インプレッション
日産「デイズ ルークス」
Text by 河村康彦(2014/4/9 00:00)
“子育て支援車”として便利なスーパー・ハイトワゴン
軽自動車造りでは古い歴史を持ちながら、販売面でスズキやダイハツ工業といったトップランナーたちに大きく水を開けられていた三菱自動車工業。一方、さまざまなメーカーが生産したモデルに自らのブランドエンブレムを貼り付けてのOEM車販売の経験はあったものの、自らによる軽自動車開発の経験は皆無だった日産自動車。そんな両者が、お互いの強みを引き出しつつ逆に弱さをカバーし合う目的で合弁会社を設立し、その結果として昨年発売された日産の軽自動車第1弾が「デイズ」シリーズだった。
ハイトワゴンと称されるクラスに属するデイズシリーズをベースに、さらに高さを150mm以上プラスすることでキャビン容量を大幅に増し、軽自動車市場で昨今高い人気を誇るいわゆる“スーパー・ハイトワゴン”の世界へと進出を図ったのが、ここに紹介する第2弾の「デイズ ルークス」シリーズだ。
企画やパーツ調達などは主に日産側が担当し、設計や生産は三菱自動車側が担当――このような役割分担の下に完成されたというデイズ ルークスは、デイズが「eKワゴン」との双子車であったのと同様、三菱自動車が発売する「eKスペース」との一卵性モデルとなる。
三菱自動車の工場で生産され、発売までが同日に摺り合わされた両ブランドのモデルは、当然その中味も基本的に変わらない。結果として、ユーザー目線からすれば価格のみならずアフターサービス面に至るまで、「双方の店舗からより有利な条件を引き出せる」といった可能性も考えられそうだ。
同じユーザー層をターゲットとした、同様のマーケティングに基づいた商品開発。その結果、どうしてもライバル同士の類型化が強くなってしまうのが最近の軽自動車たち。そうした中で、何とか少しでも個性を発揮しようとシリーズ中に“2つの顔”を用意するのは、売れ筋モデルではもはや常套手段だ。
すでに熱い戦いを繰り広げる激戦区に、やや後発組として参入することになったデイズ ルークスにも、やはり標準仕様とハイウェイスターという2タイプのマスクの持ち主が用意される。フロントグリルがヘッドライトへとスムーズに繋がるのが標準仕様で、グリル中央部分が下部のバンパーに食い込むように面積を拡大しているのがハイウェイスター。リアビューではフロントほど大胆な差別化は行われず、後者でテールゲート上のクロームメッキ・フィニッシャーがより強く自己顕示を行う程度だ。
このカテゴリーのモデルたちが例外なくセールスポイントとする、居住性の高さと“おもてなし装備”の数々は、それぞれがお互いをライバル視して切磋琢磨が続けられてきたゆえ、端的に言って今やどのモデルにも「決定的な優劣は感じられない」というのが現状だ。
そうした中にあってデイズ ルークスが特にアピールするのは、かねてから日産車が熱心に採用を続けてきた車両周囲を上から見下ろしたような映像をドライバーに提供する「アラウンドビュー・モニター」や、紫外線を99%カットするというUVカットガラス、スイッチのワンプッシュで開閉するリモコン・オートスライドドア、広いキャビン内で後席での空調強化を実現するというシーリングファンの採用などになっている。
ルームミラーの鏡面内に映るアラウンドビューモニターの映像はいささか小さ過ぎるし、オートスライドドアもそこまでやるならば、もはや何らかのジェスチャーに反応し、手を触れずに操作できるようにしてほしい……といった注文は残るものの、そうしたさまざまな装備群は例えばこのモデルを“子育て支援車”と見るならば、いずれもなかなか便利で有用なものではあるはず。
見方を変えれば、もはや自動車本来の機能とは別の、そうした装備アイテム1つで売れ行きが変わるという宿命を背負う技術者泣かせな存在が、こうしたスーパー・ハイトワゴンに属する各車でもありそうだ。
ライバル各車を圧倒する「ダントツの美点」が欲しかった
ところで、そんなデイズ ルークスのインテリア全般の質感は、新興国狙いでひたすらコストダウンへと走った一部の1リッタークラス・コンパクトカーを確実に凌ぐ仕上がりぶりと言ってよい。このあたりは、軽自動車そのものが国内特化のガラパゴス商品で、それゆえこうした点に厳しい日本のユーザーの肥えた目を意識した結果とも考えられる。
アレンジ操作が少々厄介なのが残念だが、ダブルフォールディング式の後席を折り畳めば27インチサイズの自転車を丸々呑み込み、小さな子供ならば立ったまま着替えも可能という高さに設定されたルーフの高さは、軽自動車ゆえの全長と全幅の厳しい制約を跳ね除ける広々感を演じてくれる一方で、ドライバー目線からすれば正直「無駄なほどの背の高さ」とも言えそうなレベル。
当然それゆえ重量が増すのも止むを得ない。それもあり、まずは自然吸気エンジンを搭載した標準仕様でスタートしようとすると、何とも動き出しが鈍く感じられるというのが第一印象になった。
速度が増せば、さらに背の高さゆえの空気抵抗の大きさも効いてくる理屈。実際に首都高へと乗り込んだ印象でも、このモデルで高速道路を長時間走行するのは少々きつそうだ。逆に、街乗りシーンでアクセルペダルをさほど踏み込まずにすむ領域では、静粛性も思いのほか高くなかなか快適。毎日を付き合うシチュエーションによって、大きく評価が分かれそうなのがこのモデルでもある。
一方、事実上の“排気量増大メカ”であるターボチャージャーを備えた心臓を積むハイウェイスターへと乗り換えると、さすがにこちらはまるで“憑き物”が落ちたように小気味よく加速する。ただし、こうして動力性能面での伸び代は大きかったものの、トレッドよりも全高の方が遥かに大きいというスーパー・ハイトワゴン特有の基本的課題を抱えるだけに無理は禁物。
多少なりとも脚は強化されているはずながら、基本的にこちらでもロールは大きく、セダンなどではほとんど気にならない程度の風でも、時に大きく進路を乱される。断っておきたいが、何もこれはデイズ ルークスに限った話ではない。スーパー・ハイトワゴンに属するすべてのモデルが克服できていない事柄なのだ。
そうは言っても、高速道路などを走る機会は滅多にないし、連続して何百kmを一気に走破することなども稀。それより、税負担を代表とした維持費をとにかく低く抑えながら、まずはキャビンの広さにこそ価値を求めたい――最近のこの種の軽自動車の人気ぶりは、多くの人々のそうした声を代弁するかのようでもある。
なるほどこれらも、日本の環境の中で毎日の相棒となるべきクルマに求められる、重要な基本性能ではあるだろう。となると、後発での参入となるデイズ ルークスには、先行するライバル各車を圧倒する「ダントツの美点」が欲しかったように思う。
それはもちろん、他者を出し抜く際立った燃費性能でもよいし、まだライバルの誰もが実現できないでいる「首都高を不安なく走れる走行性」などでもよいだろう。逆に、現在のデイズ ルークスに昨今注目を集める衝突軽減・回避ブレーキの用意が間に合わなかったのは大いに残念なポイントだ。仮に三菱自動車側がそのノウハウを持たないといった事情があるならば、そうした点にこそ日産主導による「2社協業の成果が目に見える軽自動車」を創り上げて欲しかった。
もちろんデイズ、そしてデイズ ルークスと続いた“日産の軽自動車”は、これで終わりではないはず。きっと今、開発の真っ只中にあるはずの“第3弾”には、さらなる飛躍を期待したい。