試乗記

新型「フリード」、新制御リアルタイムAWDを雪上試乗 e:HEVと高応答4WDシステムで雪道のよさを実感

鷹栖テストコースで新型フリード リアルタイムAWD搭載車に試乗

リアルタイムAWDとは?

 6月28日に発売となったホンダの新型「フリード」。以前もテストコースにおける走りをお伝えしたことはあるが、ここでは今年の2月に北海道鷹栖で乗った4WDモデルのプロトタイプについてお伝えする。e:HEV(ハイブリッドモデル)にもICE(ガソリンモデル)にも準備されるという「リアルタイムAWD」とは一体どんなものなのか?

 フリードが採用する4WDは、先代からプロペラシャフトを介して高い駆動力を与えられるものだった。新型フリードは基本コンポーネントを先代から踏襲する形で成立しているため、基本的なシステム構成は変わっていない。

 ちなみにスモールクラスの「フィット」で採用するAWDはビスカスカップリング式であり、駆動力の配分が根本的に異なるものだ。新型フリードのリアルタイムAWDでは、先代よりリアへ駆動力を与えるために細かく進化をさせてきた。

 決定的に違うのはリアの駆動力を旧型比で10%も引き上げたことと、常時四輪に最適な駆動を与えるタイプに変化したことが新しい。ホンダは2018年に登場したCR-Vからこうした考えに方向転換を図り、フロントタイヤへの依存度を減らし、きちんと駆動をかけつつ曲がっていく4WDを生み出してきた。

 近年では「ZR-V」がその考えを色濃く展開し、低μ路に強い4WDであることをアピール。ホンダの4WDは雪に弱いと言われたことは過去のものとなった。

 簡単に言ってしまえば、先代フリードはフロントが滑ったのちにリアに駆動を伝えるタイプ。車両の状態をアクセル開度と車輪速、そして前後Gセンサーを用いて駆動を配分していたフィードフォワード制御だった。新型はそこにヨーレートセンサーとステアリング操舵角センサーを加え、リアルタイムで理想的な状態を作るフィードバック制御としている。

 さらに従来の駆動力配分はステップ制御で、その狙いは燃費に貢献する4WDと考えたものだった。電動オイルポンプで油圧を発生させ、ソレノイドで油圧を封入するということをやっていたのだが、電費をよくしたいと電動オイルポンプを休ませ、電費を稼いでいたのだそうだ。だが、その電費のよさも微々たるものであり、高効率パワーユニットのe:HEVが完成した今ではそこまで電費にこだわる必要がなくなった。

 それなら常時電動オイルポンプを使い続け、走りをよくしたほうが得策だと今回の変更に至ったらしい。駆動トルク配分は100km/hまでリアに50%。従来は110km/hでカットしていたものを、V MAXまでリアに20%のトルクを流すように改められている。高速道路の最高速が引き上げられたことも鑑みての改良だ。これならハイスピードでも安定感が高まるだろう。

 こうした土台が完成した上で、アジャイルハンドリングシステムも搭載。インサイドの車輪のブレーキを早い段階から掴み、ヨー方向の動きを出そうとしている。また、トラクションコントロールやサスセッティングを煮詰めたところも自慢のポイントらしい。

鷹栖のテストコースで感じたe:HEVとリアルタイムAWDの気持ちよさ

e:HEVとリアルタイムAWDの組み合わせは意のままに操れる

 実車を見てみると最低地上高がFFモデルに対して15mmアップとなる150mmとなったところがまずはインパクトだ。CROSSTARならコチラのほうが見た目のマッチングもよいかもしれない。旧型を確認した後に走れば、見晴らしのよい視界にまずは驚く。下方向に開け路面が把握しやすく、さらに右コーナーにおいてピラーがじゃまにならずに前がはっきりと確認できるところが好感触だ。

 今回は鷹栖のワインディングコースを中心に走ったのだが、雪壁が常に迫る状況でこの視界はかなりありがたい。これなら極寒地に行ったとしても安心だ。そして滑らかさを展開し静粛性も豊かに走るe:HEVのよさが雪道でも光っている。4気筒エンジンが生み出す滑らかさ、そしてモーター駆動によるリニアなレスポンスもうれしい。

 その上で圧倒的なグリップ感が常に得られるのだ。4WDというとつい駆動力ばかりに気を取られがちだが、実はそのよさはフロントタイヤのグリップに余裕が生まれることなのだと改めて気づかせてくれる。ステアリングの接地感が外れることなく、アクセルを踏み込めばリアがわずかに巻き込むようにきれいに立ち上がる気持ちよさはたまらない。e:HEVならではのリニアなトルクの立ち上がりと、高応答の4WDシステムとのマッチングは最高だ。まさに意のままに操れる。これはひょっとしてスポーツ4WDなのかと錯覚するほどだ。

 さらに違和感を与えずジワリと介入しているアジャイルハンドリングシステムの自然な動きもありがたい。フロントタイヤは最後まで路面を離さない、そんな動きを展開してくれる。

 ついついペースが上がり、これならガンガン攻め込めそうだと血が騒ぐ。極限まで行くと「トルクの立ち上がりがもっと鋭ければリアを動かして楽しめるのに!」というシーンもあるが、もちろん、そこまでスポーティにする気はホンダにはなく、あくまでミニバンなのだからと抑えてある部分もあった。この辺りがちょうどよいサジ加減なのだろう。どんな環境でも余裕を持って走れ、常に安心感がある仕上がりには感心するばかり。

 最後に急な登坂路において、停止から発進してみたが、フロントタイヤは横方向に暴れることなく、すんなりと前に出たところもよかった。始めからリアに駆動がかかることがどれだけありがたいことか。旧型では遅れて駆動がくるために、フロントは左右方向にスライドしてしまった。もしも狭い坂道で、対向車でも来ている状況だったら……。新型に搭載されたリアルタイムAWDのありがたみが伝わってくる絶好のシーンだった。

 4WDモデルにはフロントガラス熱線、ヒーテッドドアミラー、そしてシートヒーターが標準装備となることも魅力的なところ。冬を見据えて購入するなら、やはりe:HEVのリアルタイムAWDがおすすめだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。