インプレッション

アウディ「A3セダン 1.8TFSI クワトロ」

アウディ初のCセグメントセダン

A3セダン 1.8TFSI クワトロ

 2013年秋に日本に導入された「A3スポーツバック」に続いて、いよいよ「A3セダン」が発売された。このところ欧州プレミアムブランド各社は低価格帯のラインアップを充実させているが、サイズが小さめのセダンが好まれる市場からの要望に応えるべく、アウディもA3にまでセダンを加えた。Cセグメントのセダンというのは、アウディにとっても初めてのチャレンジだ。交通事情の厳しい日本でも、このサイズのセダンを待ち望んでいた人は少なくないことだろう。

 全幅は1800mmを切る1795mm、全長はA3スポーツバックよりも140mm延長された4465mmとなっている。A3スポーツバックよりも、むしろA4セダンと比べてどうかが気になるところだが、A4セダンとの比較では、全長は255mm短く、全幅は30mm狭い。もちろん機構的にはエンジンが横置きとなるのも大きな違いだ。

 実車を前にすると、トランクが付いただけで、こんなにもスタイリッシュになるものかと思ったほどだが、それだけではなく実はA3スポーツバックとの外観での共通部品は、ドアミラー、ドアハンドル、ヘッドライト、シングルフレームグリルの4点のみ。つまりボディーパネルをまるごと新規に起こしたわけだ。

流れるように美しいCピラーのライン

 この美しいスタイリングが実現したのも、その甲斐あってのこと。クーペのようになだらかに落ちるCピラーが印象深く、A4セダンが伸びやかな印象であるのに対して、こちらは凝縮感がある。トランク内は、ほかの多くのアウディ車と同じように、タイヤハウスの幅で側壁が設けられているため、横方向にはあまり広くないのだが、見栄えは抜群によい。クワトロの場合はリアアクスルに後輪を駆動するための機構があるのでフロア下のスペースはほぼないが、前輪駆動モデルには収納スペースが設定される。

アウディらしい端正なたたずまいのコクピット。上級モデルと同様の作り込みをしているという
前席に座ったところ。指を差しているのは、タッチ操作が可能となった新MMI。A3スポーツバックから搭載されたもの
こちらは後席。身長172cmの筆者が前席に座った場合のポジション設定で撮影
新MMIシステム。タッチ操作に対応したほか、ボタンを減らすことでより快適な操作を実現している
A3セダンのメーターパネル。外気温は-6.0℃
A3セダンはアルミボンネットやアルミフロントフェンダーなどフロントまわりの軽量化に配慮している。ボンネットを開けるのも軽々というか、ボンネットダンパーがあるので重さを感じるのは難しかった
1.8TFSI クワトロのトランク
クワトロシステムがあるため、1.8TFSI クワトロではスペアタイヤレスの設定となる
直列4気筒 DOHC 1.8リッター直噴ターボのCJSエンジン。最高出力は132kW(180PS)/4500-6200rpm、最大トルクは280Nm(28.6kgm)/1350-4500rpm。JC08モード燃費は14.8km/L
1.8TFSI クワトロを示すバッヂ

 トランク容量は、1.8TFSI クワトロが390L、それ以外の1.4TFSIなどは425L。容量は十分だが、横幅が短いためゴルフバッグが横置きにできず、斜めに積まざるを得ないので人によっては少々不便に感じるかもしれない。もちろんリアシートの前倒しやセンタースルーは可能なので、長尺物は縦向きに積めばよいし、作りのよいスキーバッグも標準装備される。その際の容量は最大で880Lになる。

 後席については、シート自体がしっかりとした作りであり、ニースペースもこれだけあれば十分。成人男性でも不満なく乗れそうだ。頭上空間はそれほど広いわけではないが、最大の競合車であるメルセデスのCLAクラスに比べると頭まわりの余裕はだいぶ上回る。Cピラーにも小窓のある6ライトウインドーにより側方の開放感も高い。

車両重量はスポーツバック比で10kg増

 試乗会は北海道で実施され、1.8TFSIクワトロを駆り、帯広空港を起点に、比較的広い範囲の周辺公道と特設された雪上コースを走ることができた。足下にはミシュランのX-ICE XI3が装着されていた。ミシュランスタッドレスの最新モデルだ。

 1.8リッター直列4気筒 直噴ターボエンジンは、全域にわたってとてもトルクフル。280Nmという大きなトルクを、1350rpm~4500rpmという幅広い回転域で発生するというスペックのとおりだ。組み合わされるSトロニックが、よりダイレクト感のある加速を味わわせてくれる。

