試乗記

新型「ランドクルーザー250」(ディーゼル)、都市部でも乗りやすいクロカン4WD

新型「ランドクルーザー 250」に試乗

「ランドクルーザー」には3つのモデルが揃っている。「70」はオリジナルに忠実で世界の悪路を知っている質実剛健を形にしたようなオフロード車。「300」は万能の性能を持ちつつシリーズの頂点にふさわしい装備を誇るフラグシップ。そして「250」は300の走破性を受け継ぎ装備を簡略化した中核モデルとなる。

 今回試乗した250のプラットフォームは300と同じGA-Fをベースとしたラダーフレーム。300同様に超高張力鋼板を採用して剛性と軽量化を両立した新世代のラダーフレームで、フレーム剛性としては50%向上している。

 サスペンションも伝統のハイマウント・ダブルウィシュボーンをフロントに、リアにはトレーリングリンクのリジットでオフロードでの長大なストロークで4輪の接地性を実現している。オフローダーならではのラダーフレームとサスペンションレイアウトだ。

 250はフロントのオーバーハングを短くして機動性を向上させるために、かさばるSDM(Stabilizer with Disconnection Mechanism。オフロードでスタビライザーの左右の連結を切り、ストローク量を増やすシステム。ZXに標準)をサスペンションのボールジョイント後方に移動してロアーアーム形状も変更して機能性を向上させた。

今回試乗したのは2024年4月に発売した新型「ランドクルーザー 250」。グレードは2.8リッターディーゼル仕様の最上位モデル「ZX」(735万円)。ボディサイズは4925×1980×1935mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm

 エンジンはガソリンの直列4気筒2.7リッター自然吸気「2TR-FE」型とディーゼルの直列4気筒2.8リッター直噴ターボ「1GD-FTV」型から選べる。トランスミッションは副変速機付きでディーゼルはDirect Shift-8速AT、ガソリンは6速のトルコンATを搭載する。

都内でのランドクルーザー 250の取りまわしは?

 さて、試乗に借り出したのは最高出力150kW(204PS)/3000-3400rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1600-2800rpmのディーゼルターボ。オフロードでの驚異的な性能は確認済みで、今回は真夏の都内での試乗。類まれなオフローダーは都会でどれだけの機動力を発揮できるか?

 ボディサイズはZXで4925×1980×1935mm(全長×全幅×全高)とかなり大きい。端正でスクエアなボディはコンパクトに感じるが、大型クロスカントリー車であることは変わりがない。

 Aピラーのグリップをつかんでドライバーシートに座ると、水平基調のウェストラインがスッキリして前方視界が開けている。ドラポジも自然と直前視界を確保する正しい姿勢に座る。ダッシュボードの余分なラインは極力排除され、ボンネット両端の感覚もつかみやすい。同時にウェストラインも下げられており、左右の視界が開けて市街地での運転も楽だ。

 シートは3列ある7人乗りで3列目はフロアにフォールドダウンされているが、ラゲッジルーム横にあるスイッチによって電動で畳むこともできる(ZX)。3列目への乗り込みは2列目シートがレバー1つでイッキにたためて容易だった。爪先は制限があるがレッグルームは意外と広い。

ZXの内装カラーはダークチェスナット。3列シート仕様のほか、ディーゼル仕様には5名乗車仕様もある。なお新型ランドクルーザー 250では運転席の着座位置を後方に移動しつつ、2列目と3列目シートの配置位置の見直しを実施。951mmという広い前後カップルディスタンスを確保している

 最初の印象は大型クロスカントリー車らしくゆったりしたもの。一般的なSUVでは上下に揺さぶられるところでもサスペンションがショックを吸収してくれる。

 市街地での取りまわしはクリアな視界のためにサイズの割には扱いやすく、ランドクルーザーでは初採用となる電動パワーステアリングも操舵力が軽くクルマのサイズを感じさせない。最小回転半径は6m(ホイールベース2850mm、トレッド1665mm)とそれなりに大きいが、それでも見切りのいいボディとパノラミックビュー、サイドビュー、シースルーカメラなどを駆使すると都内の狭い駐車場も大抵は収まってくれる。

 このシースルーカメラはオフロード走行で自車のタイヤの位置、路面状況が確認できて重宝するが、意外と都会でも使い勝手がいい。また後方視界では縦長のドアミラーの視認性がいいことと、ドアから離れて付けられているので斜め前方も確認しやすかった。

