試乗記

雪上で進化型GRヤリスとGRカローラ搭載のスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を味わう

進化型GRヤリスのスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を雪上で試乗

トヨタのスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を搭載する進化型GRヤリスとGRカローラ

 GRヤリスとGRカローラに搭載されている「GR-FOUR」と名付けられたスポーツ4WDシステムを、今回は雪の上で味わうことになった。ステージは苗場スキー場に用意された雪の特設コース。会場には映画「私をスキーに連れてって」で活躍していたST165型のセリカが準備されているという気合いの入れようである。

 ST165型展示車は、LIMITのステッカーやSALLOTのスキー、インテリアに目を向ければストップウォッチがルームミラーにぶら下げられるなど劇用車さながらの仕上がりだ。このセリカの4WDシステムは「GT-FOUR」という名が与えられていた。初期型はセンターデフロック機構が用意されていたり、後期型になったらビスカスカップリングが与えられたりと進化を繰り返した。

GRヤリスとGRカローラ、個性の異なる2台のスポーツカー
特設の試乗会場に展示されていたST165型セリカ。GT-FOURと名付けられたスポーツ4WDシステムを搭載していた。映画「私をスキーに連れてって」で人気爆発

 実はGRヤリスやGRカローラに搭載されている「GR-FOUR」も先日発表された進化型ヤリスにおいて、制御システムを改めている。

 現行はNORMALが60:40、SPORTが30:70、TRACKが50:50としていたが、進化型GRヤリスはNORMALが60:40、GRAVELが53:47、TRACKが60:40~30:70としている。前後デフに備わるファイナルギヤのギヤ比に差をつけ、リアタイヤが速く回ることを許容するこのシステム。ポイントとなるのは電子制御カップリングがそのギヤ比の差をうまく吸収したり、一方で締結を強めてリアに積極的にトルクを配分できることだ。今回はそこに連続可変制御が凝り込まれたところが目新しい。

新しい4WD制御モードを持つ進化型GRヤリスを雪上で体感

進化型GRヤリスを雪上で体感した

 1速2速で走るような細かいワインディングステージにおいて、新しい4WDモードを持つ進化型GRヤリスを走らせる。始めはノーマルモードで動かすが、安定方向に終始動く感覚がある。タイトターンでサードブレーキを引けば、電子制御カップリングはフリーとなり、クルリと向きを変えるあたりはさすがの仕上がり。思わずニッコリである。

 もしもフリーにならなければこうはいかない。4輪に制動力が発生し失速するだけに終わってしまう。サイドターンなどできて当たり前と思うかもしれないが、4WDシステムのおかげでそれが達成できていることを忘れてはならない。

 その後、グラベルモードにするとやや鼻先がラクになる感覚があり、旋回方向が得意な仕様に。けれども、アクセルでグイグイとスライドさせようと思うとなかなか難しい。まあ、効率よく走れているのだが、やはり求めるのは派手なヤツ。雪の上なのでアクセルでスライドさせながら立ち上がるような世界をやってみたい。

 そこで今度はトラックモードに入れてみる。すると、運転が上手くなったかのようにクルリと向きを変え、アクセルを入れればリアがスライドしながら立ち上がってしまう。スライドさせすぎてドリフトアングルが深くなると、今度はフロントにトルクを移して前を引っ張るようにクルマが助けてくれるところもありがたい。これは安全だし、なにより面白い。

 実は以前乗ったサーキット試乗において、このモードはおせっかい過ぎると感じていた。極端にリアにトルクが移り遅れてオーバーステアが発生していたからだ。先読みしにくい仕上がりに、これなら連続可変機構はいらないとさえ思えていた。

 だが、雪上で乗ったらその考えが改まった。とにかく操り易く楽しさがいっぱいだ。さらに、VSCの介入を遅らせるEXPERTモードも試すと、イン側のブレーキをつまみながらうまく旋回させてくれるところが好感触。前述したすべての走りはVSCをフルキャンセルしていた状況だったため、すべてはドライバー次第。けれども、誰もがそれをいきなりやるにはハードルが高い。EXPERTモードはスポーツドライビングを誰もが楽しめるようになっている。

 スポーツドライビングの裾野を広げたという意味では、進化型GRヤリスに加わった8速ATモデルの設定もまたありがたい仕上がりだった。Gazoo Racing Direct Automatic Transmission(GR-DAT)は、その名が示すとおり、アクセルに従順な仕上がりが魅力の一つ。

ATモデルにも試乗。アクセルに従順な仕上がり

 Dレンジでアクセルコントロールを行なっている場合、ギヤをキープしてシフトアップしないところが好感触だ。ただ、タイトターンなどに差し掛かった場合、ダウンシフトがついてこない場合もある。ABSが効いていたり、アクセルの踏むスピードが遅すぎたりする場合にこうしたことが起きやすいように見えた。

 だが、そんな場合にはマニュアルシフトが重宝する。トヨタ系として初となる、前がダウン、後がアップというセレクターは、やはり減速時にダウンがしやすい。総じてコントロールしやすく、クラッチ操作の必要がないことから、ステアリング操作やサイドターンに集中しやすく、安定した走りが可能だった。

扱いやすい動きのGRカローラ、テスト仕様の駆動配分は好印象

こちらはGRカローラ。4WDシステムの制御は、現行のGRヤリスと同じ

 続いては同じコースでGRカローラに乗る。GRヤリスに比べて車重で200kg近く重く、ホイールベースは80mm長いこのクルマが搭載する4WDシステムは、現行のGRヤリスと同様「GR-FOUR」である。

 走らせると動きがかなりマイルドであり、しかもゆっくりと滑り出すような感覚もあるため扱いやすさが増しているような感覚がある。今回の特設コースではタイトターンが連続するため、やや窮屈な感覚はあるが、ビギナーにはこちらのほうがなじみやすい仕上がりといってよいかもしれない。

 ただ、あまりにリアを滑らせるような走らせ方をすると、最終的には重さがあるため、リアの発散を止めきれないようなシーンに出くわすこともある。進化型GRヤリスと同様のTRACKが60:40~30:70となるモードが加えられたら、より旋回性もよく、さらに安定した走りになりそうな気もする。今後の進化が楽しみである。

 最後にお遊びタイムアタック大会があったのだが、そこではGRカローラのテスト車両に乗ることができた。この車両は「GR-FOUR」を45:55にトルク配分固定し、さらに油圧サイドブレーキシステムを引きやすい位置に与えていた。

 会場を変え、割と大きな間隔のパイロンジムカーナを行なったが、そこではノーズの入りやすさ、アクセルによる姿勢コントロールの一定性などがあり、実に操り易く仕上がっていた。フロントタイヤの横力に余裕が生まれてステアが効きやすく、さらに適度なトラクションが得られることもなかなかのバランスだ。

 また、アンチラグを加えて低回転にドロップしたとしてもアクセルのツキが得られるところもメリットの一つだろう。油圧サイドブレーキによるタイトターンクリアの動きもなかなか。手足のように動くマナーのよさには脱帽である。

こちらは新しい制御モードが入ったGRカローラのテストカー。4WDモードは電子制御のため、アップデートなどで現行車両に適用することも考えているという

 進化型GRヤリスにおいて、フルモデルチェンジかと思わせるほどの進化をみせていたGRの開発陣が、まだこうしてテスト車両を制作して様々な模索を続けていることには驚くばかり。雪上での性能を確認するとともに、今後の進化もまだまだ期待できそうだと感じた雪上試乗だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。