試乗記
従来型のポルシェ「マカン」に乗りながらフル電動化した新型を考察
2025年1月15日 12:04
シンガポールで新型マカンがアンベール
ポルシェと聞いたら、真っ先に何のモデルを思い浮かべるだろう。スポーツカー好きなら、911やケイマン、ボクスターなどを挙げる人が多いかもしれない。筆者自身もそれらがすぐに思い浮かぶし、もっとも人気のモデルと考えてしまいがちだが、実は世界的に販売台数が多いのは、SUVのカイエンやマカンだという。「ポルシェも結局SUVなのか」と思われるかもしれないが、ポルシェとしては、どんなモデルでもスポーツカーと考えて開発しているという。2020年にはポルシェ初の電気自動車であるタイカンも登場し、その圧倒的なパワーや操縦性にはおどろかされた。ポルシェのモデルを触るほど、ボディ形状、さらにはパワートレーンにも依らず、究極のスポーツカー作りを目指すぶれない思想を貫いているように感じられる。
2024年1月には、シンガポールで新型マカンがアンベールされた。前述したとおり、マカンはポルシェのボリュームゾーンにも関わらず、なんと新型は完全な電気自動車になるという。実は筆者も現地へ赴き、そのアンベールの様子を間近で見ることができた。常に新しく生まれ変わり、街全体の緑化やサスティナブルな都市づくりを続けているシンガポールは、新型マカンとの親和性がとても高いだろうと感じた。
シンガポールでは、ポルシェは若い世代の人たちが憧れを抱くブランドであり、特に新しいエネルギーソースを利用し、コンパクトで利便性の高いSUVの新型マカンはシンガポールで成功している若者からも注目を集めるに違いない。新型マカンについて、デザイナーやエンジニアから話を聞いたところ、もちろん電気自動車として空力性能など効率は考えなければいけないが、以前からポルシェを愛してくれる運転することが好きな人に対して期待を裏切らないモデルを作りたいということを強調していた。
新型マカンはフロアに100kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、満充電の状態であれば航続距離はWLTPモードで591~613kmとなる。エントリーモデルは1モーターの後輪駆動で、最高出力265kW(360PS)、最大トルク563Nmを発生。フロントとリアにモーターを搭載する4WDモデルは、マカン4(408PS/650Nm)と、よりハイパフォーマンスなマカンターボ(639PS/1130Nm)が用意される。
マカンは「SUV界のスポーツカー」
新型マカンが日本に登場する前に、改めてこれまでのマカンを振り返ってみようと、ベーシックな軽量モデルであるマカンTを借り出し、試乗してみた。マカンTは直列4気筒2.0リッターターボエンジンを搭載しており、最高出力265PS、最大トルク400Nmを発揮する。マカンTは標準モデルであれば可変ダンパーと専用スプリングが装着され、マカンやマカンSより車高が15mm低められたスポーティなモデルとなる。試乗車はオプションのエアサスペンションを装着していたため、ノーマルとは乗り味が変わってくるが、車高の上げ下げについてはさらに自由度が高くなっていた。
久しぶりにポルシェのSUVに乗ってまずおどろいたのは、その堅牢さと正確な運動性能だ。普通なら大きくて重いクルマは運動性能において不利なことだらけなはずだが、マカンに至ってはボディがひとかたまりの剛体のようにガッチリとしていて、さまざまな場所を運転してみてもクルマがねじれたり、大きく揺すられたりするようなドライバーが不安に感じる動きが本当に少ないのだ。ボディ剛性が高いことによってタイヤとサスペンションもしっかりと仕事をすることができ、大きさを感じさせない一体感が生まれている。
ハンドルは切り始めからピタリと正確に曲がり、ロングドライブする時にも、高速道路では余計な操舵なくおどろくほどきれいに直進し続けてくれる。普通のSUVであれば、コーナーを曲がる度に車体がずっしりとロールしたり、操縦性もややゆったりしていたりする印象があるが、マカンはどのシーンでもその逆をいく。911やケイマンとはもちろん比べられないが、他のSUVと比較すれば圧倒的に意のままに運転することができるし、確かにマカンは「SUV界のスポーツカー」と言っても過言ではないかもしれない。
マカンTを運転して気になったのは、些細なことではあるが、アクセルを強めに踏み込むとまるで殻に籠ったような室内の静かさの中に、ほんの少しエンジン音が聞こえてくることだ。これに限っては「マカンも“スポーツカー”だからエンジン音が聞こえるのは当たり前!」と割り切れないのが不思議なところだ。マカンはSUVとしては高い操縦性能を備えてはいるものの、荷室も十分に確保されており、後席もゆったりと座れるスペースがあるので、“スポーツカー”としてだけではなく、やはり便利で快適なユーティリティビークルとしても期待してしまうのだ。
そこでふと、新型マカンが思い浮かんだ。SUVの中では他に類を見ない操縦性と、後席も荷室もきちんと使える利便性、そして上質なモビリティとしての圧倒的な静粛性。これらがもっともバランス良く成り立つのは、電気自動車化されたマカンなのではないか、と。BEVならロードノイズを除けば機器類から発せられる音は圧倒的に少なくなるし、フロントとリアにモーターを搭載することで、大パワーが発揮できるだけではなく、前後へのトルク配分も自由になるため、より緻密にクルマを制御することができる。そしてSUVであればバッテリ容量も大きくすることができ、満充電時の航続距離が600km前後なら、ある程度の長距離も安心して走ることができる。
ネックなのは、これまでのマカンファンが電気自動車というハードルを越えてまでほしいと思えるかどうかだが……。個人的にはこれまでのガソリン車のマカンに改めて乗ってみて、よりBEVのインフラ整備の必要性は感じつつも、マカンというモデルとしてのポテンシャルは、BEVになることでさらに高まるだろうなという期待感は大きくなった。
エネルギー問題などを含めて自動車の今後の未来をしっかりと見定めるには、さまざまな疑問やハードルはあると思うが、これからのポルシェのクルマ作りも第一に運転があり、その他の要素はそれを高めることを前提に開発されることに変わりはないと思う。これまでのマカンも、SUVでありながら妥協のないドライブフィールが作り込まれていることとをしっかりと体感できた分、新型マカンもポルシェの魂が踏襲されながら、さらに新しい次世代のモビリティとして大きく進化するに違いないと確信できた。