試乗記

従来型のポルシェ「マカン」に乗りながらフル電動化した新型を考察

従来型のマカンT

シンガポールで新型マカンがアンベール

 ポルシェと聞いたら、真っ先に何のモデルを思い浮かべるだろう。スポーツカー好きなら、911やケイマン、ボクスターなどを挙げる人が多いかもしれない。筆者自身もそれらがすぐに思い浮かぶし、もっとも人気のモデルと考えてしまいがちだが、実は世界的に販売台数が多いのは、SUVのカイエンやマカンだという。「ポルシェも結局SUVなのか」と思われるかもしれないが、ポルシェとしては、どんなモデルでもスポーツカーと考えて開発しているという。2020年にはポルシェ初の電気自動車であるタイカンも登場し、その圧倒的なパワーや操縦性にはおどろかされた。ポルシェのモデルを触るほど、ボディ形状、さらにはパワートレーンにも依らず、究極のスポーツカー作りを目指すぶれない思想を貫いているように感じられる。

 2024年1月には、シンガポールで新型マカンがアンベールされた。前述したとおり、マカンはポルシェのボリュームゾーンにも関わらず、なんと新型は完全な電気自動車になるという。実は筆者も現地へ赴き、そのアンベールの様子を間近で見ることができた。常に新しく生まれ変わり、街全体の緑化やサスティナブルな都市づくりを続けているシンガポールは、新型マカンとの親和性がとても高いだろうと感じた。

 シンガポールでは、ポルシェは若い世代の人たちが憧れを抱くブランドであり、特に新しいエネルギーソースを利用し、コンパクトで利便性の高いSUVの新型マカンはシンガポールで成功している若者からも注目を集めるに違いない。新型マカンについて、デザイナーやエンジニアから話を聞いたところ、もちろん電気自動車として空力性能など効率は考えなければいけないが、以前からポルシェを愛してくれる運転することが好きな人に対して期待を裏切らないモデルを作りたいということを強調していた。

2024年1月にシンガポールで新型マカンの発表会を開催。第2世代の新型マカンはフル電動のSUVとなり、エントリーモデルである新型マカンも含め100kWhの高電圧バッテリを搭載し、駆動力はマカン4に使用されている後車軸モーターによってのみ提供。マカンは最大で265kW(360PS)のオーバーブーストパワーを生み出し、最大トルクは563Nmを発生。0-100km/h加速は5.7秒で、最高速は220km/hとした

 新型マカンはフロアに100kWhのリチウムイオンバッテリを搭載し、満充電の状態であれば航続距離はWLTPモードで591~613kmとなる。エントリーモデルは1モーターの後輪駆動で、最高出力265kW(360PS)、最大トルク563Nmを発生。フロントとリアにモーターを搭載する4WDモデルは、マカン4(408PS/650Nm)と、よりハイパフォーマンスなマカンターボ(639PS/1130Nm)が用意される。

1月のワールドプレミアイベントではマカン4とマカンターボを披露。いずれもフロントとリアのアクスルに最新世代の永久励磁型PSM電気モーターを搭載する4WD仕様だが、ベースモデルのマカンは主に高効率と航続距離に重点を置いた後輪駆動仕様。マカン4Sはマカン4とマカンターボの間に位置するグレードとなり、マカン4/マカンターボと同様に電子制御のポルシェトラクションマネジメント(ePTM)システムが搭載され、従来の全輪駆動システムよりも約5倍速く前輪と後輪の間で駆動力を分配するという

マカンは「SUV界のスポーツカー」

改めて従来型のマカンTに乗ってみた

 新型マカンが日本に登場する前に、改めてこれまでのマカンを振り返ってみようと、ベーシックな軽量モデルであるマカンTを借り出し、試乗してみた。マカンTは直列4気筒2.0リッターターボエンジンを搭載しており、最高出力265PS、最大トルク400Nmを発揮する。マカンTは標準モデルであれば可変ダンパーと専用スプリングが装着され、マカンやマカンSより車高が15mm低められたスポーティなモデルとなる。試乗車はオプションのエアサスペンションを装着していたため、ノーマルとは乗り味が変わってくるが、車高の上げ下げについてはさらに自由度が高くなっていた。

