試乗記

スズキの新型「フロンクス」プロトタイプに最速試乗! クーペスタイルのコンパクトSUVの走りをクローズドコースで味わう

スズキの新型コンパクトSUV「フロンクス」プロトタイプ

目指したのは「コンパクトなBセグメント」

 スズキの世界戦略車「フロンクス」。その日本仕様を、先んじて伊豆サイクルスポーツセンターで試乗することができた。

 ちなみに、スズキが国内でクローズドコースを使った事前試乗会を開催するのは初めてのこと。それはまず今回用意された日本仕様がまだ若干の修正部分を含むプロトタイプだったからということもあるが、一方で7月25日の発表を目の前にまだナンバーが取得できない状況でも試乗の機会を作りたい! というスズキの意気込みの表われだと思う。

 ということで筆者もその印象をいち早くお届けしたいところだが、まずはフロンクスの生い立ちから簡単におさらいしておこう。

 そのルーツは、2015年に登場した「バレーノ」だ。これはスズキが初めてインド(マネサール工場)から、世界へ供給を行なったコンパクトカーであり、その販売は日本だと2020年までだったが、世界的には2022年まで続いた。

 そしてこの後を受け継いだのが、クーペスタイルのSUVへと変身を遂げたフロンクスだ。その生産は引き続きインド(グジャラート工場)で行なわれ、すでにインドをはじめ、中南米、中近東、アフリカで販売が開始されている。

 そしてこのたび、日本仕様が逆輸入される運びとなったわけだ。

スズキとして初めての開催となる「プロトタイプ事前試乗会」。いち早くフロンクスを触って、乗って、確かめてきた

 そんなフロンクスで筆者が最も注目したのは、ボディサイズとスタイリングだ。そのスリーサイズは3995×1765×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mmとなる。

 全長でいうとロッキー/ライズと同じくらいだが、よりワイドで背が低い。特にブリスターフェンダーとフェンダーアーチモールを二段構えした「ダブルフェンダー」は、力強く特徴的だ。ボディカラーは全7色だが、そのうち5色が2トーンのブラックルーフ仕様なのも、クーペスタイルを強調するためだろう。

 全体としてはロー&ワイドなデザインで、ボディのボリューム感をエッジの効いた前後のLEDライトがキリッと引き締めている。

 開発陣いわくフロンクスが狙ったのは「大きなAセグメント」ではなく、「コンパクトなBセグメント」だったという。だからロッキー/ライズは同じカテゴリーにいるかもしれないが、直接的なライバルとは捉えてはいないようだ。であれば「小さなヤリスクロス」と言えるかもしれないが、それでもやはり、フロンクスの方がクーペ的である。

ボディサイズは3995×1765×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mmで、車両重量は2WDが1070kg、4WDが1130kg(数値はすべて参考値)。近いサイズのモデルにはロッキー/ライズ(3995×1695×1620mm[全長×全幅×全高]、ホイールベース2525mm)や、ヤリスクロス(4180×1765×1590mm[全長×全幅×全高]、ホイールベース2560mm)が挙げられる。同じインド生産のWR-Vは4325×1790×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2650mmと、フロンクスより少し大きめ

パッと目を引く外観デザインに反したインテリアデザイン

 というわけで、ようやく車内に乗り込むこととしよう。

 クーペ、クーペと言い過ぎると中が狭いように思われるかもしれないが、運転席の居心地は良好だ。アイポイントは高く確保されているし、ヘッドクリアランスが特別狭いわけでもない。

 傾斜したAピラーがおりなす天地の狭いフロントガラスやサイドガラスを、解放感が低いと取るかクーペ的と取るかは好みだろう。

 また今回は狭い路地を曲がるシチュエーションがなかったので見切りは言及しにくいが、クルマそのものが大きくないので取りまわしはよさそう。ちなみにその最小回転半径は、4.8mとスイフト並みだ。

 グラマラスで堂々としたエクステリアに対して、インテリアは少しコンサバだ。ダッシュトリムの大ぶりなシルバー加飾や、ピアノブラックのパネルは上質。またボルドーのレザー調マテリアルの選択も、プレミアム感は出るのだが、新しさや若々しさはない。9インチとおぼしきセンターモニターは、大ぶりで見やすい。メーター類もマルチインフォメーションディスプレイがカラーなのはうれしいが、全体としては従来通りとなっている。

フロンクスのインパネ。金属フレームを高輝度シルバー塗装としてがっしりとしたホールド感を、サイドルーバー加飾やドア加飾にパールブラック塗装を用いて洗練さを表現したという
標準装備なのかオプションなのかは不明だが、カロッツェリア製に見える大画面ナビゲーションシステムを搭載
メーターはシンプルでスズキ車らしいデザイン
シートはブラック×ボルドーの2トーン配色。表皮はレザー調とファブリックのコンビネーション。フロントシートもリアシートもゆったりとしていて座り心地はかなりよい

 例えばインパネやシートは、グレーのテキスタイルに鮮やかなステッチを施すような、Z世代的ライトさがあってもよいと思う。また簡素でもいいからサステナビリティを感じさせる素材を使うなど、インテリアでも未来に向かって走っていく疾走感がほしい。

 もちろんそこにはコストが掛かるし、あまりに洗練させ過ぎると間口も狭くなる。とはいえクーペスタイルのSUVがそもそもオシャレな存在なのだから、もう少しだけ若さを意識してもよいだろう。また節約上手なスズキだからこそ、再生素材を採用することで実は上がってしまうコストとの向き合い方を、もっとアピールしてもよいと思う。

