試乗記

国内復活を果たしたホンダ「オデッセイ」改良モデル 走りの質はどうなった?

480万400円~516万4500円

2023年冬に日本市場へ再投入された「オデッセイ」改良モデルに試乗する機会を得た

製造工場が変わったことで何がどう変わったのか

 オデッセイといえば、ミニバンらしからぬ走りとデザインで人気を博してきた“低床ミニバン”だ。その5代目となる現行モデルは2013年から発売され、狭山工場の完成車生産終了を機に、2021年をもって国内販売は終了していた。一方海外では北米や中国工場で生産が続いており、このたび広汽ホンダ(GAC Honda Automobile)から逆輸入する形で、2年ぶりの復活を果たした。

 ということで今回は、マイナーチェンジしたオデッセイの最上級グーレドとなる「e:HEV ABSOLUTE・EX BLACK EDITION」に試乗。「e:HEV」ユニットが搭載され、システム的には直列4気筒2.0リッターDOHC(145PS/175Nm)エンジンに、モーター(184PS/315Nm)とバッテリが組み合わされたハイブリッドとなる。駆動方式はFF(2WD)のみであり、そのWLTCモード燃費は標準車が19.9km/L、試乗車が19.6km/Lとなっている。

最上級グレードとなる「e:HEV ABSOLUTE・EX BLACK EDITION」は、フロント、サイド、リアの下部にブラッククロームメッキモールを採用している
ボディサイズは4860×1820×1695mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm、車両重量はアブソルートが1920Kg、アブソルートEXが1950kg。最小回転半径は5.4m

 試乗したブラック・エディションの特徴は、内外装のアップグレード。室内ではシートおよびインテリアが本革仕様(シートバックなど手入れが必要な部分は合成皮革)となり、エアコンが後席でも調整可能なトリプルゾーンコントロール・フルオートエアコンに。

 外観ではホイールが標準仕様の17インチから、マッドベルリナブラックの18インチとなった。

 ボディカラーがプラチナホワイト・パールでもブラックエディションを名乗るのは、フロントグリルやバンパーモール(ブラッククロームメッキ)、電動格納式リモコンドアミラー(フォーマルブラック)やリアコンビネーションランプ(スモーク)のカラーリングを指してのことだろう。特に黒みがかったクロームメッキは、シルバー加飾のアブソルートEXに対して、落ち着きのある雰囲気が得られている。

フロントグリル、グリル上のメッキ部分にもブラッククロームメッキを採用。また、グリルの奥もブラックベルリナに塗装することで黒のこだわりを表現。さらにヘッドライトリフレクター天面もブラック仕様になっている
ホイールはマットベルリナブラック仕様に。タイヤは横浜ゴム「アドバン デシベル」で、サイズは225/50R18を履く
サイドミラーはベース部分からブラック仕様になる
リアコンビネーションランプはスモークレンズ仕様に
ブラック・エディションのエンブレムが配される

コクピットからの眺めも良好

 そんなオデッセイ・ブラックエディションを走らせてまず感じたのは、当たりの柔らかさだった。アブソルートといえば走りの印象が強いけれど、誤解を恐れず言えば「大きなフィット」だと感じるほどの、しなやかな乗り味だった。

 シートは本革だがふっかりと座り心地がよく、18インチタイヤの突き上げも足まわりが上手にいなしてくれている。

 着座位置は、いわゆるミニバンほどではないが、乗用車よりは背の高いクルマに乗っている感じがきちんとある。

 また着座姿勢がアップライトにならないから、足とペダルの位置関係も良好だ。

ブラックエディションのインテリア
ステアリングにもピアノブラックの加飾が施される
全モデルとも従来のシフトレバーから「エレクトリックギアセレクター」へと変更された。突起物がなくなりスッキリした
ワイヤレス充電器も新たに装備
カーナビは写真の11.4インチのほかに9インチも設定
フロントカメラを広角化し、衝突軽減ブレーキの検知対象の拡大、新たに交差車両・右折時の対向車・横断自転車・二輪車・夜間の歩行者の検知も可能にするなど安心感が高められている。ソナーセンサーも前後に4個ずつ備えている

 5代目は登場時にボディサイズを拡大し、「立体駐車場に入るミニバン」路線をやめた。なおかつバッテリと燃料タンクを薄型化したことで超低床を実現し、2列目ドアのステップ高を300mmほどに抑えながらも、現代でも通用する見晴らしを得ている。

 対するハンドリングに対しては、最初戸惑いを覚えた。

 ふんわりとしたフロントサスのダンピングがもたらす代償か、その操舵応答性が、ホンダ車なのに少し鈍く感じられたからだ。

運転席の着座位置は乗用車より少し高めだ

 そこでシートポジションをきちんと取り直すと、微少舵角からクルマのロールが感じ取れるようになった。少し背もたれを起こした分、視界はさらによくなった。

 どうやら、やや寝そべるように手を伸ばし気味に座っていると、ふっかりとしたシートの沈み込みの分だけクルマの動きが体に伝わりにくくなるらしい。ちょっとお腹はキツめになったけれど、その分しなやかな足まわりでも、クルマの動きがリニアに感じ取れるようになった。

最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm/3500rpmを発生する直列4気筒2.0リッターエンジンと、最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmを発生するモーターを搭載。燃費はWLTCモードで19.9㎞/L(EXとEXブラックエディションは19.6km/L)、ガソリンタンク容量は55L

 e:HEVユニットも、こうした乗り味にとてもマッチしていた。

 そのほとんどをモーター駆動で走るこのハイブリッドシステムは、アクセルの踏み始めから応答遅れがなく、その出足がとても滑か。そして、静かだ。だからアクセル開度も、自然と少なくなる。

