試乗記

0-100km/h 2.78秒で673馬力、圧倒的な速さを持つシャオミのスポーツバッテリEV「SU7 Max」に乗ってみた

小野測器がベンチマーキングレポートのために購入したシャオミのスポーツバッテリEV「SU7 Max」

 さまざまな自動車業界向け計測機器を発売している小野測器。その小野測器が手がけている事業の1つに、クルマのさまざなデータをモデル化したベンチマーキングレポートというのがある。クルマの開発においては、開発しているクルマ自身の性能も大切だが、商品である以上、実際に市場に出ている(上市されている)クルマとの性能比較が欠かせない。すべてのクルマのデータをデータ化できればよいが、それにはお金も手間もかかるため現実的ではない。そのため、小野測器では市場において注目度の高いクルマをデータ化し、自動車メーカーの要望に応えていこうとしている。

 今回、小野測器がベンチマーキングレポート作成のために購入したのが、システム出力495kW(673PS)を持ち、0-100km/h加速2.78秒、最高速265km/hというスポーツ性能を持つバッテリEVのXiaomi(シャオミ)「SU7 Max」。スマートフォンメーカーとして知られるシャオミが手がけたBEVとなる。今回、小野測器が計測のために持ち込んだJARI(日本自動車研究所)城里テストセンターで外周路を乗る機会を得たので、その性能の一端をお届けする。テストコースの外周路であるため、道路条件などはベストに近いものがあるということは考慮いただきたい。

城里テストセンターの外周路

 シャオミ SU7は、通常のSU7(220kW、後輪駆動)、SU7 Pro(220kW、後輪駆動)、SU7 Max(220kW/275kW、4輪駆動)とスマートフォンの名前のようなイメージでシリーズ化されており、小野測器がベンチマーキングレポート化するのは最上位のSU7 Maxになる。価格は29万9900元(中国人民元)となり、1円を20.82円(10月4日時点)で換算すると約624万円になる。バッテリ容量はCATL製の101kWhと、100kWh級のバッテリと673kWという出力を考慮しても圧倒的なコストパフォーマンスとなる。

 ボディサイズは4997×1963×1440(全長×全幅×全高)と低くワイドなもので、デザインもスポーツカーらしく仕上がっている。フロントフェンダー側面のくぼみなど、空力面の考慮もされているようで、Cd値は0.195と優秀。CFDによる空力シミュレーションが行き届いており、リアには格納式のウィングも装備するほどだ。

 サスペンションは、フロントはダブルウィッシュボーンでリアは5リンク式マルチリンク。エアサスペンションにより、4段階の高さ調整もできるようになっている。スポーツカーに大切なブレーキやタイヤはフロントには4ピストンのブレンボが装備され、タイヤはミシュランのパイロットスポーツEVを装着。フロント245/40 R20、リア265/40 R20で異なる幅となっており、600PSの力を受け止める準備はできている。航続距離は中国のCLTCモードで800km、WLTC換算で640kmというもの。いずれにしろ、1000万円以上のEVスポーツカースペックが、600万円台で売られていることに驚くものだ。

今回の試乗車はシャオミのスポーツバッテリEV「SU7 Max」。小野測器がベンチマーキングレポートのために購入した車両で、ボディサイズは4997×1963×1440(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm。101kWhの容量を持つCATL製の三元系リチウムイオンバッテリを搭載し、車両総重量は2655kgとした
フロントフード下はこのようなレイアウト。フロントモーターは220kW/338Nm。リアモーターは275kW/500Nmを発生し、トータルの出力は495kW(673PS)となっている
電動リアウイングは中央のディスプレイから操作が行なえる
SU7 Maxのインテリア。想像以上の質感の高さにおどろいた

本能でやばいと思う加速度

 今回は限られた時間、かつJARI城里テストセンターの外周路で100km/h以下という条件での試乗ではあったが、値段を圧倒的に超える驚愕の走りを体感することができた。

