インプレッション
スバル「WRX STI」
Text by 日下部保雄(2014/8/25 11:30)
モータースポーツ直結のエンジンを搭載する新型「WRX STI」
スバル(富士重工業)のモータースポーツのメインストリームはAWD(4WD)だった。水平対向と言う非常にユニークなエンジンを武器に低重心化とコンパクト化、そしてエンジンを縦置きにしたメリットを活かして、シンプルにトランスミッションから一直線にプロペラシャフトを通した左右対称のAWDで、素直な回頭性と圧倒的なトラクションを武器にラリーの世界で大活躍した。三菱自動車工業のランサーエボリューションと毎戦繰り広げられる死闘は今でも語り継がれ、そしてそれは現在進行形でもある。
スバルにとっての最初のラリーの洗礼は国内、そして過酷なサファリラリーだったが、やがてハイスピードなヨーロッパのWRCにも参戦して技術と耐久性に磨きをかけ、脈々と受け継がれているスバルのコア技術と連動して、スバルと言えばAWDを連想させるに至っている。
そして、STI(Subaru Tecnica International)はスバルのモータースポーツを統括する会社だ。もともとはスポーツ車両のサブネームとしてSTiを使っていたが、現在はすべて大文字のSTIに統一して車両のネーミングにもこちらを使っている。STIはスバルのモータースポーツの歴史を受け継ぎ、スバルのスポーツ車両はすべてSTIのネーミングが与えていることで進むべき方向は明快だ。
さて、今回の「WRX STI」はWRXという独立した新スポーツセダンの中でもSTIのサブネームが与えられたことで、特にピュアなスポーツモデルであることが分かる。WRX STIは「WRX S4」と同時開発され、エンジンは新世代ボクサーのFA20DITではなく、従来の「インプレッサ WRX STI」に搭載されていたEJ20を継承している。スポーツエンジンとしてすでに熟成されているEJ20は、WRCをはじめとして多くのモータースポーツでそのパフォーマンスを遺憾なく発揮してきた名機だ。FA型が燃費とパワーの両立を目指した新規エンジンとすれば、EJ型はパワー一直線のスポーツエンジンだ。ボア×ストロークはFA型が86.0×86.0㎜(ボア×ストローク)のスクエアタイプなのに対し、92.0×75.0㎜のオーバースクエアで、高回転で出力を出すタイプ。2.0リッターの水平対向4気筒は、最高出力227kW(308PS)/6400rpm、最大トルク422Nm/4400rpmを発揮する。
パワートレーンは同一だが、装備の違いによってSTIと、STI Type Sの2グレードが存在し、STI Type SではSTIの装備に加えて、ビルシュタイン製ダンパー、大型リアスポイラー、BBS製18インチ鍛造ホイールが標準装着されている。
車両重量は1480kg(STI)、1490kg(STI Type S)なので、馬力荷重は約4.8㎏/PSというスーパースポーツセダンに相応しい値を示す。
ちなみにボディーサイズは4595×1795×1475mm(全長×全幅×全高)で、先代インプレッサベースのインプレッサ WRX STIに比較すると、全長で15㎜プラス、全幅は同じで従来のWRXと同じサイズ感だ。ホイールベースは25㎜増えた2650mmで、これは後席足下空間にあてられているとのことだ。
車両重量は、インプレッサ WRX STI spec Cの18インチ仕様かつSRSサイドエアバッグ+SRSカーテンエアバッグ装着車と比べると、1450kgから1480kgへと30kgの増加している。
基本的な車体設計は、ホイールベースが伸びたことでもお分かりのように、レヴォーグと共通のプラットフォームで、ねじり剛性係数で40%、曲げ剛性係数で30%以上向上としている。剛性アップはなかなか数字と感覚が合うことが難しいが、走ると新型WRX STIの剛性の向上をよく理解できる。Aピラーとフロントバルクヘッドの結合の仕方、リアフロアとバルクヘッドの補強、フロアの補強など、剛性の見直しは多岐に渡り、効果は高い。タイヤサイズはWRX S4の225/45 R18から245/40 R18にサイズアップされているが、同じパワートレーンを持つ先代インプレッサ WRX STI spec.Cとは同サイズだ。トランスミッションは6速のMTのみで、従来のA-Lineに相当するモデルはすべてWRX S4に吸収されている。
WRX STIの試乗は富士スピードウェイの国際レーシングコースで行われた。WRX STI専用の赤のアクセントを入れたアルカンターラと本革のドライバーズシートに座り、ステアリングのテレスコなどを調整すると誰でも最適なポジションが取れる。インテリアもポイントで赤い加飾を加えた高揚感のあるものに変更されている。
