試乗記

ホンダの進化した“スポーツe:HEV”を搭載する新型「アコード」初試乗 スポーティからエレガンスまで変幻自在な乗り味

2024年3月8日 発売

544万9400円

新型アコードに試乗する機会を得た

進化した「スポーツe:HEV」は何が変わったのか?

 11代目となる新型アコードの試乗をクローズドコースで行なうことになった。今回の試乗で主にフォーカスを当てるのはパワーユニットとなる「スポーツ e:HEV」だ。2モーターハイブリッドとなるホンダの「e:HEV」は2013年より発売を開始。基本的にはエンジンが発電機となりモーターで走るが、巡行状態ではエンジンとタイヤが直結されるモードを持つユニットとなる。

新型アコードのエクステリアは、ロー&ワイドなプロポーションを踏襲し、力強いノーズと伸びやかで流麗なフォルムを採用している
フルLED化を採用した薄型ヘッドライトと、横一文字のリアコンビネーションランプにより、ワイドな印象を強調した

 これはコンパクトカーからミドルサイズまでラインアップを拡充させてきたものだ。そしてその発展版といえるのが出力や効率を高めた「スポーツ e:HEV」であり、これまでにもシビックやZR-Vに搭載されてきた。だが、新型アコードに搭載される「スポーツ e:HEV」は、そこからさらに進化している。まずはその内容から見てみよう。

新型アコードは2024年3月8日発売で、価格は544万9400円。すでに2023年12月から先行予約を開始している

「スポーツ e:HEV」の進化の1つ目は高効率化されたエンジンで、新開発の2.0リッターエンジンを直噴化したことと、高圧縮比(圧縮比13.9)としたところがポイント。筒内に直接燃料を吹くことで冷却が可能になり、ノッキングの抑制に役立っている。もう1つのポイントは、大量クールドEGR(Exhaust Gas Recirculation=排気再循環)を安定的に燃やすことが可能になったことだ。

ホンダのe:HEVは、基本的にはエンジンが発電機となりモーターで走るが、巡行状態ではエンジンとタイヤが直結される

 高流動ポートで導かれたEGRと高燃圧多段噴射によって混合気がシリンダー内で渦を巻くような動き=タンブル流を、中央部がえぐれたタンブル保持ピストンによってしっかりと受け止めるようになった。結果として高トルク域の燃料消費率は30%低減、ストイキ(ストイキメトリー=理論空燃比)トルクも30%向上しており、高回転域であっても効率が下がりにくいエンジンとなった。

新開発2.0リッター直噴エンジン概要

 結果として筒内圧がこれまでよりも増大。それを受け止めるためにこれまで行なっていたクランクシャフトの軽量化は廃止し、高剛性を狙ったものに改めている。また、振動対策としては、これまで通り2次バランサーを搭載。静粛性を高めるためにエアクリーナー、インテークマニホールド、エンジンカバーには吸遮音構造を採用。エンジンカバーはウレタン一体となる厚みや弾力性のあるものになった。

実用燃費とドライバビリティの向上
静粛性と爽快なサウンドの実現

「スポーツ e:HEV」進化の2つ目はドライブユニットである。モーター配置をはじめ細部まで大きく異なっているのだ。従来型は駆動用モーターとジェネレーターが隣り合った同軸上にあり、カウンター軸にあるエンジンロックアップギヤレシオとモーターレシオが共用となっていた。新型は上側に駆動用モーター、下側にジェネレーターが配置される。カウンター軸にあるエンジン軸からつながるロックアップギヤレシオとモーターレシオが独立して選択することが可能となった。

