試乗記

プロパイロット2.0搭載の日産「セレナ」でロングドライブ その価値を改めて検証

セレナでロングドライブ

ルキシオンで往復約450kmを走ってみた

 お盆休みを目前に控え、日産「セレナ」でロングドライブを行なった。登場から1年と9か月あまりが経過したセレナ(eーPOWERとしては1年4か月)を、いまいちどじっくり走らせて、その走りと使い勝手を吟味するためだ。試乗したのはプロパイロット2.0を搭載する最上級グレードの「eーPOWER LUXION(ルキシオン)」。行程は編集部のある東京は神田 神保町から山梨県甲府市周辺までの往復約450kmで、街中から高速巡航、そしてワインディングまでを満遍なく走ってみた。

 編集部の地下駐車場で久々に対面したセレナは、ミニバンらしからぬ洗練されたデザインが相変わらず好印象だった。水平基調の大型グリルは両端をメッキモールした「Vモーショングリル」とすることで、存在感を示しながらも“いかつさ”を上手に取り除いている。またシルバーモールに隠れるように配置されるデイライトも、ひねりが効いていてモダンだ。そしてこのシームレス感のあるデザインにはカーディナルレッド/スーパーブラックのボディカラーがよく似合っていた。

2022年11月に発表された現行「セレナ」。e-POWER車は2023年4月から販売を開始し、今回試乗したのは最上級グレードの「eーPOWER LUXION」(2WD/479万8200円)。このグレードの最大の特徴は「プロパイロット 2.0」を標準装備したこと。プロパイロット 2.0ではナビゲーションで目的地を設定し、高速道路の本線に合流するとナビ連動ルート走行を開始。状況に応じて同一車線内でステアリングから手を離すハンズオフも可能にしている。ボディサイズは4765×1715×1885mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm
e-POWER LUXIONおよびハイウェイスターのエクステリアは、ダイナミックで力強い走りを想起させる印象的なデザインに仕上げた。両グレードとも専用16インチアルミホイールを装備し、タイヤはブリヂストン「TURANZA」(205/65R16)をセット

 サッと乗り込んで、スッと走り出せる軽やかさは、セレナの大きな魅力の1つだ。もちろんフロアが高いミニバンだから、乗り込むには“ヨイショ!”とひと上りする必要がある。それでも勢いづいて腰掛けたシートは、ふっかりと心地よく体を包み込んでくれるから、乗り込んだ瞬間から上質なムードが高まる。乗り出し500万円を超えるグレードで電動パワーシートがないのだけは何度乗っても残念だが、その実シート合わせは手動でもスムーズに決まる。

 レバーを廃して物議を醸したシフトボタンは、まずインパネまわりの景観がスマートだ。肝心な始動操作では確かに何度かレバーを探したけれど、慣れればダイレクトにDレンジへアクセスできるのも段々と楽だと思うようになった。ちなみにブレーキを踏んでいなければ、ドライブにもバックにも入らない。

インテリアは先進的で上質な広々とした空間を意識したデザインとし、シフトには日産として初めてスイッチタイプの電制シフトを採用。スッキリとした見た目と分かりやすい操作性を実現している
e-POWER LUXIONはブラックを基調とした専用内装。センターディスプレイと一体感のある統合型インターフェースディスプレイを採用し、12.3インチカラーディスプレイを用いるNissanConnectナビゲーションシステムはe-POWER LUXIONで標準装備。先進的なデザインのタッチパネル式オートエアコン(プラズマクラスター搭載)は、運転席、助手席、後席で別々に温度設定ができるエアコン独立温度調整機能を搭載
シートは素材の高級感と、お菓子などの食べかすが隙間に入り込みにくく、飲み物などをこぼしてしまったときもふき取りやすいなど機能性を両立。また、運転席の足の通過スペースを先代モデルから120mm拡大し、運転席と助手席の間の移動をよりしやすくするとともに、シートスライド機構を3列目にも標準装備したことで、8人フル乗車でもゆったりとした座り心地を実現した。なお、3列目用にスライドドアの開閉スイッチも用意され、乗降時の利便性を高めている

 そしてアクセルを踏むと、スタンバイを完了したe-POWERは前置きなしに静かな地下駐車場を“スーッ”と走り出す。小さなアクセル開度でも滑らかに進み、ON/OFFしてもギクシャクしない。文字にすると長いが、一連の流れはあっけにとられるほどスムーズでEV的だ。だから慌ただしくなりがちな出発の時間を、極めてスマートにスタートすることができた。

足まわりのセッティングに開発陣の優秀さをひしひしと感じる

 街中の印象は、乗る場所によって意見が分かれるだろう。ちなみに今回は編集部のスタッフ2人とカメラマンと筆者、男4人で1泊の荷物を積んで移動した。

 まず運転席からの感想は「静かで柔らかい」だ。完全な発電機として機能する1.4リッターエンジン(98PS/123Nm)は、なるべくこれを発動させないようにと粘るそのマネージメントがとても秀逸である。

 またバルクヘッドまわりの遮音性も高く、たとえエンジンが掛かっていても、それが自然吸気の直列3気筒であることを忘れさせるくらい静粛性が高い。もちろんアクセルを踏み込めば元気に回って発電を行なうが、加速に対する擬似的なアクセル追従性も自然だから違和感がない。

e-POWER車が搭載する直列3気筒DOHC 1.4リッター「HR14DDe」型エンジンの最高出力は72kW(98PS)/5600rpm、最大トルクは123Nm(12.5kgfm)/5600rpmで、組み合わせる「EM57」型モータの最高出力は120kW(163PS)、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)。e-POWER LUXIONのWLTCモード燃費は18.4km/L

