インプレッション

ルノー「メガーヌ GTライン」

10月にマイナーチェンジを行ったGTライン

 ルノー、それも「メガーヌ」といえばスポーツというキーワードが頭に浮かんでくる。それはニュルブルクリンクでFF車最速のタイムを叩き出した、「メガーヌRS 275トロフィーR」の存在があるからだろう。そのクルマが牽引するかのように、スポーツモデル以外の5ドアハッチバックやエステートでもスポーツ色はかなり高い。これぞルノー、これぞメガーヌのイメージである。

 それを色濃くしているのが「GT220」と呼ばれる1台だ。5ドアハッチバック、そしてエステートに用意されるそれは、その名が示す通り220PSの直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。組み合わされるトランスミッションは6速MTのみときている。5ドアハッチバックならば百歩譲ってその設定も納得できそうなものだが、エステートにまでそんなグレードを用意しているのだから尋常じゃない。走りはRSを知らなければコレがトップグレードだと伝えられても何ら不満がないほどスポーティ。引き締められたシャシーと、高回転で強烈なパンチを残すエンジンとのマッチングによって、ワインディングを所狭しと駆け抜けてしまう。ヘタなスポーツカーなら道を譲ったほうがいい。GT220はそんな1台である。

直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「F4R」エンジンに6速MTを組み合わせる「メガーヌ エステート GT220」。最高出力は162kW(220PS)/5500rpm、最大トルクは340Nm(34.7kgm)/2400rpmを発生。ボディーサイズは4565×1810×1490mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。車両重量は1420kg。価格は327万9000円(メガーヌ エステート GTは285万9000円)

 しかし所詮はMTモデル。そんなマニアックなグレードが一般受けするわけがないことは、スポーツ馬鹿(あくまでも親しみを込めて)のルノーも当然分かっているわけで、「GTライン」なるグレードをきちんと用意していたりする。かつては2.0リッター+CVTモデルでそれは成立。しかしながら、そのGTラインにはRSやGT220で感じられるような破天荒さは当然なく、あくまでもフツーに、そしてソツなくロングドライブを楽しめる1台に仕上がっていた。万人受けという意味では十分その役目を果たしてはいたが、やはり上を知ると物足りなさがあったことは事実だ。

 そんなGTラインが10月にマイナーチェンジを行った。これが今回の本題である。フロントマスクはルノーの新しいデザイン戦略に沿うように改められ、GT220と同等の顔つきになったこのクルマ。だが、目玉はそんな見た目の部分ではない。キモとなるのはパワーユニットが刷新されたことである。搭載されるのは直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボエンジン。これは「ルーテシア」や「キャプチャー」、そして「カングー」の6速MTモデルに搭載されるエンジンと同型のものだ。

 だが、出力はメガーヌGTライン用にやや高められ、最高出力は97kW(132PS)/5500rpm、最大トルクは205Nm(20.9kgm)/2000rpmとなっている。また、組み合わされるトランスミッションは6速エフィシエント デュアル クラッチが搭載される。これもまたメガーヌGTライン用にギア比が改められ、1速は低く、6速は高く設定されているとのこと。これらの改良により0-100km/h加速は9.5秒を達成。かつての2.0リッターモデルよりも0.8秒も短縮。さらに燃費も13.2km/Lから17.9km/Lへ35.6%も向上(欧州複合モード燃費)したという。

鮮やかなブルー(ブルーマルトメタリック)カラーの「メガーヌ ハッチバック GTライン」。ボディーサイズは4325×1810×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースはエステートより60mm短い2640mm。車両重量は1310kg。価格は275万9000円(メガーヌ ハッチバック GT220は317万9000円)
フロントマスクはルノーの新デザイン戦略に則り刷新された
GTラインはハッチバック、エステートともに17インチアルミホイール(タイヤサイズ:205/50 R17)を装着
グレードを示すバッヂ
LEDポジションランプを標準装備する
ルノー・スポールのロゴが入ったキッキングプレート
GTラインが搭載する直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボエンジン。最高出力97kW(132PS)/5500rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/2000rpmを発生。燃料タンク容量は60Lで無鉛プレミアムガソリン仕様
ブラックを基調としたインテリア。インパネやステアリングに入る赤いアクセントがスポーツマインドをくすぐる

使い切る楽しみが凝縮されている

 今回はGTラインのハッチバックモデルに試乗したが、今回の改良は走り始めから即座にメリットありだと感じた。それは実用域でのトルク感と、デュアルクラッチならではのキビキビとしたメリハリのある加速が味わえることだった。

 市街地でもスポーティに、けれどもギクシャクしないスムーズさを備えていること、これがかなり好感触だったのだ。1310kgの車体をいとも簡単にスイスイ加速させるこの乗り味は、とても1.2リッターにダウンサイジングしたとは感じられない仕上がり。エステートのGT220よりも日常域はキビキビした感覚があるほどだ。

 とはいえ、高速域が不得意なわけでもない。日本の道路事情なら不満を一切感じない巡航を可能にしてくれる。もちろん、勾配がある場所や、追い越し車線の流れをリードしようとするとややトルクが足りないと感じる部分もなくはないが、必要十分な走りがそこにある。いざとなればギヤを一段下げてやればいいだけのことだ。

 ワインディング路でもこうした印象は同様。決してパワフルなわけではないが、デュアルクラッチトランスミッションをマニュアル操作してスポーツドライブすれば、そこには使い切る楽しみが凝縮されている。横剛性がすこぶる高く、正確性が高いステアリングを右に左に転舵していけば、胸のすく爽快なドライビングが楽しめるのだ。

 今回は試乗できなかったGTラインのエステートモデルは、こうしたバランスのよさに加えて、積載性やリアのレッグスペースの広さも見どころの1つ。5ドアハッチバックよりも優れる点がこれだ。ホイールベースが60mm長いことがかなりメリットとして表れている。

 ハッチバックのGTラインも十分に魅力的だが、エステートGTラインもすべてがいい塩梅に仕上がっているのだと確信する。帯に短し襷に長し的なマニアックなモデルが多いメガーヌのラインアップの中にありながら、エステートGTラインはある意味貴重な1台。スポーツというキーワードを忘れることなくそれを達成したところに、このクルマの絶妙さを感じずにはいられない。

Photo:堤晋一

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。