クラッチの踏み応えはガッチリとしているが、踏力はそれほど大きくない。日常的な使用でも左足がしびれることはないだろう。クラッチミートの幅もあり、つながりも唐突感がなくて感じがよい。
6速MTはシフトフィールもよく、スーと軽く入るがハイパワースポーツセダンらしい正確な感触はなかなか好ましい。もう少し横方向のストロークがほしいところだが、シフトに支障をきたすことのないよい感触だ。変速比は高速よりになっているが、1速3.636、2速2.375、3速1.761、4速1.346、5速1.062、6速0.842と分散されているので、どの速度域でも使いやすいギヤ比だろう。ちなみにファイナル(減速比)は、先代同様の3.900になる。
サーキットでは、エンジン特性を変化させるSI-DRIVEのドライブモードを、もっともスポーティな「S♯」にセット。全開走行になるとどのモードでもそれほど変わらないはずだが、ちょっと流して走って入るときは違いが明確で、S♯はアクセルレスポンスが異なる。
4WDシステムは、スバル独自のマルチモードDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)を採用しており、このDCCDは機械式LSDと電子制御LSDの両方を内蔵しており、ドライバーの好みと路面状況に応じて任意に電子制御LSDのロック率を変えることができる。通常は前後トルク配分は41:59だが、50:50の直結状態にまで持っていくことができる。機械式LSDはLSDによる初期の作動制限が優れており、STIに相応しい正確なドライビングを可能にする。
DCCDがAUTOモードだと適時センターデフの状態を監視して前後駆動力を調整し、AUTO+にすると差動制限はトラクション重視のモードになり、AUTO-ではハンドルの初期応答をよくするモードになる。いずれにしてもハンドリング初期レスポンスが違うので、コーナーリングを組み立てる上で自分に好みのモードはどれを選ぶべきか決めるとよいだろう。マニュアルモードではセンターデフのLSD効果を任意で選択できるので、コーナーリングを組み立てるには都合がよい。
走行中にさまざまなモードをトライしてみたが、締結力を弱めていくとハンドル応答性に優れ、ターンインでの姿勢を作りやすい。ただし、トラクションは若干レスポンスの遅れを感じる。これを前後直結まで持っていくと、ターンインではきちんと荷重移動をさせつつ、最大Gが得られたところからハンドルを切りこんでいかないと後輪から押し出される印象を受ける。半面、姿勢が安定するとトラクションのレスポンスに優れており、グイグイと前に出ていく感触は小気味よい。
その時の状態、ドライバーのスタイルによってDCCDを使い分けることができるので面白い。ちなみに各車軸のLSDは、前輪にヘリカルLSD、後輪にトルセンLSDを使っており、前後の役割に応じてLSDも変えられている。
話しが少し戻ってしまうが、DCCDの前後の締結力をフリーにした状態でも、従来のインプレッサ WRX STIに比べるとトラクションのかかり方がスムーズだ。接地状態が優れているためだと思われる。また、コーナーリング中に姿勢が乱れないのもボディー剛性とリアの接地性の効果だろう。
また、アクティブトルクベクタリングシステムを装備しており、コーナリング中盤からアクセルを踏んでいくと高い旋回力を発揮し、トラクションを掛けながら高いライントレース性を誇る。ステアリング部の取りつけ剛性が上がっているのか、ハンドリングもスッキリとしており、姿勢が乱れることは少ない。以前にも増して俊敏となっており、軽快なフットワークが新WRX STIの特徴だ。正直、凄い。
ダンパーはSTI、STI Type Sともに剛性の高い倒立型。路面の追従性が高いのはSTI Type Sの装備するビルシュタイン製で、凹凸路面でもよく動いてくれる。ただサーキットでは、STIに装着されているKYB製のほうが動きが分かりやすく、自分の走りには合っていたようだ。
エンジンパフォーマンスはさすがEJ20型。パンチ力のあるメリハリ感はWRX STIのもう一つの魅力だ。0-100km/hを僅か5秒で走りきる能力を持つ。新型WRX STIの優れている点は、高い実力を持ちながら高い日常性を持っていることだ。柔軟性のあるエンジンパフォーマンス、日常的な使い勝手と操作性、そして快適な乗り心地。普通に使っている限りWRX STIは従順なクルマで、ことスポーツフィールドに入ると遺憾のない実力を発揮する。WRX STIは日本が誇れるスーパースポーツセダンに仕上っていた。