジンに8速PDK(Porsche Doppelkupplung)の組み合わせで、可変トルク配分の4WD、リアステアを持つハンドリングと、安定性はどのような路面でもポルシェらしい最高のパフォーマンスを見せてくれる。
とにかく楽しい!
どこから見てもロスマンズカラーが施された911ダカールのコクピットに入り、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の快適なバケットシートに腰を落とすとドライビングポジションは自然にとれ、手も足もちょうど良い位置に収まる。
全高1338mmの911がどんな走りを示すのか興味津々だったが、これが驚くほど走りやすく、しかも911そのものだった。トランスミッションは8速PDKで2ペダル。アクスルのゲインは素直で市街地のストップ&ゴーからランプウェイの加速まで神経を使うところはない。
ノーマルスペックで161mmのグランドクリアランスと14.2度~16.4度のアプローチアングルの余裕は、例えばGT3などで神経を使う段差乗り越しでもSUVのように気軽に行なえるのはうれしい。
カチリとしたボディはロールケージでさらに締め上げられ、正確なステアリングレスポンスとタイヤが接地する感触までまるで身体の一部のように反応する。専用のオフロードタイヤはオールテレーンタイヤだが、それにしてもサイドもブロック剛性も高くオフロードタイヤらしくない。センターフィールもしっかりしており、ジワリと応答するところが好ましく、オンロード用スポーツタイヤを少し鈍くしたような感触だ。
ブレーキはポルシェの美点の1つ。4輪すべてに荷重がかかりながら減速する姿勢は何気ないブレーキングでも圧倒的な安心感がある。サーキットでもオフロードでも強力な制動力は圧倒的な武器になる。しかも安定した制動力は市街地でのブレーキングでも伝わってくる。ブレーキのペダル剛性からしてポルシェならではのワクワクする感動を与えてくれる。
ちなみに軽量化にも手を抜いていない。CFRP製のダクト付きのボンネット、特殊なリアスポイラー、バッテリやガラスがそれで、1gでも軽くしてロールケージなどのラリー装備分を取り戻そうという本気度が伝わってくる。
エンジンからはダイレクト感のある音が伝わってくる。いつもの超バランスのフラット6には違いないが、心なしか競技車らしいラフな音に聞こえる。いかにもラリー車らしく聞こえるのはエクステリア/インテリアの装備からくる雰囲気だけでないだろう。
何しろフル加速すると0-100km/h加速は3.4秒の俊足ぶり、カタログデータでは240㎞/hの最高速度を達成でき、353kW(480PS)/6500rpmはひとたびアクセルを踏むと突き抜けるような加速を示している。
最大トルクの570Nmを2300-5000rpmの幅広い回転域で実現するのも911ダカールの柔軟性を示しており、サーキットでも砂漠でもドライバーの期待に応えてくれるのは間違いない。そして市街地での走りやすさも最高だ。
フロントスポイラーの代わりにあるアルミステンレスのフロントアンダーガードは911ダカールの特徴。さらにボンネットには1984年のパリ-ダカ勝者、ジャッキー・イクス選手のサインがさりげなくデザインされていた。
とにかく楽しい! いつもは多少緊張しながらステアリングを握る911がグンと近い存在になった。ポルシェは本気で遊び心満載のオフロード仕様を作ってくれた。そして最後に気づいたのは「Rothmans」だと信じて疑っていなかったボディサイドのロゴが「Roughroads」に変わっていたことだ。真剣に遊ぶとはこういうことか!