試乗記

ホンダ「オデッセイ」、今冬の再導入前に改めてその価値を確かめた

「オデッセイ」再導入前に改めてRC#型に乗ってみた

まさかの日本市場復活

 2021年末をもって日本での生産が終了となっていた「オデッセイ」が、日本市場にまさかの復活を果たす運びとなった。2023年冬に発売予定の改良モデルはすでにWebサイトで公開されている。その知らせを受けて、いまいちど前モデルに乗ってみようということになった。

 それにしてもホンダは、F1しかり、市販車しかり、出たかと思えばひっこんだり、また出たり、またやめたりと出入りが激しい。一代限りの車種も少なくない。それでも期待したくなるのは、いつも何かやってくれるからだ。F1だってちゃんと結果を出している。ただ不安定なだけではなく、“持ってる”のだ。帰ってくるオデッセイにも期待せずにいられない。

 少し振り返ると、「現行」となるRC#型の登場が2013年11月なので、そろそろ次期モデルも気になり始めていた2021年6月、なんと日本の生産拠点だった狭山工場の同年末の閉鎖にともない、日本向けの生産が終了となることが明らかにされて驚いた。

 予定どおり12月24日に生産終了となり、以降は流通在庫のみの販売に。翌2022年9月に在庫分がすべて完売したため、販売終了となり公式サイトからも削除された。ただし、中国の広汽本田汽車では引き続き現地生産されるらしい話だった。

 ところが、RC#型になってくしくもちょうど10年が経つ2023年4月、件の中国で生産されたオデッセイの改良モデルを輸入する形で日本で販売されることが報じられた。2023年秋に先行予約を開始し、同年冬に発売される予定という。中国から日本への輸入はホンダの四輪車としては初めてのケースとなる。

 そういえば、現行「ステップワゴン」のボディサイズが拡大されたのは、オデッセイがなくなったことが理由だった気が……。まあ、よしとしよう。

今回の試乗車は販売終了となっている本田技研工業「オデッセイ e:HEV アブソルートEX」(販売当時価格は462万4000円)。2020年11月にマイナーチェンジしており、エクステリアデザインを大幅刷新。なお2022年9月に販売を終了している
ボディサイズは4855×1820×1695mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm。マイナーチェンジにより外観では厚みのあるフードと押し出し感のある大型グリルに変更し、薄型のヘッドライトを採用。また、ソリッドで立体的に交差するデザインのリアコンビランプを採用し、メッキ加飾でよりワイドでシャープなフォルムに仕立てた
18インチのノイズリデューシングアルミホイールに横浜ゴム「ADVAN dB(デシベル)」(225/50R18)の組み合わせ
直列4気筒DOHC 2.0リッター「LFA」型エンジンは最高出力107kW(145PS)/6200rpm、最大トルク175Nm(17.8kgfm)/4000rpmを発生。組み合わせるH4型電動モーターは最高出力135kW(184PS)/5000-6000rpm、最大トルク315Nm(32.1kgfm)/0-2000rpmを発生。WLTCモード燃費は19.8km/L

意外と多い変更点

今冬に再導入されるオデッセイ 改良モデル(7人乗り)。中国 増城工場で生産する分を日本に導入する

 改良モデルの変更点は意外と多いようだ。すでにRC#型が出た当初に比べるとだいぶ派手になっていたフロントまわりは、改良モデルは「精錬」をコンセプトに、より押し出し感と高級感のある新しいフロントグリルを持つ、シンプルながら重厚感を感じさせるデザインになるという。

 さらに、ブラックを基調としたフロントグリルやドアミラー、アルミホイールなどを装備した「e:HEV ABSOLUTE・EX BLACK EDITION」が設定されるのも新しい。

オデッセイ 改良モデルではホンダ独自の超低床プラットフォームによるゆとりある空間と、風格あるスタイリングを先代モデルから受け継ぎ、「精錬」をコンセプトとした押し出し感と高級感のある新たなフロントグリルなどを採用

 インテリアや装備についても多くの点で新しくなる。改良前に比べると本革シートが標準装備となり、2列目には両側アームレスト付4ウェイパワーシートとシートヒーター、折りたたみ式のシートセンターテーブルが採用される。

 ほかにも、エレクトリックギアセレクターや減速セレクター、自動防眩ルームミラー、ワイヤレス充電器を新たに装備するほか、急速充電に対応したUSBチャージャーを拡充するなど、より利便性が高められる。

