試乗記

システム最高出力320kWで最大トルク600Nm、日産「アリアNISMO」は強大なトルクを自在にe-4ORCEで引き出せるスポーツマシンだった

6月に発売される新型「アリアNISMO」に乗った

システム最高出力320kW、最大トルク600Nm、強大なトルクを誇るアリアNISMO

 2024年の東京オートサロンで発表となった日産自動車の「アリアNISMO」。そのプロトタイプを日産のテストコースで試す機会を得た。発売は6月を予定しているが、今回のクルマは細部を除きほぼ本番仕様といっていい仕上がりになる。

 アリアNISMOは「アリア B9 e-4ORCE」をベースとしたモデルで、システム最高出力320kW、最大トルク600Nmを実現。ベースモデルのシステム最高出力は290kW、システム最大トルクは600Nmで、アリアNISMOは航続可能距離は約10%ほど落ちてしまうものの、30kWの出力向上を手に入れている。

 ちなみに今回は乗る機会がなかったがB6 e-4ORCEをベースとしたモデルも存在。そちらはシステム最高出力270kW(ベースモデル+20kW)、システム最大トルクは560Nmとなる。

 ここまでのパワーアップを果たした理由はズバリ、「安心感があり、気持ちよく、結果として速いクルマ」にしたかったから。およそ2.2tの車体をものともせず、爽快に走ることを狙ったわけだ。NISMOがこれまで生み出してきたGT-Rやスカイラインに比べれば500kgも重くなるクルマを気持ちよく走らせるには、パワーアップは必須だったということなのだろう。

 また、足まわりは当然のように引き締められ、スプリングレートはフロント3%、リア10%、フロントスタビライザーは15%アップとなるほか、フロントストラットは外筒をt2.6→t2.3に引き上げることでキャンバー剛性をアップ。ショックも専用チューニングとしている。

 それに合わせてタイヤはミシュランのパイロットスポーツEVの255/45 R20サイズを装着。グリップや剛性などは専用チューニングを施してある。ベースモデルでも同サイズの20インチのオプションが用意されていたが、そちらはミシュランのプライマシー4だった。それよりも確実なグリップを生み出すという。

 ホイールサイズはベースモデルに対して0.5Jアップの8.5Jを採用することで接地面積を拡大。ちなみに最小回転半径は5.4mと変わらず。ブレーキもパッドを変更することで停止距離を8%短縮することが可能になっている。

アリアNISMOのエクステリアではNISMO専用のバンパー、リアスポイラー、ドア・サイドモールを採用し、空気抵抗の低減とダウンフォースの向上を両立。ボディサイズは4650×1850×1650~1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2775mm。車両重量はグレードによって2080~2220kgとなっている

 興味深いポイントはe-4ORCEをNISMO専用チューニングしているところだ。もちろん足まわりやタイヤ&ホイールの変更があるのだから当然のことかもしれないが、アリアNISMOでは駆動配分を数%リア寄りにしたところが特徴の1つ。ベースモデルと同様、ブレーキを4輪独立してかけることでベクタリング制御も行なっている。

 一方でエクステリアやインテリアもNISMOらしさが溢れた仕上がりだ。4輪の接地感を第一に考えながらも、航続可能距離をできるだけ落とすことのないように配慮した設計を行なっている。フロントアンダースポイラー、サイドスカート、そしてリアディフューザーを与えることで、ボディ下面の負圧領域拡大を実現。フロントカナード端部は跳ね上げる形状によって空気をスパイラルさせ、フロントホイールハウスからの空気をエアカーテンとともに引き抜くことに成功。リアデッキスポイラーは渦の発生ポイントを後方の遠くへ飛ばすように設計されている。

 結果としてCdは6%、CLは40%ベースモデルよりも低減したそうだ。こうした機能を備えながらも伸びやかなデザインとなったところは好感触。実際に全長が55mm延長となる4650mmとしたことも、こうした印象につながるのだろう。

