試乗記

ランボルギーニの新型「レヴェルト」、電動モデルにおいても強烈な感動を与えてくれるスーパースポーツだった

新型「レヴェルト」に富士スピードウェイで乗った

V12スーパースポーツ初のプラグインハイブリッド

 最高出力1015HP、0-100km/h加速2.5秒、最高速350km/hオーバーを記録するランボルギーニ「Revuelto(レヴェルト)」が創立60周年を迎える2024年に登場した。事実上「Aventador(アヴェンタドール)」の後継モデルとなるレヴェルトは、V12スーパースポーツ初のプラグインハイブリッド「HPEV(ハイパフォーマンスEV)」を搭載し、フロントに2つ、リアに1つ備えられたモーターとV型12気筒6.5リッターの自然吸気エンジンのトータルで前述のパフォーマンスを発揮。対してCO2排出量は最後のV12エンジン搭載モデル「アヴェンタドール Ultimae(ウルティメ)」に比べて30%低く抑えられているという。

 シャシーは新たな「monofuselage」を採用。カーボンファイバー製のモノコックボディに、短繊維カーボンファイバーに樹脂を含ませたフォージドコンポジット製のフロント構造を加えている。アルミ製フロントフレームを採用していたアヴェンタドールとは違った部分だ。ちなみにリアフレームは高力アルミ合金製となる。結果としてアヴェンタドールに対して10%軽く、フロントまわりだけで言えば20%も軽く仕上げることに成功。ねじれ剛性は25%も引き上げられている。

 HPEVとなったが相変わらず主役となるV型12気筒6.5リッターエンジンは新型のL545型を採用。これもまたアヴェンタドールに対して17kgも軽い218kg。エンジンレイアウトはこれまでと180度回転していることが特徴だ。最高出力825HP/9250rpm、最大トルク725Nm/6750rpmを達成。これはランボルギーニの歴代12気筒の中でも最大となるリッターあたり127HPを誇る。

 組み合わされる8速湿式デュアルクラッチのトランスミッションはその後方に横置きとなり、その上にはモーターが備わる。結果として空間が生まれたセンタートンネルには、3.8kWhのリチウムイオンバッテリが搭載される。容量としてはそれほど大きくないため、家庭のAC電源または7kWまでのEV用充電器を使って30分でのフル充電が可能。エンジンからの直接充電でも6分でフル充電が可能となる。

 4WDシステムは電動となる。フロントには2基のモーターが与えられ、トルクはそれぞれ350Nm。トルクベクタリングや回生ブレーキの機能が備わっている。リアの最高出力110kW、最大トルク150Nmのモーターはスターターやジェネレータとして機能するほか、バッテリを通じてフロントのモーターに電力を供給。完全EVモード時には後輪に駆動力を供給し、4WD状態を作り出すことも可能だ。ちなみにリバースギヤはフロントのモーターによって基本的には行なわれる。より推進力が必要な場合や、低μ路の後退などではリアのモーターが加わるようになっている。

今回試乗したのは2023年6月に日本初公開された、プラグインハイブリッドHPEV(ハイパフォーマンス電動車両)の新型「レヴェルト」(6543万円)。ボディサイズは4947×2266×1160mm(全長×全幅×全高、全幅はサイドミラーを含む)、ホイールベースは2779mm。前後重量配分は44:56で乾燥重量は1772kgとした。V型12気筒6.5リッター自然吸気エンジンは最高出力825PS/9250rpm、最大トルク725Nm/6750rpmを発生し、そこにモーターの140kW(190PS)が上乗せされトータルで1015HPを発生する
レヴェルトの装着タイヤはブリヂストン「POTENZA SPORT」で、標準サイズがフロント265/35ZRF20、リア345/30ZRF21。写真はオプションホイールで、サイズはフロント265/30ZRF21、リア355/25ZRF22

静かなEVモード、ストレートエンド300km/hオーバーのCorsaモード

 今回はそんなレヴェルトを富士スピードウェイを走らせる。与えられた走行枠は午後だったのだが、コースコンディションは朝からの雨が昼過ぎまで続き、コース上はまだウエットパッチが残る状況。車両価格は6543万円。いろいろとプレッシャーだ。

 レヴェルトを目の前にするとその姿は圧巻だ。跳ね上げ式のドアはもちろん、筋肉質なスタイル、そしてひと目でランボルギーニのV12モデルの後継であることが理解できるプロポーションなどなど、なかなかのインパクト。リアのV12はヘッドカバーが完全に露出されていることもまたいい意味で暑苦しく、電動化を謳っておきながらもあくまでエンジンが主役であることを忘れてはいない。

 ドアを跳ね上げ「feel like a pilot」という考えでデザインされたというコクピットに収まると、空間的にはそれほど窮屈じゃないところに驚く。アヴェンタドールに対して足下スペースは84mmも拡大し、頭上クリアランスは26mmも拡大。シートの後ろにはゴルフバッグサイズの荷物も収納が可能なのだとか。もちろん、フロントフード下には小型キャリーバッグが2個も収まるラゲッジがあるのだから、これならかなり実用的!? 小物入れもあるし、助手席側のダッシュボードにはカップホルダーだって用意されている。

 ただ、フツーじゃないところは多く、たとえばステアリングにはドライビングモードやリアウイングの角度を調整可能なダイヤルが備わっているし、ディスプレイはドライバー側だけでなく、助手席にも与えられ車両状況が伝えられる。やはりスーパースポーツであることに間違いない空間だ。

