試乗記

ホンダ、日本専用に仕上げた「シビックRS」に初試乗 その走りの完成度やいかに?

2024年8月1日 発表

ホンダが「シビック」のマイチェンで新たに設定するという「RS」グレードを試乗する機会を得た

1.5リッターターボモデルに6速MTのみの「RS」グレードを新たに設定

 1972年の登場以来50年以上にわたり世界で累計2760万台を販売してきたグローバルモデルのシビックが、2024年秋にマイナーチェンジすることを発表した。今回はそのプロトタイプに試乗した模様をお伝えする。

 新型シビックのポイントとなるのは1.5リッターターボモデルに追加されることになったRSだ。そもそも「ロード・セーリング」を意味していたこのRSは、クルマの進化、そしてタイプRの登場なども重なり、シビックでは影を潜めてきたグレード名。今回は日本専用モデルとしてMTモデルに限定してその名称がよみがえる。

エクステリアの主な変更点はフロントバンパーのデザイン。よりシャープで突進感のあるスポーティなシルエットに仕上げている
RSグレードはさらに、ヘッドライト内部やドアミラー、エキパイフィニッシャー(マフラー出口)、シャークフィンアンテナをブラックにすることでよりスポーティさを強調させた

 シャープさを増したフロントマスクは、他のシビックも同様の変更ではあるが、エクステリアのクロムメッキ加飾だった部分はブラック加飾に変更。ホイール、ドアミラー、シャークフィンなどもブラックに改められている。インテリアはブラック基調にレッドステッチを施すなど、なかなかスポーティな仕上がりだ。

フロントグリル左側には赤い「RS」のエンブレムが配される
リアにも「RS」のエンブレムがあしらわれている
フロントブレーキのローターサイズは15インチから16インチへと拡大されている

 気軽に体験できる「クルマを操る喜び」、そして運転することで「心が昂る」クルマを届けたいという思いで開発されたという改良は多岐にわたる。まず、MTを操る気持ちよさを追求するため、シングルマス軽量フライホイールを採用。重量は現行比で-23%、慣性モーメントは-30%となっている。これによりエンジン回転降下レスポンスは50%アップ、エンジン回転上昇レスポンスは30%アップしたという。さらにはプロドライバーがヒール&トゥするかのような「レブマッチシステム」もモードに追加している。

 サスペンションはスプリング、スタビライザーの剛性をアップ。車高も5mmダウンさせ、ロール剛性は11%アップとなった。フロントコンプライアンスブッシュは液封からソリッドラバー化により80%剛性アップ。ダンパーも微低速応答をアップさせている。

新型シビックRSのインテリア
RSには走行モードに「スポーツ」と好みにセッティングできる「インディヴィジュアル」が新たに追加された

 また、ステアリングのトーションバーレートを60%アップさせた。ステアリングの操作量に対するタイヤの切れ角の追従遅れや切れ戻りを抑制し、ダイレクトなステアフィールを実現するなど、タイプRで得た知見が随所にちりばめられている。

 さらにフロントのブレーキサイズを15インチから16インチへと拡大。キャリパーも大型化され、パッド面積、熱容量は17%アップ。ローターも有効径6%、熱容量14%向上を達成している。

シフトノブの形状も改められているほか、シフト横には走行モードの追加に合わせてモード切替用トグルスイッチが搭載された
インテリアに赤の指し色を使用することでスポーティさを高めている
前席と後席のシートステッチにも赤色が採用されている

マイチェン前の「EX」グレード(6速MT)と新型「RS」グレードを試乗

RSの試乗車は新色の「シーベッドブルー・パール」に加え、「クリスタルブラック・パール」の2台。後ろのプラチナホワイト・パールはマイチェン前の「EX」グレード

 まずはマイチェン前モデルの乗り味を確認する。そもそも現行シビックはプラットフォームを旧型からのキャリーオーバーとして登場したが、構造用接着剤を旧型比で9.5倍に引き上げたり、ダンパー取り付け点の剛性強化、フロント&リアの環状構造、格子状フレーム配置により、ねじり剛性を19%もアップさせている。

現行シビックは、旧モデルよりもホイールベースを35mm、リアトレッドを12mmほど拡大して安定性が高められている

 また、ホイールベースは旧型比で+35mm、リアトレッドは12mm拡大していた。結果として荒れた路面もきちんと受け止め、ハイスピードでも安定感が高いなどかなり上質なクルマへと進化したが、その一方で安定方向に行き過ぎたような感覚があったこともまた事実だ。「スポーツするならタイプRにお任せ」という側面があり、ノーマルモデルはキビキビとした身のこなしを味わうような世界からは一歩引いた立ち位置だったように感じる。

しっかり安定して走れるけれど、キビキビとした身のこなしは影を潜めたような印象だ

 それを助長させたのがエンジンレスポンスの悪さだった。1.5リッターターボエンジンは、低回転から高回転まで実用上は問題ない吹け上がりを見せていた。だが、MTモデルにおいて、特に高負荷領域ではシフトアップ時に明らかに回転落ちが遅く、リズムがつかみにくいところが気になっていた。

 これはアクセル全開で圧がかかりきった直噴システムによるところだと旧型では語られていた。アクセルオフをしても燃圧が収まらず、少し燃料を噴いてしまうところがあったそうで、制御変更などを考えていると現行登場時に聞いてはいた。さらに瞬間的なアクセルオフは排ガス的にも不利。それらをようやく解消できたのかが気になるところだ。

新型のRSグレードは爽快フィールで操れる

 新型に乗り換えて走り出し、1速から2速にシフトアップした時点で思わず笑みがあふれた。前述した長年の課題が見事に解消されていたのだ。エンジン回転降下レスポンスは50%アップとうたうのはダテじゃない。

 正直にいってしまえばようやく普通のスポーツカーになれたという感覚なのだが、いずれにしても爽快フィールでMTを操れるようになったことは嬉しいかぎりだ。速さ的にいえばタイプRのように暴力的な加速はないが、対してためらうことなくアクセルを全開にできるところがストレスを感じない。

ステアフィールはかなり濃厚でドッシリとした感覚

 誰もが扱い切れる速さというフレンドリーさがRSの世界観だ。試乗コースとなったサイクルスポーツセンターでは2速と3速ギア比が離れていて、その間にもう1速くらい欲しいところがあったが、燃費と走りを両立しようとなるとこのあたりが市販車としては限界なのかもしれない。

少ない操舵角でコーナーを駆け抜けられる

 シャシーは明らかに引き締められた感覚があり、キビキビとした身のこなし。ステアしてリアが即座に追従してくるところも好感触。ステアフィールもかなり濃厚でドッシリとした感覚になり、タイヤの状況がきちんと伝わってくることで、無駄な切り込みを行なうようなことなく、少ない操舵角でコーナーを駆け抜けられるところが面白い。

 ここまで来るともっとタイヤの剛性やグリップが欲しくなる。それくらいにしっかりとしたシャシー勝ちのクルマになっている。カチッとしたフィールが出たブレーキもまた心地良かった。

扱いやすいパワーとレスポンスで、ためらわずにアクセル全開にできるから楽しい

 サーキットに行くようなことはしないけれど、ワインディングで気持ちよく走りたいという方々。さらにはタイプRでは速すぎて扱えないというビギナーにも優しいと思えたRSは、日本専用にしたというのがうなずける仕上がりである。日本のストリートでの面白さをとことん追求したその走りは、きっと多くのMT好きにマッチするに違いない。

今回の試乗はRSグレードのみだったので、ハイブリッドのe:HEVモデルのインプレッションはまたの機会に
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一