試乗記

ランドローバー「ディフェンダー」、日本初導入のV8エンジン仕様をチェック

V8エンジン搭載の「ディフェンダー カルパチアンエディション」に試乗

ディフェンダーにV8仕様を追加

「ディフェンダー」は発売以来、世界から引っ張りだこだ。直列4気筒2.0リッターエンジンから始まって直列6気筒3.0リッターディーゼルターボと続き、2023年はとうとうV型8気筒5.0リッタースーパーチャージャーが登場し、人気に拍車がかかった。

 もともとこのカテゴリーはメルセデス・ベンツ「G 63」がプレミアムオフローダーとしてリーダーシップを握っていたが、ランドローバーもディフェンダーにV型8気筒5.0リッタースーパーチャージャーエンジンを搭載したことでその一角に杭を打つことになった。

 V8 5.0リッターのスーパーチャージャーはジャガー・ランドローバーでしばしば使われているオリジナルのエンジンで、古くはジャガー「XJ8」などに搭載されていた。もちろん現在のディフェンダーに搭載されているV8はその知恵を受け継ぐ進化型だ。

 スーパーチャージャーはアクセルに直結して加給されるのでターボほど効率は高くないが、泥濘地での微妙なアクセル操作にも正確に反応するところが優れている。

 オフローダーと言えばタフさが身上。素っ気なさが逆に好まれるところだが、ディフェンダーは丁寧な作り込みとシンプルながらも気品のあるところに英国製品らしさがにじみ出るところだ、

 着座位置はランドローバーの定番、コマンドポジションでボンネットの水平もとりやすく四隅がつかみやすい。とは言っても、4945×1995×1970mm(全長×全幅×全高)という大きさ。ミドルサイズホイールベースの110仕様でも3020mmという長いホイールベースを持つだけに、コース状況に応じては全体をつかみ切れないところもある。

 そんなときはディスプレイにシースルー画面を出せば4輪の位置と路面の状況を確認することができる。このようなサポートシステムがありディフェンダーは特別に運転しやすい存在だ。

今回試乗したのは「ディフェンダー」2024年モデルに追加された「CARPATHIAN EDITION(カルパチアンエディション)」(1685万円)。ボディサイズは4945×1995×1970mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3020mm
カルパチアンエディションおよびV8グレードでは、クアッドアウトボードマウンテッドエキゾースト、マトリックスLEDヘッドライト、ステアリングホイール(スエードクロス)、グロスブラックブレーキキャリパーなどを標準装備。さらにカルパチアンエディションにはカルパチアングロスバッヂ、グリル、フロント/リアスキッドパン、カルパチアングレイサテンプロテクティブフィルム、ナルヴィックブラックコントラストボンネット&テールゲート&ロワーボディクラッディングが専用装備として装着される
22インチホイールにコンチネンタル「クロスコンタクト RX」(275/45R22 115W)をセット
カルパチアンエディションのインテリア
ディスプレイのシースルー画面

上質な重量級クロカン車らしい味付け

 エンジンの最高出力は386kW(525PS)、最大トルクは625Nmと大きなもので、特にトルクは2500-5500rpmの幅広い回転域で625Nmを出し続ける。2450kgという重量の車体を低速でジワジワと動かすことができ、急坂でも豊かなトルクの恩恵で路面をつかみながら走れる。市街地では2000rpmにも至らずにユルユルと滑らかに動き、8速のトルコンATは滑らかに変速を繰り返して市街地を流す。

 しかしアクセルを強く踏み込むとV8エンジンはそれまでの穏やかさをかなぐり捨てて、ガツンと加速する。4本出しマフラーから発する排気音も力強く豪快。いかにも過給機付きV8 5.0リッターエンジンらしくグイグイと加速して、トップエンドの6500rpmを突き抜けるようにまわりそうだ。この豪快さがディフェンダー V8の持ち味だ。

V型8気筒DOHC 5.0リッタースーパーチャージャーエンジンは最高出力386kW(525PS)/6500rpm、最大トルク625Nm/2500-5500rpmを発生

 しかもボディの頑丈さは4気筒モデルで確認済み。異常に高いねじれ剛性は出力が上がったところでいまさら補強するまでもない。加速時の姿勢安定性も高く、優れたエアサスとの相乗効果でボディはフラットに保たれる。

 高速クルージングはディフェンダーの得意科目。ラダーフレーム車と比べると直進安定性が高く、全車速クルーズコントロールを入れておけばどっしりとしたハイスピードクルージングが可能。

 さすがに大きなタイヤは路面アンジュレーションなどでステアリングの切り始めに少し滑らかさを欠くこともあるが、基本的には快適な滑らかさでロードノイズも車内にほとんど入ってこない。

 タイヤはコンチネンタル「クロスコンタクト RX」でサイズは275/45R22 115Wを装着する。いかにもワイドなタイヤは2450kgの荷重にも十分踏ん張りそうだ。大きなクルマだけに首都高速のタイトなコーナーではロールが大きくなるが、前後のロール姿勢に不安感はない。しかも適度な操舵力は人工的な味付けが省かれ、ドライバーの感性に巧みに寄り添ってくれる。ステアリングの戻し操作に対してのロール収束もよく姿勢安定性も高い。

 乗り心地は快適。さすがに22インチタイヤの突き上げは若干感じられるが、エアサスのチューニングがうまく、なめるように路面をトレースする感触は上質な重量級クロカン車らしい味付けだ。

 エアサスによる車高調整は乗員が降りるときは低く、悪路を走破するときは高く設定でき、路面に合わせて駆動力配分を自在に変えるテレインレスポンスと組み合わせると地球上、行けないところはないんじゃないかと錯覚する。

車高を上げた状態、下げた状態

 V8スーパーチャージャー。ハイエンドでハイパフォーマンスの純ガソリンエンジンを手に入れられるのもあと少しかもしれない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学