 すなわち、モーターレシオを変更することなく、エンジンのロックアップギヤレシオを選択できるようになり、仕向地に合わせてロックアップギヤを選択することが可能になった。旧型では全仕向でモーターギヤレシオはO.A.(オーバーオール)で8.395、ロックアップギヤはO.A.で2.754だった。新型では日本、北米ほかで、モーターギヤレシオはO.A.で8.688、ロックアップギヤはO.A.で2.537。中東向けでモーターギヤレシオはO.A.で8.688、ロックアップギヤはO.A.で3.547。なお、このドライブユニットはすでに北米のCR-Vにも搭載されており、それにはロックアップギヤをもう一段追加することで、低速でもエンジン直結走行が可能になっている。これはトーイング(けん引)などをすることを考慮した設計だ。

ドライブユニットの先代と新型の比較
先代ドライブユニットと新型ドライブユニットの性能数値

 新型ドライブユニットの駆動用モーター出力は315Nm→335Nmへ、回転数は13000rpm→14500rpmへと進化している。これを達成できたのは、まず新開発の高性能磁石を採用したからだ。耐熱性を落とすことなく、磁力の強さを増したことで磁石を小型化することが可能となり、結果としてモーターローターの遠心力を小さくすることができている。

 また、磁石を小型化するとステーター側の磁束量が減ってしまうが、磁石をより外周に配置することで、むしろ鎖交磁束を増加につながり、トルク向上につながっている。さらに、最高回転数の向上技術としては、モーターローターの変更が大きい。ローター内は軽量化を目的として、肉抜きされるような作りになっているのだが、中央部は大きめに、中心部は薄長に肉抜きされていた。その抜き方や形状を複雑に見直すことで、回転応力に対応する領域と、ローター中心に圧入されるシャフトからの応力を今までよりも最適化。ひずみをなだらかにすることができたそうだ。これを多重円環構造と名づけているが、このおかげで最高回転数を1500rpmも引き上げることに成功している。

トラクションモーターの進化

 一方、ジェネレーター部も大きく変わった。小径長軸となったそれは、従来のものが最大トルクは85Nm→68Nmへとダウンしているが、対して最高回転数は13000rpm→19000rpmまで引き上げている。より深いレシオを採用することにより、エンジントルクの向上をしっかりと受け止められるようになった。結果としてダイレクトアクセル制御を行ない、エンジン回転をはじめから上げ目にしてステップを繰り返すリニアシフトコントロールを行なうことが可能になった。

 従来は低い回転で燃料消費率のよい領域をできるだけ使い、それでも要求トルクが足りなくなったら一気に回転上昇をさせるラバーバンドフィールがつきまとっていたが、エンジンとジェネレーターを共に進化させたことで、爽快感溢れるフィーリングが実現できたのだという。

ジェネレーターモーターの進化

 また小型バッテリモジュールの開発にも成功。小型セルを採用することにより同様に72セルを搭載しながらも体積は9%、重量は14%も軽減。従来は劣化マージンも考慮した使用容量だったが、市場データの蓄積により劣化マージンを廃止でき、実際に使える容量は拡大している。さらに、エンジンが出力負担をする領域が拡大したことで、バッテリの発熱も抑えることに成功。冷却用の排気ダクトを削減することもできている。

IPCとCPUの進化の概要

新型アコードで進化した「スポーツe:HEV」の実力をチェック!

 このように「スポーツ e:HEV」の進化はかなりのものだ。エンジン、ドライブユニット、そしてバッテリの進化によって走りはどう変化したのか? 旧型を確認試乗したのちに新型を走らせてみる。まず感じるのは圧倒的にエンジンが主役に躍り出たということだった。

新型はアクセルを踏んだ瞬間からエンジン回転がリニアに引き上げられていく感じが気持ちイイ

 旧型はモーター走行が主体であり、そこで足りなくなったところでエンジンが始動。トルクが足りなくなれば一気にエンジン回転を引き上げて補うという仕立てだった。結果としてドライバーの右足が要求するトルクを生み出せてはいるが、エンジンの回転に一体感がなかった。

 新型はアクセルを踏んだ瞬間からエンジン回転がリニアに引き上げられていくイメージで動き、さらにトルクを要求すればステップシフトを繰り返しながら加速を重ねてくれる。おかげでこれまで通りのクルマのフィーリングが楽しめる。