 装着タイヤはダンロップ「GRANDTREK」、サイズは265/60R20 112Hでかなり大きなタイヤだ。車両重量2410㎏(ZX)の重量を支えるにはこのくらいのサイズは必要だ。標示はM+Sだが、パターンも細分化されてノイズも小さい。細かい路面凹凸も吸収する都会でも使えるオフロードタイヤだ。

20インチアルミホイールにダンロップ「GRANDTREK」(265/60R20 112H)をセット。ZX以外のグレードは全て18インチホイールが標準装備となる

 ステアリングの応答性は素直で、ラダーフレーム車にある位相遅れは少なくとも市街地ではほとんど感じない。ゆったりとした応答がむしろランクルらしくて好ましい。

 乗り心地はフロントシートは快適だが、2/3列目のシートクッションが薄いため路面からの突き上げを受けやすい。またホールド性がもう少しほしいところだ。ラダーフレームそのものの振動が伝わってくることもある。

 3列目もエマージェンシーとはいえ、スペースも確保され電動可動システムもあるほどなので素材などをもう少しひねってほしかった。その代わりラゲッジルームは広く、3列目を倒すとバックドアから2列目シートには手が届かない。2列目も倒すと広大なスペースが生まれる。

ラゲッジスペースのレイアウト例。6:4分割セカンドシート使用時でも408Lのラゲッジ容量を確保。サードシートはスイッチ操作で自動的に格納する5:5分割式

都市部でも乗りやすいクロカン4WD

直列4気筒2.8リッター直噴ディーゼルターボ「1GD-FTV」型エンジンは最高出力150kW(204PS)/3000-3400rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1600-2800rpmを発生。WLTCモード燃費は11.0km/L

 混雑した首都高速に入る。加速は力強い。2.8リッターの4気筒ディーゼルターボは従来型よりレスポンスが向上しており、アクセルを踏んでから一瞬の間をおいてグイーンと加速する。欲を言えばアイドリングからの立ち上がりのトルクがもう少しあると自然な加速を得られるだろう。いつか電動モーターの力を借りる時代がくるのかもしれないが、タフで故障知らずの世界のランクルであり続けてほしいものだ。

 高速道路の合流では250の端正さと重量感がそうさせるのか、他車が自然と道を開けてくれる。もともと俊敏な動きは似合わないので威風堂々とした走りはランクルらしい。

 首都高速のほとんどは路面がきれいだが、カーブ間をつなぐ路面のアンジュレーションは微妙に付けられている。全車速ACCを入れて前走車についていく。60km/hぐらいだろうか、実際の流れはもう少し速い。クルマに任せていると車線の左側による癖があり、車幅が1980mmある大きなクルマだけにもう少し車線中央を維持してほしい。交通量の多く車線が狭い首都高速でなので、もっと機能を有効に使える東名高速や東北道では活用幅が広がるに違いない。

 また渋滞時ドライバー支援は渋滞時に停車しても30秒以内なら自動発進、追従する機能があり安全運転に大きな効果がある。今回の試乗ではうっかりサングラスをしていたためドライバー検知ができず慌てて外す一幕もあったが、それ以降はバッチリ機能した。またブレーキのタッチは硬めで踏み込めばそれ相応の効果はあるが、初期は甘いので制動には余裕を持っていた方がよさそうだ。

 高速巡航ではモノコックとは違うフレーム車らしい微妙な横揺れと緩いピッチングを伴ってユラリと巡航する。剛性の高いラダーフレームは一世代前のようなステアリング修正の必要はないが、それでも緩く動くのは否めない。しかしこれがタフな悪路走破性と耐久性、そして現代の高速巡航性のバランスを取った250が出した答えだ。

 さて250、サイズを感じさせない都市部でも乗りやすいクロカン4WDだった。ADAS系はトヨタ最新のものが装備され、高い予防安全性を実現している。高度運転支援「トヨタチームメイト」も進化し続けているが、それに頼ることなくクルマの基本を鍛え上げたところがランクルらしい。

 ディーゼル仕様のWLTC燃費は市街地で8.5km/L、高速で12.6km/Lとなっており、実際に都内を走りまわった時は5.6km/Lで、さらに伸びていきそうだった。撮影時もエンジンをかけていながらの数字なので、現代のディーゼルとしては妥当なところだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