 このシャオミ SU7 Maxでは、現代のEVらしく2つのLCDパネルでドライバーとのインフォメーションが構成されている。1つはドライバー正面にある回転式のメーターパネル、もう1つはセンターにある大型のIVI(In-Vehicle Infotainment)パネルになる。センターのIVIパネルは、テスラが用いて以来EVのイメージを形作るものとなっており、このパネルからスポーツモードや回生のモードをタッチやスライドで変更できる。スマートフォンメーカーらしくグラフィカルな作りになっており、中国語で書かれているものの直感的にも分かりやすいデザインに仕上がっている。なにより、回生量をスライドで(おそらく10%きざみ)設定可能なモードがあることは、電動車を設定しているという感覚もあり、楽しくもある。

中央のディスプレイの表示例。走行モードの選択や回生ブレーキ量、リアウイングの調整、タイヤ空気圧のチェックなど、さまざまな設定が行なえる

 さらにシャオミ SU7 Maxでは、IVIパネルから設定する走行モード以外に、ステアリング右下のプッシュ&ダイヤルスイッチから設定できるブーストモードがある。ダイヤルスイッチでは、先述のスポーツモードやエコノミー(経済と書かれている)モードを変更でき、中央のプッシュスイッチを押すと、20秒間だけ加速性能が向上するブーストモードへ移行する。

 名前からして分かるとおり、このブーストモードはフル加速が行なえるモードで、0-100km/h 2.78秒という暴力的な加速を味わうことができる。今回の試乗時間はお昼時で、小野測器のスタッフによる最初の慣熟走行でこのブーストモードを味わったときには、ジェットコースターで自由落下し、内臓がせりあがってくる“やばい”という感覚しかなく、昼ご飯を食べる前であったことに感謝したくらい。そのくらいやばい感覚を味わえる。

 実際、カシオの高精度計算サイトでこのやばい加速度を算出してみると、9.99m/s2で1.02G。つまり、シャオミの開発陣は自由落下する感覚を狙って、このクルマによる加速性能を設計したことが推測できる。

 4WD+673PS+ミシュラン パイロットスポーツEVというパッケージは、この暴力的な加速をホイールスピンなく味わうことを可能にしており、ブーストモードにしてドカンとアクセルを踏めば、1Gという人間が本能でやばいと思える加速度を楽しめる(本能的にやばいと思ってしまい、楽しいと思えるまでには学習が必要だった)。

 シャオミ SU7 Maxは、シャシーの剛性感も高く、ステアリングを切った際のレスポンスもコンフォートとスポーツの2段階から設定可能。ブレーキフィーリングも2段階に設定可能で、走りの感覚を調整できる。いずれもスポーツに設定した際のレスポンスは高く、ステアリングホイールを切った際に感じるリアタイヤの旋回遅れも小さくて好ましいもので、スポーツ感覚を味わうことができる。

 電動スポーツカーにはガジェット的な側面もあると思うが、加速、航続距離、調整機構、可動式リアウィングなど多面的な要素を装備する。今回は試すことができなかったが、車線変更アシストも備える自動運転機能として、NVIDIA製 DRIVE Orinをデュアル装備。508TOPSのプロセッシング能力でADASを支えている。実際の道で確認しないと分からない部分ではあるが、潜在能力は世界でもトップクラスのものを備えている。

 これだけのものを実現して、約624万円。日本車と比べてというお約束の言葉を超えて、世界的にも圧倒的な価格競争力を備えたクルマであり、ベンチマーキンク化されるべきクルマであるのは間違いない。

小野測器では今回のSU7 MaxとともにBYDのハイエンドセダン「海豹(日本名:シール)06 DM-i」のPHV仕様もベンチマーキングレポートのために購入。航続距離2000kmオーバーとも言われるこのモデルについては別記事で触れたい
編集部:谷川 潔