試乗記
アウディ「Q8 e-tronクワトロ S line」の洗練された走りはまさにフラグシップSUV
2025年2月11日 08:05
アウディの「Q8 e-tron(イートロン)」は、フラグシップモデルである「Q8」のピュアEVだ。もともと“e-tron”は独立したEVモデルとして大型SUVとクーペタイプのGTをラインアップしていたが、マイナーチェンジを機にQ8シリーズへと組み込まれ、従来の「e-tron GT」「RS e-tron GT」は独立したモデルとなった。
というわけで、外観自体はかなり似ているものの、Q8 e-tronのプラットフォームは内燃機関のQ8シリーズとは別仕立てとなる。さらに言えばサイズ的にも4915×1935×1635mm(全長×全幅×全高)と、例えばV型6気筒3.0リッターディーゼルターボを搭載する現行モデル「Q8 50 TDI quattoro」(同4995×1995×1705mm)と比べると少し小ぶりだ。もっとも日本で使うには、どちらも十分大型ではあるが……。
機能的なアップデートの内容は、まずバッテリ容量が拡大した。今回試乗した上級仕様の「55」は、それまでの95kwhから114kwhとバッテリ容量が増え、一充電あたりの走行距離は423kmから501km(WLTCモード値)へ伸長。
またスポーツバックを選ぶと、バーチャルエアロミラー、エアロホイール、低転がり抵抗タイヤを採用した「レンジプラスパッケージ」が選択でき、その走行距離は612kmまで伸びる。参考ついでに言うと、標準仕様「50」のバッテリ容量は71kwhで、航続可距離は424km(WLTCモード値)だ。
そして両モデル共に150kwhの急速充電(CHAdeMO)に対応。インフラ的にはポルシェおよびフォルクスワーゲンと展開している「プレミアムチャージアライアンス」によって、全てが150kwhというわけではないが、そのネットワークも2024年11月末時点で、全国368か所まで増えている。
というわけで単なるe-tronの時代から数えると、はや7年ほど歳月が経つQ8 e-tronだが、内外装のアップデートもあって、まず見た目はまったく古さを感じさせない。
シートに座ってまず思うのは、室内空間の作り込みの素晴らしさ。インパネの造形は彫刻のように力強く立体的で、派手さはないがシックかつ威厳がある。メルセデスの巨大なモニターと比べてしまうと2段式のデジタルモニターは少し物足りないが、そこに決定的な商品力の差があるとはまだ思えない。インフォテイメントで差を付けるなら、早くクルマをベラベラしゃべらせたほうが勝ちだと思う。
そんなQ8 e-tronで筆者のお気に入りは、センターコンソールにあるシフトセレクターだ。久しぶりに乗ると操作方法をつい忘れてしまうのだけれど、この横に握るタイプのレバーは、慣れるとかなり使い心地がいい。台座がしっかりしていて、指先を動かすだけで走行レンジが選べるから、とても先進的な気分になれるのだ。
というわけで、走り出す。試乗路はかなり路面が荒れていたけれど、室内はとても静かで高級感に満ちていた。ちなみに試乗車はオプションの「サイレンスパッケージ」を装着していたようだが、そもそもの気密性や遮音性も、かなりハイレベルだと思う。EVはエンジン音こそしないが、その分だけロードノイズか風切り音が目立つもの。それがスパッと遮断されている。
アウトプットも、そつなく盤石だ。車重が2600kgあるから300kW(約408PS)/664Nmのシステム出力を持ってしてもフラットアウトした加速は割と平凡だが、アクセルオン時のトルク制御は洗練されていて、どこからでもスムーズに加速できる。
ただ極端に言えば、速度を上げていってもその世界観はまったく変わらないから、贅沢な言い方をするとちょっと走りが退屈だとも言える。もちろんこのどんな速度域でも、どんな路面状況でもクールに走る性能こそがアウディを選ぶ理由なのだけれど。
個人的にはダブルウィッシュボーン・サスペンションの剛性の高さや、モーターAWD制御の素晴らしさを、もう少し分かりやすく感じさせてくれてもよいのにとは思う。「オート」モードの制御があまりに良すぎて、その他のモードとの差が感じられないのだ。特にアウディは、動的なエモーショナルさの演出が薄い。
もっともこのQ8 e-tronがただの「アウディ e-tron」だったとき(つまり2018年当時だ)、インフラや航続距離の問題はあったが、筆者はまるでそれが普通のSUVに乗っているかのごとく、普通に使えることにすごみを感じた。
そういう意味で言うとアウディは、Q8 e-tronで「EVを日常化する」という目標を、ある程度クリアしたのだと思う(インフラと航続距離の問題は、EV全体の命題だ)。
だからこそアウディには次のフェイズで、今度は未来を先取りするようなEVを作ってほしい。誰もが「こんなクルマに乗ってみたい!」と思うような、ワクワクするEVがそろそろ出てもよい時期になってきたと思う。