インプレッション

メルセデス・ベンツ「AMG C 63」

M156型からM177型へ

 評判のよい現行Cクラス(W205型)をベースとするAMGモデルが、果たしてどんなクルマになるのか、興味を持っていた人も少なくないことだろう。そして、ベース車の日本導入から約1年、ついにそのときが来た。

 モデル名はW204型の「メルセデス・ベンツ C 63 AMG」から「メルセデス AMG C 63」となり、車名の数字はこれまでどおり「63」となっているが、心臓部に与えられたのは4.0リッターの排気量を持つV型8気筒直噴ツインターボのM177型ユニットだ。これは少し前に登場した「メルセデス AMG GT」に与えられたM178型と共通性が高いエンジンで、AMG GTから車両重量が増すことに対して同等の性能を得られるようにとトルクが引き上げられている。

 思い起こせば、ひと世代前のAMGモデルラインアップの大半に、V型8気筒6.3リッターのM156型が搭載された時期があった。ところが、年々厳しさを増す環境問題を受けて、V型8気筒5.5リッター直噴ツインターボのM157型ユニットへと徐々に置き換えられていった。そんな中で唯一、最後までM156型を守り通したのが、従来のW204型C 63 AMGだったという経緯がある。

 実際のキャラクターとしても、C 63 AMGにはM157型よりも破天荒なフィーリングが魅力のM156型のほうが似つかわしかったように思う。それでよかったと筆者は今でも考えているし、他の上級車種も含め、M156型搭載車の価値が将来的には高まるのではないかと密かに思っていたりするのだが、新しくなったCクラスのAMGモデルには、AMG GTに続いて今度は新しいM177型がいち早く与えられたわけだ。

 すでにAMG GTをドライブした印象からすると、CクラスのAMGモデルとM177型という組み合わせの相性はわるくなさそうに感じていたが、実際にドライブしても期待どおりであったことをまずお伝えしておこう。

撮影車はダイヤモンドホワイトカラーの「メルセデス AMG C 63 S」。ボディーサイズは4755×1840×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2840mm。車両重量は1790kg。オプションの「エクスクルーシブパッケージ」などを装着し、総額は1370万1000円(本体価格は1325万円)
エクステリアでは専用デザインのフロントグリル、ボンネットフード、サイドスカート、リアスカートなどを採用するとともに、3つの連続可変フラップによって排気音を電子制御する「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」を搭載。足まわりは19インチAMG5ツインスポークアルミホイール(タイヤサイズはフロント245/35 R19、リア265/35 R19)を装着する。ブレーキシステムはフロント6ピストン、リア1ピストンのブレーキキャリパーとフロント390mm径のドリルドローターを組み合わせる

CクラスのAMGモデルにふさわしいエンジンフィール

 試乗したのは、よりハイパフォーマンス志向の「AMG C 63 S」だ。価格は1325万円と、「AMG C 63」の1195万円よりも130万円高く、それ相応に装備も差別化されている。

 実車と対面すると、ワイド化されたボディーに大きな開口部を持つバンパー、パワードームを備えたボンネットなど、見た目からしてあからさまにタダモノではないオーラを漂わせていることを感じる。

 インテリアには、スポーツ走行時の操作性に優れるステアリングや、サイドサポートの張り出したAMGスポーツシートを備えるのも特徴。また、普通のCクラスがデザインはSクラス似でも質感ではもう一歩という感があるのに対し、こちらは素材感も高く、黒基調の精悍なイメージの空間は、高いパフォーマンスを予感させる。

AMG C 63 Sのインテリア。内装色はプラチナパールホワイト/ブラック(ナッパレザー)。撮影車のステアリング位置は左だが、メルセデス AMG C 63も含め右を選択することが可能。ちなみにステーションワゴンは全車右のみの設定
撮影車はヘッドアップディスプレイ、ハンズフリーアクセス(トランクリッド/テールゲート自動開閉機能)、エアバランスパッケージ(空気清浄機能、パフュームアトマイザー付)、Burmesterサラウンドサウンドシステム、盗難防止警報システム(けん引防止機能、室内センサー)をパッケージ化した「エクスクルーシブパッケージ」(35万円)を装備。ヘッドアップディスプレイではエンジン回転数や車速、選択しているギヤ、最適なシフトアップタイミングを示すインジケーターなどが表示される
メーター中央のカラーディスプレイではAMGダイナミックセレクトの選択画面やラップタイム、ブースト圧などの表示が可能