オデッセイ 改良モデルのインテリア。本革シートを標準装備とし、2列目には両側アームレスト付4ウェイパワーシートとシートヒーター、折りたたみ式の2列目シートセンターテーブルを採用する。さらにエレクトリックギアセレクターやワイヤレス充電器を新装備し、より利便性を高めたという

 先進安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」には、新たに近距離衝突軽減ブレーキ、オートハイビーム、急アクセル抑制機能が追加され、より安全性が高まるほか、車載通信モジュール「Honda CONNECT(ホンダ コネクト)」によるコネクテッドサービスも利用できる。

 背高箱型ミニバンが全盛の中で、こういうフォルムで全高が1700mm前後とされているのもオデッセイならでは。独自の超低床プラットフォームによるゆとりある空間と基本骨格は受け継ぐ旨がリリースでも述べられているとおりで、そのあたりは変わらない。

発売当初は驚きの連続

「現行」の初期型オデッセイ(写真は2013年デビュー時に撮影したもの)

 また、オデッセイといえば走りが命のミニバンでもある。思えばRC#型が出た頃には、いろいろ驚かされたことがたびたびあったものだ。

 まず、アブソルートでクローズドコースや箱根のワインディングで乗って、ミニバンとは思えないほどの図抜けたコーナリング性能に衝撃を受けた。ところが、ほどなく一般道で乗って、乗り心地があまりに硬いことにビックリした。最初の感触からして硬いだろうとは予想していたが、ミニバンだからそれなりに乗り心地には配慮されているものと思っていたら、そんなものじゃなくて、ミニバンなのにこれで大丈夫なのかと思ったほどだ。

 それでも、当時の開発陣は「アブソルートはこれでOK」と自信満々だったのも印象的だったが、早い段階でやはり見直されることになったのを覚えている人も少なくないだろう。

 それでもやや硬さは感じたものだが、当初に感じたハンドリングのよさを味わえながらも、大きな不満を感じることなく乗れるようになってくれてよかったと思う。その後も2度のマイナーチェンジやたびたびの小改良を経て、デザインの変更や装備の充実等を図ってきた。

古さを感じる点もあれど

 今回試乗したのは、改良前の「e:HEV アブソルートEX」だが、ひさびさに乗ってみて、いろいろ感じることがあった。超低床プラットフォームで乗り降りしやすく、車内空間は十分に広くて、シートをはじめインテリアの仕立ても高級感がある。

 運転席からの死角の少ない良好な視界も好印象だ。半面、スイッチ類と表示の配置や位置関係が、最新のホンダ車ほど整理されていないのが少々気になったのが正直なところ。おそらく改良モデルでも変わらないだろうから、慣れるしかなさそうだ。

2020年11月のマイナーチェンジにより、インテリアでは上質な質感の加飾パネルを視界に入りやすい上部に触り心地のよいソフトパッドを手の触れやすい位置に配置するなど、インストルメントパネルのデザインを変更。コンビメーターパネルは高精細フルカラー液晶パネルを従来の3.5インチから7インチへと大型化し、アナログスピードメーターと組み合わせた。加えて運転席側に収納式のドリンクホルダーを追加したり、リッド付きのインパネアッパーボックスを新設定したりしている

 e:HEVの走りは、いつもながらスムーズで静かで力強いところが好印象だ。これも、よりリニアで一体感のある最新のホンダ車を知ってしまうと、やや古さを感じるのは否めないが、Sモードでの踏んでパッと前に出る瞬発力のある走りはなかなか楽しい。

 乗り心地は今では実際にはそれほど硬くないのに、路面への感度が高く、段差や凹凸を通過するとフロアに響くような伝わり方をする点は、ちょっともったいなく感じられた。後席ではフロアの微振動もやや気になった。ただし、試乗したのが取材時でオドメーターが2万5000kmを超えている個体だったことを配慮しなければなるまい。

 そのあたり、改良モデルは走りに関する変更は伝えられていないが、何らか変更があるのかもしれない。e:HEVの制御もそうだが、やはりミニバンは人を乗せてナンボなので、引き締めた中にももう少しストローク感があるとよいかなと思う。

 ステアリングの操舵力は、直進安定性を重視してかずっしりと重め。ところが、ワンディングではスイスイと軽やかにコーナーをクリアしていけるという相反する側面を持ち合わせている。そのあたりは走りが命のミニバンとしての面目躍如だ。

 慣れ親しんだオデッセイがなくなったことを残念に感じていたところ、こうして思わぬ形で戻ってきてくれるようになったことを大いに歓迎したい。また、見た目や装備だけでなく、走りに関してもどこかしら手が加えられていそうな気がする。ゆくゆく改良モデルが導入されるのが楽しみだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