試乗記

スバルのSUV「フォレスター」「クロストレック」で豪雪地酸ヶ湯を走る! 雪道をものともしない4WDの性能を体感

スバル「フォレスター」「クロストレック」を雪深い青森・酸ヶ湯で試乗

スバルの代名詞とも言える4WDモデル2台で青森・酸ヶ湯へ

 欧米発のモデルではたとえSUVでも2輪駆動のモデルが少なくない中、軽自動車を含めた多くのモデルに4WD仕様の設定があるのは、豪雪地帯の中に都市部が存在する日本生まれのクルマならではの特徴。そんな状況の中でも「スバルと言えば4WD、4WDと言えばスバル」というイメージを抱く人は少なくないはず。そしてそうしたフレーズは、多くの4WD車の中でもこのブランドが手掛けたモデルは他とは一線を画した高い実力の持ち主、と、暗にそうした意味を示していることだろう。

 ちなみにスバルでは4WDをAWDと呼称するが、これは2代目レガシィのローンチ時に個性を打ち出すため4WDモデルに特化した米国市場での販売戦略上、「トラックのイメージが強い“4WD”をやめ、独自の乗用4WDの思想を表現する“AWD”の呼称を用いた」というのが発端。それが現在ではグローバルへと展開をされているのだ。

 そんなスバルのパワートレーンは、縦置きされたエンジンとトランスミッションが左右対称・一直線にレイアウトをされ、左右輪の接地性が均等になるなど4輪の優れた荷重バランスを生み出せることから、“シンメトリカルAWD”の名称で訴求されている。加えて、深いわだち路面でもボディ下面が物理的な接触を起こしにくい200mm以上の大きな最低地上高を採用……と、なるほどカタログスペックを目にした段階でも前述のような高い評判の一部が連想をできることになる。

 とはいえ、それを実証するためには何と言っても現実に起きているシビアなコンディションの中を走ってみることが一番の近道……というわけで、あえて厳冬のタイミングで日本有数の豪雪地帯である青森市の、しかもたびたび日本一の積雪量を記録する著名な温泉地である酸ヶ湯方面へと遠征。2台のスバル4WD車を実際乗ってみることとした。

ずらっと並んだフォレスターとクロストレック

見た目も走りもSUVらしい「フォレスター」

 まずは最高出力145PSを発する2.0リッター・エンジンに最高出力が10kWのモーターを加えた“e-BOXER”を搭載する、「フォレスター」のアドバンス・グレードでスタート。実はフォレスターは、このモデル最大のマーケットであるアメリカで2023年末にすでに次期型を発表済み。すなわち、今回ドライブしたのは「モデル末期」という見方もできる1台だ。

フォレスター アドバンス(339万9000円)。ボディサイズは4640×1815×1715mm(全長×全幅×全高、ルーフレール装着車は全高+15mm)、ホイールベースは2670mm。最低地上高は220mmを確保
スタッドレスタイヤは横浜ゴム「アイスガードSUV G075」を装着。サイズは225/55R18
フォレスター アドバンスのインテリア。オプションの本革(ナッパレザー/ブラウン)を装着
広々としたラゲッジ。STIロゴが入ったラバーマットはディーラーオプション。STIの折りたたみコンテナの中にはチェーンやスコップなどの雪道セットが入っている
最高出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴FB20エンジンと、最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgfm)を発生するMA1モーターを搭載。トランスミッションにはCVTを組み合わせる。WLTCモード燃費は14.0km/L。燃料タンク容量は48L
路面状況に応じてモードを選択すると、4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールする「X-MODE」のダイヤル式スイッチ。滑りやすい道では「SNOW・DIRT」モード、タイヤが埋まってしまうような道では「DEEP SNOW・MUD」モードを推奨
どのモードに入っているかは、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイ、インパネ上部のマルチファンクションディスプレイで確認できる

 しかし実際に対面をしてみれば、そのエクステリアやインテリアの仕上がりにことさらに古さを意識させられるような部分は皆無。

 それでも細かく観察すれば、メーターが物理的な指針を備えるアナログ式であったり、それに挟まれたさまざまな情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイ部が小さいことなどを指摘する人もいるかもしれない。

 けれども、そうした事柄はいずれも「最新の流行と比べれば」という但し書きが必要とも思えるポイント。機能的な不足や不満があるといったことでは決してないのは確実だ。

 あまつさえ、エンジン出力やCVTの変速、前後輪へのトルク配分やブレーキを用いたLSD機能などの統合制御を行なうスバル自慢の“X-MODE”のスイッチがセンターコンソール上に大きなダイヤル式でレイアウトされていることに、スタックの気配を感じた際の咄嗟の操作を行なう場面などではそれがディスプレイ内にアイコンとして内蔵された最新モデルよりもむしろ簡単で確実に扱えたりすることができそうといった強みも発見できる。少なくともこのモデルの場合には、モデル末期にあることはそれだけ熟成が行き届いているとも言い換えられそうだ。