NISMOらしいスポーツ感覚が与えられた内装、引き締められたがしなやかな運転感覚

 インテリアはブラック基調に改められ、レッドのアクセントが随所に散りばめられているところなNISMOの方程式どおりといった感覚。だが、それに合わせてオープンポアウッドもブラックに変更することで、ほかのスポーツモデルとはひと味違う上質さも手にしているように感じる。

 シートはサイドサポートなどをチューニングすることでホールド性を高めた専用品で表皮はスエード調。ただし、あくまでもベースは基準車のもの。結果としてパワーシートやヒーターなどを廃止することがなかったところはありがたい。

 ドライバーズシートに収まると、そのホールド感と滑りにくい仕上がりは絶妙だ。乗降性を損なうことなく、程よくサポートしてくれそうな感覚だ。まずはノーマルモードでゆっくりと走ってみたが、静粛性は相変わらず。少しルーフレールあたりの風切り音が気になるが、ロードノイズなどが悪化しているようには感じない。足まわりは引き締められたとはいえ、しなやかさもきちんと備えている。突き上げ感をかなり感じた初期モデルよりも、遥かに滑らかにフラットに走ってくれる感覚がある。後に後席も試したが、乗り心地がわるいと感じことはなかった。

インテリアは黒基調でレッドアクセントを配したデザイン。NISMOロゴ入りの専用シートも採用する

 日常域のチェックと完熟走行を終えた後に、NISMOモードに切り替えてペースを上げてみる。すると、とにかく伸び感がたまらない。このまま離陸してしまうのでは? なんて思えるほど。蹴り出しの時のピッチングの大きさもまた面白い部分だ。

 その感覚を後押ししているのが、BOSEオプションを装着したクルマのみで味わえるNISMO専用EVサウンドだった。ギュイーンというまるでタイムスリップでもしそうな音は、アクセルの踏み加減に応じて音を変えて、高揚感をあおってくれるから面白い。

 アクセルを離して回生が始まれば音が下がる方向へとコントロールされるなど、その作りはリニアに状況を把握できるように感覚を刺激してくれるのだ。やっぱりEVだって音は大切だよな、なんて改めて感じるほど。リーフNISMOにも与えてほしいとさえ思えてくるし、もっとほかの音を与えてみても面白そうではないかと夢が膨らむ。昔のクルマの音でもよいし、NISMOが参戦しているSUPER GTの音が再現されてみても面白い。今後はぜひそんな発展を望みたい。

 高速コーナーやパイロンスラロームをクリアしてみると、4輪の接地感が常に感じられる仕上がりが好感触。低重心で前後バランスのよい仕上がりに、e-4ORCEの自然で絶妙なアシストが加わり、素直にクルマの向きを変えてくれる。

 プッシングアンダーが出るようなことは皆無と言っていいくらい。タイヤが鳴きにくく、とにかく安定して駆け抜けるところに驚きを感じた。2.2tのクルマとは思えぬ動きだし、それが程よい乗り心地を実現した状態で行なわれていることにもびっくりである。しなやかだけれど良く曲がる。そこがアリアNISMOの面白さだろう。

 こうして概ね好感触ではあるが、もう少し奢ってほしかったのはブレーキだ。ストッピングパワーは拡大しているし、回生量も多いから大きいものや対向ピストンが必要なかったというが、ブレーキタッチはやや寂しいところがある。車重2.2tと聞くと、やはり安心感がもっとほしくなる。

 さらに、スポーツモデルでしかもNISMOの看板を掲げるのであれば、パドルシフトで回生量が選べるようにもしてほしかった。e-Pedalでコントロールできるでしょと言われればそれまでなのだが、低μ路などに行った際のコントロールはしやすくなるだろうし、なによりパチパチとパドルを弾けば面白いのだから。つまりはほかのNISMOカスタマイズ車両がやっていることを同様に与えることで、NISMOの方程式を完成させてほしいと感じた。NISMOと名乗るのなら、ある一定の装備を満たすなどしてほしい思うのは、決して筆者だけではないはずだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。