 2014年シーズンは例年よりも積雪量が少ないらしく、この日も好天に恵まれたことで、試乗ルートの路面は、舗装が出ているところも多かったが、圧雪路や凍結している個所もあった。

装着タイヤはミシュランスタッドレスの最新モデルX-ICE XI3
凍結路面や積雪路面、ドライ路面などさまざまに変化する路面を走行した

 前後の駆動力は、自動的に前100:後0から50:50の間で最適に配分される。滑りやすい路面では、いかにスムーズにゼロ発進できるかが、1つの大きな課題となるが、クワトロシステムは前輪が空転しそうになると荷重のかかる後輪に大きく駆動力を配分するので、スムーズに問題なく発進できる。車両の挙動は安定したまま。アクセル一定で走行していると、効率のよいほぼ前輪駆動の状態となるが、ブレーキング時には後輪に駆動力を配分してエンジンブレーキをかけるので、制動時の姿勢もより安定する。

 雪道での試乗だったため、運動性能面では不利なスタッドレスタイヤを履くものの、アウディの美点であるクイックなステアリングレスポンスは損なわれていない。セダンになったことで車両重量はスポーツバック比で10kg増えており、そのぶん前後重量配分は均等に近づいている。また、車体後端の開口面積が小さくなるので、ボディー剛性の面でも有利となる。それによるピッチングや一体感など微妙な走り味の違いは、わずかな差ではあるものの感じ取れる。

 1.8TFSIクワトロでは、スポーツサスペンションが標準装備となり、「アウディ ドライブ セレクト」も付く。基本的に「オート」で走行したが、適度に引き締まった乗り味が心地よい。突き上げをあまり感じさせることなく、姿勢変化は抑えるという味付けで、ただ硬い足とはわけが違う。運転していて路面の状況が忠実に伝わってくるところもよい。こうした足まわりの巧みな味付けも、舗装路だけでなく冬道を走る上でも大いに味方になってくれることと思う。

特設コースでクワトロの優位性を体感

 クワトロシステムの優位性をより分かりやすく体感するための特設コースでの試乗も行った。ショートサーキットのようなレイアウトで、雪を固めた路面はかなり滑りやすく、ところどころ凍っている状態。せっかくのクローズドコースなので思い切った走り方も試したが、期待どおりとても走りやすかった。

 これはスタッドレスタイヤの性能の高さもあってのことだが、アクセルやステアリングの操作に対する反応が思いのほかリニア。滑りやすい路面にもかかわらず、アクセルを強めに踏んでもどんどん前に進んでいくのは、やはり状況に応じて最適に前後駆動力を配分するクワトロシステムの大きな価値に違いない。そこは2輪駆動とは大きな違いがある。

 ESCスイッチを長押しすると、基本的にはESCの介入しない“素”に近い状態になる。そのモードで走ると、コーナー立ち上がりではドリフト走行を楽しむこともできる。ただし、後輪の空転が小さく、しっかり前に進みながらカウンターステア状態で走れるところがクワトロならでは。後輪のみを駆動するクルマよりもはるかにコントロールしやすい。一方のターンインでは、たとえOFFでも危険なオーバーステア状態に陥ることはまずない。

十勝スピードウェイの特設コースで、クワトロシステムの走破力を存分に試す

 ターンインでは、ESCをONにしておけばずっと素直にノーズが入っていく。圧雪の上でも本当によく曲がり、滑りやすい路面でも4輪個別にブレーキをかけることで上手くヨーモメントを発生させてくれるESCの恩恵を実感する。

 この曲がりやすさには、新型A3がフロントセクションにアルミニウムを多用して軽量化を図ったことも少なからず寄与していることと思う。状況が厳しくなるほど、そうした車両の根本的な素性が効いているものだ。滑りやすい路面であるにも関わらず、けっこうなペースで走ることができたが、そうしたドライビングプレジャーはもちろん、滑りやすい路面でもできるだけ意のままに走れたほうが、より高次元の安全性にもつながることはいうまでもない。

 スタイリッシュで、優れた走行性能を持ち、さらには別記事でも紹介した先進装備を搭載するなど、多くの魅力を備えたA3セダンは、車両価格が325万円からスタートし、今回の1.8TFSIクワトロについても、高い付加価値を備えながらも410万円という割安感のある価格設定となっているところも魅力に違いない。そしてなにより、日本で使うにも適したボディーサイズがありがたい。この価格帯で、このサイズの選択肢に新たに加わった、魅力満載のプレミアムコンパクトセダンである。

夕暮れのアウディ A3セダン。丁寧にデザインされた各部の作り込みが夕暮れに映える

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学