インプレッション

スバル「WRX S4」

新世代パワートレーンを搭載する「WRX S4」

 好調なスバル(富士重工業)だが、「レガシィ」は北米市場をメインとしているため、日本市場ではボディーサイズが大きいと感じるユーザーもいる。かといって「インプレッサ」では昔からのレガシィユーザーにとってはサイズ感やグレード感が合わない。そこに待望の「レヴォーグ」が登場して、その中間を埋める役割を果たすことになった。ただレヴォーグはツーリングワゴンのみで、セダンは設定されていない。セダンユーザーは結構多く、特にスバルらしいスポーツセダンを待っているユーザーは少なくない。そこに待望のスポーツセダン「WRX S4」が登場することとなった。WRXはインプレッサにラインアップされていた伝統のスポーツモデルのネーミングで、今回はそれを独立させた格好だ。スポーツセダンをWRX S4、さらにピュアスポーツセダンを「WRX STI」と分けている。

 さて、独立車種となった新型WRXはこれまでの「インプレッサ WRX」と比較するとワンサイズ大きくなっている。ホイールベースで25㎜、全長で15㎜長い。ちなみにホイールベースは現行のインプレッサG4よりは5㎜ほど長くなっており、トレッドもフロントで20㎜、リアは25㎜ほど広い。基本的な骨格はレヴォーグでありながら、それをセダン用に固めている。これにより現行のインプレッサ WRXよりも大幅にボディー剛性が向上しており、ねじり剛性係数で40%、曲げ剛性係数で30%以上向上したとのことだ。残念ながら最新のEyeSight(ver.3)を試すことはできなかったが、簡単な試乗はできたのでここに紹介していきたい。

 ボディーサイズは4595×1795×1475㎜(全長×全幅×全高)で、全幅もレヴォーグより10㎜広いが1800㎜を切っており、日本でも使いやすいサイズだ。

 S4のパワートレーンは新世代の水平対向4気筒 DOHC 2.0リッターエンジンである。直噴ターボでデュアル可変バルブタイミングを装備し、221kW(300PS)の最高出力と、400Nmの最大トルクを発揮する。この数字を2.5リッター フラット4を搭載するインプレッサ WRX STI A-Lineと比べると、パワーは同等、トルクではむしろ上回っており、現行レガシィから採用されている燃費を大幅に向上させた新型ハイパワーユニットだ。

 トランスミッションはこれもスバルが最近採用しているスポーツリニアトロニックのチェーンドライブCVTになる。疑似的にパドルシフトの6速マニュアルモードまたは8速マニュアルモードも使える。

 WRXのネーミングに相応しくスポーツセダンとして再スタートしたが、スポーツ色の濃かった先代レガシィB4のポジションをもカバーする。グレードは、2.0 GT EyeSightと2.0 GT-S EyeSightの2つがあり、後者はビルシュタインダンパーやハイラスター塗装の18インチアルミホイール、アルカンターラ/本革シートなどが標準になる。

 タイヤサイズは225/45 R18で、試乗車はダンロップ製を履いていた。ダッシュボードは現行のインプレッサから始まる一連の操作性・視認性のよいもので、車種によってイメージを変えている。WRX S4の場合ではメーター照明を赤に変更し、ダッシュボードのトリムなどをカーボン調にするなどしてイメージを変えている。ダッシュボード、トリムの質感は平均的だが、ソフトパッドを全面に使っているので触れた際の感触もわるくない。

 ドライビングポジションはアップライトな姿勢をとるが、自然に手足を伸ばしたところにハンドルやABペダル(アクセル&ブレーキペダル)がある。運転しやすく、またシートもサイズが大きく、身体全体をホールドしてくれる。さらにサイドサポートも常識的な柔らかさで、大きく張り出していないので乗降性もよい。2.0 GT-S EyeSightではアルカンターラと本革を組み合わせたものだが、こちらは少しサイドサポートが大きめとなっている。

