試乗記

3代目フリードを公道で味わう ホンダ独自のハイブリッド方式「e:HEV」を搭載した恩恵とは?

3代目フリードのe:HEVモデルを公道で試乗する機会を得た

待望の「e:HEV」を搭載

 いよいよ3代目となる新型フリードに公道で乗れる機会がやってきた。これまですでにテストコースで乗ったことがあり、なかなかよさそうだということは予想できていたが、横浜みなとみらいを拠点に市街地や高速道路を走ってみて、そのよさを改めて確認できた。試乗したのは、いずれもハイブリッドモデル「e:HEV」の4WDのクロスターと2WD(FF)のエアーだ。

 従来モデルとはガラリと雰囲気が変わって、つくりとしては常識的になった3代目のインテリアには、すぐにしっくりとなじめる。リアルな風景の中だとなおのこと、大いに意識して開発したという運転席からの見晴らしのよさを実感する。

アウトドアテイストが加えられた「クロスター」は、角丸四角のモチーフを随所に配置すると同時に、シルバー加飾や樹脂製プロテクターを装着することで、力強さとモダンさを両立している。e:HEVクロスター4WDモデル(6人乗り)の価格は343万7500円
「e:HEV」化に伴い従来モデルよりも全長が45mm長くなったほか、クロスターはフェンダーに樹脂製アーチプロテクターを装備することで標準グレードより25mmワイドになり、ボディサイズは4310×1720×1755mm(全長×全幅×全高)となる。ホイールベースはと従来モデルと同じ2740mmのまま

 ハイブリッドにi-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)を最後まで搭載していたのがフリードとなったわけだが、待望のe:HEVが与えられたことで、他の車種と同じくスムーズで力強く電動感のある走りになったことを、フリードのようなクルマにとってはよりいっそう歓迎したい。

フリードも3代目に進化したタイミングでe:HEVが搭載された
3代目フリード e:HEVエアー EX 2WD(FF)7人乗りの価格は309万1000円。3代目フリードはステップワゴンのようなシンプルなエクステリアへと進化。エレガントなシチュエーションにもしっくり

 専用に用意されたIPU(インテリジェントパワーユニット)は、フィットやヴェゼルとバッテリは同じだが、多人数を乗せるミニバンであるフリードにあわせて容量が大きくされている。ただし、出力特性としてはクルマの使われ方にふさわしく、おだやかな加速フィールとしているのだが、真価を発揮するシーンは早々に訪れた。

搭載する直列4気筒1.5リッターエンジンは、最高出力78kW(106PS)/6000-6400rpm、最大トルク127Nm/4500-5000rpmを発生。そこに最高出力90kW(123PS)/3500-8000rpm、最大トルク253Nm/0-3000rpmのモーターが加わり、電気式無段変速機が組み合わせられる

 横浜界隈の上り勾配のある首都高速を駆け上がるにも、高速道路で再加速したいときも、筆者+成人男性2人+撮影機材の状態でも、ものともせず加速してくれた。ストレスを感じることはなく、感じるのはむしろ余裕。さらに乗員が増えても、これなら大丈夫そうだ。

 ECONモードを選択しても、走りに不満を感じることはないよう、ちょうどいい案配に味付けされている。エアコンもいくぶん燃料の消費を抑えるように制御されるが、室内空間の広いフリードでも暑い中でガマンをしいられることはない。ノーマルモードにすればより俊敏に走れるようになるが、ふだんはECONモードにしておいても問題なく走れる。

水平基調のインテリアなので前方の見晴らしがとてもよい
ステアリングはすっきりとした2本スポークを採用。7インチTFT液晶メーターも見やすい場所に配置している
シフトレバーまわりのスイッチ類も、使いやすいように用途でゾーン分けしてある
多彩な情報でも見やすく・分かりやすくを徹底して目指したというメーター
先進安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダセンシング)」は全タイプ標準装備

 軽やかなエンジンサウンドもまたよし。ホンダがこのクラスでは4気筒を主体としているのも、個人的にはうれしく思っている。

 今回は燃費を正確には計測していないが、ハイブリッドのFFで比較するとWLTCモードの公表値で従来モデルは20.8km/L、3代目は25.4km/Lと、公表値が従来より向上しているとおり、感触としても良好そうだった。

1列目だけでなく2列目からも操作可能なリアクーラー。暑い日でも3列目まで素早く冷やせるのがありがたい

乗り心地は上々

 公道でドライブするにあたって、気になっていたのは乗り心地だ。テストコースでよくても公道ではイマイチ……というクルマは過去にいくつもあった。果たしてフリードはいかに? と思っていたが、むしろ感心させられることになった。