 いざエンジンをスタートすると、始動音からしてタダモノではないことは明らか。そして走り出すと、やはりM177型が生み出す動力性能にはただただ圧倒されるばかり。

 過給機付きとは思えないほど鋭くレスポンスし、踏めばたちどころに強烈な加速体勢に入る瞬発力のすごさに驚かされたかと思えば、そこからレッドゾーンの7000rpm付近まで瞬時に吹け切ってしまう。それは目の覚めるような速さだ。この刺激的なドライブフィールは、CクラスのAMGモデルにとってふさわしいものであるに違いない。

 ドライブモードを走り重視に切り替えると、よりスポーティなフィーリングに変わるとともに、太く迫力のあるエキゾーストサウンドとなる。ただし、シフトダウン時のパンという音を含め、前述のM156型エンジンを搭載したW204型ほど派手ではなくなったように感じる。

C 63 Sに搭載するV型8気筒DOHC 4.0リッター直噴ツインターボ「M177」エンジン。最高出力375kW(510PS)/5500-6250rpm、最大トルク700Nm(71.4kgm)/1750-4500rpmを発生。JC08モード燃費は9.5km/L
トランスミッションのギヤシフトプログラム、エグゾーストシステムを含めたエンジン特性、サスペンション、ステアリング特性、3ステージESPなどのプログラムが連動して変化する「AMGダイナミックセレクト」は、センターコンソールのスイッチで操作を行える。「C(Comfort)」「S(Sport)」「S+(Sport Plus)」「RACE」「I(Individual)」の5モードが用意される

 トルコンのかわりに湿式多板クラッチを採用した「AMGスピードシフトMCT」は、ダイレクト感のある走りと素早いシフトチェンジが身上だ。駐車時などの微低速での動きや市街地で発進停止を繰り返す状況ではスムーズでない部分も見受けられるが、走り出してしまえば得られるのはメリットのみとなる。

パフォーマンス最優先のフットワーク

 ハンドリングも驚くほどシャープだ。

 車両重量は1790kgと軽くはなく、フロントにV8エンジンを搭載しながらも、操縦性はそれを感じさせないほど俊敏に仕上がっている。これには磁性体入の液体可変マウントの硬さをドライビングの状況により自動的に調整する「AMGダイナミックエンジンマウント」が少なからず効いていそう。重量物であるドライブトレーンの不要な動きを低減してくれるので、走りはより一体感のあるものとなるわけだ。

 限界性能も驚くほど高い。フロントはちょっとやそっとで外に逃げることもなく、リアは電子制御LSDがみごとに仕事をこなし、持ち前の強力な動力性能を確実に路面に伝えるとともに、コーナーの立ち上がりでもあまり挙動を乱すことなくグイグイと前に進んでいく。素晴らしいトラクション性能だ。

 足まわりはかなり強化されていて、あまり伸び縮みせず、できるだけ姿勢を変えずに限界性能を高めるようにチューニングされている。そのトレードオフとして、一般道での乗り心地はよろしくない。それはドライブモードを「コンフォート」に設定しても大して変わらない。

 それでも路面のきれいなワインディングを攻めると、この足まわりだからこそ得られる走りの世界があるということだ。とりわけ「S」を冠するCクラスのAMGモデルは、このようにパフォーマンスを優先したクルマとご理解いただけばよいだろう。もちろん、先進的な安全装備が最新のメルセデスらしく充実しているのも魅力に違いない。

 このクルマはCクラスのトップエンドであるとともに、内容的にはAMG GTのセダン版でもある。やや高価に感じた価格も、AMG GTに匹敵するパフォーマンスを持つ4ドア版と考えると合点がいき、むしろ割安に思えてくるというものだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