試乗記

セレナ e-POWERの「e-4ORCE」仕様に雪上試乗 専用セッティングの足まわりで乗り心地も上質なものに!

セレナ e-POWERの「e-4ORCE」仕様に雪上試乗

FF仕様と異なるe-4ORCEならではのセッティングの数々

 日産自動車が北海道で開催した雪上試乗会に参加してきた。試乗会当日は暖かく、本来であれば広大な氷上コースで走る予定がキャンセルとなってしまった。けれども、一般道にはまだまだ雪はあるし氷はあるし、溶け始めたことで深くなった轍だって存在する。まるで生き物のように変化する路面をどうクリアしていくのかを見るのもおもしろそうだ。

 気を取り直して真っ先に乗り始めたのは、2024年後半に登場したセレナ e-POWERに加わった4WDモデル「e-4ORCE」だ。e-POWERはエンジンを発電機として使い、モーターのみで駆動するというシステム。フロントには最高出力120kW(163PS)、最大トルク315Nmを発生させるモーターが備わり、4WD化にあたってはリアにもう1つモーターを加えて成立させている。採用されたリアモーターは「ノートオーラ NISMO」が搭載するものと同型のMM48型で、最高出力60kW(82PS)、最大トルク195Nmを発生させることが可能だ。

セレナ e-POWERに電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」搭載モデルをラインアップに追加して2024年11月に発売。試乗車は「e-4ORCE ハイウェイスターV」で価格は408万8700円

 走れば急坂の発進でも瞬時にリアが駆動し、フロントタイヤが横方向にスライドするようなことはなくしっかりと加速。コーナーリングにおいてもリアタイヤが駆動を担当することで、結果的にフロントタイヤのキャパシティに余裕が広がり、ライントレース性能が向上していることがうかがえる。

 轍が深くてハンドルが取られるような場所や、上りコーナーの立ち上がりでアクセルオンした瞬間にアンダーステアが出そうな状況でも、リアにしっかりとした蹴り出しがあり、ニュートラルに立ち上がるところがうれしい。また、狙ったラインを外れようとした場合には、フロントの駆動を落とし、イン側のブレーキをつまむなどして旋回性を復帰させようとしてくれるところも好感触だ。

e-4ORCE仕様ではリアの蹴り出しをしっかり感じられる走りを体感できた

 さらにうれしいのが、アクセルだけで加減速をコントロールしやすくなる「e-Pedal Step」の存在だ。事実上のワンペダルドライブ(完全停止時にはブレーキペダルを踏む必要がある)は、ブレーキを踏めばABSが即座に作動するような状況において、うまく4輪を制御して減速してくれる感覚に溢れている。リアモーターによる回生ブレーキにより車体がフラットに減速する動きも乗り心地のよさに繋がっている。このほか、車輪速センサーの入力によって路面状況をセンシングし、より安定を保つ駆動力配分を行なうことで安定性も高めている。

e-4ORCE仕様の走行モードは「STANDARD」「SPORT」「ECO」とともに「SNOW」を用意

 乗り心地のよさという点で言えば2列目の快適性がかなり高まったことがこの「e-4ORCE」の特徴。FFモデルで気になっていたフロアやシートの微振動が見事に収まっているのだ。実はこの「e-4ORCE」を達成するにあたり、リアまわりの足まわりとボディを変更している。4WDはFFモデルに対して15mm高い最低地上高150mmとなっているが、これによりビームの角度が振動を吸収しやすい角度になったことが効いているのだとか。

e-4ORCE仕様では2列目の快適性がかなり高まった

 さらにはリアの両サイドメンバーを真っ直ぐにした上でもう1本追加。後ろからの衝突からモーターを守ることが主目的だ。それらにリアモーターが釣り下がるようにセットされていることが振動や乗り心地には効いている。実はこのぶら下がっているリアモーターはバネ下の振動に対してダイナミックダンパーとしての役割を持たせているそうだ。FR系のデフケースにもその役割はあるが、それよりもはるかに重いモーターだからこそ振動を打ち消しやすいということらしい。

 すなわちこのセレナ e-POWERの「e-4ORCE」は雪道を走る人だけに役立つわけじゃない。上質で乗り味のよいクルマに乗りたいという人にとっても見どころのあるミニバンのように感じる。

e-4ORCEモデルとしては「エクストレイル」「アリアNISMO」にも試乗

ノートオーラ NISMOはまるでFRに乗っているかのよう

2024年7月発売の「ノートオーラ NISMO」ではNISMO専用チューニングの「NISMO tuned e-POWER 4WD」(347万3800円)を新設定

 今回の雪上試乗会で注目だったもう1台はノートオーラ NISMOだ。マイナーチェンジで追加された4WDモデルは「e-4ORCE」とは名乗っていないシステムではあるが、軽量・コンパクトな部類のこのクルマなら、曲げるための制御は必要ないということのようだ。ベースとなったノートオーラの4WDに対してリアのモータートルクを50%も引き上げた150Nmとし、パワーは50kWから60kWへと拡大しているところが特徴だ。

 ベースモデルから乗り換えて走り出せば、明らかにリアからの蹴り出しが一枚上手。ベースモデルも安定感は高いが、旋回加速時にアウトへはらんでいく傾向がある。だが、NISMOはコーナーの立ち上がりでアクセルオンすれば、ニュートラルか弱オーバーで立ち上がっていくところがおもしろい。まるでFRに乗っているかのよう。というよりむしろ、R32~R34スカイラインで使われていたころのアテーサE-TSの再来かと思えるほどにおもしろい!

ノート オーラ NISMOとして初となる4WDモデルでは、標準モデルに対してリアモーターの出力を50kW(68PS)から60kW(82PS)に、トルクを100Nmから150Nmに向上させるとともに、前後の駆動配分などの専用チューニングを実施。さらに強度を確保しながら軽量化(2WD用のホイールから12%軽量化)を図った専用デザインのエンケイ製17インチアルミホイールなどを採用

 コレ、氷上の広場で乗ったらきっと横に向けてやりたい放題だったに違いない。残念ながらそれは叶わぬ夢となったが、公道試乗でもその片鱗は見えた。さすがはNISMOと思える乗り味がそこにある。

 こうしたスポーツ性だけでなく、前述したセレナの振動対策はこのノートオーラ系にも、それ以外の4WDモデルにももちろん投入済み。これもまた、雪道だけでなくどんな路面であったとしても上質に楽しめるクルマであることに変わりはなさそうだ。

シリーズとしてノートオーラ、ノート オーテック クロスオーバーの性能も体感した
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学