試乗記

BMW5シリーズのMパフォーマンスモデル「i5 M60 xDrive」試乗 国産モデルにはない上質なスポーツを体験させてくれた

BMWの5シリーズのMパフォーマンスモデル「i5 M60 xDrive」に試乗する機会を得た

 BMW 5シリーズ初のピュアEVである「i5」。そのMパフォーマンスモデルとなる「M60 xDrive」に試乗した。ちなみに5シリーズは第7世代となって、内燃機関モデルの全てを48VマイルドハイブリッドおよびPHEV(プラグインハイブリッド)と、完全電動化を実施している。そしてピュアEVとなるi5も、同じプラットフォームをベースとして作られているのが1つの特徴だ。

 そんなi5 M60 xDriveのボディは、先代5シリーズよりもひとまわり大きくなり、その全長は遂に5mを越えた(5060mm)。そして全幅は1900mm、全高は1505mmに達した。

i5 M60 xDriveのボディサイズは5060×1900×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm、車両重量は2360kg。試乗車のボディカラーはケープ・ヨーク・グリーン(メタリック)
フロントモーターは最高出力192kW(261PS)/8000rpm、最大トルク365Nm/5000rpm、リアモーターの最高出力は250kW(340PS)/8000rpm、最大トルク430Nm/5000rpm。システム最高出力は442kW(601PS)、最大トルクは795Nmを誇る

 対してホイールベースは2995mmと、実際は20mmほど伸びてはいるものの、直接のライバルといえるメルセデスのバッテリEVモデル「EQE」の3120mmなどと比べれば、短めに抑えられている。そして身長171cmの筆者がリアシートに座っても、「やっぱり5シリーズだな」と感じた。つまりそれは、「狭くはないけれど、決して広くはない」という印象だ。さらにいえばハイブリッドモデルたちとプラットフォームを共用する関係から、フロアにはセンタートンネルが存在しており、その足場を狭くしている。

i5 M60 xDriveの価格は1560万円~
フロントバンパーの両サイドには空気を側面へと逃がすダクトが設けられている
装着タイヤサイズはフロントが245/40R20、リアが275/35R20で、試乗車はピレリーの「P ZERO」を装着。ホイールは専用の「M エアロダイナミック940M」。M スポーツ・ブレーキ(レッド・ハイグロス・キャリパー)も標準装備
リアスポイラーは標準装備
空気がスムーズに流れるディフューザー形状を採用
左前には普通充電ポートを完備
急速充電(CHAdeMO)ポートは右側後方に配置

 現行5シリーズがこうしたホイールベース長を採用する理由は、純粋な目で見ればBMWが2995mmをスポーツセダンとしての臨界点だと考えているからだろう。インテグレイテッド・アクティブステアリング(後輪操舵を可能とする前後輪統合制御システム)は、標準装着されないモデルもある。ホイールベースを伸ばせば重量やコストもかさむし、よりラグジュアリーな乗り味とサイズを望むなら、7シリーズをどうぞという感じか。

i5 M60 xDriveのコクピット。インテリアとリムはカーボン・ファイバー・ハイグロス・シルバー・スレッド・トリム(ダーク・シルバー M アクセント)を標準装備
シートは専用のM アルカンタラ/ヴェガンザ・コンビネーション ブラックを採用
トランク容量は490L。下段には充電コードなどを収納するスペースも確保している
パノラマ・ガラス・サンルーフ(ブラインド付き)はオプション設定で装着すると車重は30kg増となる

 メルセデスのようにEVを専用プラットフォーム仕立てとしていれば、ロングホイールベース化やフロアのフラット化も可能だったはずだが、さらにコストは掛かるしCO2排出量も増える。まだ先の読み切れない内燃機関の継続やEV市場の可能性に対して、BMWは慎重かつ効率的な構えを取っていると考えてよいだろう。

 このようにひと筋縄ではいかないEVシフトだが、いざ動かしてしまえばi5 M60 xDriveの走りはいたって明快だ。その走りは非常に質感高く、大人を唸らせるスポーティさに溢れている。

