試乗記

ポルシェ「911ダカール」、遊び心満載の本気のオフロード仕様だった

911ダカールに乗った

世界2500台限定のオフロード仕様「911ダカール」

 ポルシェが戦うフィールドはサーキットだけではない。ラリーが4WD化する前はリアエンジンの強力なトラクションを生かしてターマックやスノーラリーも大活躍した時代もあった。そしてさらに守備範囲は広がる。過酷な砂漠のコンペティション「パリ-ダカールラリー」に参加し、大かたの予測を超えてジャッキー・イクス選手の手で1984年のダカールを制した。サーキットの王者は砂漠でも王者だった。そのポルシェ953ダカールを現代によみがえらせたのが、世界2500台限定のオフロード仕様となる「911ダカール」である。

 911カレラ4Sをベースにした911ダカールは、車高を50mm上げたスポーツサスペンションで、さらにエクストラで30mm車高を上げることができる。驚くべきはこの車高でも150km/hまで出せること。砂漠を高速で駆け抜けるダカール仕様らしいスペックだ。サスペンションももちろんダカールスペックで強化されているが、今時の砂漠のスポーツカーは都市でも他のカレラ同様に快適に走れる。

 スポーツクロノパッケージとしてはグラベル、マッド、ウェットに対応するラリーモードと砂漠や岩に対応するオフロードモードを選択でき、どんな路面でも確実に最高のスタートができるローンチコントロールが備わる。異なる路面でシステムが4輪をコントロールして最適のスタートができるのは、未知の路面に遭遇するドライバーには心強い味方だ。

 装着タイヤはピレリ「Scorpion All Terrain plus」で、サイズはフロント245/45ZR19、リア295/40ZR20。ポルシェの承認タイヤだ。オフロードを高速で走れるスペシャルタイヤで、サイドウォールの補強とトレッド面の強化で岩場でも走れる耐久性を備えているだけでなく、オンロードでもポルシェの厳しい要求性能に合致している。

 パワートレーンは水平対向6気筒 3.0リッターツインターボエンジンに8速PDK(Porsche Doppelkupplung)の組み合わせで、可変トルク配分の4WD、リアステアを持つハンドリングと、安定性はどのような路面でもポルシェらしい最高のパフォーマンスを見せてくれる。

今回試乗したのは2022年11月に予約受注を開始した「911ダカール」(3099万円)。最高出力480PS(353kW)/6500rpm、最大トルク570Nm/2300-5000rpmを発生する水平対向6気筒 3.0リッターツインターボエンジンが搭載され、0-100km/h加速は3.4秒、最高速は全地形対応タイヤのため240km/hに制限される。また、8速PDKとポルシェ4WDシステムが採用されたリアアクスルステアリング、911 GT3から採用されたエンジンマウント、PDCCアンチロールスタビリティシステムなども標準装備される。ボディサイズは4530×1864×1338mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm
撮影車両はオプションの「ラリーデザインパッケージ」(390万3000円)を装着。1984年パリ-ダカールラリーの優勝車の外観を再現した911ダカールのラリーデザインパッケージ仕様車は、レッドとゴールドのデコレーティブストライプに加えてドアに登録商標されている“Roughroads(ラフロード)”ロゴがあしらわれる。さらにロールオーバーバー、6点式シートベルトを備えた「ラリースポーツパッケージ」(52万4000円)も装着する
911ダカールが装着するタイヤはスポーティなオフロード走行に適合するように、ピレリ「Scorpion All Terrain Plus」(フロント245/45ZR19、リア295/40ZR20)が専用開発され、トレッドパターンは9mmの深さで、補強されたサイドウォールとスレッドは2層のカーカスプライで構成。これにより高い耐カット性を備え、難易度の高い地形でも理想的な走りを実現するという
インテリアではフルバケットシートを標準装備し、リアシートを排除することでスポーツカーとしての意気込みを強調。また、軽量ガラスや軽量バッテリを装着することで軽量化も実施しており、車両重量は911カレラ4 GTS(PDK仕様)よりわずかに10kg重い1605kgとしている

とにかく楽しい!

 どこから見てもロスマンズカラーが施された911ダカールのコクピットに入り、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の快適なバケットシートに腰を落とすとドライビングポジションは自然にとれ、手も足もちょうど良い位置に収まる。

 全高1338mmの911がどんな走りを示すのか興味津々だったが、これが驚くほど走りやすく、しかも911そのものだった。トランスミッションは8速PDKで2ペダル。アクスルのゲインは素直で市街地のストップ&ゴーからランプウェイの加速まで神経を使うところはない。

 ノーマルスペックで161mmのグランドクリアランスと14.2度~16.4度のアプローチアングルの余裕は、例えばGT3などで神経を使う段差乗り越しでもSUVのように気軽に行なえるのはうれしい。

 カチリとしたボディはロールケージでさらに締め上げられ、正確なステアリングレスポンスとタイヤが接地する感触までまるで身体の一部のように反応する。専用のオフロードタイヤはオールテレーンタイヤだが、それにしてもサイドもブロック剛性も高くオフロードタイヤらしくない。センターフィールもしっかりしており、ジワリと応答するところが好ましく、オンロード用スポーツタイヤを少し鈍くしたような感触だ。

 ブレーキはポルシェの美点の1つ。4輪すべてに荷重がかかりながら減速する姿勢は何気ないブレーキングでも圧倒的な安心感がある。サーキットでもオフロードでも強力な制動力は圧倒的な武器になる。しかも安定した制動力は市街地でのブレーキングでも伝わってくる。ブレーキのペダル剛性からしてポルシェならではのワクワクする感動を与えてくれる。

 ちなみに軽量化にも手を抜いていない。CFRP製のダクト付きのボンネット、特殊なリアスポイラー、バッテリやガラスがそれで、1gでも軽くしてロールケージなどのラリー装備分を取り戻そうという本気度が伝わってくる。

 エンジンからはダイレクト感のある音が伝わってくる。いつもの超バランスのフラット6には違いないが、心なしか競技車らしいラフな音に聞こえる。いかにもラリー車らしく聞こえるのはエクステリア/インテリアの装備からくる雰囲気だけでないだろう。

 何しろフル加速すると0-100km/h加速は3.4秒の俊足ぶり、カタログデータでは240㎞/hの最高速度を達成でき、353kW(480PS)/6500rpmはひとたびアクセルを踏むと突き抜けるような加速を示している。

 最大トルクの570Nmを2300-5000rpmの幅広い回転域で実現するのも911ダカールの柔軟性を示しており、サーキットでも砂漠でもドライバーの期待に応えてくれるのは間違いない。そして市街地での走りやすさも最高だ。

 フロントスポイラーの代わりにあるアルミステンレスのフロントアンダーガードは911ダカールの特徴。さらにボンネットには1984年のパリ-ダカ勝者、ジャッキー・イクス選手のサインがさりげなくデザインされていた。

 とにかく楽しい! いつもは多少緊張しながらステアリングを握る911がグンと近い存在になった。ポルシェは本気で遊び心満載のオフロード仕様を作ってくれた。そして最後に気づいたのは「Rothmans」だと信じて疑っていなかったボディサイドのロゴが「Roughroads」に変わっていたことだ。真剣に遊ぶとはこういうことか!

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学