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モリゾウさんの“腰ぐきっ”から始まった進化型GRヤリスの縦引きパーキングブレーキ開発 マスタードライバーがセッティング

進化型GRヤリスの縦引きパーキングブレーキ。大阪オートメッセで乗り込み確認できる

乗り込み確認できる、進化型GRヤリスの縦引きパーキングブレーキ

 大阪オートメッセ2024では、トヨタの新型スポーツカー「進化型GRヤリス」のさまざまなバージョンが展示されている。オートサロンに続いて展示された進化型GRヤリスRZ“High performance”のほか、日本初公開となった特別仕様車 “オジエ エディション”と“ロバンペラ エディション”などだ。

 その中でも、乗り込み体験などを初めて実施しているのが進化型「GRヤリス RC」。進化型GRヤリスのレース利用ユーザー向けに発売予定のもので、RZ“High performance”よりも安価な価格設定になると見られている。

大阪オートメッセで世界で初めて一般展示された進化型GRヤリス RC

 この進化型GRヤリス RCにメーカーオプション設定されたのが、使いやすい位置に設定された縦引きパーキングブレーキになる。

 進化型GRヤリス RCで想定されているラリーやジムカーナなどでは、パーキングブレーキを使って後輪車軸をロック。ロックすることでスピンターンやヘアピンターンを素早く行なうことなどが基本テクニッとして知られている。

 そのためレーシングの世界では電動パーキングブレーキよりも、機械式パーキングブレーキが好まれており、ヤリス自体はラリー用途などを想定して機械式パーキングブレーキ仕様となっていた。

 ただ、その位置はあくまで一般車的なもので、パーキングブレーキレバーはセンターフロアの延長線上にあり、運転しながら引くようには設計されていない。そのため、ラリー仕様にしたクルマでは、機械式パーキングブレーキに延長棒を接続して手元に持ってくるなどの改造が行なわれていた。

 話題になっている進化型GRヤリスの縦引きパーキングブレーキは、そのような後付け改造ではなく、最初から使いやすい位置にパーキングブレーキレバーを設置するオプションになる。

 この開発のスタートは、GRヤリスの開発に携わる齋藤尚彦主査によると「モリゾウさんの“腰ぐきっ”から始まりました」とのこと。モリゾウさんとは、トヨタ自動車 代表取締役会長であり、トヨタのマスタードライバーでもある豊田章男氏になる。モリゾウさんは世界有数の自動車会社のトップでありながら、ラリーやドーナツ(ターン)好きとして知られる。そのターンを決めようと延長改造したパーキングブレーキを引いたときに、腰が“ぐきっ”となってしまったというのだ。

 もちろん、素早いステアリング操作と素早いパーキングブレーキ操作を両立させようとした際の特殊な状況下におけるもので、一般車には何の問題もない状況下ではあるのだが、そのような状況下でも腰が“ぐきっ”とならず、スムーズに操作できるパーキングブレーキであるのが望ましい。

 そのためフロアにあったパーキングブレーキレバーを上部に移し、ステアリング近くに持ってきた。

 前後、左右の微調整やパーキングブレーキレバーの長さなども、マスタードライバーであるモリゾウさんと何度も調整。レーシングドライバーや開発ドライバーとも相談しながら、最終的にマスタードライバーであるモリゾウさんのOKを得てメーカーオプションとして商品化という。いわば、モリゾウPKBと呼べるものに仕上がっている。

 実際記者も大阪オートメッセで乗り込み体験してみたが、ドライバーの視界や操作性を優先して作られた「ドライバーファーストコクピット(DFコクピット)」と合わせて得られる操作系は快適そのもの。レーシングドライバーならではの仕事場感が急速に高まる。

 齋藤主査によると、パーキングブレーキレバーの使いやすさを優先してセッティングされているため、6速MTなどでは6速の位置だとシフトレバーがやや気になる位置に来るが、そもそも1速や2速で使うものなので問題ないとのこと(当たり前ですね)。もちろん,新しく設定された8速AT(GR-DAT)でも問題はない。

 仕組みとしては従来と同じく、パーキングブレーキレバーを引けば4WD機構がフリーになり、スピンターンやヘアピンターンが容易に行なえる。モリゾウPKBになったことで、操作性も抜群になった。

進化型GRヤリスの「縦引きパーキングブレーキ」をWRCドライバー勝田貴元選手が初体験 「ごり押ししたいです」

 ちなみに、東京オートサロンのときにWRCドライバーである勝田貴元選手に静的位置での操作性を確認してもらったところ、「やっと実物を見られた。完璧なポジションにある。間違いなく一番いいところに来てくれる」とのこと。競技する人にも、ドライビングを楽しみたい人にも使えるといい、競技車よりもいいところにあるという。「お勧めですか?」と勝田選手に聞いてみたら、「ごり押ししたいです」という答えが返ってきた。

現行のGRヤリスにも取り付け可能な縦引きパーキングブレーキ

 この話題の縦引きパーキングブレーキだが、気になるのは進化型「GRヤリス RC」にのみのメーカーオプション設定となっていること。通常グレードであるRZ“High performance”のオプション設定となっていないため、RZ“High performance”ユーザーにとっては気になる装備になるだろう。

 この点について開発陣に聞くと、部品として取り寄せてもらえれば装着はできるとのこと。ただ、ブレーキ操作関連の部品となるため取り付けにはハードルがありそうで、どうしてもという人はという感じだろうか。

 さらに突っ込んで聞くと、現行の号口(ごうぐち、トヨタ用語で市販出荷製品のこと。豊田自動織機における織機の出荷単位をルーツとする言葉。モリゾウさんに以前解説していただいた)車両である初代GRヤリスにも取り付け可能であるとのこと。

 ただし、その際はコンソール内部の各種レール位置などが進化型GRヤリスと異なるので、コンソール部品を自作する必要があり、さらにハードルが高くなるとのことだ。

 であるなら、現在は3Dプリンタという商品があり、図面データさえあれば1品から出力してくれるサービスもいろいろある。ミスミのAI自動見積もり製品発注システム「meviy(メヴィー)」では、エンジニアリングプラスチックのポリアセタールでの製品出力もでき、現行型GRヤリスユーザー向けに縦引きパーキングブレーキ用の、コンソールカバー3Dデータを提供してもらえれば、あとは何とかできる人もいるのではないだろうか。そのデータがあれば、データ加工して自分のイニシャルを入れるなんていうことも容易になる。

 もちろんコストはそれなりにかかってしまうが、そのような特殊要望の人は少なく、トヨタが部品在庫を用意してまで対応するものでもないだろう。3Dプリンタという一品ものを一般の人が容易に製造できる時代に対応したサービスの登場にも期待したいところ。

 モリゾウさんの“腰ぐきっ”から始まった進化型GRヤリスの縦引きパーキングブレーキは、そんな夢が広がるRC専用のメーカーオプションになる。