 対してシャシーは、ダンピングがかなりソフト目。もっともセレナの歴史を振り返ると、初代はミニバンの高い重心を支えるべく足まわりがかなり硬めだった。そして乗り心地を改善するべくソフト路線を取った先代は、柔らかくしすぎてバウンシングが収まりきらなかったという経緯がある。

 現行モデルはざっくり言うとその中間を狙ったセッティングとなり、前2座席だとそれが乗り心地のよさにつながっている。しかしセカンドシートの居心地は、期待するほど改善されてはいない。確かに前方が見えるように視界も確保できているし、先代の船のごとく上下に揺らぐ動きもなくなった。突き上げも、なんとかダンピングできている。とはいえ重たいセカンドシートは路面からの入力で、わずかにでも常に左右に揺さぶられている感覚がある。

 その原因はやはり、3世代に渡って使い続けられるプラットフォームだろう。ミニバンは矛盾した乗り物で、一番快適なはずの2列目が、ボディのねじれや振動吸収性の違いから一番乗り心地がわるい。だからプレミアムブランドであるレクサスが「LM」で真っ先に4シーターをラインアップしたのは理にかなっていると思う。室内空間を贅沢に使うだけでなく、なるべく剛性が高いリアアクスル側にシートを配置して乗り心地を確保したわけだ。

 ボディ剛性を上げるにしても、きっとこれまでの常識を覆すくらいコストを掛けないと抜本的にミニバンの乗り心地は変わらないと思う。たとえば床下にバッテリを搭載すれば剛性面でかなり有利だが、それは次世代のプランだろう。となると日産がいま、e-POWERやプロパイロット2.0の搭載にコストを優先したのは頷ける。とはいえ3世代プラットフォームを使い続けるのはちょっとやり過ぎな気もするけれど。

 3列目はボディのあおりを受けない分、揺さぶられ感はほぼない。突き上げはするけれどバンプタッチもしないし、こちらの方が酔いにくいと感じる人も少なくはないだろう。ただし折りたたみシートの宿命で座面が薄く、さらにフルフラットを狙っているためサイドサポートがなくて、カーブで体を支えるのはちょっと面倒だ。お父さんの運転に、その乗り心地は大きく左右されるだろう。

 よって一番快適なのは、運転席と助手席ということになる。子供たちが遠出の際に助手席に乗りたがるのは本能的にこれを理解しているからで、ミニバンでもそれに変わりはないと思う。4名乗車であれば、2列目シートを可能な限り後ろに下げて乗るのはありだろう。しかし前席との距離は遠くなるから、せっかくの家族旅行で会話が途切れがちになってしまうデメリットもある。

2列目、3列目に座ったところ

 そんな中、頑張っているのは足まわりだ。本音を言えばもう少し初期のロールスピードを抑えたいところだが、それだと乗り心地に影響してしまう。このボディ剛性で快適性と走安性をなんとかバランスさせている足まわりのセッティングには、開発陣の優秀さをひしひしと感じる。

 そんなセレナをワインディングでスムーズに走らせるコツは、一気に荷重を高めないことだ。そのためにブレーキは先を読んで掛けていく必要が出てくるし、急なハンドル操作もできなくなる。カーブは頑張らず走って、立ち上がりからモーターのピックアップでスムーズに加速する。

 カーブでも立ち上がりでも、最初にGを穏やかにプリロードしてあげると、みんなの体はシートにじわっと押しつけられる。そうするとクルマの進行方向も直感的に分かるから、そのあとGが高まっても体が支えやすくなって、結果として酔いにくくなる。こうした操作ができるようになると、運転もうまくなる。極端にいえば足まわりがしっかりしたスポーツカーで走るより、セレナで上手に走った方が運転はうまくなると思う。

 セレナの動かし方が体になじんでくると、がぜん運転は楽しくなった。かなり厳しいことは言ったが、結局のところ450kmの道中ほとんどを筆者が1人で運転してしまった。

渋滞時こそハンズフリーの真骨頂

 さらに感激したのは、プロパイロット2.0のハンズフリー走行だ。デビュー当初は手放し運転の新鮮さばかりに心を奪われ、作動条件(制限速度付近であること、110km/h以下であること、GPS受信ができること等)や、操舵支援の範囲ばかりに注目していた。

 しかし渋滞にはまったときこそが、ハンズフリーの真骨頂だ。なぜなら低速で単調な運転が続くときの方が、クルマ側としても支援を持続させやすい。実際、今回は国立府中ICから都心首都高速までの渋滞がひどかったが、その道中をほとんどハンズフリーでやり過ごせたのにはちょっと感激した。またドライバーとしても、手足を楽にできると披露が軽減でき、むしろちょっとハイになって、元気を取り戻せたのだった。

 ずっと運転していたこともあったが、トータル450kmのショートトリップは、かなりの充実感だった。確かにボディ剛性の不足や重心の高さに満点はあげられないが、距離が増えるほどになじんでくるハンドリングの良さや、プロパイロット2.0の優秀さは魅力的である。今後のマイナーチェンジでは、先進安全技術だけでなくぜひともクルマの根幹部分を底上げしてほしい。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:安田 剛