試乗記

ホンダの新型「アコード」、クルマとしての完成度の高さを公道で再確認

11代目となる新型「アコード」

ウエットのワインディングでも安心感高く走る

 以前クローズドコースの試乗において、エンジンが主役に躍り出たと感じた新型「アコード」。2モーターハイブリッドの「スポーツe:HEV」は、エンジン自体の剛性を改めたことによる爽快なフィーリングから、エネルギーマネージメントまでドライバーの意思に沿ったレスポンスを実現。さらには一体感に溢れ、フラットさ際立つシャシーの仕立ても心地よかった。一般公道でそのスポーティな仕上がりはどう感じるのか?

 走ればパワーユニットのフィーリングは常にリニアだ。以前はモーター主体に走らせたのちに、トルクが欲しい時、またはバッテリが少なくなった時に一気にエンジンを始動させるイメージだったが、新型はアクセルにリニアにエンジンが反応を示してくれるようになった感覚だ。「スポーツe:HEV」にはエンジンと車軸を直結できるギヤが備えられているが、それを作動した時にも維持している領域が拡大したところも興味深いポイント。セクセルを踏み込んでいっても簡単にはギヤが解除されず、これまたエンジン主体で走っている領域が長いことも特徴だろう。巡行時のダイレクトな感覚がうれしい。

今回試乗したのは2024年3月に発売となった新型「アコード」。国内向けホンダ車として初搭載となる「Google」「Honda SENSING 360」など、ホンダの最新の安全技術や先進装備を搭載した。2WD(FF)の「e:HEV」の1グレード展開で、価格は544万9400円。ボディサイズは4975×1860×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm
足下は18インチアルミホイールにミシュランのプレミアムコンフォートタイヤ「e・PRIMACY(イー プライマシー)」の組み合わせ。タイヤサイズは235/45R18
パワートレーンは直列4気筒DOHC 2.0リッターの直噴アトキンソンサイクルエンジンと、新開発の高出力モーターを採用した2モーター内蔵電気式CVTを搭載。エンジンの最高出力は108kW(147PS)/6100rpm、最大トルクは182Nm(18.6kgfm)/4500rpm。モーターの最高出力は135kW(184PS)/5000-8000rpm、最大トルクは335Nm(34.2kgfm)/0-2000rpmで、WLTCモード燃費は23.8km/L
新型アコードでは国内向けホンダ車として初めてGoogleを搭載。Google アシスタント、Google マップ、Google Playを車内で簡単に利用できる。また、国内向けホンダ車として初採用の「エクスペリエンスセレクション ダイヤル」を用い、エアコンやオーディオソース、音量、照明の色や明るさなどの設定を組み合わせて登録し、1つのダイヤルでまとめて簡単に操作できるようにした

 一方、ワインディングにおいてスポーツモードを使えば、ASC(アクティブサウンドコントロール)が擬似音を出しながらさらに爽快なフィーリングを示す。このASCはかつてのNA時代のVTECの気持ちよさを改めて分析し、それを展開したというだけあって、突き抜けるかのような盛り上がりを感じさせてくれる。

 また、クランクやブロック剛性を見直したエンジンは、滑らかな回転フィールを実現。相乗効果によって飛ばすことなくスポーティなフィールを得られるところが好感触だ。さらにパドルシフトは4段階から6段階に減速力を高めることが可能で、その反応も素早い。旧型は0.1G、新型は0.2Gの減速度を生み出すことが可能になったため、ほぼワンペダルでワインディングをクリアすることも可能だ。

 そんな時に、モーションマネージメントコントロールがうまく車両の姿勢を作ってくれる。かつてのアジャイルハンドリングシステムは限界域で姿勢を補助するシステムだったが、このモーションマネージメントコントロールは日常域からわずかに作動。ステアリングの操舵角などを見て前後荷重を作り、ドライビングをサポートしている。違和感なくそれが動くため、運転がうまくなったかのような動きを実現している。結果、リアに座ったとしても快適性が高まった感覚だ。

 シャシーの仕上がりはそれだけではない。アクティブダンパーシステムは、かつてはヨーと前後の動きだけを見てコントロールしていたが、SRSエアバックのセンサーを活用することで、上下、ロール、ピッチまでを含めた6軸の情報を処理しながらダンパーの減衰力をコントロールすることで、フラット感がかなり増している。一体感のあるスポーティさがありながらも、突き上げ感を感じることはない。後席に座っていても身体が揺さぶられるようなことが少ないところもメリットの1つといっていいだろう。ウエットのワインディングでも安心感高く走っていたことが印象的だ。

セダン復権に繋がることを期待

 運動性能だけでなく安全性能の向上も見どころの1つだ。Honda SENSING 360による周辺状況の把握は確実なものとなりつつあり、ACC(アクティブクルーズコントロール)作動時には、割り込みなどの反応も手前から素早く行なえるように。合流などで車間をうまく取ってくれることはかなりの安心感だ。また、再加速時の遅れ感がないところも好感触。ウインカー操作1つで車線変更のハンドル操作支援も行なってくれる。

国内向けホンダ車に初搭載となる最新の全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」では、約100度の有効水平画角を持つフロントセンサーカメラに加え、フロントと各コーナーに計5台のミリ波レーダーを装備することによって360度センシングを実現。また、従来の「Honda SENSING」の機能に前方交差車両警報、車線変更時衝突抑制機能、車線変更支援機能も加わった。なお、2025年には車両周辺の死角をカバーし、交通事故の回避やドライバーの運転負荷の軽減をサポートする全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360+」をアコードに搭載する予定

 さらに駐車場にいけばHondaパーキングパイロットがステアリング、アクセル、ブレーキ、シフト操作まで全てを行なってくれる。右寄りとか左寄りにならずきちんと駐車枠内の中央に収めてくれる。これが並列駐車だけでなく、縦列や斜め駐車にも対応しているというから頼もしい。また、Google assistantによる確実な音声操作があることも安全につながっている。このように運動性能だけでなくあらゆるサポートもまたアコードの魅力だ。

駐車支援システム「Honda パーキングパイロット」の作動のようす
Google assistantによる音声操作も可能

 いまはセダン劣勢の世の中だが、爽快な運動性能とコンフォート性能、さらには現代のサポートがしっかりと搭載されているアコードは、改めてパートナーとして魅力ある1台に感じる。派手さはないが1台のクルマとしての完成度はかなり高い。この仕上がりがセダン復権に繋がることを期待したい。

 だが、もし可能であればあのクルマのように、ワゴンやクロスオーバーなんていうのがあればいいかなとも思えてくる。このまとまりがもっと多くの人に注目される次なる一手が欲しいこともまた事実。この1台だけで終わらせるにはもったいなさすぎると思えるものが新型アコードには存在していた。

ホンダアクセスでは新型アコードの純正アクセサリーを用意し、「SPORTS LINE」「TOURING LINE」の2つのスタイルをラインアップ。中でも「ロアースカート」「トランクスポイラー」といったエクステリアアイテムが好評を博しているという
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学