エンジンフィーリングもかなりよくなっている

 さらに嬉しいのがエンジンフィールがかなりよくなったことだ。滑らかに回っている感覚が伝わってくるとでも言えばいいだろうか? クランクシャフトやエンジンブロックの剛性を見直したことが感じられ、滑らかなフィールが得られるところが好感触。スポーツモードに入れればそこにASC(アクティブサウンドコントロール)が生み出す擬似音が加わるのだから、なかなか爽快だ。

 パドルシフトは4段階→6段階に回生量が幅広く調整できるようになったところも扱いやすい。回生量を最強にすれば、ほぼワンペダルでワインディングを駆け抜けることができる。旧型は0.1G、新型は0.2Gを生み出す回生量の違いがあるそうだ。

運転席のメーターに表示される下向きの「V」が回生量を示すマーク。写真では6段階の4を使用している状態

 シャシーはアクティブダンパーシステムが6軸の情報を処理しつつ、フラットに車体をキープしながら駆け抜けてくれる。旧型に比べればやや引き締められたイメージながらも、突き上げ感を感じないところはマル。後席に座ってみても不快感は少なく、ワインディングでの身体の振られも少なかったことが印象的。

センターディスプレイでパワーフローを確認できる

 一方でスポーツモードに入れれば、ワインディングをハイペースで走っても不足を感じることはない。程よいロールやピッチを感じながら、タイトなコーナーもきちんと走ってくれるイメージがある。特にフロントタイヤの接地感を最後まで離さない感覚はなかなかだ。モーションマネージメントシステムがブレーキを使いながらきちんと姿勢作りをしてくれる優しさもうれしいところ。雨のワインディングでも不安感を全く感じない仕上がりだった。

雨のワインディングでも不安なく走れたのが印象的

 結果、トータルで爽快な走りを実現してくれた新型アコード。「スポーツ e:HEV」だけでなくシャシーの仕上がりも含めて、この気持ちよさは、まるでかつてのユーロRのようでもある。まだクローズドコースの試乗であり、エンジン直結モードや一般道の乗り心地は未確認分だが、ファーストインプレッションは上々。今後がかなり楽しみな1台だった。

ZR-Vやシビックなどで鍛えられ、ホンダのスポーツe:HEVは確実に進化し続けている

新開発の直噴エンジンと並行軸配置2モーター内蔵電気式CVTの展示も

 試乗会場の控室には新開発2.0リッター直噴エンジンのカットモデルや、並行軸配置2モーター内蔵電気式CVTの内部構造が分かるような展示物も用意されていた。

新開発2.0リッター直噴エンジンカットモデル
奥が吸気側で直噴ノズルが見える。ピストンヘッドの凹みはタンブル(渦を巻いた混合気)を保持するため
排気側のポートは上下にウォータージャケット(水穴)があり冷却効率が高められている
この並行軸配置2モーター内蔵電気式CVTがエンジンの横に配置される
右上の大きい円がトラクションモーター、左下の小さい円がジェネレーター
回転させる取っ手が付いていて、回すことで2モーター内蔵電気式CVTの作動が分かる。名称はCVTだけど、金属ベルトは使用していない
旧型はトラクションモーターとジェネレーターが同サイズで並列に並んでいる

 さらにこの日は、ホンダの「e:HEV」への理解をより深めることを目的にしたメディア対抗(全11媒体)の試乗対決も実施された。車両はSUVモデルの「ZR-V e:HEV」で、ルールは決められたルートを走行して、EV走行の割合とエンジン直結走行の割合の多さをそれぞれ競うもの。もちろん道路状況によって差が出てしまうので、あくまでレクリエーション的なイベント。Car WatchチームはEV走行もエンジン直結走行もどちらもバランスよく燃費のいい走りを心掛けた結果、エンジン直結走行が3位、EV走行が4位とバランスのいい走りを実現できていた。

エンジン直結走行では3位、EV走行では4位とバランスのよい結果だった
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。