試乗記
3代目フリードを公道で味わう ホンダ独自のハイブリッド方式「e:HEV」を搭載した恩恵とは?
2024年8月6日 10:31
待望の「e:HEV」を搭載
いよいよ3代目となる新型フリードに公道で乗れる機会がやってきた。これまですでにテストコースで乗ったことがあり、なかなかよさそうだということは予想できていたが、横浜みなとみらいを拠点に市街地や高速道路を走ってみて、そのよさを改めて確認できた。試乗したのは、いずれもハイブリッドモデル「e:HEV」の4WDのクロスターと2WD(FF)のエアーだ。
従来モデルとはガラリと雰囲気が変わって、つくりとしては常識的になった3代目のインテリアには、すぐにしっくりとなじめる。リアルな風景の中だとなおのこと、大いに意識して開発したという運転席からの見晴らしのよさを実感する。
ハイブリッドにi-DCD(Intelligent Dual Clutch Drive)を最後まで搭載していたのがフリードとなったわけだが、待望のe:HEVが与えられたことで、他の車種と同じくスムーズで力強く電動感のある走りになったことを、フリードのようなクルマにとってはよりいっそう歓迎したい。
専用に用意されたIPU(インテリジェントパワーユニット)は、フィットやヴェゼルとバッテリは同じだが、多人数を乗せるミニバンであるフリードにあわせて容量が大きくされている。ただし、出力特性としてはクルマの使われ方にふさわしく、おだやかな加速フィールとしているのだが、真価を発揮するシーンは早々に訪れた。
横浜界隈の上り勾配のある首都高速を駆け上がるにも、高速道路で再加速したいときも、筆者+成人男性2人+撮影機材の状態でも、ものともせず加速してくれた。ストレスを感じることはなく、感じるのはむしろ余裕。さらに乗員が増えても、これなら大丈夫そうだ。
ECONモードを選択しても、走りに不満を感じることはないよう、ちょうどいい案配に味付けされている。エアコンもいくぶん燃料の消費を抑えるように制御されるが、室内空間の広いフリードでも暑い中でガマンをしいられることはない。ノーマルモードにすればより俊敏に走れるようになるが、ふだんはECONモードにしておいても問題なく走れる。
軽やかなエンジンサウンドもまたよし。ホンダがこのクラスでは4気筒を主体としているのも、個人的にはうれしく思っている。
今回は燃費を正確には計測していないが、ハイブリッドのFFで比較するとWLTCモードの公表値で従来モデルは20.8km/L、3代目は25.4km/Lと、公表値が従来より向上しているとおり、感触としても良好そうだった。
乗り心地は上々
公道でドライブするにあたって、気になっていたのは乗り心地だ。テストコースでよくても公道ではイマイチ……というクルマは過去にいくつもあった。果たしてフリードはいかに? と思っていたが、むしろ感心させられることになった。
従来モデルは、キビキビとした走りを追求して足まわりがひきしめられたことで、乗り心地としてやや硬さが感じられたのが正直なところだった。ところが3代目は、しっとりしなやかになっている。ハンドリングもゆったりとしたおだやかな味付けとされたのも大きな違い。このあたりは8年で考え方が変わったようだ。同乗者には3代目の乗り味のほうが好まれるだろう。
その乗り心地に大いに貢献しているのがシートだ。上級機種のステップワゴンにも採用されて高く評価されたボディスタビライジングシートは、コストもかかるそうだがやはりよいものであるとつくづく思った。
加えて2列目シートも、開発陣から「ぜひ後席にも乗ってみてほしい」といつもよりも強く伝えられただけあって、これまたよくできている。1列目とともに2列目シートも、より高い快適性を追求して新たに開発されたもので、いかによいものであるかは実際に乗ってみるとよく分かる。従来モデルの記憶からすると、シートのクッション感もだいぶ違う。ウィンドウの面積が拡大したことで、開放感がグンと高まっているのもすぐに分かる。
3列目は本質的に乗り心地では不利であることに違いはないが、制約も多々ある中でここまで使えるシートに仕上げたのだから文句はない。既報のとおり3列目シートは構造が見直されて跳ね上げやすくなり、格納したときの荷室の横幅が広くなり、車内の明るさも確保されたことで、使い勝手としてもずいぶんよくなった。
走りも「ちょうどいい」
全長がわずかに伸びたものの、このサイズにより市街地では抜群に取りまわしがよいことに変わりはない。それでいて高速道路では小柄で箱型ながら、車体の上下のブレが小さく安定して走れるあたりも「ちょうどいい」。
どっしりと安定感のある4WDからいくぶん軽いFFのエアーに乗り換えると、車両重量の実際の差よりもずっと動きが軽快になるように感じられるのは、あえてのそのように味付けされているからだろう。
ステップワゴンと共通の容量の大きなモーターを採用した電動パワステも効いて、ステアリングの操舵力が軽く、自然なフィーリングで正確に応答するので修正舵をあまり要しない。ひいては車体の姿勢が乱れにくくなることは、同乗者にもたらす恩恵も小さくない。また、ステアフィール自体は心なしか4WDのほうが印象がよかったことをお伝えしておこう。
そんなわけで、現状で十分によくできていると思うが、しいて挙げると気になる部分はなかったわけではない。
ひとつは音だ。ふつうに乗っている分には静粛性はかなり高くて、とくに市街地では十分すぎるほどだ。ところが、郊外や高速道路の車速域で表面の粗い路面を走るととたんに音が大きくなり、やけに耳障りに感じられた。良路では抜群に静かな分、変化しろがより大きく感じられてしまうようだ。ただし、段差や継ぎ目を通過したときのインパクトハーシュネス系の衝撃音はよく抑えられていてあまり気にならない。
もうひとつが微振動だ。7人乗りのほうが妙に気になる状況があったのだが、個体差の問題かもしれないので、あらためて確認しておきたい。
全体としては「ちょうどいい」が走りにも当てはまったように思う。なにかと物議をかもしたi-DCDから定評あるe:HEVになり、なめらかで力強い走りを手に入れた上に、乗り心地もハンドリングもより快適になったことを歓迎したい。