 こうした内外装に対して、走りはスッキリと爽やかだ。

 パワーユニットは、自然吸気の1.5リッター直列4気筒「K15C」型を主軸に置いたマイルドハイブリッド。ガソリンエンジンの最高出力は73kW(約99PS)/6000rpm、最大トルクは134Nm/4400rpmで、これを2.3kW/60Nmの直流モーターがアシストする。その駆動方式はFWDと4WDの2本立てだ。

パワートレーンは2WDも4WDも共通で、最高出力74kW/6000rpm、最大トルク135Nm/4400rpmを発生する直列4気筒K15C型エンジンに、最高出力2.3kW/800-1500rpm、最大トルク60Nm/100rpmを発生するWA06Aモーターを組み合わせるマイルドハイブリッド。トランスミッションは6速ATとなる。ガソリンタンク容量は37L(レギュラーガソリン)

FWDと4WDを乗り比べ

 最初に試乗したのはFWDモデルだった。

 マイルドハイブリッドよろしくゼロスタートからちょっと勢いよくアクセルを踏み込むと、車内には“ブロォー”っと、野太いNAサウンドが響いた。そこに現代的なストロングハイブリッドの、「目指せEV」的な静粛性を期待すると、きっと肩透かしを食らうだろう。

 しかし吸排気にVVT機構を持つ4気筒エンジンは吹け上がり方がスッキリしており、そのサウンドもかなり心地よい。

 板厚を上げたダッシュパネルやインナーサイレンサーの効果も高いのだろう、常用域で回転が落ち着くと、車内はかなり静かだ。サイクルスポーツセンターの路面は滑らかだから早とちりはできないが、これなら(きっと価格もリーズナブルだろうし)ストロングハイブリッドじゃなくてもいいかな? と思える静粛性が得られている。

 遮音性で付け加えればフロントフェンダー内には吸音性に優れるポリウレタン製隔壁が用いられ、ボディ骨格断面の各所に遮音壁がもうけられている。またリアドアガラスの板厚を上げることで走行風による騒音を低減し、ベンチレーターを騒音の元になるタイヤやマフラーから遠い位置に配置するなど、実に細かい配慮がなされている。

 足まわりは、しなやかに動く印象だ。

 静粛性と同じく路面はおおむね滑らかだから、乗り心地も断定はできない。それでも橋の継ぎ目を乗り越えたときの突き上げ感のなさや、衝撃吸収の早さには感心した。タイヤが195/60R16サイズと攻め過ぎていないのも、バネ下の収まりのよさに貢献している。サスペンションストローク量の多さを考えても、スイフトより乗り心地がよくなるのではないか。

 ただ個人的にはFWDのハンドリングが、ややリニアさに欠けると感じた。現状はロール剛性が少し低いのか、微少舵角でクルマが曲がり始めない。

 対して4WDはステアリングの切り始めから、スッとノーズがきれいに入っていく。車重が若干増えたことに対する足まわり剛性が向上しているせいなのか、前後重量配分がよくなっているからなのかは分からない。4WDモデルの乗り心地がとりわけ硬いわけではないから、微妙なバランスの違いなのだろう。コーナリングに入ってしまえば、どちらもロールバランスは良好だ。FWDモデルは販売の中心になるはずだから、このしなやかさを保ったまま、4WDモデル並みに曲がってくれるようになったらうれしい。

 ちなみにこの4WDは降雪地域での安全性を高めるためのミニマルな仕様で、機構的にもビスカスカップリングを採用している。よってドライ路面で運動性能を上げるような駆動アシストはなされていない。

 パワーユニットも、もう少しだけレスポンスを上げてほしいと感じた。

 空走状態から軽くアクセルを乗せるような場面だと、トルクはうまく追従する。しかし深いアクセル開度で瞬時に加速を求めるような場面だと、反応がワンテンポ遅れる。センターコンソールの「スポーツ」ボタンを押せば追従性は上がるが、常にそれを押しているのもやる気マンマンな気がして嫌だと思うユーザーはいるだろう。そしてこうした場面でこそ、モーターのアシストが活きるべきだと思う。またせっかくパドルが付いているのだから、こちらも反応をもう少しだけ早めてほしい。

 ボディにはほどよい剛性感があり、パワーバンドに乗せていくと走りにも連続性が出てくる。車両重量も1130kgとこのセグメントとしてはかなり軽いから、少ないパワーを上手につないで走らせれば、がぜん運転が楽しくなってくる。この気持ちいい領域にサッと入れるレスポンスが備われば、フロンクスはとてもいいコンパクトSUVになると思う。どうやら日本仕様には採用されないようだが、インド仕様には5速MTもあるらしい。決して数はさばけないだろうけれど、限定車としてこれを出してみても、その素性のよさをもっと分かりやすく伝えられるだろう。

 今回は高速道路での巡航を試す機会はなかったが、先進安全装備もきちんと搭載済みだ。単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせでクルーズコントロールは全車速追従が可能なACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)となり、乗用車やトラックだけでなく、バイクや自転車も検知対象となる「デュアルセンサーブレーキサポートII」が装備される。

 その第一印象は、イケメンにして優等生。ちょっと冒険していないところもあるとは思ったが、チーフエンジニアの森田祐司さんいわくフロンクスを企画するにあたって開発メンバーとは「今までスズキが培ってきたよさをまとめあげた1台にしよう」と話し合ったという。確かにその通りのよさはクローズドコースでもにじみ出ていたし、やはりスズキは実直なクルマを作ってくれる会社だとうれしくなった。市販モデルを一般道でじっくり試すのが、とても待ち遠しい1台だ。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:安田 剛