 加えれば、スバル車の中でもひと際大きな220mmという最低地上高も相まり、路面の状況や雪質を問わずその安心感は絶大。それゆえに雪上でも失われることのない4輪の高い接地感を確認し、ステアリングやブレーキの確かな効きを認めた後では、高い信頼感を持ってアクセルペダルを踏み込んでいくことができた。

「4WDと言えばスバル」という例のフレーズを端的に実感させてくれる1台は、フォレスターであると言っていいのかもしれない。

コンパクトサイズでありながらもしっかり走る「クロストレック」

 酸ヶ湯へと近づくに連れ道路両脇に高い雪壁がそそり立つ場面が多くなり、さらに日本の山岳地帯にありがちな狭隘な箇所も散見される中、「大き過ぎないサイズ」と「視界のよさ」も好印象につながったのがフォレスターだった。が、乗り換えるとそこに輪を掛けて“身の丈感”強いのがクロストレックだ。

 全方向への視界に優れることを“0次安全”と謳うスバルだが、それは前身の中島飛行機による航空機づくり時代からのDNAとされる。パイロットによる的確な操作には前方、上方、側方、そして後方までの360度を確実に見わたすことのできる優れた視界性能こそが重要ということに基づくが、フォレスター以上に引き締まったサイズのクロストレックではそれをより強く実感できるのである。

 フォレスターより160mm短い全長や140mm低い全高、フード前端の高さやグリル面積の違いなどもあって、パッと見でもフォレスターより明確にコンパクトに映るクロストレックだが、そうしたルックスは大きなボディには抵抗があるという人に対しても、「これなら自分にも乗りこなせそう」という印象を与えてくれる効果も大きそう。

 一方で、そうしたモデルでいながらも雪上での性能に一切の妥協がないことは、実際にドライブするとフォレスターに何ら見劣りしない安心感を得られることが証明してくれた。

クロストレック リミテッド(2WDモデル306万9000円/4WDモデル328万9000円)。ボディサイズは4480×1800×1575mm(全長×全幅×全高、ルーフレール装着車は全高+15mm)、ホイールベースは2670mm。最低地上高は200mm
スタッドレスタイヤはフォレスターと同じ横浜ゴム「アイスガードSUV G075」を装着。サイズは225/55R18
クロストレック リミテッドのインテリア。縦長の11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイは標準装備となる
ラゲッジはフォレスターと比べると小さめ。それでも1泊2日の荷物を3人分余裕で飲み込むほどの容量はキッチリ確保されている
フォレスターと同じ最高出力107kW(145PS)/6000rpm、最大トルク188Nm(19.2kgfm)/4000rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴FB20エンジンと、最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgfm)を発生するMA1モーターを搭載。トランスミッションにはCVTを組み合わせる。WLTCモード燃費は4WDで15.8km/L。燃料タンク容量は48L
X-MODEの切り替えはセンターインフォメーションディスプレイ上部から可能。物理スイッチは用意されていない

 ドライブしたのは上級グレードのリミテッド。搭載される心臓はフォレスターと同一の“e-BOXER”ユニットで、雪の環境のドライブのために装着されていたスタッドレスタイヤも、225/55R18というサイズまでも含め同一のアイテムだった。

 ちなみに、今回装着していたのは横浜ゴム製の「アイスガードSUV G075」で、実は同ブランドから重複サイズに適合する「アイスガード7」というタイヤもラインアップ。ただし、こちらはより氷上特化型で「雪上よりも氷上を多く走行するユーザー向け」と紹介されるアイテム。文字どおりの“豪雪”だった今回の状況を鑑みると、「G075」が“適任”だったことは間違いない。

 そんな冬用シューズを履いたクロストレックもまた、豪雪地帯を一切の不安を伴うことなく自由自在に走行。加速感を含め、全般により軽快な印象を味わわせてくれたのは、フォレスターよりも100㎏ほど軽い重量が影響をしていたようだ。

 スペック上の最低地上高は200mmとフォレスターよりはわずかに低いものの、山を下り、青森市街に近づくとともに積雪量が少なくなって、ときにアスファルト路面が顔をのぞかせ、同時にわだちが深さを増す状況になっても不安のない余裕を確保してくれた。

 それにしても、改めて「やっぱりスバルの4WDはすごい!」と納得せざるを得なかったというのが今回のドライブ。それは、走行条件がシビアになるほどにより明確になってくる印象だ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:安田 剛