2022年2月に予約受注を開始したマカンT(925万円)はこれまで「911」や「718」に限定されていた“T”の名称を備えた最初の4ドアスポーツカー。足まわりではポルシェモデルとして唯一となる、車高を15mm低く設定したポルシェアクティブサスペンションマネジメント(PASM)を備えたスチールサスペンションを標準装備。ボディサイズは4726×1927×1606mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2807mm
エクステリアでは、アゲートグレー メタリックで塗装されたフロント/サイド/リアのデザインエレメントによってシリーズのほかのモデルと差別化。フロントトリム、エクステリアミラー、サイドブレード、ルーフスポイラー、リアのロゴには専用のコントラストカラーが使用された。ハイグロスブラックのスポーツテールパイプとサイドウィンドウトリム、ダークチタンの20インチ マカンS ホイールも標準装備される
マカンTの直列4気筒 2.0リッターターボエンジンは最高出力195kW(265PS)、最大トルク400Nmを発生。マカンSやGTSのV型6気筒 2.9リッターツインターボエンジンに比べてフロントアクスルで58.8kg軽量化され、優れた発進加速と最適なコーナリング性能を発揮する。0-100km/h加速は6.2秒
インテリアでは8way電動調節機能付ヒーテッドスポーツシートを標準装備し、ブラックレザーパッケージをベースにした専用トリムを採用。フロントシートと両側リアシートの中央部は縞模様のSport-Texで、フロントヘッドレストにはポルシェエンボス クレストが装着される。シート、ヘッドレスト、ステアリングホイールに施されたシルバーのデコレーティブステッチはエクステリアのコントラストカラーを反映したもの。10.9インチタッチスクリーンとオンラインナビゲーションを含むポルシェコミュニケーションマネジメント(PCM)なども標準装備

 久しぶりにポルシェのSUVに乗ってまずおどろいたのは、その堅牢さと正確な運動性能だ。普通なら大きくて重いクルマは運動性能において不利なことだらけなはずだが、マカンに至ってはボディがひとかたまりの剛体のようにガッチリとしていて、さまざまな場所を運転してみてもクルマがねじれたり、大きく揺すられたりするようなドライバーが不安に感じる動きが本当に少ないのだ。ボディ剛性が高いことによってタイヤとサスペンションもしっかりと仕事をすることができ、大きさを感じさせない一体感が生まれている。

 ハンドルは切り始めからピタリと正確に曲がり、ロングドライブする時にも、高速道路では余計な操舵なくおどろくほどきれいに直進し続けてくれる。普通のSUVであれば、コーナーを曲がる度に車体がずっしりとロールしたり、操縦性もややゆったりしていたりする印象があるが、マカンはどのシーンでもその逆をいく。911やケイマンとはもちろん比べられないが、他のSUVと比較すれば圧倒的に意のままに運転することができるし、確かにマカンは「SUV界のスポーツカー」と言っても過言ではないかもしれない。

マカンは「SUV界のスポーツカー」と言っても過言ではない

 マカンTを運転して気になったのは、些細なことではあるが、アクセルを強めに踏み込むとまるで殻に籠ったような室内の静かさの中に、ほんの少しエンジン音が聞こえてくることだ。これに限っては「マカンも“スポーツカー”だからエンジン音が聞こえるのは当たり前!」と割り切れないのが不思議なところだ。マカンはSUVとしては高い操縦性能を備えてはいるものの、荷室も十分に確保されており、後席もゆったりと座れるスペースがあるので、“スポーツカー”としてだけではなく、やはり便利で快適なユーティリティビークルとしても期待してしまうのだ。

 そこでふと、新型マカンが思い浮かんだ。SUVの中では他に類を見ない操縦性と、後席も荷室もきちんと使える利便性、そして上質なモビリティとしての圧倒的な静粛性。これらがもっともバランス良く成り立つのは、電気自動車化されたマカンなのではないか、と。BEVならロードノイズを除けば機器類から発せられる音は圧倒的に少なくなるし、フロントとリアにモーターを搭載することで、大パワーが発揮できるだけではなく、前後へのトルク配分も自由になるため、より緻密にクルマを制御することができる。そしてSUVであればバッテリ容量も大きくすることができ、満充電時の航続距離が600km前後なら、ある程度の長距離も安心して走ることができる。

もっともバランス良く成り立つのは電気自動車化されたマカンではないかと考察

 ネックなのは、これまでのマカンファンが電気自動車というハードルを越えてまでほしいと思えるかどうかだが……。個人的にはこれまでのガソリン車のマカンに改めて乗ってみて、よりBEVのインフラ整備の必要性は感じつつも、マカンというモデルとしてのポテンシャルは、BEVになることでさらに高まるだろうなという期待感は大きくなった。

 エネルギー問題などを含めて自動車の今後の未来をしっかりと見定めるには、さまざまな疑問やハードルはあると思うが、これからのポルシェのクルマ作りも第一に運転があり、その他の要素はそれを高めることを前提に開発されることに変わりはないと思う。これまでのマカンも、SUVでありながら妥協のないドライブフィールが作り込まれていることとをしっかりと体感できた分、新型マカンもポルシェの魂が踏襲されながら、さらに新しい次世代のモビリティとして大きく進化するに違いないと確信できた。

今から新型マカンに試乗するのが楽しみになった
伊藤梓

クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから自動車雑誌カーグラフィックの編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を活かし、自動車関連の動画やイベントなどにも出演している。若い世代やクルマに興味がない方にも魅力を伝えられるような発信を心がけている。

Photo:安田 剛