BMWカーブドディスプレイは標準装備で、M スポーツ・レザーステアリングホイールの奥には、12.3インチ マルチディスプレイメーターパネルを配置。
センターには横長の14.9インチ・ワイドコントロールディスプレイはタッチパネル機能付きが備わる
シフトパネル右側にスタートスイッチ、シフトレバー、電動パーキングなどを配置。左側はナビやエンタメのスイッチを配している
Bowers&Wilkinsサラウンド・サウンド・システムはオプション設定

 xDriveのグレード名からもわかる通り、駆動方式はAWD。内燃機関モデルはFRベースのAWDだが、こちらは2つのモーターが前後のタイヤを駆動させる。

 モーターは単体でフロントが261PS/365Nm、リアが340PS/430Nmのキャパシティを持ち、そのシステム出力は601PS/795Nmとなった。リチウムイオンバッテリの容量は83.9kwh、一充電あたりの航続距離は455km(WLTCモード)だ。

 常用域での乗り味は、重厚にして軽やか。EVならではの低重心なボディをアダプティブMサスペンションがしっとりと支えながら、アクセルを踏み込めば軽やかに加速してくれる。ステアリングの操作感も軽すぎず重すぎず、絶妙だ。

マルチディスプレイメーターパネルには、車体にかかったG(荷重)を表示するモードも用意

 試乗路は厳しい路面も多かったが、スポーツモードに転じてもダンピングはしなやか。操舵に対する回頭性も管理が素晴らしくゆき届いていて、4輪のトルク配分や後輪の操舵といった制御を一切感じさせずに、この巨体をきれいに旋回させる。たぶんもっと制動GやコーナリングGが高まればスタビライザーやダンパーが積極的に可変してソリッドなフィーリングを与えてくれるのかもしれないが、普通に走っている限りはただただ気持ちよく、かといってクルマに乗せられている感じもしない。

 ならばとステアリング左のパドルを引いてエレクトリックブーストを試したが、その出足すら滑かだ。0-100km/h加速は3.8秒だから、確かにいい加速はするがスーパースポーツと呼ぶほどではない。しかしこの加速をしっかりシャシーは変わらず安定しきっている。この人馬一体感に内燃機関モデルで対抗できるとしたら、同門のアルピナくらいだろう。逆にもっと尖った刺激が欲しいなら、まだ筆者は試乗していないがM5という選択肢もある。

アイコニック・サウンド・エレクトリックでは「SPORT」「EFFICIENT」「EXPRESSIVE」「RELAX」など、選択したシーンに応じたサウンドを流してくれるほか、アンビエントライトやサンルーフの開閉なども行なう

 唯一ちょっとトゥ・マッチだと感じたのは、「アイコニック・サウンド・エレクトリック」のデジタルサウンドエフェクトだ。これはi5に限らないギミックだが、モードごとに響かせる独特なデジタル走行音は、最初は面白いけれど聞いているうちに飽きてくる。もちろんエフィシエントモードで静かに走ることも可能だが、どうせやるなら自分たちのヘリテイジである、M5のV8サウンドをリアルに再現して欲しいところだ。

i5 M60 xDriveのみアダプティブ M サスペンション・プロフェッショナル(アクティブ・スタビライザー付き)を標準装備

 とはいえ日本ではすっかり流行らなくなってしまったセダンをして、これほど上質なスポーツを体験させてくれるi5 M60 xDriveは、たんなるサスティナブルEVを飛び越えて、貴重な存在だ。少なくともこのレベルで走れるEVは、国産モデルにはない。

 数少ない不満の2つ目は安心して走れる走行距離が実質455kmの7~8割程度だろうということだ。この不安を解消する充電インフラさえ整えば、i5 M60 xDriveの1548万円という価格はバーゲンプライスだといえる。やっぱり、通常モデルとプラットフォームを共用化したBMWは賢いと思った。

充電インフラさえ整えば、1548万円も高くはないと感じられた
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:安田 剛