 ウラカン STO先導のもとにスタートとなった試乗は、まずEVでの走りを試してほしいというアナウンスが先導ドライバーからあった。3つのドライビングモードである「Recharge」「Hybrid」「Performance」のうち、「Hybrid」を選択。さらに「Citta」「Strada」「Sport」「Corsa」のうち「Citta」を選択すると、都市部での日常的なゼロエミッションモードとなる。その動き出しは当然だが静けさがあり、EVモードだからといって暴力的なトルクは出てこない。最高出力の上限は180HPに抑えられている。これなら住宅街であったとしても迷惑をかけることなく動けるから大歓迎だ。

 そう感じたのはコースインしてV12が目覚めた時のサウンドが官能的すぎたからだ。886HPまで許す「Strada」を選択。足まわりなどがそれほど引き締められることなく快適に高速走行を楽しめる。コースチェックを兼ねて走るにはちょうどいい塩梅だ。それでも動きはなかなかシャープ。プラグインハイブリッド化されたとはいえ、車両重量は1772kgに抑えられている。最近じゃ2tオーバーなんていうクルマも珍しくないから、そこでまず軽快さが得られているように感じる。数々の軽量化がプラグインハイブリッド化のネガを打ち消した感覚だ。

 さらに高剛性のボディ、ベクタリングを生み出すフロントモーター、4WSの採用もあって、とても素直にクルマの向きを変えていく印象が強い。後述するが、足下を支えているブリヂストンの「POTENZA SPORT」の剛性の高さもまたシャープな動きにつながっている。

 続いて907HPまで許す「Sport」とモードを上げていくと、足まわりや空力が改められ、爽快なサウンドとともにみるみるレヴェルトが目覚めてくる。まるで1tを切るライトウエイトスポーツに乗るかのように富士のセクター3をクリアしていく感覚がなかなか新しい。トランスミッションをオートモードで走らせていると、ギヤは次々にシフトアップしていくが、どの回転域であったとしてもリニアに応答してくるところはさすがだ。

 慣れてきたところでいよいよ本領発揮となる1015HP仕様の「Corsa」を選択。そのころには先導ドライバーも少しペースを上げ始めた。とはいえ、何かあっては困ると、最終コーナーを立ち上がりアウトの縁石が終わったくらいのところから全開走行の許可が下りた。そこからはフルスロットル! ギヤもパドルを選択して自らが行なうようにしてみた。すると9500rpm付近の管楽器を思わせるサウンド。そしてそこに至るまでの中間トルクがとにかくすごい。これってバイク? っていうくらいの加速感を巨体が生み出していくのだ。

 もちろんそこには確実な安定性が備わっているから、決して無鉄砲なことをやっているわけじゃない。先導車は1コーナーから400mくらいのところからブレーキングを開始していたと思われるが、そんな状況でもメーター読みで301km/hをマークしていた。もしも最終コーナーをきっちりと立ち上がり、ブレーキングでもう少し奥に行っていたら、きっと330km/hくらいは出ていたのではないだろうか? 安全マージンたっぷりでも富士で300km/hオーバーとは恐れ入る。

 その後のコーナーリングでの一体感はかなり高い。ベクタリングも4WSも違和感を出すことなく仕上げた感覚で、血の通った対話がクルマとできるように仕立てられている印象が強い。ドライバーが行なうステアリング操舵角やスロットル&ブレーキワークを検出し、フィードバック制御ではなくフィードフォワード制御を展開しているというレヴェルトは、ドライバーが動かしたいようにやらせてくれる感覚がある。

 セクター3の安全なところでアクセルをラフに開ければ、リアはスルスルとゆっくりテールを振り出すのだ。スタビリティコントロールが効いた状態でわずかに遊ばせてくれるところもまた新感覚。スーパースポーツでウエットパッチが点在する富士でありながらも、恐怖感なく安全にクルマを手の内に収められている感覚をもたらしてくれたことには驚くばかりだ。

足下を支えるのはブリヂストン「POTENZA SPORT」

 これらすべての性能を支えていたのはブリヂストンのPOTENZA SPORTである。レヴェルトのパートナーとして選ばれたこのタイヤは、日本ではあまり聞き慣れない銘柄だが、実は欧州のスーパースポーツには標準装着されているものがいくつか存在し、欧州開発・欧州生産となる。今回採用されているのはレヴェルト専用開発品だ。

 ランフラットでありパンク時にゼロの空気圧であったとしても、80km/hで80kmの走行を許してくれることは言うまでもないが、ポイントとなるのはフロント265/35ZRF20、リア345/30ZRF21というサイズを採用しながらも、乗り心地や転がり抵抗をできるだけ悪化させないように作ることが難しかったのだとか。カーカスやトレッドの両面でネガをできるだけ出さないようにしたところが特徴だ。

 その上で公道もサーキットも両立しようというのが狙い。ピークパワーを求めてタイムを狙うようなタイプではないが、高負荷でも耐える設計となっているところがポイントだ。今回はドライのグリップを確認することはできなかったが、ハーフウエットにおけるコントロール性がきちんと備わっていたことに感心した。なんといってもリアは345サイズなのだから。その太さで滑り出しのコントロールがしやすいのは、クルマだけではなく、タイヤにもその要因があったことは紛れもない事実。さらにはヨレを感じないシャープな応答を生み出せていたところも好印象だった。

 こうして隅々まで次世代へと移行したと思えるレヴェルトだが、電動化や安全性が高まりつつも、やはり強烈な感動を与えてくれるスーパースポーツだったことにはホッとするばかり。300km/hオーバーが誰の手にも行き届くかのような仕上がりも驚きだ。まだまだクルマはおもしろくなっていくのだということを教えてくれた最高の1台だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。