 バッテリ効率が悪くなる高速道路の一定巡航時にはエンジンが直結されるがロードノイズの方が大きいくらいで、その存在を意識することもほとんどない。

 ちょっとだけ残念だったのは、アクセルを踏み込んだときの制御だ。

 搭載される「LFB11」型エンジンは、シビックe:HEVの「LFC」型と同じボア×ストローク(φ81×96.7mm)だが、有段ギアを持つかのようなステップ制御はしなかった。もしかしたらレブリミットまで回しきればそうなるのかもしれないが、エンジンが回り続けるだけなので、それ以上アクセルを踏むのを止めてしまった。結果的には燃費もよいし、いいことなのだが……。

e:HEVユニットはオデッセイの乗り味にとてもマッチしていた

 もちろんこのエンジンは発電機たることが主な役目で、実際にオデッセイを加速させているのはモーターだ。とはいえその発電に対してホンダは、エンジンを効率重視で一定に回すのではなく、ガソリン車と変わらないフィーリングを与えるために、高回転まで回している。これによって速度感の上昇にエンジンの回転上昇がリンクして、加速に対して違和感を感じないようにしてくれている。

 だとしたらもう一歩考えを進めて、たとえ高回転まで回さずとも、高性能なトランスミッションでショートシフトを繰り返すような制御をスポーツモードに加えても、面白いのではないか?

 各社がサウンドジェネレーターや電子サウンドに力を入れだしているように、電動化が進むほどそうしたクルマを楽しむ仕掛けは、これから必要になってくると思う。

オデッセイといえば、2列目と3列目シート

3列目シートも頭上に圧迫感はない

「ファーストクラスの乗り味」とうたう2列目シートは、レザーの風合いと相まって、その作りがとてもゴージャス。4WAYの電動調節を駆使してオットマンで足を浮かせれば、リビングチェアのように寝そべることができる。アームレスト内側には小さなテーブルも付いて、エグゼグティブ感を漫喫できる。

 ただここまでやるなら、マッサージ機能が欲しくなる。でっかいモニターで、映画を楽しみたくなる。贅沢とは、本当に限りがない。

 そして乗り心地に関しては、少しばかりこのゴージャス感とのギャップがある。シートそのもののクッション性は高いのだが、シート自体も重たいのだろう、路面の起伏やうねりに対して若干横揺れする。また高周波はうまく抑えられているが、微かにゴロゴロとしたバイブレーションが体に伝わってくる。

1列目シート
改良で2列目シートはフル電動化され、リクライニング角度を細かく調整できるようになったほかシートヒーターも装備し、快適性が向上した
2列目シートの足下にはUSBポートも完備された
3列目シート

 3列目も、作りはいい。背もたれは薄手だがリクライニング機構を備えているし、座面のクッションは肉厚。身長171cmの筆者だとヘッドクリアランスも確保できるし、膝まわりも2列目でくつろぎポジションを取られない限りは広々としている。空間的にはかなりまともで、押し込められている感がない。

 ただ乗り心地に対しては、タイヤやサスペンションに近い分だけ、横揺れはないのだが2列目よりも突き上げが強くなる。そして運転席では快適だった足周りに、硬さを感じる。

 ただ試乗車は走行700km(!)のまっさらな新車であり、これがもう少しこなれたらどうなるのかは興味深い。1695mmの全高と1950kgの車重、フル乗車やフル積載の状況に対しては、これくらいのサスペンション剛性は必要なのだろう。2020年のマイナーチェンジで結合部の剛性を向上させてはいるものの、2013年から使い続けるプラットフォームとして考えると、そのレベルはかなり高い。スライドドアを備えるミニバンの乗り心地としては、アベレージ内にある。

 結論としてはオデッセイの車格に対して、アブソルートEXのしつらえが、ちょっと品質過剰なのだろう。もちろん装備が豪華なのはいいが、このシートだと極端に言ったら、1000万円級の乗り心地を期待してしまう。

 そういう意味でいうと、タイヤ外径が17インチでコンビシートを採用するアブソルートの方が、バランスが取れていると思う。もしくはトヨタのアルファードのように、スプリングではなくダンパーに大きな仕事をさせて、乗り心地を稼ぐ方法もある。

 フル乗車時でも約300Lを有するラゲッジは、見た目に普通だが3列目シートを床下に格納すればワゴン以上の空間が手に入る。また2列目シートは左右独立したキャプテンタイプのみだが、一番前まで動かせば、数値は公表されていないがデフォルトの2倍以上の容量が得られる。

3列目シートを使用しても下部に収納スペースが確保される
3列目シートを床下に収納すればフラットなスペースが誕生
2列目シートを前に移動すればさらにラゲッジスペースは拡大する

 久々に低床ミニバンに乗って、「やっぱりいいな!」と思った。

 その走りと乗り心地の両立に少し迷いは見えたが、同クラスの高床ミニバンと比べれば、やっぱり走りの素性がいい。そして乗り降りもしやすく、本当に乗用車とミニバンの中間のキャラクターになっている。

 本当はいい加減プラットフォームを刷新して、ボディ剛性を向上させてほしいところ。この後に及んで熟成させるのもどうなのかとは思うが、とにもかくにもこのジャンルが生き残ってくれているのは嬉しい限り。

 エポックメイキングな挑戦に対してはアグレッシブだが、同時にその技術をあっけなく手放してしまうところもあるホンダがオデッセイを残しているという事実。それこそが、低床ミニバンのよさを物語っているのだと思う。

乗用車とミニバンの中間のキャラクターとなるオデッセイは希少な存在だ
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:安田 剛