 リアドアは開口部が大きいので、こちらも乗降性はよく、レッグルームも広く快適だ。またヘッドクリアランスも見たとおり余裕がある。頭はCピラーに隠れるが圧迫感はまったくないので、大人4人が余裕を持ってロングツーリングできそうだ(乗車定員は5人)。

 総じてWRX S4のキャビンはオーソドックスで落ち着きのあるものになっている。ただ、もう少し色調、インパネの質感などで冒険をしてもよいのではないかと感じた。

 WRX S4の乗り心地は比較的硬めで、タイヤもそれに合わせて剛性の高いものを使っているのでソフトな感触はない。ただし、スポーツカーのようなゴツゴツした突き上げがあるかと言えば、そのような心配はない。路面から入ってくる突き上げはマイルドによく収められている。

 路面とのコンタクトは、ハンドルとシートを通じて感じることができるものだ。面白いことにビルシュタインダンパーを装備した2.0 GT-S EyeSightは低速ではゴツゴツ感があるが、追従性がよく、その結果乗り心地はソフトに感じられる。一方2.0 GT EyeSightは、ゴツゴツ感はあるが角が丸くなったような感触で、それぞれ個性が分けられている。高速での乗り心地もそれに応じて個性が分かれるが、ガツンとしたショックの大きさはそれぞれ加速度的に大きくなる。ただし収束性はわるくない。

 さて取り回しは幅の広い水平対向エンジンの為に、ハンドルの切れ角が制限され、5.5mという最小回転半径になっている。FRに慣れていると感覚的にはもう一息と言いたいところだが、実質的な不自由はそれ程ないだろう。

 加速感は、低速トルクがたっぷりしており、アクセルワークにも自然に反応して小気味よい加速感が楽しめる。ゆっくり加速するときエンジン回転の上昇に従って粘り強く加速していく感触だ。また、アクセルを強く踏むと、エンジン回転が上昇し、そこに速度が追い付くCVTらしい加速を示すが、これもコントロールやすく、トルコンATと比較しても違和感はないし、効率よく加速するフィーリングはなかなか気持ちよい。レスポンスについてはさすがにクイックに反応するMTのようなわけにはいかないが、連続的な加速は決して見劣りしない。

 エンジン特性を変更できるSI-DRIVEは3モードを選択でき、もっともスポーティな「S♯」モードを選択すると8速マニュアルモードを利用できるようになる(そのほかは、6速マニュアルモードが可能)。8速マニュアルモードではパドルシフトによるダイレクト感のある変速ができるので、変速を楽しめるし、サーキットならずともギヤ比固定のドライブができるので、下り坂などでのエンジンブレーキ、あるいはスマートにギヤをホールドしてのドライビングもできる。ある意味、クルマを安定させて走らせることが可能だ。

 ハンドリングは極めて安定志向だが退屈ではない。適度な重さの操舵力で、ハンドルの応答性は優れており、切り増していくにつれて操舵力が変化するビルドアップ感もわるくない。要は自然で理にかなった動きをするため、ドライバーにとっては大きな安心感がある。

 スバル自慢の左右対称のAWDシステムはスポーツリニアトロニックに組み込まれ、前後トルク配分を45:55をベースとしてオンデマンドでトルク配分を変更。状況に最適な駆動力を発揮する。こちらのシステムはVTD-AWDと呼ばれるが、後輪のトルク配分を少し多くすることで、よりリニアなドライビング感覚を持たせている。高速走行で左右のハンドルの切り替えしをしても追従性はよく、素直で安定感のあるフィーリングを持っている。ステアリングギヤ比は14.5:1とクイックなのでハンドルレスポンスも適度に素早い印象だ。

 WRXの名に恥じないスポーティな性格を持つが、スバルが成長しているようにWRXも着実に成長し、誰が乗っても対応できる柔軟性を持ったスポーツセダンに成長した。レガシィB4とは違い、インプレッサG4とも違う独自路線を歩み出したのがWRX S4である。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学