3代目フリード e:HEVエアー EX 2WD(FF)7人乗りの内装。カラーはブラック。素材はファブリック×プライムスムースのコンビシート
7人乗りの2列目はベンチシートとなる
3列目は横の窓が大きくなり従来モデルよりも明るくなった

 従来モデルは、キビキビとした走りを追求して足まわりがひきしめられたことで、乗り心地としてやや硬さが感じられたのが正直なところだった。ところが3代目は、しっとりしなやかになっている。ハンドリングもゆったりとしたおだやかな味付けとされたのも大きな違い。このあたりは8年で考え方が変わったようだ。同乗者には3代目の乗り味のほうが好まれるだろう。

 その乗り心地に大いに貢献しているのがシートだ。上級機種のステップワゴンにも採用されて高く評価されたボディスタビライジングシートは、コストもかかるそうだがやはりよいものであるとつくづく思った。

6人乗りの2列目はキャプテンシート。大人でもゆったりすわれるほか、ウィンドウ面積が拡大したことで開放感も高い
6人乗りの2列目シートは、ウォークスルーもしやすい形状に仕上げてある

 加えて2列目シートも、開発陣から「ぜひ後席にも乗ってみてほしい」といつもよりも強く伝えられただけあって、これまたよくできている。1列目とともに2列目シートも、より高い快適性を追求して新たに開発されたもので、いかによいものであるかは実際に乗ってみるとよく分かる。従来モデルの記憶からすると、シートのクッション感もだいぶ違う。ウィンドウの面積が拡大したことで、開放感がグンと高まっているのもすぐに分かる。

3列目シートは構造を見直し、跳ね上げやすくしつつも、高さを押さえることで車室内の明るさを向上させている

 3列目は本質的に乗り心地では不利であることに違いはないが、制約も多々ある中でここまで使えるシートに仕上げたのだから文句はない。既報のとおり3列目シートは構造が見直されて跳ね上げやすくなり、格納したときの荷室の横幅が広くなり、車内の明るさも確保されたことで、使い勝手としてもずいぶんよくなった。

走りも「ちょうどいい」

 全長がわずかに伸びたものの、このサイズにより市街地では抜群に取りまわしがよいことに変わりはない。それでいて高速道路では小柄で箱型ながら、車体の上下のブレが小さく安定して走れるあたりも「ちょうどいい」。

 どっしりと安定感のある4WDからいくぶん軽いFFのエアーに乗り換えると、車両重量の実際の差よりもずっと動きが軽快になるように感じられるのは、あえてのそのように味付けされているからだろう。

運転席は骨盤が後ろに倒れないように、また左右にぐらぐらしないようにしっかり支える新フレーム構造「ボディスタビライジングシート」を採用したことで、疲れにくく、運転しやすいのが特徴だ

 ステップワゴンと共通の容量の大きなモーターを採用した電動パワステも効いて、ステアリングの操舵力が軽く、自然なフィーリングで正確に応答するので修正舵をあまり要しない。ひいては車体の姿勢が乱れにくくなることは、同乗者にもたらす恩恵も小さくない。また、ステアフィール自体は心なしか4WDのほうが印象がよかったことをお伝えしておこう。

 そんなわけで、現状で十分によくできていると思うが、しいて挙げると気になる部分はなかったわけではない。

静粛性が高いだけに、表面の粗い路面を走る際は少々音が気になる場面もあった

 ひとつは音だ。ふつうに乗っている分には静粛性はかなり高くて、とくに市街地では十分すぎるほどだ。ところが、郊外や高速道路の車速域で表面の粗い路面を走るととたんに音が大きくなり、やけに耳障りに感じられた。良路では抜群に静かな分、変化しろがより大きく感じられてしまうようだ。ただし、段差や継ぎ目を通過したときのインパクトハーシュネス系の衝撃音はよく抑えられていてあまり気にならない。

段差や継ぎ目を通過したときのインパクトハーシュネス系の衝撃音はよく抑えられていた印象

 もうひとつが微振動だ。7人乗りのほうが妙に気になる状況があったのだが、個体差の問題かもしれないので、あらためて確認しておきたい。

 全体としては「ちょうどいい」が走りにも当てはまったように思う。なにかと物議をかもしたi-DCDから定評あるe:HEVになり、なめらかで力強い走りを手に入れた上に、乗り心地もハンドリングもより快適になったことを歓迎したい。

今回はe:HEVモデルのみの試乗となったため、ガソリンモデルのインプレはいずれまたの機会に
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